言葉
……来ちまったな。
遠くに見えた黒い気配は、校門の前まで来ていた。
俺は屋上から飛び降り、黒い気配の目の前に立ち塞がった。
意外にもその気配の主は小柄だったが、禍々しいローブに大きな鎌。それはまるで死神を連想させる姿をしていた。
「おい!この学校になんか用でもあんのか?」
そう聞くとローブの中から無数の目とドロドロとした液体が溢れ、煙のように宙に浮いた。
「きっも。」『同感。』
『我は"死"。魅入られし者に甘美なる死を』
魅入られ者。
「彩花と忍のことか。」
『"死"か。まずいな、五大怪異だ。』
「大丈夫だろ。どうせ分体だ。」
『それはそうだが……』
そう話している間にも死は俺たちを超えて校内に踏み入っていった。
「は!?」『いつの間に!?』
死を追いかけて走る。
「いくぞ!」
「『神剣鍛刀!!』」
炎の刀を抜き、死の背中に突き刺す。
「燃えろ!」
死のローブが燃え、その身体が露わとなった。
流動体が骸骨にこびりついたようなビジュアル。これをキモいと言わずして何に言おうか。
「キメェスタイルしてんじゃん。」
『……死を拒むか。』
そう呟き、鎌を構えた。
「死は拒んでなんぼだろ!」
切り掛かる。が、鎌で塞がれる。
何度も刀と鎌がぶつかり合い、金属音が廊下に響き渡る。
『煩わしい。』
死の鎌が黒いオーラを纏い振り下ろされる。それを刀で受ける。
『なぜ拒む。死を克服せし者。貴様に関係などないだろう?』
「はぁ!?死を克服?」
『怪人は不老不死だぞ。』
「知らなかった。」
『哀れ也。』
ーー
最近、よく心がざわつく。
なにか穴が空いたような虚無感に苛まれる。
このことを彩花に話したらどうやら彩花も同様らしい。
「なにかを無くしたような…」
こんな状態で授業なんて受けられない。
「保健室行こう」
僕は先生に許可をとり、保健室へ向かった。
足取りが重い。
いつからか考えてみると、やっぱり、廃神社に行った日からだ。
あの日から僕の心のざわつきが止まらない。
原因はなんだろう。
「燃えてた人なら何か知ってるかもしれない」
僕達を助けてくれたあの人なら何か…
なんでそう思うんだろう。
思考が纏まらない。
「寝よう…」
階段を降りてまっすぐ行けば保健室だ。
……工事でもしてるのかな?
金属がぶつかる音がする。
しかも、校内?
「気になる」
ちょっと見に行ってみようかな…
「え?」
不気味な骸骨とあの日に出会った燃えてる人が戦っていた。
「燃えろ!消えろ!」
『死を恐れよ!』
怖いこと言ってる……
逃げよっ、
ガタッ
なんてことだ。傘立てを倒してしまった。
慌てて傘立てを直そうと、
「忍!?」
『魅入られし者!』
え?
「今すぐ逃げろバカ!!」
燃えてる人が骸骨を羽交い締めにして叫ぶ。
「なにしてるんですか!?」
「なんでもいいだろ!お前、死にたいのか!?」
「いやです!」
「じゃあ逃げろ!」
「…はい!」
僕は一心不乱に走った。
走って、走って、
気がついたら学校で最も端に位置する図書室にたどり着いた。
「開いてるかな?」
簡単に扉が開いた。
「三年間いるけど、初めて入るな…」
そうして僕は図書室に踏み入った。
『ようこそ。言葉の殿堂へ。』
図書室には眼鏡をかけた綺麗なお姉さんが居た。
スラックスが似合うお姉さん、司書さんなのか…な
「あれ?」
なんか、頭のモヤが晴れた様な…
『今日はどうしたのかな?琴乃葉忍くん。』
「名前、知っているんですか?」
『琴乃葉という苗字が印象的でね。』
なるほど、
『それで、今日はどうしたのかな?初来館だよね?』
なんか燃えてる人と骸骨が戦ってて…なんて言えないよね…じゃあ、
「あの、最近、心がざわつくっていうか、虚無感に襲われるっていうか、なんか、忘れてるんですよ」
そう言うと司書さんは本を一冊渡してくれた。
『それは君のための本だ。読んでみてくれたまえよ。』
本にタイトルはなく、ただ白くて分厚いだけの、
『ほら、読んでごらん?』
「わかりました…」
押しが強いな…でも、それだけ面白いんだろうな…
そうして僕は本を開いた。
瞬間、頭に衝撃が走った。
たった一つの名前が僕の頭に響いた。
声が響いた。
顔が、背中が見えた。
僕は、
思い出した。
「優希!!」
『憂いは晴れたかな?』
司書さんが僕の目の前に立つ。
『君のお友達は怪異と契約して人の世から逸脱したようだね。』
「どうして忘れていたんだ!」
『こればかりはしょうがない。』
「でも、どうやっても思い出せなかったのに、なんで、」
司書さんの顔を見ると司書さんは怪しく笑った。
『ここが、私の"冥界"だからだよ。』
「あんたは、何者なんだ?」
『私は"言葉の怪異"。この世にある言葉を司る最高の怪異さ。』
『さて、君に問う。』
『友達と同じ力が欲しいとは思わないかい?』
