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前日譚•後編

 あの海戦から三年もの歳月が経った。

 連日のように陸上戦や海戦、空戦を繰り広げ、そのほとんどが大敗。


 我が国は滅亡へ向かっている。


 伊刻は島で行われた作戦に配属され、その精神を病ませ、戦争の瘴気に侵された怪人からの猛攻撃を受け、戦線を離脱。


 伊刻はこの国の最高戦力の一角として重宝されているため、伊刻を逃がすためにも数多の命が消費されその事実に伊刻は絶望し、戦意を喪失。もう、涙を流すだけで口もきけなくなった。自殺しようにも、その命に託された命の数におびえ、震えることしかできない。


 真奈狐は集合的無意識である夢の番人であるが故に皆の絶望を一身に受けてしまい、昏睡状態に陥った。


 エルネスは海戦で俺に負け、捕虜として尋問を受けていたが、怪人故にすべての拷問が意味をなさず、あきらめた軍はエルネスの身柄を含めて全てを俺に放り投げてきた。かわいそうだし、米国に送り返そうかとも思っていたのだが、エルネスはすでに死亡判定であり、そもそも、米国に送り返す手段がないため、今は俺の家でおとなしくしてもらっている。


 伊刻と真奈狐が壊れ、エルネスのような瘴気に侵された怪人が跋扈する現在、その打開方法を俺は平和に相談することにした。


 「戦争を倒した場合、冥界が消え、その事実はなくなるのか?」


 『残念だがそれはない。戦争が消えようと、この第二次世界大戦の歴史は消えない。死んだ者は戻らないし、壊れた者は治らない。』


 「じゃあ、どうすればいい?」


 『まず、現状を最小限と捉えて、今のうちに戦争を打ち倒す。その後、俺がどうにかやってみようと思う。』


 「平和の権能でどうにかなるのか?」


 『人は平和になると戦争を忘れる。それを拡大解釈させれば、精神面だけなら救済の余地はある。』


 「なるほど…」


 『しかし、戦争がどこにいるのか…』


 俺はとある作戦室の隅っこで頭を抱えながら平和と会議を繰り広げていた。


 その時、伝令が入った。


 空襲が始まった。と


 お偉いさんと目が合った俺は静かに頷き、大本営を飛び出した。


 その光景はこの世のものではなかった。


 地獄。そう言わずして何と言おうか・・・


 「平和!!これを落とした飛行機を追うぞ!!」


 『いや!!待て!!』


 空襲警報が鳴り響く。


 焼野原で正常に機能するはずのない警報機が爆音で警報を鳴り響かせた。


 気が付く。水平線の向こう側から爆撃音と業火が人々の悲鳴と共に近づいてきている。と


 目を凝らすと空には無数の羽虫?が飛び、そこから爆弾が落ちている。ことが分かった。


 「怪異…」


 その虫達はお互いに合わさっていき、一匹の巨大な蝶に変化した。


 「あれは…」


 『人の業の集合体…【戦争の怪異】だ』


 あれが、あの蝶が、【戦争】…!!!


