第十六話 悪辣龍巣血戦 そのニ
辺り一面が花畑に変わり果て、龍たちが灰になって、後輩が炎を放った。
「『龍炎!!』」
俺と、ルーシーを抱える裕也は、爆風に吹き飛ばされないよう近くの結晶に掴まり、堪えた。
二人でルーシーを守りながら、踏ん張る。
「サクラ……人離れしすぎじゃん」
「俺らも負けてられ──」
一瞬、結晶が赫く染まった気がした。
「なんだ?」
【龍】の方を見ると、その口から灼熱の炎を吐き出さんとしているのが見えた。
「裕也!ルーシーを影の中に引きずり込んで、安全圏へ連れていけ!」
「……!」
裕也は瞬時に理解し、ルーシーとともに影の中へ潜っていった。
閃光が迸る。
「サクラァ!!」
閃光と爆音で視界も聴覚もまともに機能しない。
だが、俺は魂が見える。
サクラの魂を目指して走り、手の感触を頼りに覆いかぶさる。
「『守る!』」
久しぶりに、【鬼】と声が重なった。
―――――
龍炎を返され、意識が飛んだ。
眠りの中で、誰かがこちらを見ている。
「誰だ?」
『それはこちらの台詞だ』
誰かはゆっくりと近づいてくる。
それは、和服を纏い、腰に刀を携えた男だった。
「俺は……水越サクラだ」
『水越?──ああ、なるほどな』
「お前は何者だ?」
『お前と“縁”を結んだ者と、縁を結んだ男だ』
「縁?」
『お前に人としての連なりがなくても、“名前”を共にすれば、それは立派な繋がり。縁だ。だから、お前は俺と繋がれた』
「名前……もしかして、じいちゃんの知り合いか?」
『知り合い……まあ、そんなもんだな』
「ふぅん……で、アンタは俺に何をしてくれるわけ?」
『そうだなぁ……俺も急に繋がったから何がなんだか分からないが……なんとなく分かるぞ? お前、今、負けたな?』
「まだだ!」
『その不屈の精神、とても大事だぞ。けど、負けを認めることも大事だからな?』
「ふぅん、じいちゃんみたいなこと言うんだな」
『ハハハ……そうか……』
「なんか、変なこと言ったか?」
『言ったさ。またアイツと戦いたくなったんだ。なかなかムカつくことしてくれるな』
「もしかして……」
『さて。じゃあ、お前に戦い方を教えてやる。これから先の戦いは、お前の直感だけでどうにかなる戦いじゃない。だから、俺が教えてやる。一個だけな』
「一個だけ?」
『怪人は概念武装を持てる。【炎】には“神を斬る刀”、【王】には“何者にも遮られない衣”、【鬼】には“絶対に折れない剣”……などなど。【花】にもあるだろ? “花を咲かせる剣”』
「つまり?」
『お前、【人】なんだろ? なら、お前の概念武装を作ってみせろよ』
意識が遠のく。いや、覚醒していく。
―――――
「っ……」
目が覚めると、俺に覆い被さるように八上さんが倒れていた。
「八上さん!?」
八上さんの肩を掴み、声をかける。
しかし、八上さんは答えない。気絶しているようだ。
「……ありがとうございます」
八上さんをゆっくり寝かせ、立ち上がる。
結晶に包まれた花の都は、辺り一面の焦土と化していた。
そんな中でも、結晶に包まれたエッフェル塔には傷一つなく、【龍】も健在だった。
その焦土の真ん中で、影神さんが【龍】と戦っている。
「なぜ、この子を狙う!!【龍】!!」
『――――』
「深淵に包まれろ!」
辺りの影から黒い紐のようなものが伸び、【龍】を拘束する。
ギチギチと音を立てながらも、確実に【龍】は抜け出せずにいる。
「彩花!やるよ!」
『まかせて!』
「『万花万雷の太刀!』」
……これが【花】の概念武装。
俺の、【人】の概念武装は?
