第三十三話 氷の怪異
俺達はシドニーを出立し、ニューサウスウェールズを突っ切り、南オーストラリア州を通過し、キングスキャニオンのあるノーザンテリトリー州を目指してノンストップで走り出した。
『あーあ、パリの時も思ったけど、ちゃんとしたオーストラリアを見たかったなぁ…こんなによく分からない氷に覆い尽くされた状態じゃなくてさ。』
「俺もそう思う」
「僕も」
シドニーから離れれば離れるほど氷は分厚くなっていて、木々が少なくなっていき、やがて透き通った氷の下に赤褐色の大地が見えてきた。
「…ここから、また違った種類の氷屍人が出てくるようになるよ! 気をつけて。」
「わかった! 『りょーかい!』」
出会う氷屍人の数が明らかに少なくなってきた。その時、目の前に人とは違う影が現れた。
「まて! なんだ!? あれ!」
「…あれも氷屍人だよ。でも、人じゃない。あれはカンガルーの氷屍人だ。」
明らかに人間の身体能力の枠を飛び越えたカンガルーの氷屍人は、生前の勢いを感じさせるジャンプでこちらに迫ってくる。
「……ごめん!!」
腕を黒いドロドロに変化させ、鞭のようにしならせて吹き飛ばす。触れた部位は、吹き飛ばした瞬間に切り離した。
道中で何体もの氷屍人と戦ったが、奴らはガラスのように砕ける。だから、最速は吹き飛ばしだと知った。
カンガルーの氷屍人も吹き飛ばされ、地面に接触した瞬間に音を立てて砕け散った。
「対処法は変わらねぇけど、人とはまた別で良い気はしないよな…」
『また別ベクトルの罪悪感だよね…』
「それでも、やっぱり昨日言っていた通り、氷屍人への最大の情けは殺してあげることだと思う。」
「止めたのに? 『のに?』」
「えっ! だって…触れたらダメだし、そんな風に対策できるなんて知らなかったから…」
「ふふっ、ありがと」
「うぇ!? ど、どういたしまして…?」
『え、かわいい』
「それな?」
「もうー! やめて! 怒るよ!」
「『ごめんごめん』」
少し、軽口を叩いていると、ワラワラとカンガルーをはじめとした沢山の種の動物が氷屍人として迫っていた。
「『ごめんね…』」
「せめて、終わらせてあげるからね」
次から次へと現れる氷屍人達を退け、俺達は南オーストラリア州を通過し、ノーザンテリトリー州に辿り着いた。
「ここまで来たはいいが、【王の怪異】が少し心配だ。」
「そこは大丈夫。【王の怪異】は場を乱すだけ乱して、オーストラリアを去っているから。」
傍迷惑な怪異だな…
ーーーーー
『私が思うに、【王の怪異】はハナの足軽なんだよ!』
だとしたら相当な尊厳破壊だな。
ーーーーー
キングスキャニオンに近づけば近づくほどに、氷屍人や、突出した針のような地形が増えてきた。
「明らかに氷屍人が多いね…」
「地形も特殊になってきている。ここから先、どんな氷屍人が出てくるか分からないから、隠密行動を心がけよう。」
「うん!」
静寂に包まれた空間を二人で音を出さぬように滑りながら進む。
ある程度進むと、大きな窪み──クレーターに辿り着いた。
その中心には、煌々と輝き、怪しく浮かぶ結晶のような氷があった。
「あれが【氷の怪異】の中心。アレに意思は無く、ただこの世を氷に包むことだけを目的に反射的に力を振るうモノだよ。」
「じゃあ、アレを燃やせばいいんだな? 『優希の手なんて煩わせない。』」
踵を鳴らすと、地面から一輪の花が咲き、そこに力を流し込む。
「幻想の炎を食らえ!!」
「『龍炎!!』」
花から炎の球が放たれ、クレーターの中心に当たると大爆発を引き起こした。
砕け飛び散る氷の破片を、龍結晶で自分達を覆い防ぎ、すぐに結晶を分解してクレーターの中心──【氷の怪異】の様子を見る。
そこには、一人の男が立っていて、後ろにある【氷の怪異】は無傷だった。
「レン! 誰だアレ!」
「わかんない! あんなの知らない! 僕、知らない!」
『我から分かたれし欠片よ。我が袂へ帰ってこい。』
ご精読ありがとうございました
永久凍土解放戦開始だけど、永久凍土解放戦 その一は始まらない…
龍巣都市を見返すときに、これってどんな内容だっけ?と言うのが分かりづらかったのでね…
さて、氷の怪異戦開始!




