第四十一話 死滅没落都市
オーストラリアを出立し、数日、アルトライはインド洋を通過し、アデン湾、紅海に辿り着いた。
遠くに見える黒い霧に包まれたナニカ、それはカイロであり、【死】の領域。
「ここから先、何が起こるか分からない。だから、」
「まっかせて!サクラが助けてくれたおかげで本体から力を最大限奪取できたから、今の僕は五大怪異級の化け物だ!」
『信じてるぜ!レン!』
「うん!任せて!彩花!」
彩花とレンが会話を始めた為、俺は深層意識に沈み、考え事を始める。
今、俺が扱える力についてだ。
【人の怪異】の力
【花の怪異】の力
【龍の怪異】の力
この三つを俺は行使できる。
今回のオーストラリアで新しい力は得られなかったが、レンという強力な仲間を得た。戦力は着実に付いてきている。しかし、憂いがある。それは、今後の敵が五大怪異だけではないという可能性の話だ。
オーストラリアに襲来した【王の怪異】。その怪異は花に侵された"眷属"であるという話だ。つまり、今後は【花の眷属】の乱入による三つ巴の乱戦が勃発することが予想される。
じいちゃんが言っていた、冥界を解放すると世界の均衡が揺らぎ、【花神】が動き出すかもしれないと。もう二つも冥界を解放した。眷属だけじゃなく、【花神】からの妨害があるという可能性もしっかりと頭の隅に置いていこう。
正直、戦闘が続き、今の状態が万全であるとは言い難い。
龍炎は使えない。
龍結晶もそれほどの硬度では出せない。
人の概念武装はまだ展開できない。
……それでも花の力は健在だ
規格外だ。なんで、花はこれほどまでの力を持っている?
万永春天もそうだ。あの武器は"最高位神システム"による"世界創世"の影響による振り落とされた言葉で名付けられている、と彩花は言っていた。つまり、この世の物ではない。
なぜ、そんな物を【花】は扱える?
神になる前からその力は使えたようだし……
収束終焉詠唱も不可解だ。
世界創世……終焉……花神冥界…作り変える…
もし、世界が創世というシステムの下、流転しているのならその数だけの【花】の力があって、その力を束ねて編み出された力が全て【花の怪異】として"今"に存在していたら……
もし、あらゆる世界の終焉、創世の中心に【花】があって、終焉を呼び覚まし束ねることでそこに存在していた【花】の力を刀に流し込む事が収束終焉詠唱の真髄ならば……
まぁ、たらればの話は止めよう。
今は……
深層意識から浮上して、彩花から離れる。
「あれ?どうしたの?」
「……気づかないのか?この、気配……」
レンと彩花はお互いに顔を見合わせて頭を捻る。
「マジか……」
俺の肌に直接チクチク刺さってくるような殺意に似た嫌な気配。
もし、これが俺に対してだけに向けられた殺意なら、それは……
【死】……
ーーーーー
胎動する繭の中、不定形のソレは彼方から此方へ近づく久しい気配を感知した。
ーー【人】……何故…生きている……
動くことも喋ることもできないソレは意識だけでそれを感知し、気配に視線を向ける。
黒く澱んだ煙が流れ出し、死が溢れる。
ーーーーー
「……やっぱり、【死】か……あ…れ……?」
その気配の方へアルトライのレーダーを向けると、そこにはしっかりとdeath という名前が示されていた。
しかし、それと同じく、レーダーにはもう一体の名前が示されている。
king
「……【王の怪異】……思っていたよりも早い邂逅になったな」
ーーーーー
花弁が舞い、霧に包まれた領域で騎士甲冑に身を包んだ者達が一人の少女を囲んでいる。
『……つくづく吾輩は運がない!!まぁ良い。ここは死の力と花の力が混ざり合っておる。遅れは取らん。もう一度殺してやろう。【人】よ』
ーーーーー
嫌な気配だ。
アルトライはスエズ湾の上空に辿り着き、【死の冥界】へと踏み込むことになる。
