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第三十四話 端末

 『我から分かたれし欠片よ。我が袂へ帰ってこい。』


 見覚えのない男、感じたことのない気配、知らないことへの恐怖。

 ーー僕はこの瞬間、やらかしたと確信した。


 僕達がとるべき行動はあくまで誘導。攻撃では無く、挑発だったのだ。

 目の前に立つ男は多分、【氷の怪異】に新しく生えて来た意識。なんで僕は、その可能性に辿り着かなかった?だって、僕が【氷の怪異】の本体から分かれてからもう20年ぐらい経っているんだ。この冥界内で氷という存在は人々にありとあらゆる感情を抱いている。そんな状態で20年も経っていれば成長していても違和感はない。


 今、こうして頭の中でいろんなことを考えている間に、隣に立つサクラは【氷の怪異】と戦う為に構え、僕の顔を見て、僕の準備を待っている。


 「ダメだよ。コレは戦っちゃダメだ。一旦、引こうアレは、【氷】の"完全な端末"だ。その実力は……」


 また、やらかした。僕がサクラを説得しようと一瞬目を離した隙に、【氷の端末】は消えた。まずいと思ってすぐに顔を前にしたのに、追いつかなかった。

 

 「逃げて!」


 焦り、サクラの方を見た瞬間にサクラは吹き飛ばされて、背後の方で爆音が響き渡った。

 咄嗟に後ろを向くと、サクラの上に【氷の端末】が乗っかるように踏みつけているのが見えた。


 「サクラ!!」


 手を伸ばしてサクラの方へ向かおうとした時、更なる不測の事態が発生した。

 

 背後、【氷の怪異】の本体がミシミシと音を立てて、動き出した。


 「は?」


 辺り一面に散らばるあらゆる氷を砕き、竜巻のように舞い上げて本体の結晶体に纏わせ、形を成す。

 耳障りの悪い音を立てながら、【氷の怪異】はゆっくりと身体を起こす。それは、あまりにも巨大で、強大で、同位体である僕ですら底知れない恐怖を抱かせる。端末に抱いた恐怖なんてなんともない程の恐怖だ。


 【氷の怪異】は大いなる氷像となり、足元の僕を覗き込む。

 そこに意志はない……筈なのにーー


 「なんだよ、その顔!!」


 僕を嘲笑っているように見えた。

 なんで、【氷の端末】が僕では無く、サクラを狙ったのか分からなかった。けど、なんと無く理解できた。


 コレは、僕を屈服させる為に【氷の端末】を【花人】のサクラに向かわせたんだ。【花人】ですら敵わないのだ。お前に何が出来る?お前が抗ったところで変わらないぞ?という事を。僕を絶望させ屈服させる為に。


 「でもね、屈服したのはそっちだろ?勝手に【王の怪異】に……【炎の神】にビビって、あらゆる想いが邪魔だと勝手に判断して、僕を切り離したお前は大きな間違いを犯した!!お前の捨てた存在は、どこまでもお前を嫌悪し、お前を倒す!これは、大いなる自己嫌悪で、反抗期だ!!」


 そう叫ぶ。すると、背後から暖かい気配を感じ、振り返る。


 「『よく言った!コイツは、俺達に任せておけ!レン!お前は、【氷の怪異】をぶちのめせ!!』」


 【花人】はその姿を変化させていて、完全な融合体になっていた。なんとも心強い。そんな男からのサムズアップ。


 「負けるわけないよね!」


 氷と氷は相性不利も有利もない。そこにあるのはただの出力勝負。僕はあくまでも感情などを切り離されただけの端末。サクラが戦ってる端末よりも劣っている出来損ないだけど、感情は、想いは、怪異を強くさせる。自己嫌悪と自己肯定感で僕は、この心なき怪物よりも長けている。その事に【氷の怪異】も気づいている筈だ。


 「さぁ!やったるぞ!」


 ーーーーー


 意識外からの攻撃に吹き飛ばされ、知らない化け物に足蹴にされている。


 「はーなーせ!!」『離せ!』


 悶えるが、びくともしない。


 『汝を穿ち、欠片を心象の深淵へと堕とし、我が袂へ取り込む。抗うな。汝に勝ち目はない。』


 なんか、めちゃくちゃムカつく事を言ってるな、コイツ。

 だが、コイツの言ってることはその通りだ。今の俺ではコイツに勝ち目はミリ単位でもない。だけど、"今"の"俺"ではな。

 

 俺は不敵に笑い、舌を出す。


 「『勝ち筋はあるんだよ。調子に乗ってるとブチ転がされるから、覚悟しとけよ?』」


 俺達なら、コイツに負けるわけない!

 コイツがアベルより強いわけない!


 心が足りないからレンを取り込みたいんだろ?だったら、俺の方が強いんだよ!


 「『二人分の心に欠けた心が勝てる道理がねぇだろ!バーカ!』」


 「ーー概念武装•願望の救世手!」『収束終焉詠唱!』


 「『人花一体!!』」


 黒いドロドロ……人の業の集合体を纏い、万永春天を手にした龍殺しの殺人者は、俺を足蹴にする【氷】を吹き飛ばし、立ち上がる。


 ふと、レンが気になり、振り向く。

 レンは最高に気持ちのいい啖呵を切っていた。俺と私はそれに感化されるように心を熱くさせて、レンの背中を押す。


 「『よく言った!コイツは、俺達に任せておけ!レン!お前は、【氷の怪異】をぶちのめせ!!』」


 レンはパァッと煌めく笑顔を浮かべてクシャッと笑った。

 俺たちの心にあった目の前の【氷】への微かな恐怖心はレンの笑顔で一気に溶け切った。


 やる事をやる。


 目の前に居るのは心が薄い化け物。

 中には誰も"入っていない"。


 「『龍はアベルに配慮して叩きのめせなかったからな。この力、お前で存分に試させてもらうぜ?』」


 『戯言を……』


 ーーーーー


 なんだ?あの巨像は……


 「思っていた何倍も相手は力を貯めてやがった訳だ。」


 『俺たちも赴くか?』


 「いや……」

 

 シドニー•タワー•アイの上に立ち、遥か彼方で行われている戦いを見る。


 「ーーアイツらなら大丈夫だ。俺たちはここで、"最高、最強"の一撃を準備しよう。」


 『信じているのか?まだ出会ってすぐの少年少女を。』


 「彩花がそこにいる。それだけで俺はなんでも信じてやるよ。それだけ俺にとって彩花はデケェ。」


 『まぁ…だろうな。分かった。なら、【氷の怪異】に見せつけてやろう。"カグツチ"の力を』


 その日、シドニーの平均気温は10℃上がった。

ご精読ありがとうございました


書き方が変わった?

はて…?


さぁ!レン!サクラ、彩花!優希!オーストラリアを解放するぞ!

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