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第十一話 ルーシー

 あの、おねにいさんがこの国に来た時、空を我が物顔で飛び回る龍達がざわつき、暴れ出した。そして、その瞬間、空に現れたカッコいい船は龍達を薙ぎ払い、美術館の方へ着陸した。


アベルはそれを見て、私の手を引いた。

「あそこに乗ってる人たちなら、助けてくれるかもしれない!!」

私もそう思った。

崩れた結晶の下を小さい体で潜り込み、龍達に気付かれないように進んでいった。


初めて入った美術館は、あまりにも静かで、いつも五月蝿いショッピングモールとの違いで心が寂しくなった。

そもそも、ショッピングモールから出るなって言われてるのにこんなところまで来て、怒られるって思った瞬間、瞳からポロって涙がこぼれ落ちた。

そんな私を見たアベルは慌てふためいて、私を抱きしめてくれた。

そうすると、心が落ち着いて、息が整った。


「回ってみよう!」

アベルと私は生まれて初めての美術館を見て回った。

人っこ一人居ない静かな館内は、私たちだけの貸切で、寂しい心は無くなって、ウキウキ、ワクワクした。


まぁ、そうやって辺りを何も考えないで歩き回った結果、迷った。


「ここ、どこぉ?」

「わかんない…」

また、心が寂しくなった。


そんな時、扉の向こう側から声が聞こえた。


 「その行動にそれまでの命令された統率感がなく、不定期にそれが起こる。」


 扉の向こうに、人がいる!

 アベルが扉を開ける。


 「あ、あの…」

 

 見たことのない人が居て、いつも助けてくれる人も居て…


 「なんでこんなところに居るの?だめだよ!危ないよ!」


 優しく、私達を想って怒ってくれる人…


 そんな優しい人を怒らせてしまったという罪悪感で、涙が溢れた。


 そこで、私たちは、おねにいさんと出会った。

 カッコよくて、可愛くて、不思議な雰囲気の人で、心の底から安心できた。


 ーーーーー


 怪人のお兄さん達が戦いに向かった。

 私とアベルはショッピングモールの屋上からおっきい門に向かうおねにいさんを見届けた。

 「勝って…おねにいさん!」

 「おねにいさん…いい呼び方だね…」

 アベルは私の手を強く握り、三カ所で起こる戦いの余波を見守った。

 

 激しい戦いが繰り広げられているのが、遠目でもわかる。

 沢山の龍が空を駆けて、おねにいさん達の方へ絶え間なく向かっていく。

 龍達は焦っているんだ。


 「あの日みたいだ…」

 