「入るよ」
「おっけー!三つ目の国もちゃっちゃと攻略しちゃおう!!」
「よーし、頑張るぞ!!僕に任せてよね!」
不可解なことは不可解なまま、
嫌な気配で溢れた国
危険性はパリ、オーストラリアの比じゃない。
気を張り続けろ。
死はすぐそこにあるぞ。
アルトライは【死の冥界】、その"人間存在不可能領域"に踏み入った。
ーーーーー
「暗いな……」
世界を包む【花の冥界】は常に日に照らされた極楽のような冥界であるが、【死の冥界】は暗く、冷たい夜で包まれていた。
「なんで、花びらが舞っているの?」
彩花が違和感に気づく。
その違和感を調査するためにアルトライのシステムで解析を行うと、そこには、【死の冥界】と【花の冥界】二つの冥界が混ざり合っているようなっていると映し出されていた。
「どうやら、ここは二つの冥界が溶け合った不思議な場所らしい。」
「これが、死の気配?なんだか、寒いといえか、怖いというか……」
レンが少し怯えながら外の光景を目に映す。
「ん?誰か、走っているよ?」
「え?」「え?」
望遠鏡でそれを覗くと……
「伊刻さんだ!!」
彩花がそう叫ぶ。
伊刻さんは飛び、アルトライの甲板に乗っかり、中に入ってきた。
「よお!……あれ、聞いていたよりも一人多いな?」
「初めまして、伊刻湊さん。水越サクラです。聞いていたっていうのはじいちゃんからですか?」
「じーちゃん?あー、争太ね!違うよ、【平和の怪異】」
【平和の怪異】それは、【戦争の怪異】の対極に位置する存在。かつて、水越争太は【戦争の怪異】と戦うために【平和の怪異】と【水の怪異】の力を借りていた。
「【平和】……?」
ちなみに、サクラは昔にその時の話をしてもらっているが、ガチで普通に忘れています。
「竜みたいで天使みたいな鳩だよ。で、君は誰だい?」
伊刻さんはレンに問いかける。
「僕の名前は郡山レン、【氷の怪異】です」
「ふぅん…面白いじゃん。氷ねぇ……」
伊刻は値踏みするようにレンを見る。
何度か頷き、微笑む。
「彩花は健在だし、サクラは元気……だろ?水越争太の孫だもんな」
謎の圧が……
「は、はい。」
ヘラヘラしつつも伊刻は静かに圧をかけてくる。そして、椅子に座り、伊刻は話を始める。
「さて、ウェルカムトゥーヘル。ようこそ、カイロへ。」
すごく軽く言っているが、その目は笑っていない。
「カイロは【死の怪異】の世界であると知っているだろ?」
「はい」「はい」「はい!」
「しかし、【死の怪異】は繭に篭ってこの100年間外に出てきていない。しかし、【死】を信奉する【埋葬者】という奴らがカイロ市民を虐殺している。だから、俺と真奈狐は現地の守護者と呼ばれる者達と共にカイロで市民を守護してる。あ、ちなみに、【王の怪異】も居るから気をつけて。まぁ、大丈夫だよね?サクラ」
「あ、はい……」
謎の圧はさておき、結構大切な情報が舞い込んだ。
【死】は活動していない。
「ん、まってください。俺、さっき、【死】に睨まれていた気がするんですが……」
「……だろうな。サクラは、【人】なんだろ?じゃあ、睨まれるさ。眠っていても瞼の下からな。」
「なんでです?」
「知らないのか?お前の……前世?前任?は、【死】、【夜】と共に【花神】と戦って、この100年の猶予期間を作った英雄だぞ。まぁ、そこに至る理由は感心できたものじゃないだろうけどな」
そう言って伊刻は彩花を見た。
「まぁ、とにかく、もっと詳しい話は拠点についてからだ。」
「「「拠点?」」」
「おっ、三人息ぴったりだな?拠点ってのは、ザマーレク地区にあるカイロタワーだな。そこには、俺と真奈狐を除いて五人の【怪人】が居る。」
ーーーーー
五人の【怪人】……これまでの国では考えられない程の戦力だ。
それでも、話を聞いた感じだと100年間もの間、拮抗状態が続いていたようだ。
