第三十五話 花人vs氷
さぁやったるぞ!なんて言ったはいいものの、どうすればいい?
この戦いの勝利条件は炎の射程内にコイツを追いやること。
炎の射程は、南オーストリア州かクイーンズ・ランドぐらい。今は、キングスキャニオンだから……わかんないけど、結構大変だ。今来た道のりを遡れば完璧……なんだけど、どうおびき寄せる?
まぁ、でも案外簡単かもしれないな。
「僕が目的なんだろ!!捕まえてみろよ!デカブツ!!」
煽り、走り出す。
視界の端、右奥から氷塊の手が迫ってきているのが見え、それを右側に氷壁を出して少し相殺して、速度が落ちた手の上に乗っかり、前に飛ぶ。
飛び出した先には氷の棘が待ち構えていて、その棘を超えられるように下から氷柱を出して、その勢いで自分自身を吹き飛ばす。その先に何もないことを確認して着地し、後ろを振り向く。
「案外来てくれるんだね!」
巨体が前のめりになって迫ってきている。
左右から再び大きな手が近づいてきていて、今度はその手が自分のところに到着するよりも先に駆け抜けて、その両手が合わさる空圧で吹き飛ばされながらも姿勢を保ち、走る。
右の奥で、黒いローブみたいにドロドロを纏って花を咲かせながら戦うサクラを横目に駆け抜けていく。
氷像は何の疑問も抱かずに僕についてくる。
「ーー心を手放した影響で考える力も無くしたか……」
そう思っていたのも束の間、背後の氷像の気配が揺らいだのを感じ、後ろを見ると、氷像はゆっくりとその手を僕の方ではなく、サクラの方へ伸ばしていた。
「おい!僕はこっちだぞ!……まさか!?」
ハッとして、奥の端末を見た。
アレは完全な端末で、【氷】の意識。切り離された状態では、僕を追うという単純な動きしかできなかったが、この氷像、本体を操作できる可能性は大いにあった……
「また不測の事態ー!?もう!!」
「『いいや、この程度、不測の事態にもならないよ!!』」
サクラはそう言い、花の蔓で氷像の手を受け止め、端末に一輪の花を突き付ける。
「『今度は、防げるかなぁぁ!?』」
『なっ!?』
それは、ゼロ距離からの
「『龍炎!!!』」
端末は吹き飛び、氷像は再びこちらに意識を向けだした。
「『よそ見する余裕なんてお前にあたえねぇよ?さぁ!レン!走りだせ!!』」
また励まされた!
でも、おかげでまたおびき寄せられる!!
「ついて来いよ!」
ーーーーー
ゼロ距離で龍炎をぶちかまし、【氷】は吹き飛んだ。
「『よそ見する余裕なんてお前にあたえねぇよ?さぁ!レン!走りだせ!』」
レンが走っている理由は分かっている。
射程圏内に連れて行くんだろ?
もし、射程圏内に連れていけて、炎の全力を受けてなお、【氷】が生き残ったら俺の全力龍炎をぶちかまさなければいけないわけだが……
こいつが居る限り無理だな。つまり、
『邪魔を……』
「『とっととお前を倒す。』」
まず、コイツは【氷の怪異】の脳みそなんだと思う。つまり、コイツを倒しさえすれば、本体は簡単に倒せるわけ。しかし、コイツが脳みそなのだとすれば、その実力は五大怪異【氷の怪異】の全てと言っても過言じゃない。
でもな、今の俺らは五大怪異の一角を自分の力として吸収してんのさ。
「『八上さん、影神さんのフォローがあって、ようやく戦えてた俺たちと違うってわけだ。楽勝とまで行かなくても、お前を倒せる筈なんだよ。』」
『逃げが最善択だったと後悔するぞ。』
「『ほざけ』」
一旦、情報を整理しよう。
相手は、【氷の怪異】その頭脳。
容姿は、俺より少し年上の男だったが、今は顔が無く、そこには幾何学模様の結晶体が浮いているだけ。
胴体があり、四肢が外れていて、浮いている。そこに首元から裂けたようなデザインのローブのようなものを纏っていて、その下は黒いスーツのようなものを着ている。
ーーすなわち異形
『癖に刺さる人が多そうだよね、この異形。』
「さっきまでレンの男版って感じだったのに…」
『ガチバトルモードって感じだよね…』
【氷】は頭を回転させながら、フワッと浮かぶように立ち上がり、腕を広げる。
『……対神武装…解禁…』
