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1章5話

カウンター。


その言葉が、僕の頭から離れなくなった。

寝ても覚めても、あの試合のことを考えていた。


6番の動き。

3番の拳を避けるタイミング。


反撃に転じる瞬間。

何度も、何度も、脳内で再生する。

目を閉じれば、あの光景が浮かんでくる。



(どうやって避けたんだ?)


(どのタイミングで反撃したんだ?)


(どうすれば、あんな風に戦えるんだ?)



考えても、答えは簡単には出なかった。


訓練場で、藁人形を相手にイメージトレーニングを繰り返す。

人形が敵だと想像する。

拳が飛んでくる。

避ける――いや、避けきれない。



(タイミングが……合わない)



何度やっても、しっくりこない。

でも、諦めなかった。



(これしか、僕が勝てる道はない)



そう信じて、訓練を続けた。



――――



1週間後。


試合の日が来た。


相手はボトムクラスの下位、35番。

体格は僕と同じくらい。力も特別強いわけではない。


でも、僕は今まで一度も勝てていない。



(今日こそ……)



アリーナに立つ。

観客席からは、もう慣れた野次が飛んでくる。



「38番、また負けるんだろ?」


「いつになったら勝てるんだよ!」


「賭けにならねえよ!」



僕は拳を握りしめた。



「マッチ、スタート!!」



35番が突っ込んでくる。

真っ直ぐな攻撃。



(見える……!)



拳が迫ってくる。


避ける――



ガスッ



避けきれなかった。

頬に拳が当たる。



「ぐっ……!」



痛い。

視界が揺れた。



(だめだ……イメージ通りにいかない……!)



35番が追撃してくる。

今度は腹への一撃。



ドスッ



「がはっ……!」



息が詰まる。

膝をつきそうになる。



(このままじゃ……また負ける……!)



でも。



(諦めるな……!)



僕は歯を食いしばった。



(もう一度……!)



35番が再び拳を振りかぶる。

大振りな攻撃。



(これだ……!)



僕は体を横に傾けた。

紙一重で拳をかわす。


そして――


反撃。



パスン



僕の拳が、35番の顎を捉えた。

軽い音。

でも、確かに当たった。

35番の動きが一瞬止まる。



(入った……!)



初めてだ。

カウンターが決まったのは。

でも、それだけだった。

35番はすぐに体勢を立て直し、再び攻撃してくる。

僕は必死に避けようとしたが、もう体力が残っていなかった。



ドスッ、ドスッ、ドスッ



連続で拳が叩き込まれる。



「勝負あり!!35番の勝利!!」



また、負けた。

でも。



(一発……入った)



僕は地面に倒れながら、小さく笑った。



(確かに、入った)



手応えがあった。

これでいいんだ。

この道で、間違ってない。



――――



医務室で、ゴンサロが包帯を巻きながら言った。



「38番、今日は少し違ったな」


「え……?」


「一発入れてただろ。見てたぞ」



ゴンサロは眼鏡の奥の目で、僕を見た。



「あれを磨け。お前に合ってる」


「…………はい」



僕は頷いた。

初めて、褒められた気がした。


訓練場に戻る。

藁人形の前に立つ。



(もう一度、イメージする)



あの時の感覚。

相手の拳を避けるタイミング。

反撃に転じる瞬間。



(そうだ……避けるだけじゃだめだ)


(相手の攻撃を見て、避けて、そのまま反撃する)


(全部が一連の動きなんだ)



それに気づいてから、イメージトレーニングの質が変わった。

避ける動作と反撃が、一つの流れになっていく。


何度も、何度も、繰り返す。

夜、ベッドに横になっても、脳内で試合のシミュレーションをしていた。



(次の試合は……)


(もっとカウンターを決める)


(そして……勝つ)



――――



3日後。


次の試合が組まれた。

相手は34番。

少し背が高いが、動きは遅い。



(いける……!)



試合が始まる。

34番が攻撃してくる。


遅い。


僕には見える。


避ける。


反撃。



パスン



顔に入った。

34番がひるむ。



(もう一発……!)