 そう、アベルが呟いて、咄嗟に口を塞いだ。

 アベルはいつもそうやって、私に配慮するようにあの日の話をしない。

 でも、私はその気遣いが寂しい。

 だって、あの日を思い出して悲しくなるのは私だけじゃないから。

 アベルだって、いつまでも涙を流す。

 割り切れるはずがない…私達はまだ10歳なのだから。

 それでも、私達は子供を捨てなくちゃならない。こんな世界で、子供は生きていられないから。


 ーーーーー1年前


 「襲撃だァァァァ!」


 知らない人の声が響き渡り、私達は、ただアベルのお母さんに泣きつくしかできなかった。


 「大丈夫だからね…大丈夫だから」


 アベルのお母さんは、私達二人を抱き寄せて、縮こまった。

 ちょうどその時、私達はショッピングモールの近くにある教会に来ていて、そこで龍達の襲撃を受けたのだ。

 幼い私たちでも分かるぐらい血気迫った状況で、すぐそこに死があった。


 ふと、見上げると、光差すステンドガラス越しに旋回する龍達の影が見えた。

 私は、悲鳴が出そうになるのを必死に手で押さえて涙を流しながら堪えた。

 龍達は耳がとてもよく、私が声を上げた瞬間、私達の死は確実なものになるからだ。


 「大丈夫…安心して…」


 アベルのお母さんが私達を強く抱きしめてそう呟く。


 しかし、周りに居た他の大人達は恐怖に耐えられずに立ち上がり、走り出してしまったのだ。一人、また一人と。

 静かだった教会は一瞬にして喧騒に包まれ、それと同時に全てのステンドグラスとその周囲の壁が壊され、比較的小柄な龍達が教会内に突っ込んできた。


 水面で蠢く魚を狩る鳥のように、走り、騒ぐ大人達を的確に強引に、連れ去っていく。


 血が飛び散り、悲鳴が伝播し、そこは地獄絵図と化した。

 それでも私達は必死に恐怖を抑えながら、教会の奥へゆっくりと這って向かった。

 幸いなことに、龍達の目は良くなく私達は奥の部屋に逃げる事ができた。

 扉の向こう側では未だに悲鳴が響き渡り、その光景が計り知れる。

 

 「大丈夫…大丈夫…」


 それでもアベルのお母さんは私たちにそう言い続けた。

 「…お母さん…」

 アベルの瞳に涙が浮かび、それを見て私もいつのまにか泣いているのに気づいた。

 声は出せないのに、涙だけがポロポロと落ちていった。


 しばらくすると悲鳴が止み、音が消えた。


 アベルのお母さんは私達の手を引き、教会から出た。


 アベルのお母さんは教会の様子を見て絶句しながらも、私たちの目を必死に塞いで足早に教会から出た。

 その光景を見る事はなかったが、ピチャピチャと何かが滴る音がただ聞こえ、足元のヌメヌメした感触が恐怖を煽ってきた。


 教会から出ると、目の前のショッピングモールから人が逃げ出し、空の龍に捕まれ、連れてかれるのが見えた。


 まだ襲撃は終わっていなかったのだ。


 阿鼻叫喚の渦。


 私達は一日でどれだけ地獄絵図を見るのだろうか…


 その時だった。


 私達の背後から、聞きなれない足音が聞こえ、私達3人は咄嗟に後ろを振り向いた。


 そこには、人と龍が無理やり繋ぎ合わされたような気色の悪い化け物が立っていた。


 後に、これが先月連れていかれた叔父さんだったとアベルのお母さんと怪人のお兄さん達との会話を盗み聞きして知った。


 確かに、今にして思えばアベルとアベルのお母さんの顔は衝撃と恐怖が入り混じった最悪な顔をしていた。


 「逃げてッ!」


 アベルのお母さんが私たちを突き飛ばし、化け物に飛びかかった。

 咄嗟の出来事でよくわからないまま、地面に転がり、顔を上げると、顔にアベルのお母さんの鮮血がかかった。

 横腹を貫かれたようで、アベルのお母さんは声にならない声を出して、苦しんだ。


 「やめて!!」


 アベルはそう叫び、お母さんに抱きついた。

 私もハッとして、アベルに倣って動いた。

 しかし、化物は動きを止めず、アベルのお母さんを殺すために、その足を振り上げた。


 「やめろぉぉぉぉ!!」


 聞き覚えのある声が響き、アベルのお父さんが化け物に体当たりして、化け物を吹き飛ばした。

 「なんで!!兄貴!!」

 アベルのお父さんが泣きながらそう叫び、化け物に石を投げた。

 化け物は石に怯む事なく、ゆっくりと歩き出す。

 「リリアンさん!3人を頼む!」

 アベルのお父さんは、そう告げて化け物に立ち向かった。

 アベルのお父さんがリリアンと呼んだ人は、私のお母さんで、お母さんは怪我をしたアベルのお母さんを背負って、私達に着いてくるように言った。

 「待って!お父さん!!」

 アベルが泣きながら、アベルのお父さんの方へ向かおうとする。しかし、お母さんがそれを無理やり止めて、私たちを半ば引きずりながら安全な方へ向かって行った。

 「誰か助けてよ!!」

 アベルが何度もそう叫ぶが、怪人達は、ショッピングモールで激しい戦闘を繰り広げているようで、こっちに来る気配がない。

 

