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第三十六話 炎

 サクラが頑張って戦っているのが音や気配で分かる。


 「僕も頑張らないと!!」


 氷像を上手く誘導し、炎の射程圏内の近くまで連れて来れた。


 「あと少しだ!!」


 その時、背後の気配が一つ消えた。

 それは、サクラじゃない。つまり、

 

 「勝ったんだ!!」


 しかし、それは新たな不測の事態を呼び起こす。


 『炎…か…』


 「ーーは?」


 背後の氷像が急に言葉を発し始めたのだ。

 僕の頭の中はその原因を突き止めるために動き出す。そして出された唯一の結論。


 「端末が負ける瞬間に意識を本体に戻した?」


 『誘導……炎……視線……』


 「確定か……いや、今のコイツに端末程の知性は感じられない……苦し紛れの抵抗で戻したのかな?」


 だとしても、誘導作戦は止まっている。なんとも、うざったるい……目的地はすぐそこなのに!!


 「いや、無理矢理にでも射程圏内に連れて行ってみせるよ!!」

 

 ふと、何かを感じ、後ろ……シドニーの方を見る。すると、波のように暖かく気持ちのいい気配が身体中を巡って行った。


 『……炎の……視線!!』


 氷像は今の気配に、炎の気配に怯えるように後退する。


 「ビビってる場合かな!?」


 僕はまっすぐ走り、氷像の股下を潜り抜けて飛ぶ。


 「前に進むんだよ!!」


 全力の蹴りを氷像の背中にぶつける。

 氷像の背中にはヒビが入り、氷像は前に倒れる。

 

 『ーーーどこに……そんな力が……』


 「僕を舐めるなよ!!僕は、完全な心を持った五大怪異の片割れだぜ?」


 立ちあがろうとする氷像の足元に目線を送る。


 「怪異の強さは想いで変わる!!なら、自意識過剰に僕が僕を信じたら、僕は更に強くなれる!!そうで……」


 右の拳を握り、しゃがむ


 「しょう!!」


 右手を大きく掲げてジャンプする。すると、氷像の足元から巨大な氷柱が生え、立ちあがろうとした氷像を転がらせ、また一つ前に進ませた。


 『……氷奏』


 辺りに散らばった氷が浮かぶ。

 それぞれ氷は棘のように尖り、全てが僕の方を向く。


 「なるほどね……そういうのもできるようになるワケだ……」


 『ーー貫け!!』


 氷の棘が放たれ、僕に迫る。


 「造形…剣!」

 

 氷の剣を造り、目の前に迫る棘を一つ一つ切り落としていく。どれだけ可愛くなろうとも、どれだけ優しくあろうとも、腐ってもレンは【氷の怪異】ーー【五大怪異】なのだ。

 レンは何食わぬ涼しい顔で全ての棘を凌いで見せた。


 「お前と僕、力量だけで言えばお前の方が上だけど、どうやら技量は僕のほうが上らしいね!」


 不敵な笑みを浮かべて転がる氷像を見る。


 「あと少し…」


 足に力を込め、前方に飛ぶ。

 氷を操作する力で体に纏わせた氷を操り、むりやり体を動かす。

 

 「ブリザード•マーシャルアーツ!!」


 氷像の体に蹴りを入れ、吹き飛ばす。


 『ーー!!』


 氷像は何かを察したように抗うが、周辺の氷を操作して氷像をさらに追い込む。


 「ーーさぁ、【炎神】!!お前の射程だぞ!!僕の本体を焼き尽くして!!」


 ーーーーー


 シドニー・タワー・アイの上に立ち、戦いを傍観していた炎の神は氷像が自分の射程に入り込んできたことを察知した。

 

 果てしない熱量が一点に収束する。

 轟轟と燃え滾る灼熱は万物を焼き尽くすそれは、


 永久凍土を溶かす聖なる炎。


 手の中に握られた炎は色を変え、火力を増す。


 「ーー火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)!!」


 拳を突き出すようにして炎が放たれる。


 一瞬にして音が消え、閃光が迸り、視界が白く飛ぶ。

 耳鳴りが頭の中で響き渡り、気分が悪くなる。


 でも、俺は違う。


 俺は【炎神】だ。常人とは違う。


 だから分かる。天を焦がし、地を滅ぼすのではないかと見紛うほどのその炎が、永久凍土を溶かし、氷像に衝突したその炎が、


 「しくじった……」


 致命打に成り得なかった事を。


 自分の力を過信しすぎていた。


 ーーーーー


 遥か彼方から炎が放たれた。

 僕は全力で氷像を押さえつけてその炎に当たるように固定する。


 『ーー!!』


 氷像は藻掻くが全力で押さえる。


 「大人しく溶けろ!!」


 炎がぶつかり、途轍もない熱波が身を焦がす。

 吹き飛び、何度も地面にぶつかり、意識が途絶えないように無理やり氷で体を起こす。


 余波だけでこの威力。


 しかし、氷像は溶け切っておらず、核の結晶が露呈しているが、そこに傷はない。


 「そんな……」


 氷像は残った氷を操って、核を隠し、立ち上がる。

 炎を恐れ、氷は後退りを始める。


 「サクラは!?まだ……」


 「『もう、来てる!!』」


 ーーーーーー


 俺の全力が届かなかった。

 次の全力を放つにはまだかかる。


 今は、それまでの援護を!!


 「【原初の火(オリジン)生火(クトゥグア)】」 


 体から炎をだし、それに小さな命を与える。

 人からかけ離れたその力は怪異としての権能、所謂、分体だ。


 俺の分体は小さくて、心もとない。でも、その火力は本物。何体も生み出すことで十分な脅威になる。しかし、これを生み出すことで俺は少しの間力を弱らせてしまう。だから、奥の手。でも、そんなこと言ってられない。


 「行っておいで。」


 俺の分体は流星のように飛んでいく。


 ーーーーー


 今の閃光は多分、優希の炎だ。


 だけど、【氷】は消えていない。

 つまり、俺達の番だ。

 

 「『もう、来てる!!』」


 体の中に秘めた力を掌に流し込む。

 手の上に一輪の花を咲かせる。


 平手を突き出す。


 「『”龍炎”!!』」

 

 幻想の炎が放たれ、【氷】を焼き溶かす。


 しかし、


 『ダメだ……』


 「やっぱり、火力が足りない……」


 さっきまでの戦いで自分が思っていた何倍も疲弊していたんだ。


 三重概念武装を保ってはいるが、それほどの力は残っていないし、解除した瞬間に意識がトぶと理解している。このままの継戦は好ましくない。


 一気に終わらせないと!!


 【氷】が動き出し、こちらに迫ってくる。


 『ーー!!』


 「どうやって止めれば……」


 その時、火の玉がいくつか降り注いできた。

 

 『こんにちは!』『げんき?』『たすけにきたよ!!』『まかせて!!』


 火の玉達は子供の様な姿になって無邪気に走り回る。


 「君達は……?」


 『さっしわるいぞ!』『ゆーきのわけみだよ!!』


 「『優希の分け身!?』」


 「きゃわわ!!」


 炎の分体、花人、氷の怪異


 『ーー!!』


 【氷】は叫ぶように腕を広げる。


 「『ここでぶっ壊す!』」

 「頑張ろう!」

 『やるぞー!』『いくよー!』『がんばるよ!』

 

 ーー永久凍土解放の決戦が始まった。

ご精読ありがとうございました。


氷の怪異はいくらでも悪く、龍よりも悪辣に書けるんですけどね、次に控えているヤツがヤバすぎるんで、いったん心の休憩のために優しめにしています。

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