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第二十六話 龍騎士の演舞曲 その四

演舞曲、それは男女が手を取り合って円を描くように回ることが特徴のダンス。


"俺"の中でアベルは深く溶け込み、妄想の中のルーシーと踊り明かしている。しかし、その影響で俺の人格はアベルと同化してしまった。アベルの意識は深いところにあって口を出してはこないが、俺の喋り方や性格に対して明確な影響を与えている。


幸いなことに、アベルは相当な絶望を経験した為か意識を取り返そうと自分の中の妄想の幸せから動こうとしない。ゆっくりではあるが、"我"本来の人格が戻りつつある。だからこそ、


目下最大の障壁は…


「花…」


自称不死身…まぁ、実際そうなんだろう。

攻略方法は、人の力の源である人間どもを殺すことだと思っていたが…


"俺も概念武装を使うことが現状の最適解か"


「ハルバード…」


剣と盾を壊し、一つのハルバードへと変換する。


これが【龍】の概念武装。


「いくぞ?花」


ーーーーー


「『なんだ、その槍…』」


龍騎士は禍々しい気配を纏った槍、ハルバードを唐突に取り出した。


「いくぞ?花」


「『先手必勝!!』」


強く踏み込み、龍騎士の頭を目掛けて刀を振り下ろす。


「単純だな」


ハルバードの持ち手で一撃を受け止められ、龍騎士は流れるように刀を防いだ下方部を下げ、先端の斧のような部分を振り上げ、俺の頭を目掛けて振り下ろす。


「こんなもの!!」『避けて!!』


彩花の声に押され、俺は刀を手放し、左方へ飛び避けた。


「本能か…花の助言か…」


『あれは、概念武装だよ!どんな効果が付与されているか分からない以上、受けるのは得策じゃない!!』


「なんだか、龍の喋り方も落ち着いてきている…アベルの意識がさらに奥に行ったってことなのか?」


『ありえるね、確かにさっきまでの龍は明らかに怪異の時と話し方が違っていた。それがアベルの影響だったと考えれば筋が通る。』


つまり、目下最大の障壁は…


「『どうやってアベルを呼び覚ますかだ!』」


「ほう…やってみろよ」


龍騎士はそう言うと跳び、ハルバードの先端をこちらに向けて、迫る。


「『桜よ、咲け!!』」


タイミングを合わせ、横方向から一気に桜の木を生やせて迫る龍騎士を吹き飛ばす。


「『来い!万永春天!』」


そう叫ぶと桃色の刀は飛び込むように手のひらに収まる。


「小賢しい…真似を!!」


再び龍騎士はハルバードを構えながら迫る。


「『花よ!』」


その道中に梅や椿、桜などの木になる花を生やして物理的に硬い壁を作る。


「植物風情が龍を止められるとでも…?」


クルクルとハルバードを振り回しながら木々を豆腐かのように切り裂いて更に速度を上げて迫る。


「『人の想いを養分にして、一輪の花へ…』」


足元に一輪の花を咲かせ、そこに人の想いの力を込める。


『完璧に溜まったよ!』


最後の木が斬られ、龍騎士が姿を現せた。


「『"圧縮龍炎"!!』」


龍の怪異を倒すために放った龍炎は龍の怪異から吸い取った性質。つまり、エネルギーさえ溜まれば再び放てる。


圧縮された龍炎は攻撃範囲を極限まで縮め、一点を焼き殺す。

龍騎士の甲冑は龍の鱗が変質したものである為、炎への耐性は完璧。だからこそ、龍の"怪異"の時は八上が切り裂いた傷の中に龍炎をぶち込んだのだ。


でも、圧縮された龍炎の威力は規格外。

流石の甲冑でも許容範囲を超えたようで、甲冑はヒビ割れ、ルーヴル美術館まで吹き飛び、建物が倒壊し、その下敷きになった。


『これでやったとは思えない。』


「だからこそ、アベルを呼び出す方法を思いついた。俺をアベルの中に送り込んでくれ。」


『は?どういうこと?』


「さっき、彩花が花の根を使って俺の中に花の力を流し込んだやつを思い出した。それを使って、アベルとルーシーを助けるために二人に別れたみたいに、俺の意識だけを花の根を使ってアベルの中に捩じ込む。そうして俺が中からアベルを呼び覚ます」


『帰って来れる?』


「結局、魂のありどころはこの身体なんだ。あの時も一定時間で体が一つに戻っただろ。今回は意識だけだからそんなに時間はないかもしれないが、絶対に戻って来れると約束するよ。」


『分かった…賭けよう。その手に!』


ガラガラと音を立てて瓦礫が盛り上がる。

ゆっくりとフラフラしながら龍騎士が立ち上がる。


「はッ…はぁ…やってくれたな…」


ボロボロと上半身と頭の甲冑が砕け崩壊していく。


血だらけで痛々しい顔の龍は再びハルバードを手に取り、構える。


「来い…」


すると、龍の周りからオーラのようなものが溢れ出し、それが龍の形になる。


「やっと目覚めたか…ハルバード…」


『どうやら完全にボルテージが上がってしまったようだよ…早く終わらせないと五大怪異の本領を発揮されてしまう!!』


「頼んだぞ!彩花!!」


『まかせろ!』


ハルバードを天に掲げ、龍はゆっくりと天をかき混ぜるように回す。すると、龍のオーラはそれに合わせてクルクルと回り出し、少しずつ浮かんでいく。


「穿て…!!」


龍が槍を振りかぶると龍のオーラが放たれ、こちらに向かって大きな口を開けて迫る。


「『そんなもの…』」


真っ向から迎え撃つように跳び、刀を構える。


が、


「『迎え撃つわけねぇだろ!!』」


事前に花の蔓を伸ばしておいてぶつかる直前で自分を引っ張り避けた。そうすることで、龍のオーラを操作されても追いつけない。そして、花の蔓に投げ飛ばされたサクラは龍に迫る。


「花ァァァ!!」


龍はハルバードを構え、迎え撃つ姿勢を取る。


『花よ!散れ!』


空中に花がいくつも現れ、そこから根が高速で伸び、龍の体に突き刺さる。


「また吸い取るか!?無駄だ!対策はしてある!!」


『じゃあ、逆はどうだ!!』


「なにをっ!?」


ーーーーー


そこは、闇だった。


「侵入成功ってやつかな?」


サクラはアベルの深層意識へと踏み入った。

ご精読ありがとうございました!


今更なんですけど、龍ってのは翼を持たない所謂、神龍みたいなやつなんですよ。だけど、龍の怪異は西洋風な"竜"なんです。では、なぜか、それは、時代の流れのせいで名前だけが残った結果です。

龍の怪異の起源は中国ら辺です。龍の伝承が龍への想いを作り出し、龍の怪異が生まれました。そして、西洋ではそれと別に竜の怪異が生まれました。長らく二人の怪異はそれぞれ別の存在として在り続けましたが、ある日を境にどちらとも存在が薄くなっていきました。人々の関心が龍や竜を幻想の存在としての"ドラゴン"や"ワイバーン"にシフトしていきました。その結果として、二つの怪異は統合され、名前は昔、五大怪異であった"龍"のままで今の"竜"の姿になりました。そこから龍の怪異は人の前に現れることをせずに神になるためだけに力を貯めていきます。

花神による災い…百年前のあの日、龍は空を見上げます。花に挑む無謀な舟を。それを見て龍は世界の転換点だと踏んで、自分の寝床に近い位置にあった大都市であるパリを結晶に包んで龍の冥界としました。そこで、龍はとある怪異の姿を見たようですが、それはまた別の話です。

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