第五十七話 桜
手札として残された力は、龍、夜、人、そして死。
だが、死の力は今は要らない。
今重要なのは、【死】の使う即死技を防ぐ術が無くなったことだ。
だからこそ、夜の力の使い方を知らなくては……と言いたいところだが、何故か脳裏に過ぎったんだよなぁ……
「やるだけやるか。」
『いくぞ?』
視界全てを覆うほどの死の手が迫る。
鎖が俺の周りから消えたのを見て【死】も直感したようだ。
俺から【罪】の力が消えたと
「まぁ、そうなるよな……」
しかし、焦ることはない。
「夜の天幕よ降りろ」
空が黒に染まり、美しい星月夜に変わる。
「物量には、物量だ!!!」
夜空の星が煌めき、光が落ちる。
質量を持った熱が煌々と輝くカーテンのように、朝日に照らされる滝のように流れ落ち、無数の死の手を焼き切り押しつぶしていく。
『そのような術があったのか!!』
「さっきまで出せなかっただけだ!!」
光のカーテンで向こう側が見えないが、それは星が教えてくれる。
夜空は鏡。全てを反射し、照らす。
「そこか……」
ーーーー
【死】の上にワープした。
やっと名前を知れたよ。この技の
「ーーー龍鱗変形構築」
龍の鱗を変形させて、槍にする。
光のカーテンはまだ降りていて、【死】も死の手を出し続けている。
まだ気づかれていない。
「そこか」
巨大な腕の形をした【死】の一点が光り、そこに向けて槍を投擲する。
ただの投擲。一ミリもダメージを与える事はできず、ただ、気づかれた。
『ほう、そこに居たか』
再び死の手が迫る。
光のカーテンが消えたと同時に背中から夜空の翼を出し、飛び上がる。
両手を擦り合わせて展開する。
「星雲!!!」
紫や赤の光が内包した星々の雲をその場に広げる。
「目指す一点はあそこだ!!」
星の雲から光の線が伸びて、【死】と死の手を焼き始める。
しかし、先ほどまでの光のカーテン程の熱量は無く、死の手の物量に押される。
だが、そこにさしたる意味はない。
星の雲はサクラを隠せればそれでいい。
死の手が星の雲を貫き、払いのける。が、そこにサクラはいない。
『どこに……』
「身体中の目はお飾りか?」
【死】の下にワープしたサクラが星の雲と自分の体で作った龍の顎門を展開しながら挑発する。
『跳躍……"星"の力か?』
「正解!!これ、報酬ね!!」
ーー龍炎!!
死の手で防ぐ間も無く数多の顎門から龍炎が噴き出す。
流石の【死】も重なり合う幻想の炎の物量には敵わず、押される。
『やはり、龍の炎は"重い"な』
それを見てサクラは体を四散させ、星で作った龍の顎門だけをそこに残し、再び【死】の上に向かい、体を再構築する。
「【人の怪異】である以上、お前は俺の天敵だ。だけどな、お前にとっても俺は天敵だろ?なんてったって、人は"死"を克服しようとするもんな。」
『それが叶わぬから、死は人の天敵なのだ』
「俺が叶えてやるよ」
夜空が開く。
聞いたことのない例えだが、本当に開いたように見えたんだ。
「落ちろ」
夜空に内包された星が、落ちてきた。
その圧倒的なまでの物量をサクラは自分の体を変形させて、押し込む形でそのゆっくりと落ちてくる欠点を克服させ、【死】にぶつけた。
「お前という【死】を俺は今日、克服する。」
【死】はその腕のような体を上手く使い、隕石を掴んだ。
『これが、星の……』
「ダメ押しだ。」
サクラは【死】が掴んだ隕石に触れ、その星の性質を変える。
「構成物質変質、質量変更」
隕石が小さくなると同時に"太陽の様な恒星"に変わる。
「年代設定、末期。」
恒星は赤く染まり、膨張する。
『なにを……』
「星の終わりを見届けろ」
ーーある星の超新星(アル•ステラ•ノヴァ)
ーーーーー
星の終わり
重力の特異点を生み出すほどの爆発を最小限に抑えた最大の一撃。
