終焉
優希が放った豪炎が病に激突し、爆発が起こった。爆煙が風に流され、病の体が見えてきた。
「はい…クソ」
伊刻の怒りに満ちた言葉が放たれ、無傷の病が再び病魔の手を伸ばし始めた。
皆が無数の病魔の手を避けつつも次の一手を考えていた。
「どうしようも……ない…か」
朦朧とし始めた意識の中で伊刻は次の一手を決められずにいた。
病を倒すのに炎が1番有利だと思っていたからだ。
ーー熱殺菌。
炎以上に病に通じるものの心当たりがない。
ーーーーー
アルトライ艦内は慌ただしくなっていた。
病の怪異と罪の怪人の同時出現そして、
「彩花はどこに行ったの!?」
部屋で眠っていた彩花が消えたのだ。
シップとクウは病と罪の解析に勤しんでいる為、彩花係は夢結だったのだが、夢結がトイレに行っている間に彩花が消失した。
「シップ!クウ!まずいよ!!彩花が消えた!」
「「えええええ!?!?」」
シップとクウがすぐに彩花の、花の気配を辿り出した。
「マズイです…病の怪異の方に向かっています……さらに…」
シップが絶望的な表情を浮かべ、続ける。
「花の気配が濃くなってます…この濃さ……五大怪異に匹敵します……」
「どうして?そんなに気配が濃くなるなら気づかない訳ないでしょ…」
クウが頭を捻りながら喋り始める。
「もしかすると…花の権能で蕾に隠してたんじゃ?」
「あり得る話だね。まぁ、まずは……」
《ーーこちら水越。罪の怪人と怪人協会の戦闘に参戦する。》
「争太!!彩花が病のところに行っちゃった!しかも気配が五大怪異レベルになってる!!」
《ーーマジか…わかった。シップ、クウ、怪異の解析を止めて、"例の整備"を行ってくれ。》
「「わかりました。」」
《ーー罪討伐後、すぐにアルトライに戻る。》
「彩花はどうするの?」
《一旦、伊刻に連絡して、真奈狐が追いかけてくれ。》
「わかった。」
ーーーーー
夜空の下、新木彩花が走っていた。
『なんで私の体を使うのハナ!!』
「さぁ…ねぇ…」
『なにしてるの!?早く帰ろう?』
「ん〜、無理かな〜」
『ハナ!!』
「うるさいよ?黙っておいて」
ーーーーー
病との戦いは膠着状態を迎えていた。
病魔の手を避けるしか出来ない。
「……もう一度本気火力をぶつけてみるか…」
『なぜ攻撃が無効化されるのか』
「無効化されていなくて、ぶつかった瞬間に再生しているとしたら?」
『……あり得る』
「だったら、俺があいつに飛び乗って焼き続ければいいよな」
『賭けだけど…それはアリだね』
伊刻に無線でその旨を伝え、飛ぶ。
迫る病魔の手は伊刻と八上が打ち落とし、優希は病の表面に飛び乗る。
「『終わりの炎!!』」
病の怪異が表面から蒸発するように焼けていく。しかし、それに対応するように病がぶくぶくと再生していく。焼ける速度よりも再生する速度が上回りだす。
「火力上げるぞ!」
全力の火力で押し返していく。
どんどん病の大きさが縮んでいく。
「裕也!慎也!見ろ!!」
伊刻が叫ぶと同時に倒れる。
病が回りきってしまったようだ。それでも伊刻は槍を握る。
「あれが病の核だ!!」
伊刻が指差す先、焼かれる病の大きな目の裏になにかがあるように見えた。
「いくぞ鬼!!」
「やるぞ、影。」
影神と八上が伊刻を飛び越えて病に飛び掛かる。
「花よ…咲け」
病の怪異の中心から数多な種の花が飛び出し、病の怪異は完全沈黙する。
その場にいた全員が状況を飲み込めずに立ち尽くした。
「こんばんは」
いない筈の人間。
新木彩花がそこに立っていた。
『これは彩花じゃない。これは、』
「花の怪異…」
花の塊になった病の上に立つ優希がそう呟くと彩花が優希を睨みつける。
「カグツチ…久しぶりだね。」
「どうやって封印を解いた?」
「解いてないさ。ただ、この世全ての花の怪異はワタシと同期されていて、たまたまこの子にワタシの魂の欠片が混入していて、たまたまこの子が花の怪異と契約した。結果的にワタシが複製された。」
「本当にたまたまなのか?」
「さぁね。"神"の意思なんじゃないの?」
「神…」
「じゃあ、バイバイ」
彩花の足元から無数のツルが勢いよく伸び、周囲を飲み込む。
「退避しろ!!」
伊刻が忍を抱え叫ぶ。
彩花は巨大な一輪の花となり、動き始めた。
辺りの人、物、怪異を吸収しながらどこかに向かって動き出したのだ。
「あれが…神…」
『あれほどの力、どこで手に入れたのだ……』
ーーーーー
水越とミケが睨み合う。
「詰み…とか、そんなつまんないこと言わないでほしいよね。」
どこからともなく現れた幾つもの鎖が水越とエルネス、ヴォルフに襲いかかる。
「ノーモーション攻撃はやめてほしい。」
と言いつつも水越は銃剣を用いて全ての鎖を刻み落とした。
「終わらせようか。」
水越争太もとい戦争の怪人は【戦争】で行われた非道的な行為や作られた兵器、起こった事象などの全てを司る。
これまで彼が行使してきた攻撃方法はそのほんの断片でしかない。
銃剣を用いての白兵戦。
数多の銃を召喚しての掃射。
戦闘機を召喚しての掃射。
確かにこれらは戦争の名を冠する者として相応しい攻撃だ。
しかし、戦争の全てであるか?と聞かれると頭を傾げるしかない。
戦争の全てとはなんだ?
