第二十一話 アベル
アベルの人生は、そこら辺の齢十歳の子どもが経験するものとは比べものにならないほどの苦難に満ちていた。
叔父の死、父の死――。
「……ルーシー……」
それでも彼は、絶望しなかった。
隣に――ルーシーがいたから。
けれど、もうルーシーはいない。
「ルーシー……」
結晶が空を覆い尽くし、龍の炎からこの街を守っていた。
たぶん、これはおねにいちゃん達がやっているのだろう。
おねにいちゃん達は頑張っている。
でも、ルーシーは守りきってくれなかった。
僕なんて無視すればよかったのに。
僕がいたせいで、おねにいちゃんは二つになって、どちらも得ようとしたから――。
「僕さえ、いなければ……」
ーーーーー
「アベル!叔父さんから離れるなよ!」
覚えているのは、そのときの叔父さんの暖かい手の感触だ。
でも、その手はすぐに冷たくなった。
ーーーーー
「やめろぉぉぉ!!」
幼いながらにも、わかっていた。
あのとき僕たちを襲っていた“化け物”は、叔父さんだった。
だって、お父さんが――あれを“兄貴”と呼んでいたから。
化け物は人が元になっている。
多分……そういうことなんだ。
ーーーーー
《あ……べる……》
あの声は、間違いなくルーシーのものだった。
化け物がルーシーの声で呟いたものなんかじゃない。
ルーシーが僕の顔を見て、最期に何を言いたかったのか――
わからない。
ーーーーー
龍が灰となって消えた。
それでも、叔父さんも、お父さんも、ルーシーも帰ってこない。
そんな時、声が聞こえた。
『君は、全てを失っていない。』
「違う……」
『君には、まだ母親がいる。』
「……そう、だけど……」
『母親すらも、ルーシーみたいに見殺しにするのか?』
「じゃあ、僕に何ができるの? 何もできない! 僕はただの……子供だ!」
『我の手を取れ。』
「え?」
『我の手を取り、身を委ねろ。そうすれば、君はこの世界で生きていける力を得る。さあ……手を。』
何がなんだかわからない。
でも、僕はその声に応えた。
応えてくれるから。
すがれるものがあるのなら――
すがるだけ。
ご精読ありがとうございました
アベル君?




