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第五十五話 死


 「『【死の怪異】お前を倒す』」


 冥界の上空、天国と見紛う場所で【死の怪異】と相対する。


 『【花】よ、死を享受せよ。』


 死の体から液体が溢れ、それが虫の形となり、迫り来る。

 手に握られていた鎌を背中に納め、手を翳す。

 使い慣れた、いつもの武器を呼び出す為に


 「『来い!!万花万蕾の太刀!!』」

 

 迫り来る虫を風圧と斬撃で吹き飛ばす。それにより【死】への道が拓かれ、一気に距離を詰める。

 【死】は待ち受けるかのように鎌を取り出す。


 【死】の鎌が光り、眼前に迫る。

 刀でそれを受け止め、周囲に浮かばせた龍の顎門を開く。


 『なるほど』

 

 「『龍炎』」


 いくつもの顎門から放たれた龍炎によって【死】は後方に押し出される。


 『ほう?』


 【死】の体が蠢き、光線が全方位に放たれ、龍の顎門が粉砕される。


 ぴちゃんと、水が跳ねるような音を立てて【死】が液状化する。

 

 「なんだ…」


 液状化した【死】は飛び跳ねるように辺りを動き回る。


 目で追えない速度で蠢く【死】に対し、俺たちが取れる手段は一つだけだった。


 「『死が俺たちに触れることは罪に値する』」


 俺達を中心にして螺旋状に鎖が現れる。

 風が巻き起こり、液状化した【死】に鎖がぶつかる。


 「『花弁よ、我が分け身として、散れ』」


 身体が四散し、花弁として辺り一体に散らばる。巻き起こった風によって花弁が舞い上がり、液状化した【死】にその一片がぶつかる。


 爆音が響き渡り、【死】が元の姿に固体化する。

 体を震わせながら【死】は立ち上がり、花弁が纏まり自分の姿に戻ろうとするサクラを睨む。


 『嗚呼、痛い……だが、この罰則は痛みを与えるのみであり、我を、【死】を倒すに能わず!!』


 瞬く間に死の手が全方向に伸び、天国のような光に満ちたこの場所を覆いだす。

 今から範囲外に逃げるのは不可能。


 「『なら、やるしかないか。』」


 ーーー時間停止!!!!


 ー•ー•ー•ー•ー•ー


 時が止まる。

 音が消えた。

 風も、光も、死の気配すら止まる。


 夜の翼を広げ後方へ飛ぶ。

 瞬く間に広がり出した死の手の合間を縫っていき、更に上空に向かう。

 【花神】の気配が更に強くなり、背筋が凍る。

 が、時が止まっている今は【花神】であろうと干渉はできない。だから、そのギリギリを通過していき、【死】の背後に迫る。


 月輪を再び動かす。


 「『月光、死を焼き尽くせ!!』」


 ー•ー•ー•ー•ー•ー


 時間が動き出すと同時に月輪からビームが放たれ、【死】を吹き飛ばす。


 が、【死】はそれを予想してたかのような表情を浮かべ、いくつもの鎌が回転しながら俺たちに向かって放たれた。


 花の蔓でそれを払い除ける。


 しかし、それに注力しすぎた為か、死角になっていたからか、俺達の体は再び液状化した【死】に腹部を貫かれた。


 「『いっ…』」


 『っぐ…』

 

 ジンジンと腹部から感じたことのない痛みが押し寄せ、声を上げる。

 それと同時に【死】も俺たちに触れた罪によって痛みを受け、声を上げる。


 身体中に液状化した【死】が入り込み、身動きが取れなくなる。


 『死を享受せよ!!!』


 ゼロ距離で避ける間もなく、死の手が放たれる。

 「まずい!!時間を!!」

 『だめだ間に合わない!!』

 死の手が身体に触れた。

 二つ目の時で伊刻さんが有無も言わさず灰にされたあの手が、身体に触れた。


 『がっ!?』


 しかし、悲鳴を上げたのは【死】だった。


 【罪】は二つ同時に発動できていたのだ。

 最初に定義した罪と触れたらダメになる罪が同時に発動している。


 二つの罪による痛み。

 命に別状がなくとも、【死】は果てしない痛みに悶え苦しむ。


 『ガァァ!?!?』


 「『ハハっ!!最高で最悪な気分だ!!【罪】が強すぎる!!』」


 体を花弁に変換して、液状化した【死】から抜け出す。

 

 「『収束終焉詠唱………万永春天!!』」


 万永春天の刀身が揺らめく。

 【花】の持つ終焉の力を刀身に込めて、【死】にぶつける。

 

 「『終われ!!』」

 

 痛みで悶える【死】に刀をぶつけ、吹き飛ばす。

 吹き飛んだ【死】に付いていくように夜の翼を広げる。


 『あらゆる手が潰される。全てが有効打にならず、届かない。これほどまでに、興が乗る戦いはない!!!悪神よ、全神よ!!我は今を愉しんでいるぞ!!終わらぬ魂の円環の中であっても、忘れ難いこの戦いを!!』


 【死】は吹き飛びながらその身体の形を変えだした。禍々しい瞳が無数に浮かび上がった深淵のように黒い巨大な手の姿に。


 それは、100年前、東雲優希達の高校に現れた姿そのもの。


 かつて、伊刻湊の持ちうる最大の一撃を以てしても撃退するだけに留まった正真正銘、最強格の怪異の姿だ。


 威圧感だけで世界が揺れる。


 威圧感だけで足が止まる。眼前に広がるのは、地獄そのものだった。


 「ははっ……なんだ、これ…」


 今の体の中にはいくつもの強力な怪異の力が内包されているのにも関わらず、怖気付く。

 それほどの圧なのだ。


 『怖気付くんじゃないよ!!私達はこれから先、神を倒しに行くんだ!!こんな所で負けられない!!相手を怯えさせるぐらいの勢いで行くぞ!!』

 

 彩花の声が自分を正気に引き戻す。

 息を吐き、冷静になる。


 目の前にいるのは【死】の化身。だが、あくまでも概念の集合体。"死"そのものではない。

 

 倒せる。


 じゃなかったら、時間跳躍を行った俺たちの中になんで【死】がある?


 「『勝ち確、出来レース。無双フェーズに入ったってことだよ』」


 『さぁ来れ、【花】!!!』

ご精読ありがとうございました


今回の話を見た後に第二章•死を恐れよ言葉を紡げ ep.7「死」を見ると面白いかも?

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