『伊刻湊という戦力があるのにも関わらず……ね』
制限時間を超えて体に戻った彩花がそう呟く。
本当にその通りだ。じいちゃん……水越争太の相棒である伊刻湊が【死の怪異】ですらない信奉者に手こずるとは考えられない……
深く色々と考えているうちに、アルトライはザマーレク地区に到着した。
「さて、到着だ。ようこそ、"黎明を紡ぐ陣営"拠点へ。」
伊刻がそう告げ、俺達は伊刻に連れられてザマーレクの街に降り立った。
ザマーレクの街は荒んでいるが、活気が無いわけではなく、人の生きる希望とでも言おうか、そういう生命の熱量をとても感じられる。
「【死】の領域だなんて考えられない」
「僕もそう思った」
『誰も生きることを諦めていない。伊刻さん達のおかげなのかな?』
「いや、全て真奈狐のおかげだ。アイツは、常に人々の夢を守り、安眠を届けている。心地の良い眠りというものはそれだけで人の精神を安定させる。」
「そうなんですね」
『え、でも待って!それじゃあ、夢結さんは、100年間も怪異の力を使い続けているってことでしょ!?だって、夢結さんって……』
「彩花、君の考えていることは良くわかる。残念ながら真奈狐はもう……"完全に人でなくなっている"だが、それは真奈狐だけじゃない。俺もそうだ。100年という年月は俺達を一つ上の段階に連れて行った。まぁ、年月が原因じゃ無いけど……」
『そんな…じゃあ、私と同じってこと?』
「あー、彩花とはちょっと違う。怪異と人の割合が5対5である怪人が、大体8対2の割合に成ったのが俺らだ。ちなみに、彩花は10対0な?」
「それはそうと、裕也……八上裕也もそうなっているだろ?怪人が冥界なんて構築できない……あ?なんだ、その顔……知らなかったのか?」
八上さん……人を捨てて冥界を?
ん?待てよ、
「じゃあ、優希も!?」
「優希は中身が"神"だし、冥界構築ぐらい余裕だろ」
だとしても、八上さんは人を捨てたのか。
なんて言うか、切ないな……
俺達はパリで多くのものを無くしてしまっていたのだな。
ーーーーー
「さて、着いたぞカイロタワーだ。」
データベースで見たカイロタワーとは違い、なんと言うか……廃れてる?
『語彙が少ないね』
そんなの今に始まった話では無い。
カイロタワーに入り、登っていくと、レストラン?に辿り着き、そこには六人の人が待っていた。
そして、その中にはツノの生えた見覚えのある女の人が居た。
「よく来たね!彩花ー!会いたかったよー!…あー!そうだったね、君の……サクラの中にいるんだよね?元気ー?」
夢結さんは俺の目の前で手を振り、笑顔でピースをする。
なんだか、テンションが高い?
『きゃー!久しぶりの夢結さん!きゃわすぎる!!……でも、そのツノは…なに?」
彩花は夢結さんの容姿の変化に何か嫌なものを感じたようだ。
「それで、隣に居る君が!!えっと……」
「あ、レンです!郡山レンです!」
「レンちゃん!可愛い!!」
「え?あ、えへ!そんなぁ〜」
クネクネと照れるレン。
「待ってくれよ……ソイツらが"外"からの援軍か?だとしたら、俺は残念だぜ……こんなガキが!俺達の漢の精神について来れるとは思えねぇ!!」
奥に座っていた民族衣装のようなものを着た男が立ち上がり、拳を天に掲げてそう叫んだ。
「はぁ、またフィクスが変なこと言ってる。こんなこと言ってますけどね、別にアンタ達を信用していない訳じゃ無いんですよ?伊刻さんと夢結さんの知り合い……それだけで十分信頼に値します。」
旅人風の格好をした飄々とした男が立ち上がり、そう言う。
「えっと……」
フォローしてくれたと言うことは分かるが、いかんせん、誰が誰だか分からない為、頭に入ってこん。
「お前ら、自己紹介しろよ。」
伊刻さんが俺達の後ろからそう声かける。
ありがとうっ!