僕はその問いに対してどう返答すべきか。
「代償はあるのか?」
『あるさ。人の世から逸脱するんだ。皆から忘れられる。でも、逸脱した者同士なら話は違う。』
「なんで優希はその道を選んだんだろう…」
すると言葉の怪異は本を差し出してきた。
『読めばいいじゃ無いか。彼がなぜそれを選択したのかを』
僕は言われるがままにその本を読んだ。
ーー
分かったよ。
「優希ってやつは…つまり、優希は僕と彩花を助けようとしてるんだよね?」
『まぁそういうことだね。』
「ならさ、僕が優希と同じ力を手に入れたらその労力は減るし、僕も彩花を守れる。なら、優希は楽になるよね。」
『そうだね。』
「わかった。」
覚悟を決めよう。
「言葉の怪異。僕に力を渡せ。」
『いいだろう。何処までも君のために。』
本棚に収められた本が飛び出して渦ができあがる。
僕はその真ん中に立つ。
『これから多くの苦悩が君を襲う。』
「見たよ。」
『君は耐えられるか?』
「優希が耐えたんだ。」
『君は本当にいいんだね?』
「うん。もう、優希を忘れたく無い。」
『じゃあ、行くよ。【言葉の怪人】』
「なんで僕のために尽くしてくれるの?」
『君が、君だからだ。』
「わっかんないや」
ーー
「コイツ!本当に分体か!?」
王の怪異ほどの理不尽さは無いけど、単純な剣術で押される。
「忍は逃げ切れたのかな…」
『グラウンドに追い出すぞ!そこなら火力を惜しまず出せる!』
「おう!」
死の間合いに入り、死に向かってタックルをする。
『ぬぅ!?』
「落ちろ!」
窓ガラスをぶち破り、グラウンドに死を追い出した。
『なにを…』
「ここならいける。」
王の怪異攻略で手に入れた力。
ここで使わずしていつ使う!
「熱強化!」
身体から溢れる炎を身体の中に押さえ込み、身体能力を上昇させる。
「行くぞ。」
地面を蹴り、一瞬で死との間合いを詰め、その頭蓋を掴む。
「白炎」
死に白き炎を点火しすぐに間合いを取る。
『…消えぬ。』
「力を吸い取り、燃え続ける炎だ。」
『忌々しい…』
王の怪異は長期戦に持ち込めなかったから日の目を浴びなかったこの炎だが、コイツとの戦いでなら有効な筈だ。
「まだまだ俺の炎は残ってるぞ。」
『死せよ。』
死にへばりついていた液体の様なものが溢れ出す。
『なんだ?』
「獄炎!」
炎で壁を作る。
『意味などない。』
液体が炎の壁を貫通して俺の体に纏わりつく。
「気持ち悪りぃ!!」
振り解こうとすればするほど締め付けられる。
「なら、爆炎!」
爆発して液体を吹き飛ばす。
「この程度で!」
『時は満ちた。』
『死を享受せよ。』
空が暗く染まる。
『死へと至る刻』
目の前に無数の鎌が現れ、
「あ、」
その全てが振り下ろされた。
あー、ダメだ。分体だからって舐めすぎた。
こんなん、どうやってよけるんだよ。
てか、コイツ全然本気出してなかったのか。
ウゼェ。
「《東雲優希は僕の隣に居た。》」
鎌の切先が俺に触れる瞬間、俺は校内に居た。
「え?」
呆気に取られる。
「お待たせ。優希。」
聞き馴染みのある声、もう二度と聞けないと悟っていたその声。
「なんで、」
俺の隣に琴乃葉忍が居た。
「一人にさせないよ。」
涙が、溢れる。
助けられたから?悲しいから?怒っているから?
多分全部。
「どうして!どうして、俺のことが」
「僕も怪人になったんだ〜」
そんな、
「お前、俺がなんのために!それに、お前、わかってんのか!?」
そう言う俺の口を塞いで忍は微笑む。
「知ってる。優希がどうしてその力を選んだのか、全部。それでも僕は優希が一人孤独に戦うことが許せなかったんだよ。自分自身が。」
忍がグラウンドに佇む死を見て言う。
「あと、僕も君達が大事なんだよ。君が僕達を守りたいと思うのと同じぐらい思っているんだ。」
「優希、お前一人でカッコつけさせねぇっつてんだよ。わかるか?」
「……そうか」
なんだ、この心の温もりは
なんだ、俺は、
寂しかったんだよな。
『感傷に浸る前に、死を倒すぞ。』
エンの言葉で我に帰る。
「忍、お前の力はなんだ?」
「言葉の怪異の力で、"口に出した事を現実に反映する能力"」
………は?
『強すぎるだろ。』
「ただし、MPみたいなのがあって、」
「なるほどね、それでも最強すぎるぜ。さすが忍だな!」
「倒すのはあの骸骨でしょ?」
「そうだ。」
「じゃあ、いくよ?」
「《琴乃葉忍と東雲優希は骸骨からの攻撃を無効化する。》」
「こう言うのは時間制限ありで、今回は…5分!」
「おーけー。5分で終わらせる。」
言葉の怪人、炎の怪人 VS 死の怪異
開戦!!!
ご精読ありがとうございました
誤字脱字などあったら報告お願いします。
死の怪異弱くね?
分体だしー
五大怪異って本当に強いの?
うん。
本体はどんな能力あるの?
え?即死




