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語られなかったもう一つ物語──童話のプリンセス達の隠された物語──

出来損ないの魔法使いは王太子の最愛でした──シンデレラの魔法が解けるまで

作者: 月焔 レイ
掲載日:2026/03/09


【出来損ないの、魔法使い】


 それが私のあだ名だ。

 美人で、美しい金髪を持ち、素敵な魔法を使う姉と、平凡な顔立ちで、くすんだねずみ色の髪、使える魔法は日常魔法。そんな妹の私。


「ルシル、ちょっとおいでー」

「なにー?お姉ちゃん」

「ちょっと、ルシルにお知らせがありますっ」


 ふふんっと腰に手を当て、胸を張る姉はとても綺麗だ。一般人がすると嫌味になるようなポーズも様になってしまう。


「本日は、ルシルに、特大プレゼントがあります」

「…なに?」


 常になく勿体ぶる姉の態度が怖い。絶対何か企んでいる。


「明日、パーティーに…」

「ぜっっったい嫌!!!!!」

「ダメ!明日こそは絶対に連れて行くからっ!」


 姉は、私を隙あらばパーティーに連れて行こうとする。そんな場所に行っても、姉と比べられて嫌な思いをするだけだ。そんなのは絶対嫌だった。


「第一、ドレスもないし!」

「そこはお母様が買ってくれてまーす。もう観念しなさい。お母様もお父様も心配してるのよ。」


 そうなのだ。

 姉が超優秀で四方八方から縁談の舞い込む将来有望な場合、超平凡な妹は虐げられるのが定番である。むしろその方がありがたいくらいだ。

 だが、両親は私のことも同じくらい愛してくれる。同じように愛し、同じように時間を使い、同じように色んな物を買ってくれる。

 その愛情が、重かった。


「とにかく!明日は絶対に連れて行くから!」


 こうなった姉は止まらない。絶対に実行してしまう。

 もう私に抗う術はなかった。


 ⸻⸻


「シンデレラもビックリね。」


 ふんふん、と失礼なことを言いながら満足げに微笑んでいる姉。その姉は、緑色のマーメイドドレスを纏っている。妖精みたいでとても可憐だ。

 私にあてがわれたのは、ふんわりとしたピンクのAラインドレス。スカートのチュールには花が散らばっていてとても可愛い。ドレスは。


「可愛いわ、ルシル。なんでもっと早くにデビューしなかったのかしら」

「本当だよ。これじゃ、他のご令嬢が可哀想だな」


 それは親の贔屓目というやつです、お母様、お父様。

 パーティー会場に行ったら現実を突きつけられるのです。ルシルの抵抗は虚しく、あれよあれよという間に馬車に乗せられる。

 珍しく着飾った妹をチヤホヤするのに忙しい家族に囲まれ、窓ガラスの外をぼんやり眺める。


 遠くに、光が灯るお城が見えた。


 ビビビバビデブー。


 誰か魔法をかけてくれたらいいのに。

 出来れば、みんなから見えなくなるそんな魔法。


 ⸻⸻


「アルカディア公爵家、入場」


 四人揃った公爵家の入場にざわり、と会場がざわめく。さざ波のように広がる囁きに、肩身が狭くなる。

 どうせ、私のことを馬鹿にしてるんだ。


「やぁ、全員揃っての出席は初めてではないかね?

 そちらが噂のご令嬢か。

 こんにちは、国王のアレクセイだ。」

「ルシル・アルカディアです。お初にお目にかかります」

「お初ではないんだよ。実はね。幼い頃に何回か会っているんだよ。お忍びで君の家に行ってね」


 そう懐かしそうに目を細め、「大きくなったね」と嬉しそうに笑う国王陛下のことを、私は本当に覚えていない。そんなことあっただろうか。

 アイスブルーの瞳は、一度見たら忘れそうに無いのだけど。


「今日は楽しんでくれ」


 そう言った国王陛下に、昨晩、姉から腰が痛くなるまで仕込まれたカーテンシーをなんとか披露し、御前を辞す。


「上手くできたじゃないか。」

「上手だったわよ、ルシルちゃん」


 嬉しそうに笑う両親の顔を見ているだけで、今日来た甲斐があった気がする。たとえ、笑われたとしても。

 顔見知りのところへ挨拶へ回る両親や姉と別れ、壁の花と化す。知り合いの多い家族は、瞬く間に人に囲まれる。あっという間に姿が見えなくなった。


「凄いなぁ。」

 