すると、さっきフォローしてくれた飄々とした男が頭を下げながら自己しょうかいをはじめた。
「申し遅れましたね…私の名前は"シュウ"。【風の怪人】としてこの街の守護を行っています……よろしく」
【風の怪人】……それは確かに原初の一角として数えられている最高峰の存在だ。すごすぎます。
次に、シュウの隣に座っていた狐の耳が特徴的な和服の可愛い女の人が立ち上がった。
「じゃあ、次は儂がいこうかの?儂は"アルス"じゃ。【狐の怪異】での、そこの真奈狐ちゃんと同じく、怪人から怪異になってしまった存在じゃ。優しく労わっておくれよ?」
アルスはお淑やかに笑い、俺たちの頭を撫でた。しかし、この人まで人を捨てているなんて……
次は、奥に立っていたギャルのような女の子が手を挙げて自己紹介を始めた。
「はいはーい!次はワタシね!ワタシは、"アビ"!気軽にアビちゃんって呼んでいいからね!ワタシは〜、【美の怪人】なんだ!ウケるっしょ?分かる!なんだよ!美って!てな感じだよね〜大丈夫、ワタシは強いから!よろしくねー」
嵐のように過ぎ去って行った……
『厳密にいうとコレはギャルじゃ無いね。勢いだけの人だ。』
続いて、机の上に座っていた仮面の女の人が立ち上がり、近づいてきた。
「…"ラシプ"。よろしく。あー…【弓の怪人】だから。」
ラシプはそう言うと机の上に座った。
定位置なのかな?
そして最後に一番奥に座っていた民族衣装の男が少し気まずそうにしながら立ち上がり、名乗る。
「俺は"フィクス"だ……チッ…あぁ!!【鉄の怪人】だ!!」
そう吐き捨てるとフィクスは勢いよく座った。
なにかが気に食わないのかな?
「まぁ、あとでちゃんと一人一人と話しておけよ?人脈は力だからな。」
伊刻はそう言うと、ホワイトボードのようなものを出し、ペンを取った。
「これから現状確認を始める。」
皆は座り、静かに話を聞く。
「俺たちがいるのはここ、ザマーレク。現在、ザマーレクには15000人の市民が避難している。他の地に人は居ない。」
伊刻がそう言うと怪人達の表情が曇る。この100年で2260万人居たカイロ市民は15000人に減っているのだ。たくさんの悲劇があったのだろう。
伊刻は続ける。
「次に、【死の怪異】の位置だが、ここ、"クフ王のピラミッド"付近でずっと繭の中に包まっている。付近には"死の瘴気"が漂っていて、死が身近になる。生身の人間ではまずすぐに死ぬ。半端な怪人では瞬く間に倒れ、死ぬ。研鑽を続けた強力な怪異であってもそう長くは保たない。だから、余程のことがない限り、近づくのを禁じる。ただ、その瘴気が煙としてそこにある限り、シュウの、【風】の力で払えるかもだが、触らぬ神に祟り無し。だ」
【死の怪異】はそこに存在するだけでそんな影響を与えているのか……
「さて、ここからが本題だ。今、この街を絶望に追いやっている者達の話だ。」
全員の顔が引き攣る。
「"埋葬者"だ。奴らは【死】を信奉していて、冷徹で残酷な死を人に贈る事を幸せとして虐殺を繰り返す狂人の集まりだ。その拠点は不明、統率者も不明……ただ、【四葬】と呼ばれる幹部がいると分かっている。ここまでで追加点はあるか?」
皆が首を横に振る。
「まぁ、だよな。あとは、【王の怪異】だ。コイツの居場所も不明。たまに"埋葬者"と戦っていると"近衛兵"と呼ばれる【王の怪異】の兵士が乱入してくるが、まだ本格的に【王の怪異】が戦闘を仕掛けてきたことはない。だから一旦、"埋葬者"にだけ集中しよう。てなわけで、現状確認は終了。追加点は無いんだろ?」
伊刻は頭を抱える。
夢結がそれに寄り添いながら、肩を叩く。
「はぁ、本当に……まぁ、いいか。じゃあ、サクラの寝床は……アルトライでいっか。」
今日は一旦解散となり、俺達はアルトライに帰った。
ーーーーー
「はぁ、情報量が多すぎだ。まぁ、一旦、整理しよう。」
敵は"埋葬者"
【四葬】と呼ばれる幹部がいて、人を殺す事を楽しんでる狂人集団。
戦力は全部で
【花人】、【氷の怪異】
【槍の怪人】、【夢の怪人】
【風の怪人】、【弓の怪人】、【狐の怪異】、【鉄の怪人】、【美の怪人】
この9人。
ふぅむ……
『これは、長期戦になりそうだね。』