とにかく、今は目の前の龍を斬るのみだ。
「『うおおおおおおお!!!』」
「サクラ!突き刺せ!!」
影神が叫ぶ。
「『了解!』」
足に力を込め、飛ぶ。
切先を龍に向ける。
「『死ね!!』」
恐ろしく硬いその皮膚に、刀の切っ先をほんの少しだけねじ込んだ。
「くっ……ダメか……」
影神がそう呟く。
しかし、
「『十分だ!! 花よ、その根を巡らせよ!!!』」
ねじ込まれた切っ先から花の根が伸び、【龍】の身体を駆け巡っていく。
「龍、その力、貰うぞ」
刀を引き抜くと、龍の身体中を巡るエネルギーが俺の中に流れ込む。
どんどん流れ込んでくる。
『待って!! なに? この量……おかしい! おかしいよ!! 底がない!!』
――――ああ……うざったるい……
『花よ……お前は……なにがしたい?』
龍の眼がこちらを向く。
「『お前を殺したい』」
『殺す……?』
すると、【龍】は影の拘束を振り払い、俺を振り落とし、その翼を広げて天に昇る。
「そりゃ、そうか……影の拘束でコイツを止められるわけがない……」
「『マジか』」
天で翼を広げた龍は、再び赫く光る。
「サクラ! こっちに来い! 影に匿う!」
影神が手を伸ばす。
だが、俺はその手を拒否し、八上さんを蔓で引き寄せて影神さんに渡し、飛ぶ。
「おい!」
『え!? え!? え!? なにしてんの!?』
「俺は【人の怪異】だ!」
腕をクロスさせ、肩に爪をめり込ませる。
そのまま皮膚と肉を切り裂くように腕を動かす。
裂けた身体からドロドロが溢れ出す。
「これが! “大衆の腕”だ!!」
ドロドロが形を成し、無数の腕となる。
腕は伸び、今にも炎を吐き出そうとしている龍を捕らえた。
「ダメ押しだぁぁ!!」
足に力を込め、地面から花の蔓を出し、龍の口を塞ぐように巻きつける。
全力で、全ての腕と蔓を引き寄せる!
「地面に顔、埋めてこい!!」
【龍】は勢いよく頭から地面に叩きつけられ、その衝撃で龍炎が弾け、頭から激しく火柱が上がった。
「オラァァ!! これが俺の概念武装だ!!」
『ちがぁぁぁぁう!!! 絶対に!!』
その瞬間、龍の腕に掴まれた。
龍はゆっくりと顔を上げる。
その顔は爛れ、顎は完全に崩壊していた。
『……龍炎で一思いに……慈悲のつもりだったのだが……いらないようだな?』
龍の声色は、これまでの落ち着いた荘厳なものから、明らかに殺意と敵意が剥き出しになったモノへと変わっていた。
まずい。そう思ったのも束の間、俺は吹き飛ばされ、エッフェル塔の結晶に叩きつけられた。
「サクラ!」
影神さんが叫ぶのが聞こえた。
『影に隠した子供を……出せ!!』
長い尾で影神を掴み、何度も何度も地面に叩きつける。
「っ!?」
『出せぇぇ!!』
龍は翼を広げ、空高く飛び立つ。
『死ね……』
翼の動きが止まり、落下を始める。
「なっ!?」
地面にぶつかる直前、龍は尾を振り、掴んでいた影神を離して地面に叩きつけた。
影神は血を吐きながら嗚咽する。
すると、影に匿っていた八上とルーシーが、影神の影から吐き出された。
「え……」
「ま……ずい……」
激痛が走るなか、影神は怯えるルーシーに覆い被さる。
しかし、龍はその影神を引き剥がし、怯えるルーシーを手に取る。
「やめ……ろ!!」
『花よ……』
「やめろ!!!」
影神が立ち上がり、影の手を伸ばす。
しかし龍はそれを払い除け、影神を踏みつけた。
「あぁぁ!!」
サクラはふらつきながらも立ち上がる。
『これが……お前を殺す……者だ……花!!』
龍はルーシーを掲げる。
そして、一匹の分体が龍に向かって飛んできた。
「『待て待て待て待て!!! やめろぉぉぉぉぉ!!!!!!』」
走り出す。蔓を出し、ドロドロを使い、1秒でも早くルーシーに手を──!
「『ルーシー!!!!』」
「助けて!!!」
「『手を!!』」
『……無駄だ……』
瞬間、視覚外からの分体による体当たりで、俺は吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながら、ルーシーの手がこっちを追うように伸ばされるのが見えた。
そして──
ルーシーの身体は無理やり、分体と繋ぎ合わされて、【龍人】へと変えられた。
ご精読ありがとうございました!
ルーシー!なんで……なんでだよ!!