「なんか物騒なこと言ってるぞ!」『わんちゃん、人間性トばしたか!?』
そんな憂いもすぐに消える。
空に浮かぶあまりにも大きな影が俺達を包んだからだ。
一瞬、空に目をやる。そこには大きな氷塊。次に目の前の【氷】を見る。刃の様に研がれた足を向けて迫ってきていた。
「『なんの!』」
【氷】の足を万永春天で受け流す。が、すぐに【氷】は体制を立て直してクルクルと回りながら足を鳴らす。ミシっと足元から音が聞こえ、氷が剣山のように生え、俺達を刺し貫いた。足、腕、腹、身体中に氷が刺さり、刺さった部分から体が凍り出す。
「『ま…ずい…』」
決死の思いで足を引きちぎりながら地面につけて花を咲かせ、自分に向ける。
「『龍息吹!』」
龍炎には届かない炎。しかしそれは確かに幻想の炎であり、身体を貫いた氷を溶かし、凍った部位を解放した。すぐに黒いドロドロで負傷部位を修復し、後方へ飛ぶ。
目の前の【氷】は氷の剣を作り、構える。
『剣技…解放』
こちらにはお構いなしで剣を振り下す。咄嗟に顔を引いて避けるが、頬が裂ける。凍傷のような痛みが身体を巡る。【氷】は続けて剣を切り上げて身体を裂きにくる。
「『龍結晶!』」
なけなしのエネルギーで足元から結晶を出し、【氷】の剣を受け止める。
「『なめんなぁぁ!!』」
万永春天を振り、結晶ごと【氷】を切り裂く。【氷】は剣を手放し、後ろに飛ぶが、避けきれず、腹部が削れる。その隙に手のひらに力を込めて、空に打ち上げる。
「『花天!』」
花の力が空で炸裂して花弁が降り注ぎ、辺り一面を花畑に染める。
全ての花を【氷】に向け、無数の花の蔓を伸ばし、巻きつけ、拘束する。
この後、本体を焼かなければならないが、流石に温存は出来ない…
「『龍え…
『空は見えぬか?』
完全に忘れていた。ハッとして空を見ると、氷塊がすぐそこに迫っていた。
『氷山落とし』
重力に逆らう様にゆっくりと落ちてきていた氷塊は【氷】のその声に呼応する様に速度を上げ、落ちて来る。
「『龍炎ッ!!』」
眼前の氷塊に全力の炎をぶつけるが、間に合わず、押し潰される。
ーーーーー
「なになになに!?あれ!」
後ろに迫る氷像の更に後ろ、サクラが戦っているその場所に氷山の上部分と言っても過言じゃない程の巨大な氷塊が落ちてきている。
「大丈夫だよね!?」
ーーーーー
大質量の氷に押し潰され、氷と氷の間に挟まれている。
身体中が凍る様に寒い。
普通の人だったら何回も死んでいる。
いやまてよ、そもそもこんな常に絶対零度な空間で活動できていること自体がおかしいんだよ。
「だったら、ここから出られるよな!!」
『でも、どうするの?体はグチャグチャ、原型は留めてないよ?』
「【人の怪異】の本気、見せてやる!」
グチャグチャになった身体……黒いドロドロをうまく引き寄せて円形にし、ファンの様に変化させ、鋸のように加工する。
「全身かき氷機だ!!」
クルクルと回転して氷を削る。
「『ゴリゴリ進むぜぇぇ!!』」
回転率を上げていく。
背中に花を咲かせて、花の蔓で身体を押し込んで、ドンドン削り進む。
「『ひゃっほーーーーーーい!!!』」
ハイになり、氷を削り進めると、目の前の黒かった氷が光を受けて優しく輝き出した。
ドロドロ砕氷機形態を解き、花の蔓に乗っかる。
「『龍息吹!!』」
炎で氷を溶かして氷塊に穴を開け飛び出す。
外は何もなく、どこにも【氷】の気配はなかった。
「『あれ?…いな
瞬間、死角からの極光に上半身を消し飛ばされた。
『屈折極光…』
下半身だけになったが、すぐに飛び散ったドロドロを集めて、上半身を創り上げる。
「『うれしいねぇ、俺たちなら出て来れるって信じてくれてたのか』」
【氷】は何も答えず、頭上の氷板を回転させて太陽光を集める。
『……屈折極光』
幾重にも屈折させた極光は再び俺達を襲う。しかし、それを避けることはなく、笑顔で受ける。
「『"龍鱗装衣"!』」
俺達の周りを龍の鱗と花弁が回転して極光を分散させ、防ぐ。そして、鱗と花弁は俺達に纏わりつき、形を成す。
「『"三重概念武装•花人龍騎士"』」
ここまできたら全部出すさ!
