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1章4話

1ヶ月後、僕は連戦連敗だった。

週に3回の試合。


全て、負けた。


勝ったことは一度もない。



――――



ドスッ



腹部への衝撃。



「がっ……!」



息が詰まる。視界が揺れた。



「勝負あり!!」



また負けた。

医務室に運ばれる。ゴンサロが呆れたような顔で包帯を巻く。



「また負けたのか、38番」


「…………すみません」


「謝んなくていい。ただ、もうちょっと考えて戦え」



考えて?

どう考えればいいのか、それが分からないんだ。


訓練場に行く。

腕立て伏せ。スクワット。腹筋。走り込み。


毎日同じことを繰り返している。



でも、強くならない。



試合に出る。


また負ける。


医務室。


訓練場。


闘技場。


医務室。


訓練場。


闘技場。


この繰り返し。



――――



「おい、38番」



食堂で、37番が声をかけてきた。



「今週も全敗だったんだって?」


「…………」


「大丈夫?僕は今週1勝できたんだけどさ」



自慢げな顔。

僕は何も言わずに食事を続けた。



「まあ、頑張ってよ。僕、応援してるからさ」



その言葉に、何の温かみもなかった。


部屋に戻る。

ベッドに横になる。

体が痛い。

心も痛い。



(どうして勝てないんだ……)



訓練はしている。

毎日、必死に体を動かしている。


なのに、試合になると何もできない。

相手のパンチが見えても、避けられない。

反撃しようとしても、届かない。


ただ、一方的に殴られるだけ。



(このままじゃ……一生ここから出られない)



絶望が、じわじわと心を蝕んでいく。


でも。



(嘆いていても、変わらない)



そう自分に言い聞かせる。



(何か……何か方法があるはずだ)



ある日の試合。


僕は相手に組み伏せられていた。

ドスッ、ドスッと腹に拳が叩き込まれる。

痛い。

息ができない。



(また……このままやられるのか……)



いつもならここで耐えて、結局気絶するまで殴られる。

でも。



(もういい……)



僕は手を上げた。



「ま、参った……!」


「勝負あり!!」



実況の声が響く。

相手が立ち上がる。僕は地面に倒れたまま、荒い息をついていた。



(降参か……)



いつもより早く試合を終わらせた。


恥ずかしい。情けない。


でも、いつも通り気絶するまで殴られるよりは、マシだった。


体を起こす。

痛みはあるが、いつもよりは軽い。医務室に行くほどではない。

アリーナから退場し、控え室へと続く通路を歩く。



(今日は……珍しく軽傷で済んだな)



いつもなら医務室直行だ。


でも今日は違う。

通路を歩いていると、あの小窓が見えた。

初日、アッシジアに連れられて覗いた小窓。

あそこからアリーナが見える。



(次の試合……見てみようかな)



僕は小窓に近づいた。

覗き込むと、ちょうど次の試合の準備が行われているところだった。



「次の試合は、ミドルクラス、19番vs21番!!」



ミドルクラスの試合。

僕より上のクラスの試合だ。

二人の少年がアリーナに姿を現した。


試合が始まる。

僕は食い入るように見つめた。

二人の動きは、僕たちボトムクラスとは明らかに違う。

無駄がない。


一人はリーチが長く、距離を保ちながら相手を翻弄している。

もう一人は背が低いが、素早く接近して懐に潜り込む。

それぞれが、自分の得意な間合いで戦っている。



(そうか……)



僕は気づいた。



(みんな、自分の強みを活かしている)



リーチが長い奴は距離を取る。

素早い奴は接近する。

力が強い奴は真正面から殴り合う。


当たり前のことかもしれない。

でも、僕にはそれが見えていなかった。



(じゃあ、僕の強みは……?)



考える。


リーチ?

いや、僕は小柄だ。腕も短い。


高さ?

それもない。むしろボトムクラスの中でも小さい方だ。


筋肉?

毎日鍛えてはいるが、他の闘士に比べればまだまだだ。


スピード?

そこまで速いわけでもない。



(なんだ。強みなんて、何もないじゃないか……)



僕は愕然とした。

何もかもが平均以下。


いや、平均以下ですらない。最下位なのだから。



(なんだよ……結局、僕には何もないのか……)



ミドルクラスの試合が終わった。

僕は小窓から離れようとした。

もう訓練場に行こう。


その時だった。



「おっとぉ!!ここで特別試合の告知です!!」



実況の声が響いた。



「本日、トップクラス同士の試合が一試合だけ行われます!!」



トップクラス?

僕は動きを止めた。

アリーナ全体の空気が変わった。観客席のざわめきが大きくなる。



「対戦カードは、3番vs6番!!」



3番。6番。

どちらもトップクラスの上位だ。

僕は息を呑んだ。



(トップクラスの試合……見られるのか……!)



