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 「伊刻さん!なんか、優希さんが行ったところからヤバい怪異反応がでてるんですけど!?」

 「えー、」

 「湊、見てきてくれない?帰ってきてくれたばっかりだけどさ」

 「えー」

 「伊刻さん!」

 「湊ぉ〜?」

 「はぁ、分かったよ。シップ、真奈狐。何もなかったらなんか奢れよ?」

 「いいよー」


 ーー


 「死の怪異。お前を倒す。」

 グラウンドの中心で死の怪異と相対する。

 『魅入られし者よ、彼岸(こちら)へ来てしまったのだな』

 死の怪異が俺の後ろに立つ忍を見て言う。

 『言葉よ。ソレは救済にはならぬぞ。』

 「それは君が決める事じゃない。この子が決める事だ。そして、この子は私を選んだ。」

 忍から違う人の声が聞こえるのは違和感あり。

 まぁ、いい。

 制限時間があるんだ。

 「終わらせるぞ。」

 『炎よ、死を享受せよ。』

 死から液体が溢れ、それが手を模して迫り来る。

 「『神剣鍛刀』、オラぁ!」

 一手目を切り裂き、二手目を飛び避け、着地する。

 眼前には無数の手。

 「熱強化(ヒートアップ)

 強化された身体能力をフルに使う。

 右、左、前、上、右、左、左!!

 迫る手の全てを切り裂き、死への道が作られた。

 「一気に攻める!」

 全速力で距離を詰める。道中襲ってくる手を全て切り落としてボルテージを上げる。

 「そろそろだ……」

 死の鎌が光り、目の前に迫る。

 鎌の刃に俺の顔が反射して見える。その顔は不気味な笑みを浮かべていて、その相貌は紅く、まるで燃え上がっているかのようだった。

 「この程度、」

 背中を反らせて鎌を紙一重で避け、そのまま刀を死の細い体にぶつける。ぶつかった部位から火花が迸り、死が吹き飛ぶ。

 『っぐ。』

 手を地面に置き、集中する。

 「……煉獄世界。」

 地面に衝突した死の足元から火山の噴火を思わせる威力の火柱が立ち上がる。

 『っ!?』

 急な炎攻撃に驚いた死は一瞬膠着した。その瞬間を見逃さず、刀に炎を纏わせ、斬撃を飛ばす。

 『その程度!』

 鎌で斬撃が防がれる。が、

 「目眩しだって。」

 その隙に間合いを詰めもう一度、死の体に刀をぶつける。今度は爆発させない。

 「超高温の刃で焼き切ってやるよ。」

 『させぬ!』

 液体が溢れ出し、刀が押し出されていき、それに意識を取られている間に腹部を蹴られる。

 「っぐぁ!」

 『死ぬといい。』

 痛みで蹲る俺の首元に死の鎌が迫る。

 しかし、俺は今、死の攻撃は無効化されている。

 蹲っているのも演技で、俺は刀に熱を込めて温度を上げていく。

 カキンッと鎌が俺の首に到達し弾かれた音が聞こえ、死が一瞬狼狽える。

 「今だ!」

 膝立ちで目の前の死の怪異の骨でできた身体を二つに切り裂いた。


 ー五分経過

 

 『5分経ったぞ、』

 分かってる。

 二つに分かれた死から液体が溢れ出す。

 「ちっ」

 大きく飛び、忍の目の前まで後退する。

 「やれてないよね。」

 「流石にな。」

 液体が一つに集まり、形を作る。

 それは空を赤黒く染めて一本の腕となった。ただの腕ではない。瞳が集まり形成されたソレは焦燥感を駆り立てる。


 『権能を持たぬ分体とは言え、怪人となって数日の者が我を倒すとは、運命の力とやらは我等が想定している何倍も強かったようだ。』


 空の腕がそう言った。

 その物言いと背筋を伝う畏怖、焦燥感、感じる気配等、その全てがこの眼前の腕が死の本体であると感覚的に報せている。

 『本体が出て来やがった……』

 咄嗟に後ろの忍を見る。

 ぶつぶつと何かを喋っている。中にいる怪異と話しているのか?

 「優希、まずいよ、逃げられない。言葉の力で逃げられないんだ。」

 「な、なんでだ、」

 「本体の攻撃可能範囲が世界だから。」

 「具体的に言うと、あの瞳に十秒間見られた者はどこまで逃げようと今代の死が朽ちるまで何処からでも殺せる。らしい。」

 嘘だろ。

 エン…なにか、手はないのか!

 『詰んでるよ。』


 『炎、言葉。汝らは大人しく逃げ仰せる事だけが生き残る道であったのだ。いや、ここで我を殺せば良いのか。』


 死の怪異があざ笑う。


 『いや、無理な話であったな。しかし、ここで幕引きというのは実にお粗末だな。そうだ、我に攻撃して見せよ。我を楽しませれば殺さないでやろう。楽しませた度合いで延命期間を伸ばしてやる。我は嘘だけはつかぬ。』


 ソレで信じろ。と?

