雪
天が空を動かす。目まぐるしく雲が移り変わり、漆黒の暗雲が空を覆い尽くす。
「避けられるかな?」
空に手を掲げ、不敵に笑う。さぁいくぞ。と眼を見開いて、思いっきりその手を振り下ろす。
「『万象、終焉の雷!!』」
無数の紫紺の雷が空を裂き、悪に降り注ぐ。何度も何度も降り注ぐ。
『…煩わしい…』
悪は雷を受けながらも歩み出す。
「いくぞ!」「裕也!指示を頼む!」
鬼の大剣に赤き閃光が走る。
「『鬼神断神』」
何を斬る?
決まっている。
『なっ!?』
鬼は悪の腕を全て切り落とす
「『つかめ!!』」
全ての腕が切り落とされた悪を何重にも重ねた影の腕で掴み、持ち上げる。
『何度も同じことをして…』
「考えてるんだよ」
影の腕から枝が伸び、悪の体に突き刺さる。
「一個、仕掛けもどうぞ」
パチンと指が鳴り、枝からさらに枝が伸び、悪の体にめり込む。
「裕也!!コイツ、胸の部分にクッソ硬いナニカがある!!多分、コレ、急所だ!!」
「あったのか!」
瞬間、悪の顔色が変わる。目も口も無い顔だが、一気に空気が変わった。
ソレを感じて、3人は確信した。
それが、悪の核である。
それを壊せば、悪は倒せる。
「鬼…アレを壊せば勝てるのか?」
『……かもしれない…』
「んだよ、歯切れ悪いな」
『トントン拍子すぎると…』
悪が身じろぐ。
「裕也!」
影神の焦りの声が響く。抑えていられる時間はそう無いようだ。
「………わかった」
鬼の大剣に赤き閃光が走る。
「『超越破壊』」
悪の核に大剣の切先が触れ、ほんの少しだけめり込む。
「『ハァァァァァァァ!!』」
ビキビキと音を立てて悪の体が軋む。
『ガァァァァ!!』
悪の悲鳴が響く。
『汝ら…よ…』
「いけぇぇえええ!!」
影神の声が響く
八上はソレに呼応するように力を込める。
八上の腰のあたりに悪の手が伸びる
「壊す!壊す!コワス!!」
八上の雰囲気が変わる。
「殺せ!殺せ!コロセ!!!」
影神の雰囲気が変わる。
二人の変化に雪は戸惑いを隠せなくなった。だが、二人の間に入ることは危険だ。けど、この雰囲気の変化は怖い。
「どうしちゃったの…二人…いや、そんなことより」
『守ることを忘れて……まさか…悪の…そんなのどうでもいいか…とにかく!』
「『壊せ!殺せ!』」
雪まで気配が変わり、殺意に包まれた。
『悪意に飲まれ…愚かなり』
一本の悪の魔の手が伸びる。
3人はそれに気づく余地もなく、
雪の腹部が貫かれた。
「えっ…」
血潮が迸る。
八上と影神がソレに気づいた時にはすでに悪の手は雪から引き抜かれ、雪が地面に伏していた。
「雪…」
八上の掠れるような声が響く。
『……コレで!天の力を手に入れた!!残念だったなァァァ!!全てがブラフ!!お前らは俺の顔を見た瞬間に戦争に助けを求めるべきだった!!あぁあ…いやぁ?無理ィ、だったなぁ!!!まんまと俺の"悪の瘴気"に犯されて!!"俺を殺すという悪意"に呑まれたお前らが戦争に助けなんて求められねぇよなぁ!!』
二人はそんな言葉には目もくれずに雪に寄り添う。
雪は息をすでに引き取っていて、その目は見開いたままだった。
「なんで…」
八上が自分の行動を思い出し、地に伏す。
なんで殺すことに執着してしまったのか、なんで、そんなことをしてしまったのか。深い絶望感に襲われて二人は唖然とすることしかできなかった。
『この力を使って、まずは"王"を吸収し、"戦争"、"槍"、"羽"、そして、メインディッシュは"夢"を頂こう……か』
高笑いする悪がふと、横を見る。
絶望し、地面に伏していた二人がゆっくりと立ち上がり涙と殺意に満ちた瞳で悪を睨んでいた。
「…許さない」
鬼がそう言った。
『なにを…だ?あー!守るべき者を守れなかった自分自身を、か!!』
「…殺す」
影がそう言った。
『誰を…だ?まさか!悪意に呑まれて大切な人を守れなかった自分自身を!?』
悪がケラケラと笑い、二人を煽る。
二人は心の底から沸々と湧き出る気持ちを押さえつけ、グッと涙を拭い、痙攣する胸を深呼吸で整えて、悪を見据える。
「…覚悟しろ。」
『こっちの、セ•リ•フ!!!』
二人と悪がぶつかる。
ーーーーーーーーー!!!!!!!
