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1章8話

次の番手発表の日。


俺は28番になっていた。

ボトムクラスの上位。

確実に、上がっている。


訓練場で藁人形を相手にしていると、背後から声がかけられた。



「28番」



振り返ると、26番が立っていた。

優しそうな顔立ち。

でも、その目は冷めている。



「何だ?」



俺は警戒しながら答えた。

26番の目が、わずかに細められた。



口調が変わったことに気が付いたようだ。



「お前、最近勝ってるな」


「ああ、そうだな」


「ふーん」



26番は俺を値踏みするように見た。

自信気な俺に勝ってやろうと思っているのだろう、優しそうな顔に、わずかな笑みが浮かぶ。



「次、お前と俺が当たるらしいぞ」


「ああ、知ってる」


「楽しみにしてるよ」



26番は去り際に、冷めた目で俺を見た。



(その自信...試合で壊してやろう)



そう思いながら、26番は訓練場を後にした。


俺は立ち尽くした。



(26番と...戦うのか)



ボトムクラスのリーダー格。

冷静で、経験豊富。

誰もが一目置く存在。



(勝てるのか...?)



少しだけ不安がよぎる。


でも。



(やるしかない)



俺は再び、藁人形に向き直った。

カウンターの動きを確認する。

何度も、何度も。



(絶対に勝つ)



そう心に誓って、訓練を続けた。



――――



試合当日。


控え室は、いつもよりざわついていた。



「今日の試合、見ものだな」


「28番vs26番だろ?」


「26番が勝つに決まってるだろ」


「でも28番、最近強いぞ」


「所詮ボトムの下位上がりだろ。26番には勝てねえよ」



周囲の会話が耳に入ってくる。その会話をしているものの大半よりも上の番手だが、1か月間38番手だったイメージは相当根強いようだ。


そしてそんな俺が26番と戦う試合を、みんな注目しているようだった。



(そうだよな...)



26番は、ボトムクラスで長く上位にいる。


一方、俺は1ヶ月前まで最下位だった。

誰が見ても、26番が有利だろう。

でも。



(それでも、俺は勝つ)



拳を握りしめる。



「28番、出番だ」



呼ばれて、俺はアリーナへと向かった。


土の地面。

石造りの壁。

観客席からの視線。

いつもの光景。


でも、今日は違う。

いつもよりも、ざわめきが大きい。


対面に、26番が立っていた。

あいかわらず優しそうな顔。

冷めた目は変わらなくとも、どうでもいいものを見る視線ではなくなっていた。


そして、余裕のある立ち姿。



(これが...26番)



「よろしくな、28番」



26番が口を開いた。



「お前のカウンター、噂で聞いてる。面白そうだ」


「...負けねえよ」



俺は言い返した。

26番の口角が、わずかに上がる。



「それでは!!28番vs26番!!マッチ、スタート!!」



実況の声が響く。

26番が動いた。


でも、突っ込んでこない。

ゆっくりと、間合いを詰めてくる。



(慎重だ……)



俺もそれに合わせ慎重に構える。

カウンターの基本は、相手の攻撃を待つこと。


でも、26番は簡単には攻撃してこない。

じりじりと間合いが縮まる。


そして、26番が軽くジャブを放った。



パシッ



顔に当たる。



(軽い……!)



本気の攻撃ではない。

様子見だ。

もう一発。



パシッ



また当たる。

避けられなかった。


いや、避ける必要がないほど軽い攻撃だった。



「おっと、26番、軽いジャブで様子を見ています!」



実況が解説する。



「28番、カウンターを狙っているようですが……!」



26番が下がる。

また間合いが開く。



(なるほど...)



俺は理解した。



(深追いしない。本気の攻撃をしない)


(カウンターを狙わせない戦い方だ)



これが、経験の差か。

26番は俺の戦い方を完全に把握している。

そして、対策している。

さらに、煽って焦らせようとしている。



(このままじゃ...じり貧だ)



でも、焦ってはいけない。



(冷静に...相手をよく見る)



監視者の言葉を思い出す。

「相手をよく見て、冷静に判断する目と脳が必要」

俺は深呼吸した。

26番を見る。


優しそうな顔。


冷めた目。


余裕のある立ち姿。


煽りの言葉。


でも、全ては俺を焦らせるためだ。



(乗るもんか)



俺は構えを崩さない。


待つ。

ひたすら、待つ。


26番が僅かに眉をひそめた。

自分の煽りが効いていないことに気づいたようだ。


26番は再び間合いを詰める。

今度は、本気で来る。

俺にはわかる。


足元。

わずかに、重心が前にかかっている。

次の攻撃の準備をしている。

軽いジャブではない。

本気の攻撃が来る。


その瞬間を、待つ。


26番が動いた。

今度は本気だ。

踏み込みが深い。

拳が迫ってくる。



(これだ...!)



俺は体を傾けた。

紙一重で避ける。

そして、カウンター。



ドスッ



26番の脇腹に拳が沈む。



「ぐっ……!」



26番の顔が歪む。

効いた。

確実に、ダメージを与えた。



「おおっと!!28番、初めてのカウンターが決まった!!」



観客席が沸く。

でも、26番はすぐに距離を取った。

冷静だ。

追撃を許さない。



(さすがだな...)



