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第四十話 助けていた者


 オーストラリアの永久凍土は溶け、かつての自然と命に溢れる美しい大地を取り戻していた。


 そして、氷の核から抜き出した宝石は【人の怪異】のドロドロを支柱にして人の形を構築していき、宝石の中に秘められた人格をその身体に染み込ませていった。


 「ーーひゃー!!おはよう!!」


 レンが戻ってきた


 「おはよう!レン!」

 

 「うんうん!サクラ!カッコよかったぜ!」

  

 2人は親指を立ててニカっと笑い合った

 

 ーーーーー


 サクラとレンが再開を喜び合っている間、優希は【氷の怪異】によって落とされたアルトライの状況確認に来ていた。


 「さて、アルトライは無事だな?無傷とは……この舟のことを俺は詳しく知らないけど、やっぱりコレは……」『人が作ったものじゃ無いよな…』

 

 静かにアルトライに触れてその材質や機能を再確認する。


 最先端技術とかはよく分からないけど、コレが人間が積み上げてきた歴史を嘲笑うレベルの代物であると言う事だけは分かる。


 「トツカノツルギは事象を書き換え、鍛造した刀。それは、あくまでも怪異としての力の範疇にある事象書き換えだ……」


 『サクラが、彩花が使っていたあの刀……確か、万花万蕾の太刀……万永春天…』


 「あの刀の気配は明らかに怪異由来の物じゃなかった」

 

 『それこそ、"神"の……』

 

 「この戦いでサクラの力を出し切らせる事が目的で俺は援護に回っていたが…」


 『底が知れなくなっただけだったな。』


 その時、足音が聞こえ、咄嗟にそっちの方へ顔を向ける。


 しかし、そこには誰もいなかった。


 「なんだ……気のせいか…」


 『いや、気のせいじゃ無いですよ?』


 耳元で男の声が聞こえ、驚きのまま大きく距離を取る。


 しかし、そこには誰もいない。


 「は?」『なんだ……』


 『逃げないでくださいよ。火の神様』


 いつの間にか肩を組まれていた。


 「……!?」


 ソイツは俺から離れ、俺の目の前に立った。


 紳士風なスーツに身を纏い、胸元の懐中時計が特徴的なシルクハットの男……ソイツはシルクハットを投げ捨て、頭を下げる。


 『お初にお目にかかります。ワタクシの名前は"クロノス"あるいは"フォルトゥナ"、もしくは、【時の怪異】……』


 【時の怪異】はそう言い終わると指を鳴らし、投げ捨てたシルクハットを自分の手に戻した。


 まるで、シルクハットの時間が巻き戻ったようだった。


 「【時の怪異】…?」


 それは、原初の怪異に匹敵し、神の領域に足を突っ込んだ最強格の怪異の名だ。


 しかし、


 『嘘をつくな。【時】の名を冠する者がそんな気配である筈がない。』


 「お前は何者だ?」


 そう。最強格の怪異である【時の怪異】がこの程度の気配で、威圧感で、力量であってはならないのだ。


 しかし、そんな俺達の反応とは裏腹に、【時の怪異】は苦しそうな顔をしながら胸に手を当てる。


 『コレは手厳しい……しかし、ワタクシは正真正銘、【時の怪異】なのですよ。』


 「……百歩譲って、お前が【時の怪異】だとして、何しにきた?」


 『【氷】が消えたからオーストラリアを、取りに来たのか?』


 「だとしたらお前は傲慢だな。ここに、神がいると言うのに」

 

 威嚇で周囲に炎を出す。

 【時の怪異】はその炎に怖気付く事もなく、口を開く。


 『いいえ、違います。ワタクシはずっとココに居ました。ココで、手助けをして参りました。違和感は感じなかったのですか?"毎日、シドニーがリセットされている"という事に』


 「は?」『確かに、違和感は感じていた。』


 ーーーーー


 「パリがどんなのかわからないが、ここは、24時間に一回、生物を除くすべての状態がリセットされるんだ。それが冥界の影響か、他の怪異の影響なのか、はたまた、世界の創世の失敗によるものなのか分からないが、そのおかげでここの人たちは変わらない日々を送れている。」


