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1章6話

連勝を重ねるうちに、対戦相手が変わってきた。

下位ではなく、中位。

30番、31番、32番。


ボトムクラスの中では中堅どころと呼ばれる相手たち。

でも、カウンターを身につけた僕には、もう脅威ではなかった。



――――



32番との試合。

相手は僕よりも背が高く、リーチも長い。

距離を保とうとしてくる。


でも、僕は冷静に間合いを詰める。

相手が攻撃してくる。

長いリーチを活かしたジャブ。



(見える)



避ける。

そして、カウンター。



パスン



顔に入った。

32番がひるむ。


もう一発。



ドスッ



腹に拳が沈む。



「ぐっ……!」



32番の動きが鈍る。


あとは一方的だった。

カウンター、カウンター、カウンター。

確実にダメージを与えていく。

やがて32番は膝をつき、降参した。



「勝負あり!!36番の勝利!!」



――――



31番との試合。

相手は素早い動きで接近してくるタイプ。


でも、僕のカウンターに対応できるほどの技術はなかった。


接近してくる。


攻撃してくる。


避ける。


反撃。



ドスッ



クリーンヒット。


31番が倒れる。



「勝負あり!!36番の勝利!!」



また勝った。



――――



30番との試合も、同じだった。

カウンターの前に、なすすべなく倒れていく。



(ボトムの中位は……もう大丈夫だ)



自信がついてきた。

カウンターという武器を手に入れてから、明らかに戦いが変わった。

下位だけでなく、中位にも勝てるようになった。

訓練場でも、他の闘士たちの視線を感じる。



「36番、強いな……」


「あのカウンター、どうやって避ければいいんだ?」


「マジで厄介だよな……」



ざわめきが聞こえる。

でも、僕は調子に乗らないように気をつけていた。



(まだまだ、上がいる)



26番。

25番。

ボトムクラスの上位。

彼らは、中位とは格が違うはずだ。


特に26番は、ボトムクラスのリーダー格。

優しそうな顔をしているが、目は冷めている。



(いつか、あの人とも戦う)


(その時のために、もっと強くならないと)



訓練を続ける。

カウンターの精度を上げる。

反応速度を速くする。

体力をつける。


やるべきことは、まだまだあった。



――――



ある日。


番手が発表された。

僕は30番になっていた。

少しずつだが、確実に上がっている。



(まだまだだけど……)


(でも、前に進んでる)



食堂で食事をしていると、誰かが近づいてくるのが分かった。

視線を上げると、37番が立っていた。



「…………」



37番は何も言わずに、僕を見ている。

その目には、複雑な感情が渦巻いていた。



「……何か?」



僕が尋ねると、37番は小さく舌打ちをして、去っていった。



(37番……)



最近、上位の12番が15歳になって本場に上がったらしい。

だから、全員の番手が1つずつ繰り上がった。


でも、37番だけは違う。

僕に抜かされて、実質的に最下位に落ちた。

番号は37番のままだが、その意味は全く違う。

かつて僕がそうだったように、今度は37番が最下位なんだ。


37番に直接勝ったことはまだなかった。カウンターを覚えてから対戦カードが回ってこなかったのだ。



(番手的に、戦うとしても次が最後だろうな……)



そう思っていた矢先。

次の試合のカードが発表された。


30番vs37番。



――――



試合当日。


アリーナに立つ。

対面には、37番がいた。

小柄な体格。白い肌。きのこのような髪型。


あの日、僕を見下していた相手。



「38番……いや、30番か」



37番が口を開いた。



「僕より上がりやがって……」



その声には、明らかな苛立ちが含まれていた。



「でもな、所詮お前は遭難者だ。何も分かってない奴が、運良く勝ってるだけだ」


「…………」



僕は何も言わなかった。

言い返す必要はない。


試合で示せばいい。



「マッチ、スタート!!」



37番が突っ込んでくる。

感情的な攻撃。

無駄な動きが多い。



(見える)



