第二十五話 龍騎士の演舞曲 その三
アベルとサクラの決戦が始まり、それを見ていた八上と影神は、後輩の覚醒を素直に喜べずにいた。
「怪人契約は解除できない…サクラ達はどうするつもりなんだ?まさか、分かっていないのか?」
八上がそう呟く。
「アイツらなりの考え方があるのかもしれないし、ないかもしれない。しかし、今の最適解はアベルが戦闘不能になるまで叩くことだ。話はそれから…」
影神は降り注ぐ火を全て握りつぶしたサクラの腕を見ながらそう言う。
「水越さんでもこれは出来ないな…正真正銘の人を守る戦い方だ」
「アイツらが龍を倒した瞬間に冥界を構築できるように準備は出来ている。参戦したい気持ちでいっぱいだけど、手を離したらダメ…むず痒いな」
「俺も反動で口以外動かねぇよ…頑張ってくれ…回復したら速攻で…」
鬼と影はただその戦いを見ていることしかできなかった。
ーーーーー
今度はよく見える。
どれだけ龍騎士が高速で飛ぼうとも、今の俺たちなら追いつける!!
「『これは人々の築いてきた軌跡、"人は空を飛べる"!!』」
それはアメリカに生まれた二人の兄弟から始まった軌跡。
人々の想い、人々の軌跡を辿り、【人の怪異】はそれを概念として身に纏える。
それこそ、人の怪異の概念武装である。
サクラは重力に逆らうように浮かび出し、上空で高速飛行する龍騎士に向かって飛び出した。
「『これは人々の築いてきた軌跡。"人は宇宙へ飛び立てる速度を出せる"!!』」
それは宇宙へ挑む者達が築いてきた軌跡。
空を飛ぶサクラはその場で旋回を始め、加速していく。瞬く間に速度は3万9,897km/hに達した。
その速度にサクラの体は完全に追いつき、再び火を降らそうとしている龍騎士に目星をつけ迫る。
すぐに龍騎士は気付き、逃げようと踵を返すように上昇するが、その程度の速度ではサクラから逃げられない。サクラは逃げようとする龍騎士の首を掴み、その速度で地面に叩きつける。
「グッ…!?」
深いクレーターが生まれ、その中心には転がる龍騎士とそれを踏みつけるサクラ。
「『アベルを出せ!!』」
「とっくの…とうに…眠ったぞ!!!」
龍騎士の首元が赤熱化しだす。
「『マズいっ!!』」
ーー龍息吹!!
咄嗟に防御姿勢をとったが、龍騎士が吐いた炎はサクラに直撃し、爆発する。
サクラの上半身が蒸発し、下半身だけが残る。
「呆気ない死だな…」
龍騎士は軋む体に鞭打って、サクラの下半身を投げ飛ばしながら立ち上がる。
「さぁて、あとは、鬼と影かぁ…」
「『まだ、終わりじゃねぇよ?』」
サクラの下半身から花の根、黒いドロドロが溢れ出して上半身を再構築する。
「『今の俺らは死なない。お前は人間を好き勝手に生かしすぎた。
冥界により断絶されたこの国は、一つの生態系として認識され、そこだけの怪異が生まれるようになる。
だが、この国には“人の怪異”はいない。
だから本来、人の怪異として発散されるはずだった“人への想い”は、全部俺に注がれる。
そしてこの国には、"他の怪異もいない"。つまり、お前は冥界をそのように書き換えたんだろ?
だから、怪異へ向くはずだった想いも、全て俺らに集まってしまった。
人であるが故に、花であるが故に――。』」
「何が言いたい?」
「『お前は、お前が食い物にしてきた人間の想いに殺されるんだ!!』」
人が人に向ける感情だけが人の想いだけではない。龍に対する想いはすべて龍の怪異に注がれる。しかし、飢餓への恐怖、死への恐怖、明日への恐怖、"友を愛する想い"これらは向かう先をなくしていた。
それが全て【人の怪異】に注がれた!
期間限定、条件付きの最強。
悪辣な龍を下すにはあまりにもお誂え向きの力だ。
「『さぁ、剣を取れ、盾を構えろ。』」
龍騎士は剣を抜き、盾を構え、腰を落とし、臨戦体制を取る。
「お前の殺し方はよく分かった…!!」
龍騎士は翼を広げる。
「まずは、人間どもだ!!」
龍は飛び立つ。
「『させるわけないだろ!!』」
サクラは再び概念を纏い、空を飛ぶ。
「足止めだ!!」
目の前には突貫工事で造られた龍の分体達が立ち塞がり、うまく加速できない。
「遊んでやれよぉ?」
龍騎士はそう笑い、飛んでいく。
エッフェル塔から人々が集まるショッピングモールへ。
「『待て!!』」
ーー動きやがれ俺の体!!
確かにそう聞こえた。ふと、視線を下に向けると、さっきまで転がっていた影神の姿が消えていた。
はっとして、遠くに見える龍騎士に目をやると、その下から一本の影の槍が迫っているのが見えた。
「『影神さん!?』」
「今のうちに分体を殺せ!!」
下から八上さんの声が聞こえ、その通りにサクラは腕をムチのように伸ばし、その先端を鎌のようにして周囲の分体達を切り刻んだ。
「行け!影神もそう長くは持たないぞ!!」
八上さんの言葉を聞き、眼前の龍騎士を確認し、
「『はい!』」
そう言い、加速する。
眼前では影の槍に貫かれその場で動きを止めている龍騎士が暴れ、悶えている。
「『往生際が悪いぜ!!舐めプ龍畜生!』」
龍騎士の身体に抱きつくようにぶつかり、下へ一緒に落ちていく。
「『ありがとうございます!』」
「もう一踏ん張りだ!」
影神はそのまま落ちていった。
ーーーーー
隕石の如く落ちていき、俺達とアベルは地面に衝突し、何度も地面に叩きつけられながら転がる。
「『ってて…』」
ふらふらと立ち上がる。
「忌々しい影め…」
龍騎士もゆっくりと立ち上がる。
俺達は辺りを見渡す。
そこはもう、ルーヴル美術館だった。
ご精読ありがとうございました!
さぁ最後はルーヴルで!
勝つぞ!




