第五十六話 俺の戦い
天上で行われている戦いを見上げ、レン達は祈ることしかできなかった。
「負けるな」
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カイロタワーの上、夢結は胡座を組み、あくびをする。
「早く勝ちなよ」
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【王の怪異】は単純な物量攻撃で押してくる。
だが、それだけではない。
ギロチン、剣、槍、あらゆる武器が飛び交い、それらが殺意を持って追跡してくる。
だが、それはさしたる問題ではない。
今、目の前にいるのは確かに強力で強大な怪異だが、天上で更に恐ろしい存在が羽化したのを感じたからだ。
「あぁ、100年ぶりだな……この感覚…」
雨のように降り注ぐ武器をのらりくらりと避けていき、伊刻はサクラ達へ届かぬエールを送る。
「勝て」
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眼前に広がる光景は筆舌に尽くし難い。
天国と地獄が入り混じっているようなこの場所で、俺達は【死】と対峙する。
「ダンテもびっくり……」
『軽口叩ける内に考えて、今私たちが切れる手札を』
龍炎と鎖と月輪……あとは、花の力。
『全力で【死】を追い込み、疲弊したところに"花の根"をぶち込み、私達の力に変える。それだけが、"死"を持たない【死の怪異】への抵抗策。』
「ああ、だから【死】を倒せるのは俺達だけ」
【死】から何かの破片が飛び散る。
よく見るとそれは頭蓋骨であり、それがある程度散らばると黒いタール状の液体を吹き出し、伝承で見るような鎌を握った死神の姿に変貌した。
それは100年前、東雲優希と琴乃葉忍が戦った権能を持たぬ【死の怪異】その分体であり、それが隊列をなすように、無数にサクラを囲っている。
「だからなんだ?」と、
『私達はその程度で止められない』と、
二人は万永春天を握りしめ、終焉の力を込める。
「『邪魔だ』」
360°回転し全ての分体を飛ぶ斬撃を以て切り捨てた。
『ほう…』
天上の【死の怪異】がその身体中の瞳をギョロギョロと不気味に動かし見定めるように俺達を見下す。
「見下してんじゃねぇよ…」
刀に再び力を込める。
身体中に花の力……終焉の力を、龍の力を、月の力を、罪の力を……【死】の力を巡らせる。
体の中で、円環を成すように力が回転し始める。
ぐるぐると巡り、身体そのものが強化されていくのを感じる。
まだ足りない。
身体の中で廻る力を刀にも流し、刀と身体で上手く円環を作る。
更に回転率が上がる。
「ふぅ……」
『この一撃で【死】を疲弊させることは出来ないかもしれない。でも、やるだけ無駄じゃ無い。次の一手も考えられないくらいの全力で、私達の全てを、ぶつけよう。』
「了解」
目を閉じる。
余すことなく刀に力を込める。
目を見開き、刀を振るう。
「『終焉齎す一太刀』」
空間を、冥界の壁をあらゆるモノを切り裂いて、空に浮かぶ【死】に放たれた斬撃。
大気圏までも切り裂いて、宙までも見えてきた。
身体が二つに切り裂かれた【死】はすぐにそれを再生しつつも、タール状の液体を溢しながら笑う。
『あぁ!!懐かしい!!懐かしいぞ!!あの日を思い出す!!【炎】は興を削いだが、【槍】が我を愉しませた、あの日を!!なんと清々しい!!【花】よ、お前はあの日の【槍】をも超えたぞ!!』
「そうか、それは誇らしいな。」
視覚的にダメージを与えられているようには見えないが、その気配は最初から見て明らかに減っている事を感じる。
『良いモノを見た。故に、お返しをしよう。』
死の怪異の掌にエネルギーが収束する。
まずい。
「『龍結晶生成!!
花の蔓よ我を囲め!!
夜空と龍の翼、展開!!
月輪よ、我を守れ!!
花弁よ膜を成し、鎖よ、俺を守れ!!』」
全ての力を以て防御を行う。
『万物よ死に絶えよ……』
音が消え、閃光が走り、辺りが暗闇に包まれ、紫色の光が悍ましい程の熱量と物量を持って襲う。
全力でそれを防ごうと次から次に花弁を生成し、花の蔓を体から出し、龍結晶を修復し、鎖を増やす。
それでも押される。押しつぶされる。押し出される。
結晶が割れ、花弁が蔓が焼け、翼が焼け、鎖が砕け散り、月輪が壊れる。
攻撃自体は防ぎ切ったが、耐えられず落ちていく。
「意識……を…保て……」
ーーーまだ負けちゃダメだよ
何故か、アベルの声が聞こえた。
周囲に龍の鱗が現れ、体にまとわりつく。まるで意志を持っているかのように。
龍の鱗が騎士の鎧に変化して翼を広げる。
「ありがとう。アベル…!!」
飛び上がり、再び天上へ向かう。
冷たい空気が頬を刺す。
サクラは何故か笑っていた。
天上に辿り着くと、【死】は高笑いをして待っていた。
『嗚呼、気分がいい。やはり、戻ってきたか、【花】……ふむ、その姿では【花】とは言えないな……』
龍の甲冑を身に纏い、夜の翼を広げたその姿は【花の怪人】とはお世辞にも言えなかった。
彩花……彩花?
ちっ、気を失ってるのか
……まぁ、いい。
回復するまで、時間を稼ぐだけだ。
それだけの力は残っている。
壊れた月と罪、そして眠る花の力がなくとも。
夜と龍と人の力で
「お前をひれ伏させる。」
『愉しませてくれ』
ここからは、俺の戦いだ。
ご精読ありがとうございました
がんばれ、サクラ