アベルの様な龍騎士の甲冑を黒いドロドロで補強し、右手にハルバード、体の周りに万永春天とその模造品を従える様に浮かべる。
「『くっそ…体に負担が…』」
『……不死身ではないということか』
そんなの、俺でもわからない。
でも、もう死ぬほどのダメージは負えない……終わりが来る前に終わらせる!!
「『召龍!』」
ハルバードを天に掲げるとそのハルバードにまとわりつくように龍のオーラが現れる。
「『穿て!』」
ハルバードを振り下ろすと龍のオーラもそれに合わせて飛び出し、【氷】に迫る。
「『奏剣!』」
龍のオーラが【氷】にぶつかるよりも早く万永春天達を操り、射出する。
万永春天と龍のオーラが合わさり、【氷】に激突する。
『氷壁』
【氷】はその攻撃を分厚い氷壁を出して防ぐ。が、万永春天の花を咲かせる力によって【氷】の体から花が咲きだす。
花は全力で【氷】の中にある力を吸収しだす。
「『こっちが上手だったな!』」
ハルバードで氷壁を砕き、花に力が吸い取られている【氷】に迫る。
【氷】は少し焦りながらも、周囲に浮かび出した七つの氷板に太陽光を屈折させて極光を生み出し、それら全てが合わさり、極太の極光が紡がれる。
『……収束屈折極光ッ!!』
至近距離、避ける暇はない。
「『龍結晶!!』」
咄嗟に足元から結晶を出し、極光を防ぐ。しかし、エネルギー不足な結晶はすぐに砕ける。
が、一瞬は止められた。
砕け散った結晶の先にサクラ達が欠片も無く、【氷】は辺りを見渡す。
『どこに…』
「『上だよバァーか!!』」
【氷】が上を向いた瞬間、ハルバードは振るわれた。
『な…ぜ…』
頭から股下まで真っ二つに切り裂かれた【氷】は花に包まれていく。
「『お前に心が足りないから分からないんじゃない?俺達は人の想いの集合体だ。さっきも言った気がするが、心が要らないものだと切り捨てたお前の負けなんだよ』」
『……まち…がえた…のか…
【氷】は花に包まれて、花弁が散るとそこには何もなかった。
「『さぁ、今行くぜ。レン!!』」
ご精読ありがとうございました!
【氷】は五大怪異級の怪異です。
【氷の怪異】が五大怪異として100%の力を持っているとして、【レン】は30%の力を【氷】は60%の力を持っています。【氷の本体】は100%の力を持っていますが、意志がないので脅威度としては60〜70%だと思ってください。しかし、そこに【氷】と【レン】の意識が混ざり合い一つになると120%の【氷の怪異】が誕生します。というのも、【レン】が分かれた時、100%から30%が抜けて、70%の【氷の怪異】が生まれたのですが、その後、時間の流れで90%にもどり、そこで60%の力を【氷】に渡して、30%の【氷の怪異】になり、そこから更なる時間の流れで実力は100%の【氷の怪異】が生まれました。なので、【レン】が戻ると上限突破が可能になるってわけですね。
やっぱり、何を言っているのか分からないな…




