第一話 花は咲く
世界が狭くなって100年目。
俺は100年前の広い世界を知らない。
俺にとって、世界はこの東京帝国が全てだ。
「シップさん、おはよう」
「はい!おはようございます!」
朝ごはんはシップさんが作ってくれる。
この人のご飯はものすごく美味しい。
「シップ!水越さん起きてる?」
奥の部屋から聞こえたこの声の主はクウさん。
空のことにとてつもなく詳しくて、小さい頃はよく星や宇宙の話をしてくれた。
主に、家の"基盤"を修理しているそうだ。
「ん!ご馳走様でした!じいちゃん起こして仕事行って来ますね」
「ありがとうございます!お願いしますね」
1番奥の部屋、"管制室"という部屋に向かう。
「じいちゃん!起きて!クウさんが呼んでたよ!」
毛布を剥がし、体を揺さぶる。
じいちゃんと呼ぶにはあまりにも若々しいこの男。
「まって…まだ…」
「水越争太!起きなさい!」
思いっきり横腹を蹴る。
「いってぇな!!」
じいちゃんが飛び起き、目をうるうるさせる。
「はぁ、もっと優しく育てればよかった…」
「行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい!サクラ」
家を飛び出して、森の中に入っていく。
俺の仕事は簡単な【怪異】退治。
普通の人は【怪異】を認識できなかったみたいだけど、今の世は違う。
この星全土を"冥界"が包んだからだ。
【怪異】による人的被害が後をたたない。
故に、【怪異】を殺せる俺達みたいな存在はこの国では重宝されている。
皇帝陛下も【怪異】らしいけど、悪い人じゃないから【怪異】にも良いやつ、悪いやつが居るみたいだな。
しかし、この森に巣食う【怪異】は明らかに違う。
花の根に侵され、身体中から花を咲かせて蠢く。
この世界をこんな姿に変えた元凶である【花の怪異】の瘴気に侵された結果だ。
そうこう考えていると、目の前から【獣の怪異】が現れた。
狼のような見た目で、花が生えている。
「こいよ。」
涎を垂らしながら【獣】が迫る。
腰に携えてきた斧を抜き、そこに"黒いドロドロ"を纏わせる。
「死ね」
大きく口を開けて飛び込んできた【獣】の首を一刀で切り落とす。
「まず、一匹」
ダメ押しで【獣】の身体に穴を突き刺す。
「どんどん行こう」
森の中をずんずんと進んでいく。
草を掻き分け、いつもの道を行く。
しばらく行くと、土を踏み固められ、舗装された道に出た。
「あれ?こんな所に神社なんてあったか?」
そこには、とても綺麗でしっかりと整備された神社があった。
「心が…ざわつく…」
物理的に。
ーーそこに…誰かいるの…?
ハッとして神社に顔を向ける。
「そこにだれか…いるのか」
ーー居る!!
整頓された石階段を駆け登る。
衝動的に走り出した。
たとえそれが人の声じゃないと分かっていても
この心のざわつきはこの先に行かなければ治らない。
だから、俺は駆け登る。
蔓が巻き付いた鳥居を潜ると、そこには花に侵食された境内があった。
境内には、たった一つの祠があった。
「その中か?」
辺りの花が揺らめく。
ああ、これは、目覚ませたらいけない存在だ。
だけど、
「やってみるか!」
斧に黒いドロドロを纏わせる。
「壊れろ!!!」
木製の祠に対して斧はベストマッチ。
一撃で祠は粉砕。
祠の中から光が溢れ、辺りに花が舞う。
そして、花が集まり、人の形となる。
「【花の怪異】…!!!」
『……いや!私はーーーー!』
ソイツはクルクルと回り、ピタッと止まる。
『新木!!彩花ァァァ!!です!!』
「え…」
その名前は三人からよく聞いてきた名前の一人。
【花の怪異】に成ってしまった哀れな…
『あ、私は別に哀れな女じゃないから。そこだけは勘違いしないで!逆に…罪な女だから…』
なんだ?この人、テンションおかしくない?
