1章9話
次の番手発表。
俺は27番になっていた。
26番を倒したことで、上がったようだ。
そして、次の対戦相手が決まった。
25番。
ボトムクラス最強。
控え室は、今まで以上にざわついていた。
「マジかよ、27番vs25番!」
「ボトムの頂上決戦じゃねえか!」
「25番が勝つに決まってるだろ」
「でも27番、26番倒したんだぞ」
「25番は別格だって。ミドルで訓練してんだぞ」
周囲の声が耳に入ってくる。
みんな、この試合を待っていたようだった。
俺は訓練場で、いつも通り藁人形を相手にしていた。
カウンターの動作確認。
何度も、何度も。
「27番」
背後から声がかけられた。
振り返ると、濃いレッドの髪を後ろで結んだ少年が立っていた。
25番だ。
ギラギラした目。
闘志が溢れている。
「次、俺とお前が戦うらしいな」
「ああ」
俺は警戒しながら答えた。
「26番を倒したんだって?」
「ギリギリだったけどな」
「ギリギリでもなんでも勝ちは勝ちだ」
25番は俺を見た。
その目には、敵意ではなく。
純粋な闘志があった。
「楽しみにしてる。全力で来い」
「ああ、こっちもだ」
25番は満足そうに頷いて、去っていった。
俺は拳を握りしめた。
(25番...)
26番とは違う。
あの人は、冷静で経験豊富だった。
でも、25番は違う。
純粋に、勝つことだけを求めている。
一匹狼。
誰とも群れず。
ただ、強さだけを追い求めている。
(どっちが強いか...はっきりさせてやる)
俺は訓練を再開した。
――――
試合当日。
アリーナに立つ。
観客席は、今までで一番盛り上がっていた。
「うおおおお!!」
「ついに来た!!」
「ボトムの頂上決戦!!」
歓声が響く。
対面に、25番が立っていた。
濃いレッドの髪。
ギラギラした目。
闘志に満ちた立ち姿。
「よろしくな、27番」
「ああ」
「お前のカウンター、見せてもらうぜ」
「お前の勝ちへの執念も、見せてもらう」
25番が笑った。
獰猛な笑み。
「それでは!!27番vs25番!!ボトムクラス頂上決戦!!マッチ、スタート!!」
実況の声が響く。
25番が動いた。
速い。
26番とは違う。
迷いなく、真っ直ぐに突っ込んでくる。
(来る!)
拳が迫る。
俺は避ける。
カウンター。
スパン
顔に入った。
でも。
25番は止まらない。
そのまま追撃してくる。
(なんだ、この勢い!)
ドスッ
俺の腹に拳が叩き込まれる。
「ぐっ!」
重い。
25番の拳は、今まで戦った相手とは違う。
「おおっと!!お互いに一撃ずつ!!」
実況が叫ぶ。
「これは激しい打ち合いになりそうです!!」
25番が再び攻撃してくる。
連打。
左、右、左、右。
全てが本気だ。
様子見なんてない。
最初から全力だ。
俺は避ける。
避ける。
でも、全ては避けきれない。
ガスッ
頬にストレートが決まる
ドスッ
右フックが腹に入る
(くそ...!)
でも、俺も反撃する。
カウンター。
カウンター。
25番の顔に。
腹に。
お互いに、ダメージを与え合う。
これは、カウンターの戦いじゃない。
純粋な、殴り合いだ。
「すげえ!!」
「お互いに譲らない!!」
「これは激戦だ!!」
観客席が沸く。
時間が経つ。
俺の顔は腫れ上がっている。
口の中は血の味がする。
腹も、肋骨も、痛い。
でも。
25番も同じだ。
顔が腫れている。
息が上がっている。
それでも、攻撃の手を緩めない。
(なんて奴だ...!)
勝つことへの執着。
それが、25番を動かしている。
俺も、負けられない。
カウンター。
カウンター。
でも、25番は止まらない。
打たれても、打たれても。
攻撃してくる。
パスン、ドスッ、ガスッ
音が響く。
拳と拳。
肉と肉。
ぶつかり合う音。
どれくらい経っただろうか。
俺も、25番も、ボロボロだった。
顔は腫れ。
体は痣だらけ。
息は上がり。
足元はふらついている。
でも。
お互いに、まだ立っている。
「うおおおお!!」
「どっちも倒れない!!」
「これは...すごい...!!」
観客席が熱狂している。
25番が、ゆっくりと拳を構えた。
その目は、まだギラギラしている。
「お前...強いな...」
息を切らしながら、25番が言った。
「お前も...だ...」
俺も同じくらい、息が上がっている。
「でも...俺は...負けねえ...」
「俺だって…負けて…やるかよ…!」
25番が笑った。
満足そうな笑み。
「もう続かねえな...これで...決める...!」
「返して…やるよ…!」
お互いに、最後の力を振り絞る。
これで、終わる。
どちらかが、倒れる。
25番が踏み込んだ。
最後の一撃。
渾身の、右ストレート。
俺も踏み込む。
最後の一撃。
同時に、拳を放つ。
時間が、ゆっくりと流れる。
25番の拳が、迫ってくる。
重い。
速い。
避けられない。
いや。
(避ける...!)