そんなもの一つだろう。
実際に人に向けられた回数はたった二回。
しかし、それは余りにも多すぎる。
あまりにも非人道的すぎる。
人として踏み越えてはいけない線をアクセル全開で踏み越えていった人の業。
「核爆発」
超小規模の核爆発が起こった。
水越の核爆発は影響を与える相手を制限できる。代わりに威力は減少するが、怪人一人を蒸発させるには十分すぎる威力を発する。
「贖罪」
爆煙の中から金色の鎖が高速で迫り来る。
その速度は人が反応できる範囲ではなく、反射神経が最近鈍ってきた水越では避けることなど不可能。てかそもそも、核爆発の反動でまともに動けない。
「貴方だけは!!」
水越が吹き飛ばされ、ヴォルフが金色の鎖に貫かれる。
「エルネス•バード…すみません」
ヴォルフが塵となって消え去った。
「あーあ…水越さんを庇って死んじゃったー」
ミケが塵になったヴォルフだったモノを蹴って弄び、笑う。
その姿を見てエルネスは激昂し、無数の羽根を飛ばすと共にミケに襲いかかる。
ミケはエルネスの攻撃を全ていなすと共にその身体を鎖で固定した。
「即落ち2コマってヤツ??キャハハハ!!無様だよねぇ…アンタ達じゃ絶対に敵わないってのにさ!あー、それでも戦うのは正義の味方を自称しているからか!!結局最期まで誰も救えなかったねぇ?"リリス"に顔向けできないでちゅねぇ〜」
「テメェええええええ!!!!!」
「何も出来ないんだから大人しくしなよ。」
「すまん。ヴォルフ…」
核爆発の反動で軋む身体を無理やり動かして水越はエルネスを拘束する鎖を壊す。
「一旦引くぞ…エルネス…」
戦闘機を召喚してエルネスと自分を乗せて空に飛び立つ。
空に飛び上がると、空の色が赤くが変質していることに気がついた。
「…シップ、真奈狐どうなってんだよ。これ、花の気配じゃねぇか。」
《……彩花ちゃんが逃げ出して……病を吸収しました…》
「嘘だろ…おい…」
瞬間、機体が揺れた。
「逃さないよぉ?ここで【羽】と【戦争】は頂いちゃいたいんで」
無数の鎖が戦闘機を貫き、爆発し、水越とエルネスが地面に叩きつけられる。
「反動に振り回されちゃってさぁ…70年間で弱体化しちゃったねぇ、戦争さん。」
「いいことじゃねぇか。戦争が起きないからこそ戦争は弱っていく。」
「だから皆んなを助けられないで死ぬんだから可哀想だよね」
二人を覆い塞ぐように鎖が輪転する。
ジリジリと鎖が近づく。
死が…近づく。
「致し方無い…」
水越の視界いっぱいに羽根が舞う。
ガリガリと音を立てて鎖が弾けていく。
「がああ!!!」
ポタポタと血が垂垂らしながらエルネスが立ち上がる。
「ハァァァ!!」
鎖が弾け飛ぶ。
「無駄な足掻きってやつぅ?」
ミケが追撃を放とうと手を伸ばす。しかし、その瞬間、ミケの腕が吹き飛ぶ。
「こんな簡単に敗れると思うか?」
罪と羽の決戦の火蓋が切って落とされようとした。しかし、そうはならず、
世界が揺れた。
天変地異が起きた。
ー神が生まれたー
《世界創世の予兆が確認されました!花の怪異が神に成りました!!》
頭に響いたシップの声。
咄嗟に空を見上げる。
赤く染まった空はいつの間にか白や桃色が混じり合った淡い色合いに変化し、あるはずのない桜の花弁で吹雪が起こっていた。
「なんだ…これ…」
《花の怪異による世界侵食開始、地球が花の冥界に包まれました!!》
《富士山火口にて強大な怪異反応!!》
《コノハナサクヤヒメ、活動再会…えっ、コノハナサクヤヒメ…反応消失…ああ!!!花の怪異がコノハナサクヤヒメと完全に同化!》
《現時刻をもって【花の怪異】を【花神•禍津木花咲耶姫】として登録します…》
立て続けに送られてきた報告は絶望するには十分すぎた。
「争太!!迎え!!」
「でも!!コイツを、ミケを放っておくわけには!」
エルネスが笑う。
「こんなヤツ、俺一人で十分だ。」
「……俺が来た意味なくなるだろ…」
「そうかもな!」
エルネスの羽根が水越に刺さり、そのまま水越を飛ばす。
水越が遥か彼方に消え、エルネス•バードは小さく呟く。
「じゃあな。最期にお前に会えてよかったよ。お前が来てくれてよかったよ。」
鎖がエルネスを貫いた。
ご精読ありがとうございました。
70年前編はこの章が落ち着いたら




