第五十三話 二者卓越
【死】の手が、無差別に空を薙ぐ。
伊刻さんはそれを紙一重で避け、間合いの外から槍を投げ続けていた。
その向こう側で、よく見えないが、【王の怪異】も同じように死の手から逃げ惑っているのが分かる。
この均衡を崩そう。
「ものは試しだ。やってみよう。」
「『"その手、犯罪ですよ?"』」
鎖が伸び、死の手を貫いていく。
しかし、なにも起こらない。
「不発か?」
頭を捻る。
「おい!!よそ見するな!!!」
伊刻さんの焦った声を聞き、ハッとする。
周りには避けきれない量の死の手が迫っていた。
『【花】は死んだ。次は…』
死の手が体に触れる。
死が訪れる……
「あれ?」
その瞬間、死の手は消え、【死】に衝撃が走った。
『なっ……にが?』
死の手が消え、【死】が痛みに悶える。
これが、罪の力…!!!!
『攻撃そのものを無効化して、カウンター……チートじゃん』
しかも、フルオート。
使い勝手はいいが、同時に何個も罪の使い分けが出来るとは限らない。
限界値を戦いの中で探すよりも、厄介な死の手を制限させるだけにとどめておこう。
変に使いすぎて、上限にぶつかって、急に死の手が有効打になられたら詰みだからな。
ところで、さっきから推定【月】の輪っかが光り輝いているんだけど、なにこれ
月の輪が、心臓の鼓動に合わせて脈打っている。
『ビームが溜まったんじゃない?月ってビーム出すし』
はい?え、月ってビーム出すの?
『え、そうだよ?』
なら、やってみる……か
痛みに悶える【死】に対して死の手の包囲網が解かれた伊刻と【王】が攻撃を仕掛けに迫る。
「伊刻さん!!」
伊刻が何かに気づき、【死】から距離を取る。
それを見て、月の輪を体の前に持ってきて力を込める。
「いける!!」『いくよ!!』
「『月の光に照らされて、消し飛べ!!』」
音が消え、閃光が視界を消し飛ばす。
爆発が起こり、【死】の体に大きな穴が空いた。
「マジかよ…」『マジだよ』
その光景に呆気に取られていると、伊刻さんが背中を叩いた。
「サクラ!!ナイス!!」
『あぁ!!本当にその通りじゃ!!』
目にも止まらぬ速さで斬撃が飛んできて、それを伊刻さんが槍で弾いた。
「……まだ、【死】は仕留めきれていないだろう。だから、【王】は俺に任せて、サクラは【死】をやれ。」
「いいんですか?」
「ああ。さっきの一撃を見て確信した。今のお前は、争太を超えている」
「『……じゃあ、任せてくださいな』」
俺達は急上昇していく。
今の攻撃で【死】が倒れなかったということは、【死】を倒せるのは俺たちしかいない。
「『【死】を倒せるのは、【花】だけだ。』」
ーーーーー
サクラ達が【死】との決戦に向かったのを見届けて、俺は目の前の【王】を見つめた。
『また、汝か……』
「こっちのセリフだよ」
【王】はマントを既に脱いでいるようで、その背丈は女子高校生か大学生くらいまで成長している。
「無敵のマントは脱いだのか?」
『あの姿では精神が幼すぎるからな。あれでは出せる力も出せんし、そもそも、概念武装など妾には必要ない。』
【死】の気配が濃すぎて気付けなかったが、目の前の【王】も十分、【五大怪異】に匹敵する気配を醸し出してやがる……
こりゃあ、一筋縄じゃいかない。
【死】とは別の意味で、底が見えない。
それでも
「ここで、お前を倒す。【花の眷属王の怪異】」
『あぁ、忌々しい……【花】の力が妾の身体を巡っているのを感じ、ヤツに逆らうという考えが浮かんでこない。あまりにも忌々しい。忌々しいからこそ、お前を倒し、妾の力を磨くとしよう。いずれ来たる、"神殺しの日"に備えて。』
か、神殺しの日?
逆らうという考えが浮かばないんだよな?
神って、【花神】のこと……
「ミケか」
『そうだ。神は一人じゃない。ニューヨークに鎮座する【罪の怪異】は【花】に次ぐ、神。
【原罪神】だ。』
「へぇ…」
サクラ達はいつかニューヨークに向かうんだろう?
なら、【死】くらいは倒してもらわないとね?
「卓越した存在との決闘、心が躍るよ」
『否定しない』
ーーーーー
これから俺たちが相手するのは、"死"そのものだ。
優希と忍が頑張っても手が届かなかった相手だよ。
そう言われるとビビるけど、今の俺たちはその時の二人よりも強い筈だ。
忍さんのことはよく分からないけど。
とにかく、気合い入れるよ
相手は卓越した存在で、即死系ボス。
ゲームはよく分からないけど、これは彩花の言うところのクソゲーだろ?
はは!正解!
【死】を追って雲を抜けた先は、太陽の光に満ちた天国のような場所だった。
「晴れ渡る青空の下、漆黒に満ちた化け物が待ち構えてるとは……外観を害していますよ」
『我が冥界の端……これより上に行けば花の領域に踏み入ることになる』
「お前ほどの存在でも今の花には勝てないのか?」
『今はな。』
「へぇ、いつかは勝つ気なんだ」
『そうだ。そして、その為にもお前と言う最初の障壁を越えなくてはならない』
「それは大変だな。お互いに、超える壁が大き過ぎて」
『そうか。お前の障壁はそんなに大きいのだな。我のは小さいぞ』
「あっはは!!舐めんなよ」
『舐められるお前に非があるのでは?』
ご精読ありがとうございました
「【罪】鬼つええ!」
「逆らうやつら全員ぶっ殺していこうぜ!」
でも考えてみてください。
あなたはいずれ、【罪】と戦う日が来るのだと。
「ざけんなや
罪に勝てない
ドブカスが」
エルネス辞世の句
ふざけすぎましたすみませんでした。