「いや、そうはいかないと思うよ。良くも悪くも、俺達は【花】だ。俺たちがこの地に降り立った時点で歯車は動き出したと思う。」
飲み物を飲み干して、管制室を出る。
すると、レンが焦りながら走ってきた。
「襲撃だ!!埋葬者がザマーレクを襲撃しにきた!!」
「『マジか』」
ーーーーー
夜のザマーレクは業火に包まれ、ありとあらゆる場所で悲鳴が響いている。
ごった返す人並みの中、フードを被った者達がこちらに飛び掛かるように現れる。
「死を享受せよォォォ!!!」
「甘き死はこの世に在らず、死を恐れよ!!」
ナイフを向けて飛び掛かってくる。
「お前達が埋葬者か!!」
花の蔓で捕まえて、地面に叩きつける。
埋葬者達は血に塗れ、潰れる。
「生身の……」
後退りをする。信奉者とは聞いていた。だが、ここまで脆い……契約すらしていない生身の人間だとは思っていなかった。少なくとも、【死の分体】と関わりがあるのかと…
「サクラ!カイロタワーが!!」
レンがカイロタワーを指差し、叫ぶ。
カイロタワーは燃えていた。
「先に行く!!」
俺達はそう叫ぶと、龍の翼を生やし、空を飛び、カイロタワーに向かう。
ーーーーー
カイロタワーのレストランに入り込む。
「夢結さん!伊刻さん!」
「サクラァァァ!!」
伊刻さんの叫び声が聞こえ、その場に急ぐ。
「伊刻さん!」
伊刻さんは倒れた誰かを抱き抱えて、こちらに向かって叫んでいる。
「サクラ!!彩花!!真奈狐が、真奈狐が!!」
「え…」
伊刻の腕に抱かれているのは、血に濡れた…
「『夢結……さん?』」
「管理施設が壊された……ザマーレクを守っていた概念防御壁が無くなって……埋葬者が…」
概念防御壁……そんなものが…でも、今は
「いったい誰が!!夢結さんを!?」
『許さない…許さない!!』
「分からない……だが、真奈狐はまだ死んだわけじゃ無い……」
その時、奥から物音が聞こえた。
「誰だ!!」
警戒態勢を取る。
奥から、仮面をつけた女が現れた。
「あっれぇ〜?夢畜生ちゃん、死んでないノォ〜?ダメダメじゃァ〜ん。死は、受け入れるものだよ?だ、か、ら、早くゥ、死〜んで?
あ、た、しが、刺してあげたのにぃぃぃ!!」
女は頭を掻きむしりながら絶叫し、懐から血に濡れたナイフを取り出す。
「もっかい刺そっか!!うんそうだ!そうしよう!!そしたら、死んでくれるかなぁ〜?うんうん、死んでくれるね!嬉しいなぁ!また、"御身"に一歩、近づくねぇぇぇ!!!!!」
女はナイフを振り回しながら迫る。
俺達はその女の足元に蔓を出そうと力を込める。しかし、その直前、背後で気配が揺らぐ。
「お前か。」
空気が一変する。
伊刻の一言で女は止まった。
「真奈狐の応急処置を引き継いでくれ。」
伊刻がそう告げ、俺たちの腕の中に夢結さんを託し、立ち上がる。
夢結さんはナイフで刺されてから切り裂かれたようで、その傷はとても痛々しい。しかし、ちゃんと縫い合わされていて、結構しっかりとした応急処置がなされていた。
伊刻はどこからともなく槍を取り出し、女に向ける。
「管理施設を壊し、真奈狐を刺したのはお前か」
「……あ、ああ!!そうだヨ?あたしが、ぜ〜んぶやった!!凄いでしょ?完璧でしょ?幸せでしょ?幸せだよね?幸せですか?幸せでしかないでしょ!!だって、こーんなに人が死んでるんだもん!!あぁ、甘美だぁ…苦しみが、嘆きが、人を包んで、人が死ぬ。甘き死はこの世にはない。冷たい死だけ……それでね?冷たき死は招いたものに甘美なる快感をあたえるの!!知ってたかなぁ?」
ゲラゲラと女は笑う。
「そうか。お前が【四葬】だな?」
「うんうんうんうん、そう!!そうなの!!あたしは、"レイビ"!!【粧】のレイビちゃん!!あぁァァァ!!初めましてだねぇェェ??」
「殺す」
「加害者はあたしだけでじゅうぶん〜あんたは、被害者でしかないんだヨォォ〜!!」
伊刻さんの槍と女のナイフがぶつかり合う。
激しい戦闘。ここに俺たちが居ては邪魔になるだけだと悟り、夢結さんに黒いドロドロで応急処置の補強を施し、カイロタワーを後にする。
眼下で起こっている数多の戦闘。
俺達はアルトライの部屋に夢結さんを寝かし、戦場へ飛来する。
