その恋は、優しさのふりをして縛ってくる
春の終わり。
すべては、逃げ場を失ったことから始まった。
「先輩、今日も一緒に帰れますよね?」
後輩の佐藤は、いつも通り微笑んでいた。
整った顔立ちに、柔らかい声。
でも、その視線だけが——どこかおかしい。
「……今日は用事があって」
「誰とですか?」
「いつ、何処で、誰と?」
即答。逃げ場はない。スマホには毎日届くメッセージ。
行動はなぜか把握されている。
正直、限界だった。
「じゃあ、私が彼女やる」
助けを求めた同級生、中村はあっさり言った。
「二週間だけ。それで後輩が諦めるならいいでしょ?」
こうして俺たちは、“偽の恋人”になった。
最初は演技だった。
でも、一緒に帰って、笑って、何気ない時間を過ごしていくうちにそれは少しずつ、本物に変わっていった。
そして二週間後。
「……ありがとな」
区切りをつけるつもりで言った一言。
「それで終わりって、本気で思ってる?」
中村の目は、もう“演技”じゃなかった。
「私は、演技じゃなかったよ」
「ねぇ、このまま私と付き合ってよ。」
その言葉で、すべてが変わる。そこに現れた佐藤。
「最初から分かってました」
「陰ながら見てました。そうだったんですね。先輩、私を選んでくれますよね?」
「ねぇ私とあの子どっち選ぶの?」
その目には魂が宿っていた。そして選択を迫られる。
「ごめん佐藤、俺は中村が好きだ。」
俺は、中村を選んだ。佐藤はそれを受け入れた。
「応援します」
そう言って、去っていった。
でも終わっていなかった。
付き合い始めたあと。
中村の距離は、少しずつ近すぎるものになっていく。
「今日誰と話してた?」
「なんで返事遅いの?」
「ちゃんと私だけ見てるよね?」
それは優しさの形をした“束縛”だった。
一方で、佐藤は戻ってきた。静かに。自然に。
「先輩、無理しないでくださいね」
距離は保ったまま。でも確実に近くにいる。
そして、限界が来た。
「……これ、やばいだろ」
逃げた。ただ、逃げた。
朝早く登校しても見つかる。昼休みに隠れても捕まる。
「どこ行くの?」
「逃げるの好きなんですね」
挟まれる。追い詰められる。
逃げれば逃げるほど二人は、壊れていった。
そして。旧校舎の階段。三人が、真正面からぶつかった。
「選んで」
中村
「ちゃんと決めてください」
佐藤。逃げ場はなかった。
でも俺はまた逃げた。
「俺、このままだと壊れる」
そう言ってしまった。
「……最低」
中村は去った。残されたのは、俺と佐藤。
「今なら、私がいますよ」
「ごめん、でもまだ中村が好きだ。」
「ですよね、私応援しています。」
「早く行ってください。」
「ごめんありがとう。」
「頑張ってくださいね、先輩。」
差し出される言葉を後にして中村の元に向かった。
後輩は先輩が見えなくなるのを見送った。
「あぁ、振られちゃったな。でもまだ諦めないから。」
「中村!」
校門の外。
「お前のとこに来た」
中村の目には
言葉を逃げずにぶつけた。
「……じゃあ証明してよ」
「……もう一回だけ、チャンスあげる」
中村が顔を近づけてくる。
「キスしてよ。」
「え?」
「もう、言わせないでよ」
「う、うん。」
初めてのキスは激しかった。
「次逃げたら、終わりだから」
その言葉は、優しさでもあり、鎖でもあった。
そして少し離れた場所で。
「キスか、よかったですね、先輩」
「次のキスは貰いますよ。」
「じぁ、次の準備しよ♡次は手に入れますね先輩。」
佐藤は、静かに笑っていた。
その目は、まだ終わっていないと言っていた。




