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捧げられた神子
長兄が「水神様に捧げられた」のは、俺がまだ奉公に出る前のことだった。
めでたいことだ、と言うのに、なぜか泣く両親が不思議で、だがそれを聞くこともできない雰囲気だったのを覚えている。
降り続く雨の中、家に残された俺は庭から川の方を眺めていた。すると、唐突に世界が輝き、轟音が轟いた。
その光の中に、俺は見たのだ。
白い服を着た長兄と、その手を引く角の生えた男を。
彼が龍神様なのだ、と俺は確信した。
それほどまでに美しい、人間ではありえない容姿まではっきりと見えた。
気がついたときには、雨はすっかりやんでいた。俺は庭木に落ちた雷に当たって失神していたらしい。
よかった、とまた泣く家族に俺は一生懸命に自分の見たことを説明したが、雷に打たれた時に見た幻だ、子どもの妄想だと言われて誰も取り合ってくれなかった。
だが俺は、確信している。
長兄は人柱になって死んだのではない、本当に龍神様の所に行ったのだ。そして、幸せに暮らしているのだと。
だって俺は――あの二人が、心から笑い合うのを、見たのだから。