第十話 凱旋門の戦い その三
結晶の龍は凱旋門の前に降り立ち、その澄み切った瞳でこちらを睨みつけてきた。
『人よ…何故、龍を殺す?』
甲高い金属音と共に男の声で結晶の龍は問いかけてきた。
「……世界を救うため」
『その空虚なる心で…世界を憂うのか?』
空虚なる心…
『この地に辿り着いたのも…流れに身を任せたからであろう?』
…
『貴様に…それほどまでの…使命感はないだろう?』
……
『再び…問おう。"人"よ…何故、龍を殺す?』
「お前に答える義理はねぇよ。」
いくつもの花の蔓が結晶の龍を掴む。
「壊れろ。」
手を握りしめると、それに呼応して蔓が龍を握り潰し、粉々にした。
「無理やり接着したのか?お粗末な結合だな」
『まって…まだ壊れてないよ』
粉々になった結晶が再び集まり、龍の形となる。
『無駄…だ。』
「めんどくせぇな。お前はなんなんだよ」
『【龍】だ』
結晶の龍は天をも切り裂くような大いなる爪をこちらに向けて振り下ろしてきた。
『受けちゃだめ!』
「見りゃわかる!」
横に飛び、爪を避ける。
コンクリートの地面が豆腐のように切られていき、まるで水面に手を入れ、水を切るように水面から手を放つように、その爪がコンクリートに潜りながら持ち上がっていき、横に飛び避けた俺の眼前に迫る。
「あ、まっずい!」
咄嗟に避けることもできず、足が切断された。
「…ちっ」
『痛い!痛い…痛くない…?』
なんで、コイツは今更…
「俺の身体に慣れて無さすぎ…」
切断面から黒いドロドロが溢れ出し、新たに足が構築された。
「くそっ…力を使いすぎた…もう、纏う戦い方はできない…」
『え!!ヤバいじゃん!』
「ここからは、純粋な【花の怪人】として戦おう。信じてるぞ…彩花!」
『まっかせんしゃい!』
【花の怪異】と【花神】の二つに分たれた時、彩花に残された力はそう多くなかった。
しかし、100年という歳月は彼女を【花の怪異】として開花させた。
「魅せてあげる。世界をぶっ壊した花の力、その一端を!」
一瞬にしてシャルル・ド・ゴール広場は花畑と化した。
花弁が舞い上がる。
『…花神っ!!!!』
結晶の龍は花畑の上に立つ、"私"の姿を見て花神と宣った。
「違う!私は新木彩花だ!」
私は、万花万蕾の太刀を地面に突き刺す。
ーー花は運ぶ…死を
ーー花は言祝ぐ…終焉を
ーー花は世を包み、奪い去る
ーー根を張り、奪い去る
ーーされど、我はそれを赦さず
ーー我は花
ーー彩りの花…
未完成の"収束終焉詠唱"
ハナの記憶から読み取った詠唱式…
この詠唱は、万花万蕾の太刀を
開花させる詠唱だ
ーー目覚めよ…万の蕾よ
万花万蕾の太刀から根が伸び、周囲の花畑の花が次々に枯れていく。
「これが…"万永春天"…」
万永…そして春天…この言葉の意味は100年間かけてハナの記憶を辿っても見つけられなかった。
きっとこれは、"最高位神システム"による"世界創世"の影響による振り落とされた言葉だ。
この世界が創生される以前の世界で用いられていたであろう言葉がこの太刀には名付けられている。
私は"コノハナサクヤヒメ"のことを知りきれていない。
私は"全神"のことを知ることができない。
私は"悪神"のこともわからない。
だけど、私はこの世界を救う。
よく知らないモノに世界を奪われる前に私が世界を救うんだ。
万栄春天は私に応えるように、その桃色の刀身を淡く光らせた。
『…その姿…やはり貴様は花神の分け身か』
「はぁ…私は、新木彩花なんだよ!」
私は飛び出し、結晶の龍に斬りかかった。
結晶の龍は私の太刀を両足で止める。
「時間が無いの!一気に終わらせるよ!」
太刀に力を込める。
すると、刀身から蜃気楼のように花の蔓や、花弁が浮かび上がる。
「はぁぁぁ!!」
結晶の龍の足がメキメキと音を立てて、粉々に砕け散る。
勢いよく振り下ろされた太刀を切り返し、切り上げる。
「終わりだ!!」
結晶の龍の体に太刀がぶつかり、その体が砕け散る。
しかし、これで倒せないのは自明の理
が、私には秘策がある!!
「花よ、咲け!!!!!」
結晶の欠片一つ一つに確実に花の根を飛ばし、その中に秘められたエネルギーを吸い尽くす。
左腕を前に突き出し、ジェ◯イがフ◯ースを使うように力を込める。
「ご馳走様」
結晶の龍は灰になって消え去った。
「勝ったよ〜」
私は、残された龍人の死体の下に駆け寄る。
「…花の力で龍を吸えばなんとかなると思ったんだけど…」
その死体を観察すると、人としての部位とそうで無い部位がしっかりと縫い合わされているのが見えた。
「…龍の力云々ってレベルじゃ無いんだね…はぁ…ごめんね…助けてあげられなくて」
『…彩花は一体…なにを見て、知ってきたの?』
心の中のサクラがやっと声を出した。
「いつか、記憶を共有する…か?いやぁ…やめとこ。」
『なんで?』
「人の魂が【花の怪異】数千年分の記憶を受け止められない。その、魂の容量を超えているからね」
『そっか』
「まぁ、龍を倒して落ち着いたら重要なところをしっかりと教えるよ」
『わかった。』
これで、凱旋門の開放は終わった。
「よし、これで【人】の力も回復したな」
『私は疲れた。』
「じゃあ、今度こそ…」
エッフェル塔を見る。
「いくぞ!」
走り出す。
その瞬間、
背後で人の悲鳴、爆発音、
不吉な金切音が響き渡った。
咄嗟に振り返ると、
ショッピングモールの方で黒煙が立ち昇ってた。
「アベル!!ルーシー!!」
ご精読ありがとうございました
誤字脱字などがあったら、報告お願いします
最高位神システム
世界創世
全神
悪神
この四つの単語のうち下の二つは、"怪異譚"の世界観だけを楽しむ場合は記憶に留めておく必要はありません。しかし、この"怪異譚"が終わって、それからも続く私の世界を楽しんで下さる場合には覚えておくとちょっと嬉しくなれる単語です。
ちなみに、これはまぁいいかな?って思うので言いますが、全神は既に出演済みです。そして、その際も似たようなことを言っていたような気がします。
悪神自体は登場しませんが、悪神の化身…悪神の眷属は既に…
それと、万永という単語ですが、今後のストーリー、これかれ紡がれる物語で再登場するかは分かりません。
それは、私にもわからない。ってことですね!