 刀を抜き、飛び掛かる


 『待て!!今の俺らに勝ち目はない!』


 「だからなんだ!!三年間、一度も顔を出さなかったんだぞ!!ここで、ここで戦わずして、どうするんだ!!」


 『それは…』


 蝶の鱗粉が爆弾となり、大地に降り注ぐ。


 爆音が響き渡り、人々の悲鳴がかき消される。


 溶けた街が流動し、遥か彼方で羽ばたいていた蝶がもうすぐそこに、


 「コイツ…」


 バサ、バサと羽を動かし、鱗粉を撒くだけで【戦争】はなにもしてこない。


 まるでこちらの事が眼中にないように。


 ただ、爆弾の雨が降り注ぐだけ。


 しかしそれだけで大地は壊れていく。


 水のないこの場所で、俺が【戦争】と戦えるはずもなく、【戦争】はどこかへ消えていった。


 ーーーーー


 「ーーどうすりゃいいんだよ」


 家で頭を抱える。


 「……なにかあったのか?」


 家の奥からやけに白い男が顔を出してきた。


 エルネス•バードだ。


 かつて【紛争の怪異】であったエルネスだが、俺に敗れて以降、その能力を失い、今では見る影もない程に弱体化している。


 「【戦争】を見た。」


 「よく生きて帰ってきた!」


 「……アレは俺を認識していなかった。まるで自然災害の如く、俺の上を通り過ぎて消えていった。」


 「それでもアレは今では"神"に片足を突っ込んだ存在だ。それと遭遇し、生き延びたのには賞賛に値する。」


 「あぁ、そうだな。」


 確かにそう思う。


 「だが、俺はアレを倒さなくてはならない。何がなんでもだ。そんな奴が生き延びただけで一喜一憂していていいのか?」


 「それもそうだな…」


 「【戦争】を倒すにはどうすれば良い?」


 「……【平和】にかかっているのでは?」


 『そんなこと分かりきっている。だが、今の世は完全に【戦争】の独壇場。【平和】とは真逆のこの世で俺は力を出せない…そうだろう?』


 そう話しているとエルネスがふと、考え出した。

 

 「怪異の力の源って、人の感情や願い、思い、恐怖、エトセトラ.....なんだろう?」


 『エトセトラってのは分からないが、その通り。』


 「なら、おかしくないか?私や争太のように、【平和】を望む者は多いはずだ。そんな状況下でも平和は権能を行使できないのか?」


 『.......』


 【平和】が黙り込み、頭を捻る。


 『できるかもしれない。いや、しかし、それでは.......まさか、問題は俺側にあるのか?俺が、”平和”を信じ切れてないってのか?』


 「つまり、【平和の怪異】が自分自身を信じれていないってわけか?あるいは、」


 『あぁ、俺が、【戦争】を恐れているんだ。』


 ーーーーー


 ”戦争”を恐れないなんて無理だろう。

 

 ”闇”は怖い。”死”は嫌だ。”悪”には近寄りたくない。


 そんな根源的な怖さに近いんだ。


 終わりの見えない”戦争”が、怖い。


 そうか、そうだよな。


 ”戦争”の弱点が”平和”なわけじゃないんだ。

 

 ”戦争”を終わらせたいと、”平和”を願う思いが”戦争”への最高の対抗策なんだ。


 そして、”平和”を簡単に壊し尽くす”戦争”は”平和”の最大の弱点なんだ。


 なら、俺達は”平和”を乞い願おう。


 【平和】は自分を信じるために街へと飛び立った。

 

 涙を流して”平和”を願う人達を糧として、救うために。


 「なら、俺はもう一度あそこに赴こう。」


 水分山へ


 「あぁ、待ってくれ。出かけるのか?私もついて行ってもかまわないか?」


 「え?あぁ、いいよ。」


 ーーーーーー


 「こんな山に原初が居るのかぁ」


 「エルネスはここで待っていてくれ。」


 「ん?あ、あぁ。わかったよ」


 エルネスを水越の屋敷に置いて、俺は山の中に踏み入った。

 

 ーーーーー


 「【水の怪異】!!この国が危ない!!もう、大変なんだ!!」


 『ふむ。遅かったな。もう少し早く来るかと思っていたぞ。』

 

 洞穴の奥、からジャラジャラと鎖の音を響かせながら【水の怪異】が現れた。


 『もう少し能力を譲渡しよう。』


 「能力?」


 『水がないところでも海上と同等の水を使用できるようになればどうとでもなるだろう?』


 ・・・・・・はぁ、


 「それができるなら早くそうしてほしかった。」


 『お前が【平和の怪異】と力を共有したからだ。詳しいことは説明が難しい故、おいておくが、お前はいい選択をした。』


 「あ、ありがとうございます。」


 『では、疾く行くと良い。終焉の星が降る。そこに【戦争】は現れる。』


 終焉の星?