 私も、魔法が使えたら、綺麗な金髪だったら、もう少し可愛かったら、自信を持てたのだろうか。

 どんなに努力しても、上手く魔法は使えなかった。悔しくて悔しくて泣いた幼い頃を思い出した。

 

 ふと、遠くに、懐かしい雰囲気を感じた気がした。

 

 だが、昔から引きこもりの自分にこのような華やかな場で出会うような人はいない。仲良しなのは、屋敷のメイドや、こっそり屋敷から抜け出して遊びに行くカフェの店員、雑貨屋さんの娘さん。そんな人たちだ。

 優しくて、楽しくて、何も知らないルシルのことでも愛してくれる人たち。


 ウェイトレスからドリンクを受け取り、喉を潤す。柑橘の香りのする甘いジュースは、なかなか飲んだことがない素敵な味だ。さすが王城。出てくる飲み物から格式が違う。


「ルシル…?」


 少し低い、空気を震わせるよくとおる声がした。

 その声に聞き覚えはないのだけれど、心臓をきゅっと掴まれたような、そんな感覚。


「やっぱり、ルシル」


 知らない男の人が、囲まれていた人垣を掻き分け、小走りで駆けてきた。

 周りを囲んでいた人たちは、残念そうに肩を落とし解散している。いいのだろうか?心なしか、お姉様方に睨まれている気がする。…私は全然悪くないのだけれど。


 駆けてきた男性は、懐かしそうに目を細めているが、生憎ルシルに心当たりはない。


「申し訳ありません、どちら様でしょうか」

「…覚えてないの?」

「どこかで、お会いしましたでしょうか?」


 数少ない社交の場の経験を引っ張り出してみるが、全くもって記憶はない。

 第一、こんな綺麗なコバルトブルーの瞳と、金の髪を忘れることはないだろう。

 整った顔に、綺麗な所作。まるでお姉さまだ。


「んー。あ、そっか。分かった、大丈夫。

 レディ、お手をお借りしても?」


「ダンスの誘いは、断ってはダメ。」それは昨晩、カーテンシーを同様口酸っぱく刷り込まれた夜会のルール。

 誘われてしまえば、断れない。

 だから壁の花と化していたのに、運がない。


「あまり経験がないので、お手柔らかに。」


 差し出された手をそっと取る。

 すっと腰に添えられた手は、スマートで、品を感じられた。きっと踊り慣れているのだろう。

 そのままダンスホールへ誘われる。


 途中で視界の隅に入った両親は、こちらを見てキャーキャー騒いでいた。しっかり見られている。恥ずかしい。



「それでは、一曲。よろしく、ルシル」

「よろしくお願いします。」


 そういえば、この人の名前を聞いていない。この人は私の名前を知っているのに。


「それにしても、本当に僕のことを覚えていないの?」

「すみません。全然記憶がなくて」

「ふーん。本当に君の魔法って凄いんだ?」

「え…?」


 楽しそうに笑いながら、ステップを踏む顔は、何か知っている顔をしている。一人で楽しそうにしているが、こっちは全然楽しくない。どういうこと?


「私は、日常魔法しか使えませんが…」

「そうだね。そうしたからねー。君が」

「はい…?」


 なんだか訳知り顔で話す彼が段々腹が立ってきた。「あの!」と怒って声を上げようとすると、くるっと回される。


「なんなんですか!もう!」


 本当に腹が立って、思わず声が大きくなる。すれ違った男女が怪訝な顔でこちらを見てきて、思わず身をすくめる。


「あなたのせいですよ…」

「まぁまぁ、そんなに怒らないで。」


 至近距離で、どうどうと宥めてくる。そろそろ限界だ。


「本当に!」


「でもさ、そろそろ起きてよ、シンデレラ。


 ビビビバビデブー。

 魔法は解けたよ。12時の鐘だ。」


 彼が顔を寄せ、耳元で低くそう呟いた瞬間、ホールに鐘が鳴り響く。

 本物の鐘の音ではない。空から降ってくる、そんな音。


 その音と共に、私の身体が光に包まれる。

 眩しくって目を瞑る。


 そっと目をあけると、真っ白のドレスが目に飛び込んだ。


「え…?」


 驚いて身体を見下ろすと、ピンク色だったはずのドレスは真っ白のドレスに姿を変え、くすんだ鼠色の髪は、透き通るようなシルバーに変貌を遂げていた。


「やっと起きた?俺のお姫様」


 そう問いかけてくる瞳には、見覚えがあった。

 