ーーーーー
「先に行く!」
サクラがそう叫び、カイロタワーに向かった。
「僕は僕にできる事をするだけだ!」
逃げる人たちを追いかける埋葬者を次から次へと氷漬けにしていく。
避難先が分からない以上、下手に動かすのは危ない為、氷でシェルターを作り、中に人を入れて、迫り来る埋葬者達を迎え撃つことに決めた。
「皆さん!!こちらです!!シェルターを作りました!!」
幸い、市民の人たちは僕の言葉を素直に聞いてくれて、すぐにシェルターに入ってきてくれた。
「あぁ……知らねぇのが居るなぁ…」
走って逃げるでも、市民を殺すでもなく、ただ一人の女が人混みの中、佇んで、僕を睨んでいる。
「誰だ……」
「あぁ……」
女に走る人が何度もぶつかり、女の姿勢が何度も崩れる。
なされるままに、肩がぶつかり、腕がぶつかり、足がぶつかり、人がぶつかる。
人混みの中で佇んでいるのだからそれは当然。
「あぁ…あぁ…あぁ…ああああああああああ!!!!ウルセェんだよ!!死ねよォォォ!!」
女は急に発狂し、その瞬間、周囲の人達の首が一瞬にして飛んだ。
「は?」
「あぁ…気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
女は膝から崩れ落ち、頭を抱え、何度も頭を地面に叩きつける。
「あ、あぁ……きえた…気持ちいいがきえた…」
女は涙を流す。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダァァァァァァ!!!!!!」
「消えないで消えないで消えないでぇぇ…」
女は急に黙り、顔を上げる。
額からダラダラと黒い血を流しながら、女は僕を君の悪い笑顔で見る。
「やっと、怪人さんをォ……殺せるねぇェェェェ!!!!!」
「狂ってる…アンタは何者!?」
女はふらつきながら立ち上がり、声を上げる。
「オレはぁぁぁぁ!!!!【四葬】、【水】の、スイセン!!!!!」
「【四葬】……マジ…か…」
ーーーーー
「加害者はあたしだけでじゅうぶん〜あんたは、被害者でしかないんだヨォォ〜!!」
レイビと名乗った女はナイフを、持ってこちらに襲いかかってきた。
槍で応戦するが、相手は中々な手練れ。全ての攻撃がうまくいなされる。サクラも、真奈狐もいる状態で……うまく…
視界の端でサクラが真奈狐を抱いて空に飛び立つのが見えた。
「ふっ……さすが水越争太の孫だ!!」
本気で槍を振り、レイビをガラスにぶつけてカイロタワーの外に出す。
「ギャッ!!」
俺もそれに続いてカイロタワーから降り、地面に対して大の字で伸びているレイビに槍を突き立てる。
「ァァァァァァァァァ!!!いやだ!消えちゃう!!死が、あたしを、見離しちゃうぅぅぅぅ!!」
「死がお前を迎えに来るぞ」
槍を抜き、今度は頭に……
死角から何かが迫る気配がして、大きく後退する。案の定、石が飛んできていて、それがぶつかったカイロタワーの外壁が一気に崩れた。当たらなくてよかった。血が出るところだった。
しかし、何も安心はできない。
レイビと同じようなフードを被った者が2人歩いてきている。片方は女で片方は男……
「お前らも、【四葬】か?100年間も顔を出さなかったくせに、大盤振る舞いじゃねぇか。」
二人はレイビに近づき、レイビを無理やり立たせる。
「まだ死はアナタを見離していない。なぜ、苦しいふりをしているのですか?それは、死への冒涜ですよ。」
「そうよ……ふひっ…まだ、やることはたーくさんのこってる。そうでしょ?」
「うんうんうんうん!!!そうだよね!!まだ、死はあたしを見離してないもんね!!あー!!!勘違いさせられちゃったなぁ……どうせきにんとるのぉぉぉ???」
三人は一斉に俺の顔を見る。
「気色悪い目をしやがって……殺してやるから喜べよ。」
「嗚呼!!死の代行者である我々【四葬】を差し置いて、死を与えると?与えられると?不可能ですよ。無理なのです。アナタでは、どうにもなりません。」
「……あー、お前…嫌いだ。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「"ソウカ"!"ソウド"!ダメ!!