 『行け。』


 「は、はい。」


 こうして俺は【水の怪異】から能力の一端を譲り受け、山を下りた。


 ーーーーー


 「あ、戻ったか。ん?やっと【水の怪人】に成ったのか?」


 エルネスは畳の上で寝転がって待っていた。


 「いや、ちょっとだけ力を貰ったにすぎない。」


 「それでこれほど変わるのか?流石、原初だな。」


 「ふぅん。」


 俺達は屋敷を後にする。


 ーーーーー


 「もう八月か。」

 

 「そういえば、アレは、どうなったんだ?」


 「アレ?」


 「なんとか計画...えっと...ダメだ、思い出せない。」


 「内容は?」


 エルネスの表情が明らかに暗くなる。


 「詳しくは知らないんだ。しかし、あれは確実に大量殺戮兵器だった。」


 「大量殺戮兵器.....」


 「そうだ。思い出した。ーーーーーーーーだ。」


 聞き覚えのない名前。


 しかし、焦燥感を駆り立てる。


 これは、なんなんだ?


 この、感覚は、


 ーーーー終焉の星


 「違う、よな?」


 頼むぞ。


 やけに赤い夕焼け空が俺達を照らしていた。


 ーーーーー

 

 「そういえば、夢結の屋敷が近かったな」


 「見舞いに行くか?」


 「そうするか。」


 俺達は夢結の屋敷に入り、真奈狐の部屋へ向かった。


 「相変わらず、人がいない家だな。」


 部屋のふすまを開ける。


 「あれ?どうしたの?」


 夢結が布団の上で体操をしていた。


 「真奈狐!!目が覚めたの!?」


 「え?うん。あれ?私、そんなに寝てたかな?」


 「二年。」


 「くぁすぇdrfgtyふじこlp!?」


 なんだ?その声にならない声は 


 「私寝すぎじゃん!!って、どうして私は起きたのかしら?」


 「こっちが聞きたいよ。」

 

 三人で頭を捻ったがよくわからず、俺とエルネスはあきらめて帰路についた。


 しかし、真奈狐が目を覚ました。


 うれしいことだ。


 あとは、伊刻かーー


 ーーーーー


 「あっ!!エルネス!争太!!」


 家に帰ったら伊刻がそこにいた。


 「伊刻ぅぅぅぅ!!よかったよぉぉぉ!!どうしたの?」


 「わからないんだ。海戦からの記憶が混濁していて、」


 俺とエルネスは顔を見合わせる。


 「これは、【平和】が言っていたというあれか?」


 「じゃあ、その本体はどこに行ったんだよ。」


 「私に聞くな。しかし、だとしたら【平和】が力を得たんだろう?喜ばしいことじゃないか。」


 「そうだな。」


 しかし、いつまでも【平和】は帰ってこなかった。


 ーーーー


 その日はとてもよく晴れた日だった。


 俺と伊刻、夢結、エルネスは松代で待つ荒浜中尉のもとへ向かった。

 

 「よく来てくれたな。」


 「本日は、どのような、」


 「君たちにはここに移り住み、この地を守ってほしいんだ。」


 「え、エルネスもですか?」


 「無理か?」


 「母国の兵を殺すのはちょっと.....」


 「まぁ、そうだよな。正直、エルネスにそこは期待していない。で、概要説明だな。」


 「まず、ここに大本営を移す計画が進んでいてな。それで、この周囲に例の【戦争の怪異】やその瘴気に侵された怪人が近寄らないようにしていてほしい。」


 「そんな重要な情報、俺達に、


 「いいんだよ。多分、この国はもう負ける。この計画も頓挫する。そして、俺は今から中国地方に向かう。」


 「そうなんですか?」


 「そうだ。そして、俺はそろそろ死ぬだろうな。」


 「「「「え?」」」」


 四人の声が合わさった。


 「俺が死んだとき、お前たちはこの国を守るために鉾を国や世界に向けてくれ。この国は上が腐りだしている。しかし、俺ではどうにもできん。この中途半端な立ち位置では、な。」