続けて攻撃してくる34番。


また避ける。


反撃。



ドスッ



今度は腹に入った。

34番の息が詰まる。



(いける……勝てる……!)



でも、焦ってはいけない。


冷静に。


相手を見る。


判断する。


避ける。


反撃。


その繰り返し。

何度も、何度も。


やがて、34番の動きが鈍くなった。

ダメージが蓄積している。

最後。

34番が大きく拳を振りかぶった。



(これだ……!)



僕は体を傾けて避ける。


そして。

渾身の一撃を、34番の顎に叩き込んだ。



ドガッ



34番の体が崩れ落ちる。

地面に倒れ伏した。

動かない。



「勝負あり!!38番の勝利!!」



実況の声が響く。

僕は、ただ呆然と立っていた。



(勝った……?)


(僕が……勝った……?)



信じられなかった。

初めてだ。

勝ったのは。

観客席がざわめいている。



「おい、38番が勝ったぞ!」


「マジかよ!」


「あの最下位が!?」



僕は拳を握りしめた。

体が震えている。

嬉しさか、興奮か、それとも安堵か。

全部が混ざり合って、涙が出そうになった。



(勝てた……)


(カウンターで……勝てたんだ……!)



アリーナを後にする。

控え室に戻ると、何人かの闘士が僕を見ていた。



「おい、38番。お前、勝ったんだって?」


「すごいじゃん」


「どうやって勝ったんだ?」



質問攻めにされる。

でも、嬉しかった。

初めて、認められた気がした。


訓練場に行くと、例の監視者が声をかけてきた。



「聞いたぞ、38番。勝ったらしいな、よくやった」


「ありがとうございます……!」



僕は深く頭を下げた。



「だが、調子に乗るなよ。まだ一勝しただけだ」


「はい……!」



監視者の言う通りだ。

まだ始まったばかり。


ここから、だ。



――――



その後、僕は変わった。


次の試合でも勝った。


その次も、勝った。


カウンターのコツを掴んでから、ボトムクラスの下位には連勝できるようになった。

訓練場でも、他の闘士が僕の動きを見るようになった。



「38番、どうやってるんだ?」


「教えてくれよ」



でも、僕はうまく説明できなかった。

感覚的なものだから。


相手の動きを見て。


冷静に判断して。


避けて。


反撃する。


それだけのことなのに、言葉にすると難しい。

食堂でも、雰囲気が変わった。


37番は、もう僕に絡んでこなくなった。

むしろ、避けるようになった。



(そういえば、37番は最近どうなんだろう……)



番手を確認すると、37番は相変わらず37番のままだった。


一方、僕は――



(36番になってる……!)



最下位じゃなくなった。

たった2つ上がっただけだけど。

でも、確実に前に進んでいる。



(まだまだだ)


(もっと強くならないと)



僕はさらに訓練に励んだ。

カウンターの精度を上げる。

反応速度を速くする。

体力をつける。


やるべきことは山ほどあった。

でも、もう迷いはなかった。

進むべき道が見えている。

それだけで、十分だった。



ある日、訓練場で26番と目が合った。

26番は僕を見て、少しだけ目を細めた。



「38番……いや、36番か」



優しそうな顔。

でも、目は相変わらず冷めている。



「最近、勝ってるらしいな」


「は、はい……」


「ふーん」



26番はそれだけ言って、去っていった。



(26番……)



ボトムクラスのリーダー格。

いつか、あの人とも戦うことになるんだろう。



(その時は……)


(絶対に勝つ)



僕はそう心に誓った。


夜、ベッドに横になる。

体は疲れているが、心は軽かった。



(1ヶ月前とは、全然違う)



あの時は、ただ絶望していた。

何をしても勝てなくて。

嘆いてばかりいた。


でも今は違う。

勝てる方法を見つけた。

道が見えている。



(まだまだ、これからだ)



そう思いながら、僕は眠りについた。

明日も、また戦いが待っている。

でも、もう怖くなかった。

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