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第三十七話 かっこいいところ

 暴れる氷像の攻撃をいなして、反撃して、何度も何度も攻撃を繰り出す。


 「コイツの体は幻想の炎か、聖なる炎でしか決定打にはならない!」


 『うん!』『だから僕たちをうまく使って!』


 「え?」


 『ぼくたちはかぐつちのほのお!!』『かみのほのおだよ!』


 優希の分体はそう言いながら辺りをふわふわと浮かびながら俺達の援護をする。

 優希の分体は暖かな火の塊で、その体の全てが聖なる炎であった。

 

 【氷の怪異】に抵抗できる力である幻想の炎は【龍炎】と聖なる【炎神の炎】だ。この二つの手札がこの場に揃っている。更に、シドニーの方角から熱く、神々しい気配がこちらまで届いている。しかもそれは着実に大きくなっている。つまり、俺達の勝利条件はあの炎を【氷】にぶつけること。だけど、その前にどれだけ削れるか、どれだけ追い詰められるか、が重要だ。特に、さっきの一撃で【氷】が倒し切れていなかったことを考えると距離が遠かった可能性が考えられる。だって、優希の一撃がこんなヤツに防がれるわけがない。


 「さらにシドニー側まで追いやる!!『おっけぇ!』」

 

 「了解だよ!!」


 『わかったのよー』


 『あっ!そうだ!ゆーきのちからは30ぷんで、もとにもどるって!!』


 「『30分!?』」


 思っていた何倍も多いリチャージ時間に面食らう。なかなかキツイ状態だ。

 相手はそんなに強くない。しかし、物理的に相性が悪いレンとふわふわしている優希の分体、疲弊で摩耗しまくった俺達。どれだけ削られていようと相手は【五大怪異】だ。こんなメンツでやれるのか?


 『やるしかないんだよ、サクラ。』

 「あぁ分かっている。こんな戦い、龍騎士戦よりも簡単だ。だって……」


 隣を見れば可愛くて五大怪異な女の子、辺りには神の分体が浮かんでいる。

 さっきは嫌な言い方をしたと思う。ていうか、分かっていなかった。こうやって考えてみると、このメンツなら怖くねぇな。


 眼前から氷の拳が迫る。


 黒いドロドロを拳に集めて強化する。

 レンが拳に氷を纏わせる。


 「『これが、人の業だ!!』」

 「ブリザード•マーシャルアーツ!!」


 レンと俺の拳が同時に氷の拳にぶつかり、氷の腕を打ち砕く。しかし、砕かれた氷はすぐに集まって腕を再構築する。


 再構築された腕はまたすぐに眼前に迫る。その腕を我が身で受ける。硬化させた身体は氷の拳を完璧に受け止める。その隙にレンは氷像の懐に潜り込む。


 「ブリザード•マーシャルアーツ!!」

 

 氷を操り、レンは氷像の腹に拳を叩き込む。破壊的なその威力は氷像を吹き飛ばす。


 『いくよー!』『かみのほのおだ!』


 吹き飛び、転がった氷像に分体達が火を吹きかける。少しづつだが、確実に氷像の表層が溶けている。


 氷像は焦るように辺りの分体達を振り払う。


 『わー』『にげろー』


 あんなに大きかった氷像はもう、2〜3m程の大きさに縮んでいる。氷が薄くなって、中にある核がよく見えるようになった。

 

 『……!!!!』


 【氷】は吠える様に両手を広げる。すると、何処からともなく大量の氷屍人が現れる。


 「ーーーマジか」


 人だけじゃない。カンガルー、コアラ、ウォンバット、アリクイ、カモノハシ、ヒクイドリ……


 オーストラリアに生息する多くの動物が、凍らされ、氷屍人として俺達の周りに立ち塞がった。その数はあまりにも多すぎて、【氷】が見えなくなるほどだった。


 「『鬼畜野郎……!』」


 「僕も同感だなぁ……動物を盾にして、絶対に許さない。」


 元々は触れられたら詰みになる化け物である氷屍人だが、俺達からすればそれは詰みにはならない。だが、氷屍人は元人間、動物。殺すしか道はない救いなき存在。だからこそ、この手が鈍る。心苦しいったらありゃしない。


 「時間稼ぎか…」

 

 俺達に【意識】を倒されて、【炎】の一撃を受けて、辛くも逃れた微小な【意識】だけをその身に宿した【氷】は時間を稼ぐ。なんのために?