 「荒浜中尉.....」


 「じゃあな。”神殺しの英雄”」


 なぜか荒浜中尉は俺の目を見てそう言った。


 この人は変に見透かしたような人だった。


 そして、八月某日、荒浜中尉がとある町で敵国の新型爆弾の被害にあい、殉職したと訃報が入った。


 荒浜 櫻(あらはま さくら)の最後は悲劇で幕を閉じた。


 ーーーーー


 そして、【戦争の怪異】が現れた。


 俺達は戦争を終わらせる最後の決戦であるとして、念入りに準備し、松代を去った。


 ”絶望”の【紛争】に支配された青年は”希望”の【羽】を広げ、夜闇の下に立った。


 「待っててね、リリス。この戦争を終わらせるから。」


 【夢】を従えた少女は人々の理想を、”夢”を叶えるために、夜闇の下に立った。


 「終わらせよう。この絶望を。」


 【槍】を握った少年は最愛の仲間を守るために、夜闇の下に立った。


 「絶対に、守り切る。」


 【水の太刀】を握った少年は”平和”を願い、【戦争】を終わらせる。


 「行くぞ。」


 ーーーーー


 月明かりに照らされて四人は長い道のりを経て、俺達は【戦争の怪異】が現れた場所に向かった。


 そこはやけに静かな町だった。


 人っ子一人いない。


 「.......怪異の結界.......か」


 その時、空襲警報が鳴り響いた。

 

 全員が空を見上げた。


 一機の飛行機。


 「なんだ?あれ.......」


 「逃げろ!!!!」


 エルネスが叫び、羽根を出して皆を遠くまで吹き飛ばした。


 「ーーっくそ」


 たった一つの爆弾が投下された。


 音が消え、景色が消えた。


 ーーーーー


 「こ.......こは…?」


 目が覚め、体を起こすと、周囲にあった町が崩壊し、火の海となっていた。


 ふと、目の前を黒い蝶が横切った。


 「!!!」


 空を見上げると蝶たちが集まり、巨大な一匹の蝶に成っていた。


 「【戦争の怪異】」


 ーーーーー


 震えろ。


 狂え。


 その狂気の向こう側には甘美なる褒美が待っている。

 

 殺せ。


 壊せ。


 その凶行の向こう側には比類なき絶望が待っている。


 贖え。


 嘆け。


 その先で、誰も貴様らを称賛しない。


 その先で待っているのは、さらなる【戦争】。


 我は待つ。


 我は待つ。


 我は終わりなき【戦争】の先で待つ。


 いつまでも、いつまでも、我は待つ。


 貴様らは追われ、終われない。


 たったひと時の甘美なる勝利に酔いしれ、


 終われない。


 我はそれを見届けよう。

 

 我はそのすべてを許容する。


 さぁ、その絶望を、末路を、恐怖しろ。


 我は【戦争】


 終わりなき、【戦争】


 さぁ、続けよう。


 この【戦争】を。


 ーーーー


 焼野原となった台地の上に俺一人。


 三人がどうなったのかなんて、考えたくない。


 俺は空で俺を見下す【戦争】を見据え、太刀を握る。


 「何事にも、終わりはある。始まったのなら、それは終わりまで走るだけ。これまでの全ての絶望と決別しよう。これからも絶望は待っている。それでも、この絶望からは決別しよう。それが、それだけが、お前を終わらせられる唯一の希望。それが、”平和”を乞い、願う心だ。」


 ーーーそうか。


 ーーー貴様は、()()なのか。


 【戦争】が初めて、俺を見た。


 「やっと、俺を認識したな?」

 

 水の太刀を抜く。


 焼け野原の台地に水が現れ、その形をいくつかの龍の顎門と変える。


 「一点、集中。"龍極水線(りゅうごくすいせん)"」


 超高圧縮された水が放たれ、【戦争】の翅を裂く。


 間髪入れず、太刀の刃に水を集め、回転させる。


 「収束•水刃(しゅうそく•すいじん)