 『でも、その言葉に賭けるしかない。』

 「分かってる。」

 忍の顔を見ると既に覚悟を決めたようで、その相貌から幾何学模様が浮かび上がっていた。

 「忍…その目…」

 「やるよ。僕が言葉の力で優希を強化する。だから、」

 「最大火力ぶちこむ。だろ?」

 「たのんだよ。」


 『覚悟が決まったようだな?では、魅せてみよ。』


 「《東雲優希が次に放つ攻撃は天をも切り裂く威力となる》」


 さっきまでの戦闘で熱強化(ヒートアップ)熱暴走(オーバーヒート)まで達している。

 これも王の怪異討伐で使用した技。なんなら、王の怪異を打倒した技だ。


 「熱暴走(オーバーヒート)反転。」


 「核熱化(ニュークリア)

 爆発的な火力を体の中で生み出す。

 地面が融解しだす。

 まだ、まだ上げていけ。

 「『神剣鍛刀』」

 刀にその全ての熱を集める。

 放射熱で目が乾く。でもきっとこの熱量なら手に持っているだけで普通は燃えるんだろうな。

 『これが奴にどれほどの攻撃を与えられるかわからなけど、お前ならできる。あわよくば倒してしまえ。優希。』

 「ありがとう。エン。」

 目を閉じる。


 ふぅー。


 集中しろ。


 余す事なく刀に火力を集めろ。


 今だ。

 「劫火の一太刀(おわりのたち)


 死の怪異に向かって刀を振る。

 莫大な熱量が秘められた斬撃が飛び、空の腕にぶつかり、爆ぜる。

 黒に染まった空が割れ、太陽の光が射し込む。

 風が吹き、爆炎が流れていった。


 そこに残っていたのは傷ひとつない死の怪異だった。


 『興醒めだ。この程度とは、これでは一夜も与えられぬ。』


 ダメだった…


 「ならさ、俺がその勝負引き継ごう!」


 その時、空から無数の槍と共に一人の怪人が降り立った。


 『興が乗って来た。まさか、槍の怪人が来るとは』


 「伊刻さん!?」

 昨日この街に連れて来てくれた槍の怪人、エン曰く、はちゃめちゃに強い怪人。

 「シップと真奈狐が心配だってうるさくてさー?そんで、来てみたら死の本体とやりあってて、ビックリしたよ。」

 伊刻さんが俺に近づいてくる。

 「そっか、友達まで怪人になっちゃったんだね。なんというか、これは運命なんだろうな。」

 「え?」

 「俺と争太みたいだなって。」

 そうなんだ。

 「あっ、だからと言って俺たちに則ってもう一人の女の子まで怪人にさせちゃダメだぞ?怪人ってのは失うものが多いんだ。わかるだろ?」

 「夢結さんのことですか?」

 「そっ、まぁ、今は、」

 伊刻さんが槍を何処からか取り出して死の怪異に向かってその槍の切先を向ける。

 「死よ。この者たちは俺の大事な者だ。故に、もう一度勝負をしよう。俺が勝ったらこの者たちを諦めろ。俺が負けたらこの街の全てを冥界に堕としても良い。その行為に対して"戦争"と"夢"は止めに来ない。本当に好きにしていい。」

 なんて事言ってんだこの人

 

 『面白い』


 面白がってるよ!?

 「安心しろ。俺は負けない。」

 伊刻さんが耳元で呟いた。

 「死の怪異!勝負の内容はお前の一撃と俺の一撃をぶつけ合い、打ち消されずに相手にその一撃を見舞わせた方が勝ち。どうだ?」


 『良い。』


 「じゃあ、いくぞ?」

 伊刻さんが手を空に掲げる。

 「槍よ。」

 ズラララっと槍が無数に現れ、宙に浮く。

 そして、その全ての槍が死の怪異に向いた。

 「燃えろ。燃えろ。燃えろ。」

 全ての槍が赤黒い炎に包まれた。

 「貫き、穿て。全ては神を堕とす為に。」


 死の怪異の掌にエネルギーが収束する。


 「灼熱神槍(レーヴァテイン)


 『死死死死死死(死に絶えよ)


 炎の大槍と死のエネルギー弾がぶつかり、空気が揺れる。

 二つの大技は拮抗し、空中で止まった。

 その光景に呆気に取られていると肩を叩かれた。

 「よし。帰るか」

 伊刻さんが俺の手を引く。

 「えっ!?」

 「え?あー、勝ったから、帰るよ?ほら!そこの君も!」

 そう言って伊刻さんが忍の手を取った。

 「まだ拮抗してますよ!?」

 「大丈夫。水越争太の相棒が、死の怪異如きに負けるわけないから。」

 その瞬間、爆音が響き渡り、空が晴れた。

 空を見上げると死の怪異は居らず、耳元で声が聞こえた。

 『此度は去ろう。実に面白かったぞ。槍よ。』

 死の怪異は去った。

 伊刻さんが勝ったのだ。


ご精読ありがとうございました。

誤字脱字、文が気持ち悪いところがありましたら報告お願いします。 

以下、言葉の怪異についてです。


 言葉の怪異

 10万年前には発生していたと推定されている。

 原初の怪異に次いで生まれた存在とされ、非常に強力である。

 分体は本の形で、ありとあらゆる事象を保存している。

 言葉の怪異が司る物は言語であり、本の怪異や物語の怪異が存在しないのは言葉の怪異がそれら全てを網羅しているからと思われる。

 

 引用 エルネス•バード 怪異について

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