一発入れても、動揺しない。


これが、上位の強さか。

再び、間合いの取り合いが始まる。

26番は慎重に。


俺も慎重に。

お互いに、隙を見せない。

時間が経つ。

観客席から、野次が飛ぶ。



「膠着状態だな!」


「どっちか仕掛けろよ!」


「つまんねえ!」



でも、俺たちは動かない。

動いた方が、負ける。

そんな緊張感があった。


そして。


26番が、再び動いた。

今度は、フェイント。

右のジャブを見せて、左のストレート。



(読んでた...!)



俺は左のストレートを避ける。

そして、カウンター。



スパン



顔に入った。

26番の頭が揺れる。

追撃。

もう一発。



ドスッ



腹に拳が沈む。



「ぐっ……はっ……!」



26番が下がる。

息が上がっている。

ダメージが蓄積している。



(いける...!)



でも、焦らない。


冷静に。


確実に。


26番が再び攻撃してくる。

今度は連打。

左、右、左、右。

必死だ。

このままでは負けると分かっている。


でも。

俺には見える。

全ての攻撃が。


避ける。


避ける。


避ける。


そして、カウンター。


カウンター。


カウンター。


26番の顔に。

腹に。

脇腹に。

確実に、ダメージを与えていく。

26番の動きが鈍る。

息が上がる。

足元がふらつく。



(ここで...決めるっ!!)



俺は最後の一撃を、26番の顎に叩き込んだ。



ガギィ



26番の体が、地面に崩れ落ちる。

動かない。



「勝負あり!!28番の勝利!!」



実況の声が響く。

観客席が爆発した。



「うおおおおおお!!」


「28番が勝った!!」


「26番を倒したぞ!!」


「マジかよ!!」



歓声。

驚愕。

ざわめき。

全てが、俺に向けられる。

俺は、ただ立っていた。

信じられなかった。



(勝った...?)


(俺が...26番に...?)



拳を見る。

震えている。

興奮か。

喜びか。

それとも、まだ信じられない気持ちか。

全部が混ざっていた。


26番が、ゆっくりと起き上がった。

俺を見る。


その目は、まだ冷めていた。

でも、どこか認めるような色があった。



「...やるじゃないか、28番」


「...」


「次もうまくいくと思うなよ」



26番はそう言って、アリーナを後にした。

俺は、その背中を見送った。



(何度でも勝ってやる...)



心の中で、そう呟いた。



――――



控え室に戻ると、闘士たちの視線が集まった。



「すげえな、28番!」


「26番に勝つとか!」


「お前、マジで強いな!」



褒め言葉が飛び交う。

でも、俺は浮かれなかった。



(まだ、上がいる)



25番。

ボトムクラス最強。

一匹狼で、勝利への執着が強い。

26番を倒した俺と、いずれ戦うことになるだろう。



(その時のために...)


(もっと強くならないと)



訓練場に向かう。

藁人形の前に立つ。

カウンターの動作を確認する。


今日の試合を思い返す。

26番は強かった。

カウンターへの対策も完璧だった。

煽りで俺を焦らせようともしてきた。


でも、勝てた。



(なぜ勝てたんだ?)



考える。

冷静だったから?

相手をよく見ていたから?

それもある。


でも、それだけじゃない。



(諦めなかったからだ)



どんなに膠着しても。

どんなに攻撃が来なくても。

どんなに煽られても。


俺は諦めずに、チャンスを待った。

そして、そのチャンスを確実にものにした。



(これが、俺の強さ)



そう思えた。

カウンターだけじゃない。

冷静さ。

観察力。

判断力。


そして、諦めない心。

全てが揃って、俺は勝てた。



(次は、25番)



拳を握りしめる。

ボトムクラス最強との戦い。

それが、次の目標だ。


でも、訓練場を見回しても、25番の姿は見当たらない。

そういえば、定期的に姿を見かけないことがあった気がする。



「なあ」



近くにいた闘士に声をかけた。



「25番って、たまに訓練場にいないけど...どこにいるんだ?」


「ああ、25番はボトムで一番上の番手だから、ミドルクラスの訓練場で鍛えることが多いらしいぞ」


「ミドルクラスの...?」


「実力的に、もうボトムとは別格だからな。オーナーが特別に許可してるんだ」


「そうなんだ...」



(あの人は、もう別格なんだ)



でも、同時に思う。



(それでも、ミドルには昇格できていない...)



ボトムで圧倒的な強さを持ちながら。

ミドルクラスで訓練することを許されながら。

それでも、25番はまだボトムクラスにいる。



(ミドルとボトムの壁って、そんなに高いのか...)



俺は少しだけ不安になった。

でも、すぐに首を振る。



(考えても仕方ない)


(まずは、25番に勝つ)


(絶対に勝つ)



そう誓って、訓練を続けた。


その夜。

ベッドに横になると、26番の姿が見えた。

いつものように、ボトムクラスの上位の場所に座っている。

他の闘士たちと話している。

負けても、変わらない。

それが、26番なんだろう。



(強いな...)



勝ったのは俺だけど。

26番の方が、まだ上だと思う。


経験も。


冷静さも。


でも、今日は俺が勝った。

それだけのことだ。



(次も、勝つ)



そう心に誓って、俺は目を閉じた。

明日も、戦いが続く。


でも、もう怖くない。

俺は、強くなった。

そして、これからも強くなる。

そう信じて、眠りについた。

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