僕は冷静に相手を見た。

37番の拳が迫ってくる。


避ける。


そして、反撃。



パスン



顔に入った。

37番がひるむ。



「くっ……!」



でも、諦めずに攻撃してくる。

今度は連打。

左、右、左、右。


でも、全て見える。


避ける。


避ける。


避ける。


そして、カウンター。



ドスッ



腹に拳が沈む。

37番の息が詰まる。



「ぐっ……!」



くぐもった声を出し膝をつきそうになる37番。

でも、まだ立っている。



「くそ……くそっ……!」



必死に攻撃してくる。


でも、もう動きが鈍い。

ダメージが蓄積している。

僕は一歩ずつ、確実に攻めていく。


カウンター。


カウンター。


カウンター。

37番の顔に、腹に、脇腹に。

確実にダメージを与えていく。



「なんで……なんでだよ……!」



37番が叫ぶ。



「僕だって……頑張ってるのに……!」


「なんでお前が……遭難者のくせに……!」



その言葉に、僕は少しだけ胸が痛んだ。



(この人も……必死だったんだ)



最下位から抜け出そうと。

認められようと。


でも。



(僕も、必死なんだ)



ここから出るために。

強くなるために。

誰よりも、必死に戦ってきた。


だから。

最後の一撃を、37番の顎に叩き込んだ。



ドガッ



37番の体が、地面に崩れ落ちる。


動かない。



「勝負あり!!30番の勝利!!」



実況の声が響く。

観客席が沸いた。



「おおっ!完勝だ!」


「38、いや今は30番か、強くなったな!」


「37番、完全にやられたぞ!」



僕は倒れている37番を見た。



(ごめん……)


(でも、僕は止まれない)



アリーナを後にする。

控え室に戻ると、何人かの闘士が僕を見ていた。



「すげえな、30番」


「37番、完全に手も足も出なかったぞ」


「お前、本当に強くなったな」



褒め言葉が飛び交う。

でも、僕は複雑な気持ちだった。



(勝って……嬉しい)


(でも……)



37番の最後の言葉が、頭から離れなかった。



「僕だって、頑張ってるのに」



きっと、本当だろう。

37番も、必死に頑張っていたんだ。


でも、勝てなかった。

それだけのことだ。



(ここは、そういう場所なんだ)



努力しても、報われないことがある。

必死に頑張っても、勝てないことがある。

それが、この闘技場だ。

訓練場に行く。

藁人形の前に立つ。



(もっと強くならないと)



37番に勝った。

でも、まだ中位には勝ちきれていない。

そして、その上には26番がいる。

さらに上には25番がいる。



(まだまだ、道は長い)



でも、諦めない。

必ず、上に行く。


そう決めて、僕は訓練を再開した。



――――



その夜。

ベッドに横になると、37番の姿が見えた。

部屋の隅で、一人で座っている。

顔を手で覆っている。

泣いているのだろうか。



(…………)



声をかけるべきか、迷った。

でも、何を言えばいいのか分からなかった。


励ます?


謝る?


どちらも、違う気がした。

結局、僕は何も言わずに目を閉じた。



(ごめん……)



(でも、僕は前に進む)



それしか、できなかった。



翌朝。


37番は、いつも通りの顔で訓練場にいた。

僕と目が合うと、すぐに視線を逸らした。



(そうか……)



(この人も、まだ諦めてないんだ)



少しだけ、安心した。

諦めなければ、いつかまた戦える。


その時は、もっと良い戦いができるかもしれない。

そんなことを考えながら、僕は訓練を続けた。


次の番手発表。

僕は29番になっていた。

確実に、上がっている。



(次は……上位組の壁を越える)


(そして、26番に挑む)



目標は、はっきりしていた。

ボトムクラスのリーダー格、26番。

あの冷めた目をした相手。


いつか、必ず戦う。

その時までに、もっと強くなる。



(待ってろ、26番)



僕は拳を握りしめた。

戦いは、まだまだ続く。

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