 刀を振る。


 水で作られた刃が飛び、【戦争】の身体を二つに切り裂いた。


 【戦争】の身体が灰となったように砕け、散るように消えた。


 「終わらない…よな」


 その時、空襲警報が鳴り響いた。


 「なんだ!!」


 空を見上げると、いつの間にかいくつもの飛行機が空を跋扈し、いくつもの爆弾が降り注ぐ。


 「…明鏡止水」


 ーーーーー時間の流れが止まる。


 否。


 一時的に動体視力を極限まで上げ、全てを凌駕する力を得る。


 「収束•水刃!!」


 全ての飛行機を斬り落とす。


 ーーーーー時間切れ


 「くっそが…」


 膝をつく。


 そして、落とされた爆弾が地面に接触し、周囲は爆煙と炎に包まれた。


 「いっ…てぇ…」


 すぐに再生する筈の身体が上手く再生できない。


 ーーー終わりか


 『終わりじゃねぇよ!!!』


 久しぶりに聞いた声。


 俺の目の前に純白の竜が現れた。


 天使のような羽を持ち、荘厳で、美しい純白の竜。


 『久しぶりだな!』


 「遅いわ。【平和】!!!!」


 『さぁて、契約だ!!』

 

 「ああ!!俺に力を貸せ!!【平和の怪異】!!」


 【平和の怪異】が光の粒子となり、俺の身体に入っていく。


 『さて、終わらせるぞ!』


 「おう!」


 ーーーーー


 瓦礫の下で悶え、叫ぶ。


 「おぉい!!争太!真奈狐!エルネス!」


 しかし、応答はない。


 「だめ…か。」


 『なかなか深いところに落とされたな。』


 「しかも、遠くで争太が戦う音が聞こえる。これじゃあ、【戦争】が俺達を遠ざけたみたいだ。」


 『ないことも、ないだろうな。』


 「とにかく、頑張るぞっ!!」


 ーーーーー


 「大丈夫か?夢結」


 唐突に爆弾によって、瓦礫の下敷きになった。


 しかし、エルネスが羽を広げそれを庇ってくれた。


 「あり、がとう。」


 「これは、不味いな。【紛争】が共鳴してる。」


 エルネスが頭を抑える。


 「大丈夫?」


 「…大丈夫だ。ちょっと、うるさいだけだ。」


 にしても、ここから出る術が考えつかない。


 「上で水越が戦っている。」

 

 「早く行かなきゃ!」


 「この状況でどうしろと?」


 「っ、」


 「まぁ、いい。私が羽で瓦礫を溶かしている。少しづつだけどな。」


 「どれぐらいかかる?」

 

 「分からない。上にどれだけの瓦礫が積み重なっているのか分からないからな。まぁ、いい。そんなことよりも、夢結は大人しくしていてくれ。」


 「わかった。」


 ここで私にできることなんてない。


 エルネスに託そう。


 ーーーーー

 

 【平和】の羽を広げて、水の刀を握り、空を駆ける。


 「"平等たる世界"」


 今、この瞬間から俺と戦争の間に差は無くなった。


 「水よ輪転せよ。」


 水の輪が出来上がり、回転する。


 「"水天"」

 

 雨が降った。


 触れたモノ、全てが安堵するような、暖かい雨が。


 しかし、ただ一つの存在は悶え、苦しんだ。


 【戦争】は悶え、その姿を分裂させる。


 数多の虫の姿に変わり、雨を拒絶するように散り、飛ぶ。


 それに乗じて、俺は空高くまで舞い上がる。


 眼下に広がる一面の焼け野原。


 すっと、手を挙げる。


 「この世の水は俺のものだ。」

 

 降り注いだ、注いでいるすべての雨粒が一瞬にして動きを止めた。


 それらすべての雨粒は小刻みに震え、天へと昇っていく。


 俺の頭上で巨大な水の塊が生まれ、胎動する。


 手をゆっくりと下に向ける。


 「"水獄"」


 圧縮された水がいくつもの光線のように放たれ、辺りを抉り、壊しながら余すことなく【戦争】を貫き、切り裂き、壊していく。


 【戦争】の残骸は漆黒の灰となり集まり、龍を想起させる動きで天まで、俺の元まで迫る。


 「"和を以て"」


 平和の羽根が降り注ぎ、【戦争】を喰らう。これには、【戦争】も根を上げたのか、それとも、


 「第二段階に入ったか…」

 