 アベルのお父さんが化け物に張り付き、何度も殴る。しかし、化け物はそんなこと気にもせず、私達の方へゆっくりとゆっくりと歩いてくる。


 「ーーーあ」


 アベルがそう溢し、何事かと思ってアベルのお父さんの方を見る。


 異形の龍が二匹、アベルのお父さんを覗き込むように化け物の背後に降り立っていたのだ。


 「お父さん!!お父さん!!お父さん!!」


 何度もアベルがそう叫ぶ。しかし、その瞬間、二匹の龍がアベルのお父さんの右手と左足にそれぞれ噛みつき、一瞬にして、アベルのお父さんは上半身と、下半身に別たれた。


 ドバドバと血液が溢れ出し、アベルのお父さんは帰らぬ人になった。


 「あああああああああああ!!!」


 アベルの絶叫が響き渡った。


 お母さんは涙を流しながら、私たちを引きずり、路地に置かれたゴミ箱を見つけ、私達3人はゴミ箱の中に押し込まれた。


 その時、私は察した。


 あぁ、これでお別れだ。と


 すると、ボロボロ大粒の涙が溢れ出した。


 「お母さん…いやだよ」


 「私の、可愛い可愛いルーシー…ルーシーに…海の青さ、空の美しさ…世界の広さを教えてあげたかった…ごめんね…私の全て…ごめんね……」


 お母さんの顔にも大粒の涙。


 「ルーシー…最期のお願い…聞いてくれる?」


 私は強く首を縦に振った。


 「何があっても…そこで…静かに…待ってて…絶対に……迎えに来るから」


 「わかった、わかった!わかったから…泣かないで…」


 「ごめんね…バイバイ」


 ゴミ箱の蓋が閉じられ、ただ、龍の羽ばたく音だけが外から聞こえた。


 私達がゴミ箱から助けられたのは、それから結構すぐだった気もするし、途轍もなく長い時間が経っていたような気もした。


 でも、私のお母さんはどこにもいなくて、ゴミ箱のすぐ近くに、ありえない量の血痕が残されていただけだった。


 それがお母さんのものだと思いたくない…けど…


 私達は、この日から子供を捨てることに注力してきた。


 これが…一年前のお話


 私が見て聞いた一年前のお話。


 ーーーーー


 急げ…急げ…急げ!!!!


 「アベル!ルーシー!頼む!!無事でいてくれ!!」

 

 『サクラ!もっと早く!!急いで!!』


 目の前で起こっているショッピングモールへの龍達の襲撃。


 そこには、数多の人と、友達が住んでいる。


 絶対に…死なせない!


 その時だった。目の前からアベルが血相を変えて走ってきた。


 「おねにいさん!!ルーシーを助けて!!」


 アベルが、空を飛ぶ龍を指差した。

 

 その足には、小さな女の子…ルーシーが握られていた。


 「ルーシー!!!!」


 『飛ぶよ!!』


 「わかってる!!」


 足元に花を咲かせ、一気に丈を伸ばす。

 その勢いで自分を空に打ち上げ、万永春天を構える。


 「落ちろ!!」


 「おねにいさん!!」


 ルーシーがそう言い、俺に期待の眼差しを向ける。しかし、すぐにそれは消え、諦めの眼となる。


 龍と俺の間に、龍人が現れた。


 「は?」


 《アルベル…》


 龍人はそう呟き、万永春天ごと俺を蹴り飛ばした。


 「がァァァ!!」


 「アベルを…お願いします…」


 ルーシーがそう呟いた。


 そして、ルーシーを連れた龍は遥か彼方…エッフェル塔の方へ向かって行った。


 「『クソガァァァァ!!!』」


 「ルーシーィィィィ!!!」


ご精読ありがとうございました。

誤字脱字などがありましたら、報告よろしくお願いします。


ルーシーの家族

父 オレール

リリアンのお腹の中にルーシーが居る頃、リリアンを庇って死亡済み。

母 リリアン


アベルの家族

父 アルベル

母 エメ


叔父 アルフォンス

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