 ーーーーー


 『ワタクシに残された力は多くはありませんでした。それでも、シドニーだけは守る事が重要であると考え、その力を用いてシドニーを守って参りました。同志なのですよ、火の神様』


 もし、そうだとして、根本的な事が不明だ。


 「『なんでだ?』」


 どうしてそこまでして助けてくれたのか、理由が分からない。


 『サクラくんに対する恩返しです。』


 予想外の名前が出た。


 『11年前でしょうか、ワタクシは【花の冥界】を彷徨い、力を奪われ続けていました。その時、【嵐の怪異】という怪異が冥界内を突き進んでいて、ワタクシは藁にもすがる思いでその【嵐】について行きました。ですが、【嵐の怪異】は花に侵されていました。そんな【嵐】は日本に上陸し、日本を攻撃し始めました。ワタクシは人が大好きなんです、だから、【嵐】を止めようと動きましたが、長年にわたる【花の冥界】での単独活動によって多くの力を吸い取られたワタクシにとって花によって強化された【嵐】に敵うわけもなく倒れてしまいました。死の危機、日本の危機、その時に手を差し伸べて下さったのが、サクラくんだったのです。』


 「それがなんでシドニーを助ける事に繋がる?」


 『助けられた時、サクラくんの未来を見ました。それはまさしく英雄の旅路でした。その旅路において最も重要な箇所、辛いところを少しでも無くしてあげたい。そう思い、干渉がしやすいところ、シドニーに干渉することを決めました。そうしたら話は早く、時を遡り、【王】がオーストラリアに侵入するタイミングに合わせてこの冥界に侵入し、一日に一回、炎の庇護下にある土地が最適な状態にリセットされる状態を付与しました。』


 「最適……」


 『おや?お気づきにならなかったのですか?だから、火の神様の神社はリセットされなかったのですよ?アレがあるから貴方様は神様としての力を行使できます。怪異は思い込みで力が変動しますからね』


 「なるほどな……よくわかった。えっと、ありがとうございます。」 『ございます』


 『顔をあげてください。これからワタクシは運命の賭けに出ますですから、』


 「リセットが効かなくなるかも知れないと言うことですか?」


 『いいえ、頻度が落ちるだけだと思います。』


 『運命の賭けというのは?』


 『サクラくんはこれから、【死】の領域に足を踏み入れます。そこではワタクシの力が無ければ彼は瞬く間に死を経験する。たとえ、【人の怪異】が不死性を持っていようと、【死の冥界】でそれは意味をなさない。だから、この残された力を全て彼に託し、消えます。』


 「そんな……」


 『安心してください。火の神様が存在する限り、オーストラリアは最適な形でリセットされ続けます。』


 「『そうじゃなくて、それで良いのか?』」


 『それで良いんです。サクラくんにこの命を捧げられるのなら……』


 【時の怪異】はそう言い、振り返る。


 『来ましたね……では、さようなら、火の神様……東雲優希様』


 なんのカケラも残さず【時の怪異】は消え、その奥からサクラとレンが走って向かってきた。


 「おーい!優希!レン復活だ!」


 「復活!」


 「よかったじゃねぇか!!」


 ーーーーー


 「さて、出発の時だ、彩花……頑張れよ」


 『うん、頑張るよ……』


 「忍にも会えると良いな。」


 『そうだね、どこに居るのかな……』


 彩花と優希が話している裏でレンとサクラは今後の戦いについて話していた。


 「着いてくるの?」


 「え、やだ?」


 「きて。」


 「うん!」


 こうして、サクラ達はレンを仲間に仲間に加えて、オーストラリアを後にした。


 次の目的地は【死】の領域。


 カイロ


 ーーーーー


 暗く澱んだ町の真ん中、人を守りながら槍を持った男が無数の人を切り伏せていく。


 「しつこいぞ!埋葬者(アンダーテイカー)共!!」


 死を言祝ぐ者達はカイロを地獄絵図へと変えていく。

ご精読ありがとうございました

嵐の怪異は、アレですね、第二話ぐらいの後書きに書いてあった◯◯の怪異による災害の話です。


次の章は……大変だぁ


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