 灰の体となった【戦争】は意志を失ったかのように風に流され、地面に降り注ぐ。


 ーーーー人の業、


 ーーーーそれは、


 ーーーー同族を喰らってでも生きながらえようとしたこと


 ーーーー我は赦す


 ーーーー故に終わりを許さない


 ーーーーいつまでも、どこまでも、


 ーーーー終わることなどない


 ーーーー絶望の先で


 ーーーー気づくといい


 ーーーーその業を


 『刻は満ちた』


 瓦礫の上にたった一人の男が立っていた。


 見覚えのある姿。


 それは、【戦争】がこの世で唯一認識した人。


 「俺の姿を…模倣しやがった」


 『戦争を続けよう。"人間"』


 【戦争】が手を空に翳す。


 『あり得ない!!【戦争】が"意志"を持つなんて!!』


 大地を覆うほどの銃達の銃口が余すことなく俺を向く。


 『掃射』


 いくつもの、いくつもの、銃弾が迫る。


 「"和を以て"!!」

 

 羽根を落とし、舞わせることによって迫る銃弾を灰に変え、壊そうと画策するが、無理だな。


 「翔け!!」

 

 『ダメだ!!』


 視界を埋め尽くすほどの羽根。


 身体中に激痛が走る。


 「ーーーくっ…」


 飛行力を無くし、落ちていく。


 「くそ…が」


 ゆっくりと立ち上がる。

 

 『始まる』


 本当に、気持ち悪い。俺の顔と声で喋りやがって…


 瞬間、世界が揺れた。


 空が赫く染まっていく。


 鳴り止まない警報音。


 焦燥感が駆り立てられる。


 「なんだ!!?」


 『マズい…【戦争】が、"神"になる』


 神…だと?


 『"世界は創世される"』

 

 俺の姿をした【戦争】が空に昇っていく。


 「"創世"って…」

 

 『止めないと、世界が終わる!!』


 「詳しく聞く時間なんて…ないよな」

 

 空の奥に神々しく光る穴が現れる。


 ーーーーー世界は祝福する


 ーーーーー新たなる神の誕生を


 ーーーーー汝は何を望む


 『戦争の終わらぬ世界』


 ーーーーー世界は"創世"される。


 ーーーーーしかし、


 『「ゲイボルグ!!」』

 

 「"衰亡の羽根"!!!」

 

 ーーーーー天へと至れぬ者に神の資格はない


 【槍】と【羽】に貫かれた【戦争】が落ちていく。


 「エルネス!伊刻!」


 「「いくぞ!」」

 

 【戦争】が地面に落ち、立ち上がる。


 『ーー阻む…か』

 

 「争太みたいな顔しやがって」


 「俺の中に碌でもないものいれやがって…」


 【戦争】の前に【槍】と【羽】と【平和と水】が立つ。


 世界が終わる前に、


 終焉に立ち向かう者達が唯一そこに居た。


 彼らを知る者は居ない。


 しかし、君達は知る。


 "救世主"はそこに居る。と


 『戦争は終わらぬ。世界は混沌に満ちる』


 【戦争】が表情を変えずこちらを睨む。


 「俺達はそれを拒絶する!!」

 

 俺が【戦争】に刀の切先を向ける。


 「"帝国陸軍怪異戦術部隊"……作戦…開始」


 【帝国陸軍怪異戦術部隊】vs【戦争の神】


 世界を救え


 「『ゲイボルグ!』」

 

