第五十一話 ゆうしゅうの美
ーーーニューカイロ決戦開始前
カイロタワーの上で、【夢の怪人】と【狐の怪異】はアルトライを見送っていた。
その傍らでは、タワーに磔にされたアビが静かに眠っている。
「襲撃、あると思う?」
夢結が問いかける。それに対してアルスは微笑みながら指を指す。
「もう、おいでなすったようじゃよ」
ザマーレクに入るためには橋を渡る必要があり、そこには防衛機構がある。
そして、今、そこには謎の兵団が迫っている。
「【王の怪異】か……まぁらザマーレクの防衛機構は内部から壊された場合はすぐに砕けるけど、外からの攻撃にはめっぽう強い。だから、この子は私達を騙してたんだろうけどね」
夢結が眠るアビの頬をつねる。
「やめな……儂たちがここに残った理由が来たようじゃよ。」
アルスがそう指を刺した先、ザマーレクの雑踏の中でただ一人立ち尽くす甲冑の男。
「どうやって入ったの?」
「わからんのぉ……じゃが、戦いたくてしょうがないようじゃ。真奈狐、市民の避難を頼む。」
「アルスは?」
「望みに応えてやろうと思うのじゃ。では、行ってくるぞ」
アルスが飛び降りる。
「行ってらっしゃい」
ーーーーー
雑踏の中、一人佇む甲冑を着た男の背後にアルスが降り立つ。
「どこから入り込んだのかのぉ?」
『王の命を受け、ここに召喚された。他の兵士は拒絶されたようだが……英雄よ、我の行先を塞ぐのか?』
「その通りじゃ。だから、強制送還じゃ。」
アルスが甲冑を掴み、飛ぶ。
『む!?』
「仲間と共に倒してあげるぞ」
ザマーレクを飛び出し、橋の向こう側に着地する。
「さぁ、儂が相手してやろう。【王の配下】共」
『王の道を塞ぐ英雄を穿て。我ら、王を護る剣故に』
ーーーーー
アルスが飛び降り、甲冑を抱えて飛び去った直後、夢結はザマーレク市民を避難させるために動く。
「みーんな、おやすみなさい」
唇に人差し指をつける。
「深〜い夢へ」
息を吐き、魔香を放つ。
風に乗り、莫大な量の魔香はザマーレク全土を包み込み、皆を眠らせる。
そして、夢結は腕を伸ばし、手のひらを下にする。それはまるでマリオネットを操るような仕草であった。
「"夢遊の誘い"」
眠らせた市民を操り、避難所へ丁寧かつ、最速で統率の取れた動きで向かわせる。
『アバズレ…め』
「久しぶりの一言目がそれ?」
ーーーーー
王護の剣とそれが率いる兵士達は統率の取れた動きでアルスに襲いかかる。
それらは第二の時に伊刻湊が戦った王護の剣と同一個体。
最強の二番手である伊刻が、わずかに手こずった相手だ。
——その相手を、アルスは一人で倒せるのか?
「もっと、楽しませておくれよ」
アルスは舞い踊り、九つの尾を振り回して、不思議な青い火を沢山纏わせ、兵士にぶつける。
青い火がぶつかった兵士は倒れ、再び動くことはない。
『その火は……なんだ?』
「狐火じゃよ。」
アルスは不敵に微笑む。その身体には傷一つない。
さっきの話を振り返ろう。
伊刻が少し手こずったような相手をアルスが一人で倒せるのか?
倒せるさ。
余裕だよ。余裕。
何しろアルスは、
“九尾の狐”の力を、
“天狐”の力を、
あらゆる“狐の伝説”を内包した存在であり、
“カグツチ”や“コノハナサクヤヒメ”と同列に語られる、崇められし者なのだから。
「さぁ、儂を楽しませておくれよ。」
アルスは不気味に笑う。
だからこそ、アビはアルスを初手で殺していたのだ。
王護の剣は震える。武者震いではない。
果てしない恐怖を感じたからだ。
『王の道に立ち塞がるなァァァ!!!』
兵士達が波のように迫る。
「そういうことじゃな。う〜む、つまらんのぉ〜」
アルスが飛び、高台に乗る。
「逆の考え方をしようかの。儂が楽しませてやろう」
ケラケラと笑い、アルスが空に手を翳す。
「こぎつねこんこん……山の中」
周辺が移り変わり、日本の山中のような景色に変わった。
『なん…』
「草の実つぶして…」
王護の剣が顔を上げると、巨石が迫り落ちてきていた。
『なんだ…これは!!』
王護の剣はその剣を振り、巨石を二つに斬る。しかし、まるで何もなかったかのように巨石は元に戻り、王護の剣は押し潰される。
「おけしょうしたり…」
巨石が消える。
『はぁ… はぁ…』
巨石に押しつぶされた王護の剣は痛みに悶えながらも潰れた部位を修復し、立ち上がる。
「もみじのかんざし」
立ち上がったは良いものの、唐突に現れたもみじの葉に貫かれ、膝をつく。
「つげのくし」
空間が抉られ、意識が消える。
「こぎつねこんこん、冬の山…」
気がつくと辺りは雪に包まれた極寒の山に変わっていた。
『なにが…』
王護の剣は困惑したまま、雪の上で立ち尽くす。
「かれはのきものじゃ、縫うにも縫えず」
辺りに枯葉が舞うが、粉々に砕け散る。
『なにも、おこらない?』
「きれいなもようの花も無し…」
視界が吹雪に包まれ、意識が消える。
「こぎつねこんこん、穴の中…」
目を開けられない
「大きな尻尾はじゃまにはなるし」
「こくびをかしげて…考える」
目を…開けられない………
「おやすみなさい」
ーーーーー
「久しぶりに声をかけてくれたのは嬉しいけど、どうしたの?私たち、溶け合ったはずだよね?」
『忠告……後ろを…ミロ』
夢の怪異の言葉を聞き、振り向く。
「アビが…いない?」
『夢と…死は……相性が悪い……』
「うそでしょ!?」
ーーーーー
「もう〜、夢は、お・し・ま・い⭐︎」
アビは瘴気の中へと消えた。
——死が、目覚める。
ご精読ありがとうございました。
アルスは出鱈目に強いね
だから、アビは長期間潜伏し、信頼を勝ち取ってから殺してたんですね。