 【炎】は次の一撃のために力を貯めている。それに必要な時間は30分。


 こちらも時間が稼げるならそれでいいが…


 なにを求めて…


 ふと、思い出す。


 もしかして、【氷】の目的って


 辺りを見渡す。

 優希の分体達が必死に氷屍人を倒していて、レンは剣を作って氷屍人を砕き倒している。


 一体の氷屍人が明確な意思を持って走っている。


 その先にはーーー


 「『レン!!』」


 「え?」


 やらかした。

 咄嗟に声を出してしまった。レンはその声に返事する為か、急な呼びかけに驚いたからか、こっちに意識を向けてしまった。


 「『分体だ!!』」


 優希の分達達はすぐに異変に気がつき、レンに近づく氷屍人に向かって炎を出す。


 が、間に合わない。


 レンは俺達の分体だ!!という声で驚きながらもその氷屍人を見つける。


 が、もう遅い。


 レンの腹部に鋭利に尖った氷屍人の腕が突き刺さる。


 「サクラの……かっこいいところ…僕に見せて……よね?」


 それを皮切りに周囲の氷屍人達が波のように押し寄せ、俺達はそれに押しつぶされ、気を失う。


 「レ…ン……」


 ーーーーー


 『ちがうよ、ぼくたちがいるよ!』


 暖かい気配に包まれて俺達は意識を取り戻す。目をゆっくりと開き、手足を動かして体の無事を確認する。


 辺りを見渡すとあんなに居た氷屍人が欠片も見当たらず、レンも見えない。


 隣にはこちらを心配そうに覗き込む優希の分体達。この子達が俺らを助けてくれたんだ。


 「なるほど……やはり、意思というものは大切なのだな……これは誤算だった。神というモノを勘違いしていたようだ。」


 その声は聞き馴染みのない喋り方で聞き覚えのある声でコチラに喋りかけてきた。


 『嘘でしょ…』


 「ーーレンを返せ」


 レンを取り込んだ【氷の怪異】はレンの体でコチラを睨みつける。


 「返せ?貴殿は何か勘違いをしているようだな……コレはボクのモノだ。」


 ニタニタと笑い、胸に手を当てて【氷の怪異】は煽るようにそう告げた。そして、手のひらを開いては閉じて、自分の体の具合を確認した後、シドニーの方で肥大化していく【炎】を見つめる。


 「元はと言えば、"彼"が、"彼女"がボクの大陸に踏み入ってきた事が、彼等の圧倒的な力に引けを取ってしまった事が、意思を弱さとして切り離した事が……原因なのだ。だが、人の命を摂取し、意思をとり戻した今なら、あれほどまで小さくなった彼を今のボクなら殺せる。」


 【氷の怪異】はそう言い、コチラを振り返る。まるで値踏みするように舐めるようにマジマジとコチラを見て、不気味に笑う。


 「止められるかい?貴殿らに、ボクを」


 そう吐き捨て、【氷の怪異】は飛び立った。


 向かう先はシドニーだ。分かっている。


 ーーーかっこいいところ……僕に見せて……よね?


 レンの言葉が頭の中で反響する。

 

 『ぼくたちをきゅーしゅーして!!』


 優希の分体達が呆けていた俺の目の目の前に飛び出し、そう言った。


 「え、どういうこと?」


 『そうすれば、えんてんのちからをちょっとだけえられるよ!』


 「えんてん?」


 『ほのおのてん!ゆーきがよくいってる!それが、ほのおのいきつくさきなんだって!!』


 「炎の天……」『今は考えている暇はないよ!』


 『みて!ぼくたちが、れんちゃんに"めじるし"をつけたんだ!』

 

 分体が遠くに見える【氷の怪異】を指差す。

 目を凝らすと、【氷の怪異】の胸に小さな光が灯っているのが見えた。


 『あそこに、れんちゃんがいるよ!』


 「まだ、間に合うのか?」


 『まにあうよ!かっこいいところ、みせられるよ!』『たすけにいこう!』『ぼくたちをつかって!』


 「『わかった。』」


 花の根は炎神の分体を吸収し、その暖かな炎をその身に宿し、飛ぶ【氷】を追いかける。


 「かっこいいところ、見せてやる」


 ーーーーー


 【氷】の気配が揺らいだ。悍ましい気配に変わった。100年前、オーストラリアに辿り着いた日に感じたあの気配だ。

 

 だが、【王の怪異】がこの地に現れ、俺と【氷】に牙を向いたあの日から、お世辞にも【氷の怪異】が脅威であるとは思えなくなった。それが"心"を捨てたからだと後に分かった。


 つまり、【氷】は"心"を取り戻した。


 "心"は彼女……郡山レンだ。それを【氷】が取り込んだのだ。


 俺はハナに彩花を奪われて、どう思った?


 「許さない。」『俺も同じ気持ちだ。』


 力はある程度回復した。七割……


 「ガチるぞ」


 手を天に翳す。


 「『【原初の炎(オリジン)鍛造(ヘファイストス)】』」


 ギリシア神話の神の名を戴き、神聖な炎の金槌を振り下ろし事象を新たなものに鍛造する権能。それを用いて炎は新たなモノに鍛造される。


 「『十束剣(トツカノツルギ)』」

 

 エンを、カグツチを殺せる唯一の刀。それが今、この手の中に。


 【氷の怪異】はすぐそこまで来ている。

ご精読ありがとうございました!

優希は原初の炎という名前の力を行使して戦います。それは、古今東西の炎の神様の力を模倣したものです。クトゥグアは生ける炎だから生きる炎の分体を作り出す、ヘファイストスは鍛造の神だから鍛造する。みたいな?

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