 先手を切ったのは伊刻だ。


 紅き槍は一直線に【戦争】へと向かっていく。


 しかし、【戦争】は突き刺さる直前に槍を片手で掴んで止めてしまった。


 「良い先手だ!」


 槍と共に飛び出した俺とエルネス。


 「衰亡の羽根」


 エルネスの羽根が【戦争】の足元を腐食させる。


 そして、


 「平和なる、世の為に!!」


 平和の羽根を纏った水の刃は【戦争】の首を切り落とした。


 『それほどまでに望むのか。』


 戦争をーーー


 大地から大いなる水の本流が如く、灼熱の灰が舞い上がる。


 「ぐっ…」


 「『あっつ!?』」

 

 「なんだ…これは!!」


 気がつけば空を覆うほどの巨大な蝶がそこにいた。


           お


           ち


           ろ


 たった一度、蝶が羽ばたいただけ。


 たったそれだけで、


 そこは本当の地獄と化した。


 「どうすれば…いい」

 

 【平和】に問う


 『奴は"創世"を実行していないだけにすぎない。つまり、空にいるのは"神"そのものだ。』


 「じゃあ、どうしようもないのか?」


 『奴を神という括りからこちら側まで引き摺り落とせれば…あるいは…』


 神という括りからこちら側まで?


 そうか。


 それしかない。


 一か八か。


 「【平和】!()()()()()()()()()()()()()はできるのか!?」

 

 『わからない…そんなこと…』


 ふと、目の前で倒れるエルネスが目に入った。

 

 エルネスは【羽の怪異】と契約したのち、何かしらの要因をへて、【紛争の怪異】と強制的に契約を結ばされた。


 つまり、


 『可能…なのか?』


 その時、水の太刀が淡く光った。


 「【水】?」


 ーーー強制契約には条件がある。


 「え?」


 ーーー1つ、怪人であった経験があること


 ーーー2つ、その体内に怪異を宿していないこと


 ーーーこの2つを有した肉体


 ーーーこれがあれば強制契約は成し得る。


 「わかった!やろう。俺が、【戦争】と契約して【戦争】を俺の中に鎮め込む!!」


 ーーーーー


 「【平和の怪異】、短い間だったけど、ありがとう。」


 『良い』


 「【水の怪異】、急に現れた俺に力を貸してくれてありがとう。」


 ーーーうむ。


 「行ってくる。」


 俺の体から光の粒子が溢れ出し、目の前に【平和の怪異】が現れる。


 『乗れ!』


 「おう!!」


 純白の龍に乗り、降り注ぐ爆弾を水の刀で斬り伏せ、【戦争】の頭上へと昇る。


 「ありがとう!!」

 

 龍の背から飛び降りて、俺は刀を投げ捨てる。


 「【戦争の怪異】!!強制解約だ!!」


 蝶の上に降り、手を翳す。


 「お前は人が生み出した恐るべき業の化身。それは人が精算しなくてはならない原罪の一つ。しかし、それは人が精算するにはあまりにも大きすぎる。故に、我の中で眠り、精算されるその日まで大人しくしていろ。我が名は水越争太。今、この時、この瞬間、契約を成す。」


 『無意味だ。』


 その瞬間、世界は光に満ちた。


 ーーーーーそれが願いなのですね。


 ーーーーー()()


 【戦争の怪異】は光に包まれ、水越争太の中に入っていった。


 「これで、終わりだ。」


 後の世で、この日は【終戦の日】と呼ばれた。


 あの瞬間、光の中で聞こえた声が何者なのか、今でもわからない。


 しかし、悪い気はしなかった。


 この後、四人はアルトライを見つけ、シップとクウと出会い、エルネスが怪人協会を発足し、戦争によって母国に帰れなくなった怪人を助けるようになった。皆んなが母国に帰り、最後に自分が母国に帰ることを夢見て。


 これが、前日譚。


ご精読ありがとうございました!


神ってなに?

さぁ…


あの声って誰なの?

まぁ、知らなくても怪異譚は楽しめるかな


先輩?

魂がそうなんじゃない?


とにかく、ありがとうございました。

ちなみに、怪異譚世界では、原子爆弾は落ちてません。その前に終戦してます。


負けは負けですけどね。

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