第1話 邂逅
―――これは、1人の暗殺者と1人の刑事の正義を巡る物語である。―――
「ふあぁ〜」
今日何度目かもわからない大きなあくびと共に私は大きく伸びをした。そして、
もう何時間見続けているかもわからない捜査資料へと再び目を落とした。
私、高梨カノは刑事である。しかし、ただの刑事だと侮るなかれ。
私の所属部署はなんとあの警視庁捜査一課“異能犯係”だ!
⋯あまり伝わってなさそうだから補足で説明するね...。
まず、“異能”っていうのは漫画やアニメでよく出てくるようなものと大体一緒。
火を出したりお菓子を生み出したりと色んな“異能”が存在している。
そして、そんな“異能”を悪用する犯罪者のことを“異能犯”と呼んでいる。
私の所属する“異能犯係”は、そんな“異能犯”専門の部署だ。
で、ここからが超大事。
なぜわざわざ“異能犯係”が作られたのか。その理由は、“異能”が持つ圧倒的な
力にある。“異能”の中には、自然現象や超常現象を操るものも当然存在する。
そんな“異能”をもつ“異能犯”相手に一般人が勝てるはずもなく、この部署が
できる前は毎日のように市民が殺されていた。
まあ、私達の部署が担当するのは軽犯罪で、重犯罪は主に特殊部隊が対応してるん
だけどね。
そんな部署で現在進行型で残業中なのが私と同僚2人。斉藤麻里と浅野夏鈴だ。
私たちはシェアハウスしていて、お互い下の名前で呼び合うほど仲が良い。
マリは25歳で階級は巡査、カリンは29歳で巡査部長だ。
ちなみに私は31歳で巡査と、同期や後輩と比べて全くといっていい程昇進して
いない。まあ私自身は出世自体にあまり興味がないからいいんだけど。
「はぁ〜」
向かいに座っているマリの大きなため息が聞こえてきた。
「なんで私達がこんなことしないといけないわけ?」
続けてカリンが愚痴をこぼす。
「まあまあ、この仕事終わったあと呑みにいこうよ」
私が2人をなだめる。しかし、カリンの言っていることはもっともである。
なぜなら、私達が今やっている作業は本来は別の部署の作業なのである。
その部署こそさっき話した対異能犯専門特殊部隊、
通称“SEAT”(Special Extraordinary Ability Team)である。最近、SEATは
連続要人暗殺事件の犯人を探すことで精一杯らしい。まあ、政府のお偉方が
既に6人も暗殺されているし忙しいことに関しては仕方がないとは思う。
しかし、それとこれとは話が別である。いくら忙しくても下の部署に仕事を
押し付けるのは違うと思う。SEATの担当者を一発ぶん殴りたい気分である。
そうやって頭の中でイマジナリー担当者をボッコボコに殴ろうとした次の
瞬間、署内にアラームが鳴り響いた。
「緊急出動、緊急出動、総理官邸前にて官房長官が襲撃された。付近の
警察官は至急現場に急行せよ。繰り返す――」
ガタッ
3人同時に立ち上がった。3人とも顔こそ凛々しいものの、内心はこのキツイ
仕事から解放されるとウッキウキだった。不謹慎だけど。
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キキーッ ガチャ バタン
車で走ること10分。現場に到着した。あたりを見渡すと警察官と特殊部隊
ばかりだ。早速、私達も捜索に加わった。犯人は全身黒の服装で新宿方面に
逃走中らしい。私達も新宿に向かった。私達の担当は歌舞伎町付近だ。
また面倒くさい仕事を押し付けられたなと3人は思った。人混みは犯人を
探すときにはとても厄介である。私達は歌舞伎町に到着し、捜索を開始した。
人混みをかき分け、犯人を探す。チャラ男達のナンパを断りながら。
ヒュッ
視界の端に何かが見えた。振り向くとそこはビルとビルの間であった。
私は走り出した。ビルとビルの間を猛スピードで駆け抜けた。
どうやら2人を置いてきてしまったらしい。しかし私はスピードを緩めない。
しばらくすると、目の前に非常階段が見えた。ここの屋上なら付近一帯を
見渡せる。そう考え私は階段を駆け上がった。念の為に拳銃を持ちながら。
ガチャ キィーッ カチャッ
拳銃を構えながら屋上に続くドアを開けた。そこには黒いなにかがいた。
人間みたいなシルエットだがよく見ると人間じゃない。明らかに“異能”を
持っている人間だった。それはゆっくりとこちらに振り向いた。
その姿は天使と呼ぶにはあまりにも禍々しく、
悪魔と呼ぶにはあまりにも純粋な目をしていた。
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