『しょうがないでしょ?何年もこの狭い所に…』
「なんでですか?」
『え?あれに』
空で煌々と輝く満月を指差す。
「あ!皇帝陛下に!?」
『え、【月の怪異】って今、そんな身分なの!?』
「あ、はい。」
すると、新木彩花が俺の体を舐め回すように見る。
「な、なんすか?」
『なんか、君へんな身体してるね?』
「え、貶してる?」
『違うよ…そうじゃない。その魂と、その身体…全然噛み合っていない。なんだろうね、私からしたらその身体は破茶滅茶に嫌いな雰囲気だ。でも、魂だけは…
その時、背後から微かに足音が聞こえた。
『…始まりの刻か。』
そこには、白装束の…【月の分体】が立っていた。
『え、ごめん。私何も知らない!!』
「あ、俺も」
しかし、【月】はそんなことどうでもいいかのように鎌を構える。
『き、君!戦える?』
「当たり前でしょう」
斧に黒いドロドロを纏わせ、構える。
『ーーやっぱり、君は…』
鎌を持って【月】が迫る。
『私が足止めする!』
【月】に蔓が巻きつく。
しかし、【月】はそれを瞬時に切り裂き、俺の眼前に迫る。
『覚悟なきものが【花】に触れるなどあってはならない。』
鎌が振り下ろされる。
それに、俺は反応なんて、出来るわけない。
肩から大きく斜めに切り裂かれ、
血が溢れる。
『君!!』
あー、もう。
「五月蝿いなぁ。俺の名前はサクラだ。」
溢れ出した血液が静かに体内に回帰する。
つくづく、俺の身体は…
『その身体、どうしてそこまで醜悪に成り果てた?』
「醜悪?なかなか言ってくれるじゃないか」
『やっぱり君は、【人の怪異】なんだね。』
ーーーーあぁ…
「身体は…な。この魂は正真正銘、純粋な人間だ。」
やめろ。その顔を…
あれ?
『かっこい!!!!』
これは想定外。
「普通、キモいとか言うんだけど…」
『なにがキモいの?それが君…えっと、サクラなんでしょ?だったら、誇りな。君は、カッコいい』
ふぅん、
「彩花はさ、なんで俺に助けを求めたの?」
『罪を償うために…世界を、戻すために…こんなところで縮こまっていたらなーんにも始まらないでしょ?』
「…そうか。」
ーーーーー◯年前
「そうして世界は冥界に包まれた。」
じいちゃんは毎晩、俺にこの話を聞かせてくる。
「彩花は…どこに行ったの?」
「わからない…でも、近くに落ちてる気がするんだよなぁ…」
「じいちゃんは、世界のためにまた、戦わないの?」
そう聞くとじいちゃんは優しく微笑んで俺の頭を撫でる。
「戦っているよ。みんな」
「そっか!」
そして、最後に必ずじいちゃんはこう言うんだ。
「サクラは、サクラの怪異譚を紡げ。お前はきっと、この袋小路に追いやられた世界の運命を打開するキーパーソンだ。」
「できる?」
「出来るさ。お前は、この水越争太の孫なんだからな。」
ーーーーー
彩花も戦うと言っている。
まだ、みんな戦っている。
きっと、ここがターニングポイントなんだろう。
なら、俺は…
「新木彩花!いや、【花の怪異】!」
【花】はびっくりしたように目を見開く
「俺の名前は水越サクラ!【戦争の怪人】水越争太の孫にして、【人の怪異】!俺は、願う。世界を救うために、共に戦ってほしい。」
俺は手を差し伸べる。
彩花は、朗らかに笑い、その手を取る。
「契約だ!」
『うん!……え!?』
彩花が光の粒子となり俺の中に入り込んでいく。
「ここに、花は再び咲く。」
辺りの花が祝福するように体を震わせる。
『成ってしまったか。その覚悟、本物か、見定めさせてもらうぞ。』
「ああ…来いよ。」『なんか、すごい!やったるぞ!』
終焉を迎えかけたその世界に最後の希望、その一輪が咲き乱れた。
ご精読ありがとうございました!!
誤字脱字など諸々がありましたら、報告お願いします
水越サクラ!
サクラ?そういえば、そんな名前の人…いたっけ?