こ、の、ひ、と、はぁ…あたしが与えるの!!暗くてぇ、冷たくてぇ、ざぁんこくな死を!!」
「狂ってやがる…」
ーーーーー
空から戦場を眺めると、レンが何か大きな戦いを行っているのが見えた。しかし、ピンチであるとは感じられず、終始、レンが圧倒しているように見えた為、他に助けが必要そうな所は……
「こっちだ!!」
あ、さっきの【鉄】……えっと、名前は…
「『フィクス』」
どうやらフィクスは避難誘導を行なっていたらしく、こういう非常時のための避難所がちゃんと用意されていたらしい。
「手伝う!!避難所はどこだ?」
フィクスの元へ下降する。
「お前…空飛べるのか?」
「そう!で、避難所はどこ?」
「……今はそういう場合じゃねぇぞフィクス…」
フィクスは急に頬を叩く。
「『えぇ…なに?』」
「避難所は、この先にある映画館だ!!そこには避難民とラシプとシュウが居る!!」
「二人だけ?えっと……狐の人と美の人は?」
「アルスとアビか…わかんねぇ!!こうなってから連絡がつかねぇんだ!!」
「わーかった……心配だな…」
『………だね…』
「ああ…」
「とにかく!この人たちは俺達が責任を持って避難所まで連れて行く!残された人達をたのむぞ!」
「い、言われなくてもやってやらぁ!!」
フィクスは雄叫びを上げながら戦火へと飛び込んでいった。
悪いやつじゃないんだよな。
『良いやつだよ?』
「皆さん!ついてきてください!!」
フィクスが連れてきていた数十名の避難民達を連れて俺達は映画館まで走り出した。
ーーーーー
映画館は一般的な大きさで、この中にそんな人が入るのか不明だが、とにかく避難民達を中に入れることが最優先だ。
道中、埋葬者からの襲撃を受けたが、全てを退け、新たに数名の避難民を連れてきた。
「入ります!落ち着いてください!」
映画館の中は一般的なものと違い、どちらかというと…ホテルのロビー?
「なんだ、これ…」
避難民達も困惑している様子。
どうやら、何かしらの術によって中が作り替えられているらしい。
「あ!」
ロビーの奥にある大きな扉、そこには看板があり、避難所の文字が。
「皆さん!!あちらです!」
『待って、なにか嫌な予感がする…』
「え?」
その時、扉が開き、多くの人たちが溢れるように飛び出してきた。
「たすけてくれ!」「いやだ!!」
人々は口々にそんな言葉を吐きながら、飛び出してくる。
「ど、どうし…
一瞬で静寂が訪れる。
ごった返していた避難民達が皆、口から泡を吐いて倒れたのだ。
「ーーーーえ」
扉の向こう側、そこから、不気味な高笑いが響きました。
俺達は恐る恐る、人を踏まぬように歩き、扉の先、避難所へ踏み入る。
「来ちゃダメです!!」
「……来ないでッ!!」
【風の怪人】シュウと、【弓の怪人】ラシプが膝をつき倒れたまま、こちらを見るや否や来るなと叫ぶ。
その避難所の中心、教壇のように一段上がった所に置かれた豪華絢爛な椅子に座る一人の少女。
「来てしもうたか!!しかし、来るとしたら遅かったの!!もう、殺してしまったよ」
身体から花が生えているその少女は特徴的なマントを羽織り、高笑いする。
「『【王の怪異】…』」
「流石に知ってるおるようじゃな?」
ーーーーー
ザマーレクは混沌に沈む。
胎動する【死】はその瞳を開く。
死滅の時は近い。
ご精読本当にありがとうございました!!
長かったですよね?
俺も思う。
でも、実は、もっと長い予定でした。
けど、それはコチラとしても読む方としてもしんどいのでは?と考えて、一旦ここで区切りをつけて投稿します。
感覚としては今回と次回でカイロ編の流れがわかると思います。
よろしくお願いします。