俺の体が、勝手に動いた。
何百回と練習した、カウンターの動き。
何度も、何度も、繰り返してきた回避。
あの日から積み重ねてきた、全てが。
この一瞬に。
体を、わずかに傾ける。
紙一重。
25番の拳が、俺の頬を掠める。
ガリッ
皮膚が裂ける。
でも、致命傷じゃない。
避けた。
そして。
俺の拳が、25番の顎を捉えた。
ドガァッ
25番の体が、揺れる。
目の焦点が、合わなくなる。
そして。
ゆっくりと、地面に倒れていく。
ドサッ
動かない。
「勝負あり!!27番の勝利!!」
実況の声が響く。
観客席が爆発した。
「うおおおおおおお!!!」
「勝った!!27番が勝った!!」
「信じられねえ!!」
「25番を倒したぞ!!」
歓声。
怒号。
拍手。
全てが、俺に向けられる。
俺は、その場に膝をついた。
立っていられなかった。
体中が痛い。
顔も。
腹も。
拳も。
全部が、悲鳴を上げている。
(勝った...のか...?)
信じられなかった。
25番は、強かった。
今まで戦った誰よりも。
純粋な、強さ。
勝つことへの、執着。
それが、25番だった。
でも。
俺が勝った。
紙一重で。
ギリギリで。
カウンターで培った回避が、勝敗を分けた。
(勝った...)
(俺が...ボトムで...一番...)
視界がぼやける。
体が、限界を訴えている。
「27番、大丈夫か!」
誰かが駆け寄ってくる。
意識が、遠のいていく。
そして、暗転。
――――
気づいたら、医務室のベッドの上だった。
体中に包帯が巻かれている。
顔も。
腹も。
拳も。
全部が、痛い。
「起きたか」
ゴンサロの声。
「...ああ...」
「よくやった。肋骨が2本折れてたぞ」
「そう...か...」
「治癒魔法で治した。あと数日で完全に治る」
ゴンサロは眼鏡を直しながら、続けた。
「お前、本当に強くなったな」
「...ありがとう...ございます...」
「25番も、ここにいるぞ」
ゴンサロが隣のベッドを指差す。
見ると、25番が横になっていた。
顔は腫れ上がり、包帯だらけ。
でも、目は開いている。
俺と目が合った。
「...よう...」
25番が口を開いた。
「...ああ...」
俺も答えた。
「...強かったな...」
「お前も...だ...」
25番が笑った。
痛そうに、でも満足そうに。
「負けたけど...悔いはねえ...」
「...」
「良い試合だった...ありがとな...」
「...こっちこそ...」
25番は目を閉じた。
疲れているんだろう。
俺も、目を閉じた。
体は痛いけど。
心は、軽かった。
(勝った...)
(ボトムで...一番になった...)
でも、それ以上に。
(良い試合だった...)
そう思えた。
25番との戦い。
お互いに全力で。
お互いに本気で。
ぶつかり合った。
それが、嬉しかった。
(ありがとう...25番...)
心の中で、そう呟いた。
数日後。
俺と25番は、医務室を出た。
体は、ほぼ回復していた。
治癒魔法のおかげだ。
番手が発表されていた。
俺は、25番になっていた。
ボトムクラス、1位。
そして、25番は26番になっていた。
訓練場で、俺たちは顔を合わせた。
「よう、25番」
元25番...いや、26番が声をかけてきた。
「おう、26番」
「その番手、譲ったわけじゃねえからな」
「当然だ」
「次は、負けねえ」
「俺は上を目指すからな」
26番が笑った。
ギラギラした目で。
「じゃあ、また戦おうぜ」
「ああ」
26番は訓練を始めた。
俺も、藁人形の前に立つ。
(ボトムで、一番になった)
(でも、まだ終わりじゃない)
上には、ミドルクラスがいる。
さらに上には、トップクラスがいる。
そして、15歳になれば、加護を得る。
本場での戦いが始まる。
本場で活躍すれば、もしかしたら…
(まだまだ、道は長い)
でも、もう迷わない。
俺は、強くなる。
どこまでも。
そう誓って、俺は訓練を続けた。
戦いは、まだまだ続く。