「セシル…?」

「そう。やっと思い出したんだ。酷いな。

 僕はずっと待ってたのに。全然来てくれないんだから。」


 拗ねたように口を尖らせる彼の言葉に幼い日の記憶が蘇った。


 ⸻⸻

 

「ルシルは、僕のお姫様だから、絶対に誰にも取られちゃダメだよ」

「そんなこと言ったって、私の結婚相手はお父様が決めるのよ?」

「んー。それじゃあさ、ルシルの魔法で、姿を変えたらいいじゃん。そしたら、僕しか知らないお姫様だよ」

「いいけど…どうやって解くのよ?」

「僕が迎えに行くよ。ビビビバビデブー。ってちゃんと魔法を解くから。それまで待ってて。ね?」


 そんな幼い口約束。

 確か、その後自分は魔法を使ったのだ。

 

 ビビビバビデブー。

 そう言って。


 ⸻⸻


「あの後さ、俺、多分人生で一番怒られた。

 ルシルの両親にも父上にも。凄く怖かったんだぜ?

 でもさ、そのお陰でルシルが今まで隠せてたんだからいいよな?」

「良いわけないでしょ!馬鹿セシル!」


 全部思い出した。彼は、昔よくうちに遊びに来ていたセシルだ。国王陛下のことを覚えていないはずだ。国王陛下はセシルの──父親だ。


「馬鹿セシル!もう知らない!」

 

「そんなこと言わないでよ、ルシル。

 ずっと待ってたんだ。


 迎えに行くのが遅くなったのは本当に悪かったと思うけど、迎えに行こうにも、アルカディア家には立ち入り禁止にされるし、ルシルは全然出てきてくれないし。

 近寄ろうにも近寄れなかったんだ。


 だけど、今までの婚約者の話も全部断ってきた。


 俺にはルシルだけなんだ。

 だから頼むよ、ルシル。


 ──俺を選んで?」


 懇願してくるような視線を向けたセシルは、遂には片膝をついて手を差し伸べてくる。


「──ルシル・アルカディア嬢。

   どうか私と結婚してほしい。」


 真剣な光を帯びた視線に射抜かれる。

 会場内のすべての視線がルシルに集まっているのを全身で感じる。


「ちょっと、立ってよ」


 小声でセシルに呼びかけるが、頑としてセシルは動かない。


「嫌だ。イエスの返事を聞くまでは動かない。」


 こうなった彼は、てこでも動かないだろう。チラリと視界の隅に見えた国王陛下と女王陛下は楽しそうに笑っている。これでは、止めてくれる人もいない。

 ルシルは腹を括った。ここで括らなければ女が廃る。


「分かったわ。その代わり、王太子妃教育、付き合ってよ?基礎教育しかしてないんだから」

「それは大丈夫。ルシルの父上に土下座して、王太子妃の座学はほぼ終わってるよ」


 それは…自分が平凡なのではなく、詰め込まれている内容が異常だったのではないか。

 

 私のコンプレックスの全ては、コイツのせいだった。

 自分の魔法と容姿と記憶を全部自分の魔法で封印して、彼の言葉でしか解けないようにした。

 だが、それをした自分も、彼が好きだったのだろう。


 天を仰ぎたくなる気持ちをギリギリで堪える。この衆目の中、そんなことはできない。


 差し伸ばされた手にそっと手を伸ばす。


「不束者ですが。よろしくお願いします。」


 その瞬間、鼓膜を破りそうなほどの歓声と拍手が広間を包んだ。

 手に乗せた手のひらをギュッと掴まれ、そのまま強く抱きしめられる。


「良かった。」


 そう囁く彼の声は掠れて震えていた。

 抱きしめられる力は痛いほどだ。


「バカね。」


──しょうがないから、許してあげる。

  そう微笑むと、そっと唇にキスが落とされた。


 魔法が解けたシンデレラは、お城で王子様と共に幸せに暮らしましたとさ。


 自分に自分で魔法をかけた、幼いシンデレラのお話──

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


現在は長編ファンタジー 【妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む 】も毎日連載中です。


亡国の王女が少年として身分を隠し、軍で生き抜く物語です。

シリアスと成長、仲間との絆を描いた長編作品となっていますので、 雰囲気の違う物語も楽しみたい方はぜひお立ち寄りください。


改めまして、本当にありがとうございました。

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