こんな機会、滅多にない。

いつもなら医務室で横になっている時間だ。

僕は再び小窓に顔を近づけた。


しばらくして、二人がアリーナに姿を現した。

まず現れたのは3番。


圧倒的な体格。

僕の頭が相手の胸にも届かないほどの大きさ。筋肉が鎧のように体を覆っている。地黒の肌、金髪の坊主頭、暗めの赤い目。

暑苦しい雰囲気だが、その動きには無駄がない。



(あれが……3番……)



僕は何度か、ボトムでの試合で3番のようなパワー型と戦ったことがある。

全て、一方的にやられた。

力で押し切られて、何もできずに負けた。



(あんな相手に、どうやって勝てばいいんだ……)



そして、対戦相手の6番が現れた。

僕は目を疑った。



(小さい……?)



6番は、僕と同じくらいの体格だった。

いや、もしかしたら僕よりも小さいかもしれない。


白に少しグレーが混じった髪色。短髪。白い肌。エメラルドグリーンの目。

細い体つき。

3番と並ぶと、体格差は一目瞭然だった。



(あんな体格差で……勝てるのか?)



観客席もざわついている。



「マッチ、スタート!!」



3番が地面を蹴った。

ドシン、ドシンと鳴りそうな重い足音を立てながら、まっすぐに6番へ向かっていく。


6番は動かない。

ただ、じっと3番を見ている。


3番が拳を振りかぶる。

巨大な拳。

それが、6番に向かって振り下ろされた。



ブォン



空気を切り裂く音。

当たれば、確実に倒れる一撃。


でも。


6番は、紙一重で避けた。

スッと体を傾けるだけ。最小限の動き。


そして。

カウンター。

3番の拳が空を切った瞬間、6番の拳が3番の顎を捉えた。



パスン



軽い音。

でも、効いている。


3番の動きが一瞬止まった。



(今の……)



僕は目を凝らした。



(避けてから、殴った……?)



3番が再び攻撃に出る。

今度は連打。


左、右、左、右。

でも、6番は全て避ける。

必要最小限の動きで、紙一重で。

そして、そのたびに反撃。


顔に。


腹に。


脇腹に。


少しずつ、少しずつ、ダメージを与えていく。

3番の動きが鈍くなる。

息が上がっている。


一方、6番は涼しい顔をしていた。

そして、最後。


3番が大きく踏み込んで、渾身の一撃を放った。

6番は、それを待っていたかのように。


スッと体を捻り。

反撃。



ドスッ



3番のテンプルに、6番の拳が叩き込まれた。

3番の体が、ゆっくりと倒れていく。



ドサッ



地面に倒れ伏す3番。



「勝負あり!!6番の勝利!!」



観客席が沸いた。



「うおおおおおお!!」


「やっぱり6番は強い!!」


「あの体格差で勝つとか信じられん!!」



僕は、ただ呆然としていた。



(あれは……)



避けて。


殴る。


相手の攻撃をかわして、その隙に反撃する。



(そうか……力で勝てないなら……)


(相手の力を、利用すればいい……?)



僕の心臓が高鳴った。



(これだ……!)


(これが、僕の戦い方だ……!)



小柄で、リーチが短くて、力もない。


でも。



(相手の攻撃を避けて、反撃すれば……)


(僕にも、勝てるかもしれない……!)



希望の光が見えた。

僕は小窓から離れ、訓練場に向かって走り出した。

足が勝手に動いた。



(早く試したい……!)


(あの動きを、自分のものにしたい……!)



訓練場に着くと、例の監視者がいた。



「あ、あの!」



僕は駆け寄った。息が切れている。



「さっき、上位組の試合で……避けてから殴ってたあれは、何ですか!?」



監視者は少し驚いたような顔をした。



「ああ……」



少し考えてから、監視者は答えた。



「カウンター戦術のことか」


「カウンター……」



初めて聞く言葉。

でも、その響きが、僕の心に刻み込まれた。



「相手をよく見て、冷静に判断する目と脳が必要だからなあ」



監視者は淡々と言った。



「簡単じゃないぞ」


「でも……!」



僕は食いついた。



「僕、それができるようになりたいです!教えてください!」


「教えるって言ってもな……」



監視者は腕を組んだ。



「俺が教えられるのは、筋トレとか基礎だけだ。戦い方は、自分で見つけるしかない」


「…………」


「だが」



監視者は僕の目を見た。


「その戦い方は向いていると俺は思う。目的をもって訓練することは良いことだ」


「はい……!」



僕は深く頭を下げた。


そして、訓練を再開した。

今度は、目的がある。



カウンター。



あの動きを、自分のものにする。

そのためには、どうすればいい?


相手の動きをよく見る。


冷静に判断する。


避ける。


反撃する。



(まずは……イメージだ)



僕は目を閉じて、さっきの試合を思い出す。


6番の動き。

3番の拳を避けるタイミング。

反撃に転じる瞬間。

何度も、何度も、脳内で再生する。


そして、藁人形の前に立った。

人形が3番だと想像する。


拳が飛んでくる。


避ける。


反撃。


何度も繰り返す。

汗が滴る。

息が上がる。

でも、止まらない。



(これが、僕の道だ)


(これで、強くなれる)



その日から、僕は変わった。

ただ闇雲に訓練するのではなく。


目的を持って、訓練する。

カウンターを身につけるために。


毎日、脳内で6番の試合を再生した。

毎日、藁人形を相手にイメージトレーニングをした。

そして、次の試合を待った。



(今度こそ……)


(勝ってみせる)



その決意は、今までのどの決意よりも強かった。

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