それを受けて、【死】の気配はようやく底を見せた。
『興味深い!!これが、星の……夜の終わりの力!!』
巨大な身体を維持できなくなったのか、【死】は先程の分体程の大きさに萎み、人の様な形をとった。その姿は似ても似つかないが、その雰囲気は黙示録の四騎士に刻まれるペイルライダーの様だった。
「もう、限界が見えてきたか?」
『残念ながら、我に死は訪れぬ。それは世の理なのだ。』
「あぁ、そうかい。やっぱりそうなんだな」
『ほう、知っていたか』
「なんとなく、そうなんじゃないのかと思っていただけだ。」
【死】は鎌をどこからとも無く取り出し、手入れをする様に刃を見つめる。
『ここまで追い詰められてしまった。なんとも、苦しいな。だが、それはお前も一緒であろう?』
「なんのことかな?」
『我を翻弄するために何度使った?有限なのだろう?【時の力】は』
バレてやがる。
夜の、星の力ってことにして隠してたつもりだったんだけどな……
「正解だよ。あと3回だ……
お前を倒すには十分すぎると思わないか?」
『あぁ、今のお前ならそうなのだろうな。しかし、ここで負けるわけにはいかないのでな……ここからは遊びは無しだ』
「望むところ……」
時間停止ーーー
あと2回……でも、いい。
【死】の背後に回り、龍の概念武装を発動する。
「貫け、龍!!!」
ハルバードから放たれた龍が【死】を貫く。
停止時間はあと少し、そこで、手を擦り、再び星雲を発動し、【死】の周囲に散らばせる。
「ーー穿て!!」
ーー時間停止終了
【死】が龍に貫かれ、星雲の光が【死】を焼き切る。
しかし、【死】はそれをものともせず、振り返り、俺の顔を掴む。
『死を齎す手はもう出せない。触れただけではもう、お前を殺せない。だから、これからはこういう戦い方をしなくてはならない』
口からタール状の液体を溢しながら死んだ目で笑いながら【死】が俺の腹部を蹴り、吹き飛ばした。
「がぁッ!!」
『泥臭い戦い方だ。懐かしさを感じるよ、あぁ、本当に今日という日は愉しいなぁ』
どこか達観した様な喋り方だった【死】はどんどん砕けた喋り方へと変わっていく。
夜の翼を広げ、龍のハルバードを取り出す。
すると、【死】はニタっと笑い、鎌を握る。
『さぁ、殺し合おうかぁぁ!!!』
【死】が鎌を振ると斬撃が飛ぶ。それ避けながら急接近をする。
「トドメだぁぁ!!!」
その瞬間、眼前が黒に覆われた。
『あ、死の手を使えないって、あれ、嘘だから』
「は?」
唐突な宣告、勢いが落ちず、自分から死の手にぶつかってしまう。
止まれない
止まれない、
止まれない!!
死を覚悟したその瞬間、一筋の光が死の手を吹き飛ばした。
『つくづく、面倒見がいいようだな!!槍よ!!』
死の手を吹き飛ばしたのは他ならぬ、伊刻の槍だった。
「死ィィィィ!!!!」
伊刻さんの援護を受けて、ハルバードの先端を【死】に突き刺す。
『まだダァぁ!!!!』
【死】の顔が広がり、大きな口となる。
懐に潜り込んだ今の俺ではそれを避ける術はない。
が、銃声が響き、その【死】の顔が半分吹き飛んだ。
『は?』
銃声が響き、銃弾が飛んできた方向は、ザマーレク。
「夢結さん!!」
声を上げながら、ハルバードを抜き、力一杯、【死】の肩に蹴りを入れた。
【死】は吹き飛ぶ。
はぁ、はぁ……
『……さ…くら?』
脳内で彩花の声が響いた。
「おはよう、俺の頭ん中見て、一瞬で状況を理解しろ」
『理解した。』
【死】の衰弱、
【花】の復活、
「どうやら、時間稼ぎは成功らしい。」
『すごい、流石サクラだよ!!』
ハルバードを構え、満身創痍の【死】に向ける。
「『決着の時だ。』」
ご精読ありがとうございました
サクラ、頑張った!!
さぁ、死滅没落都市カイロを終わらせる時が来ましたね