その瞬間、世界が揺れた。
また、触手か?と思ったがどうやら違う。
ソレは爆発のようなモノで、三者は反射的に空を見る。
『嘘だろ…』
悪が狼狽える。
空にはたった一人の男が立っていた。
水越争太だ。
「……悪意に呑まれるとは…な。」
水越は頭を押さえて目を瞑る。
「覚悟は出来ているんだろうな?」
水越の冷徹な目が悪を睨みつける。
悪は両手を上げて降参のジェスチャーをする。
「容赦はしない」
水越が指鉄砲を悪に向ける。すると、水越の周囲に無数の銃が現れ、その銃口が全て悪に向けられた。
『ここで終わるわけにはいかない…!!雲よ!!』
悪から雲が溢れ出し、視界が悪くなる。
「ちっ。」
水越は銃口を下す。変に撃って二人に当たったら終わりだから。
すぐに水越、夢結、伊刻、ヴォルフ、ミケ、エルネスが駆けつけ、雪の状態を見てくれた。
即死だった。
しかし、水越が言った。
「……あれ、魂の欠片がない…」
それに皆がギョッとして雪の身体に手を向けて目を瞑る。すると、全員がソレを確認する。
「それが、なんなんだよ、水越さん」
「…まだ助かる。」
「「え??」」
「人は死ぬ時、魂が破損する。だから、破損した魂の欠片が身体に残るんだ。その時に残った欠片が零れ落ちることで人の怪異が生まれる。ソレが普通。だけど、今回はおかしい。この身体の中に魂の欠片が残っていないんだ。一片も。それはなぜだと思う?」
「えっと…」
「天の巫女だから、だと思う。天の巫女として生まれつき怪異の世界に片足突っ込んでた雪が怪人となったことによって、天の怪異と雪の魂が完全に融合した。だから、雪は天の怪異として悪に取り込まれた…と仮定できる。」
「それで…」
「怪異が怪異を吸収した場合、吸収された怪異は中で完全に個を確立できる。」
「つまり…」
「悪の中から天を引き抜く事で雪は戻ってくる。」
「……じゃあ…」
「悪を倒しに行くぞ。」
それから40年間、悪の怪異は現れなかった。
今、悪がどこで何をしているのか分からない。
雪の遺体は火葬してアルトライの近くの山に埋葬し、位牌として雪が好きだった漫画のヒーローの剣を突き立てた。
「絶対に…助けに行くから」
これは鬼と影と天の物語。
これはまだ未完の物語。
いずれ終わらせなくちゃいけない物語。
ご精読ありがとうございました。
誤字脱字などありましたら、報告お願いします。
自動車学校とか行ってたらいつの間にか時が過ぎてました。
水越が雪を悪のある場所に連れて行った理由ですが、正直に言います。
もう、その時点で悪意に呑まれていました。
「命の危険のある場所に分かっていながら送り出す」悪意です。
アトヅケジャナイヨ




