天の巫女
私たち三人が水越さんに手を引かれてヴァルフォールのアジトであるアルトライに入った。
アルトライの中には可愛い女の子と男の子、すっごくカッコいいお姉さんとお兄さんがいて、私にとって物凄く眼福だった。
「この子が天津家の…ね。」
お兄さんが近づいてきて私の顔を覗き込んだ。
「あっはい!天津雪です!」
「ん?あっ、伊刻……伊刻湊だ。よろしく」
可愛い名前…なんて声に出したらまずいかな?
「はい!よろしくお願いします!」
すると、お姉さんも私に近づいてきて私の頭を撫で始めた。
「えっ?えっ?」
「夢結真奈狐よ〜よろしくねぇ」
「はい!」
「あとねぇ、あそこで君のお友達と話してるのは争太でぇ、その周りであたふたしてる可愛い子達、女の子の方がシップちゃん、男の子の方が、クウくんよ」
名前も可愛い…
「雪ちゃん…貴女はね、大変なモノに目をつけられてしまったの。でも、私たちなら守ってあげられる。」
それは嬉しいけど、私は
「家に帰らないとなんです。」
「ん?なんでだ?」
「お祖父様が…」
すると二人は目を見合わせる。
「そっか、じゃあ私達で送ろうかしらね。いいよね〜?争太〜」
水越さんが、ん?と体をこちらに向けて聞き返す。
「雪ちゃん帰らないといけないらしいから、湊と送ってもいいよねぇ?」
「あー。おう!任せた!」
「うん!じゃあ、帰りましょうか!」
私は伊刻さんと夢結さんに送ってもらい帰路についた。
はじめて空を飛んだ……
ーー
「じゃあ、何かあったら、ここに連絡してね?」
夢結さんが番号の書かれた紙を渡してくれた。
「ばいばーい!」
二人はスッとその場から消えた。
私は家の扉を開けて言う
「ただいまー」
返事はない。
「…はぁ」
広い家に私一人。
帰らなくてもバレないと思うけど、バレたら大変なことになるから帰らないといけない。
長い廊下を進んだ先にある大きな庭…その奥にある洞穴…
「私、狙われてるみたいですよ」
洞穴の中には祠があって、そこに天の神様が眠っているらしい。
怪異を知った今、それは神様でなく、怪異なんだろうなぁってなんとなく思う。
「ご飯…何食べようかな…」
とぼとぼとキッチンに向かい、夜ごはんを作る。
四年前にママが死んで、パパが壊れて、家には私とお祖父様しかいない。でも、お祖父様はいつもどこかに出掛けていて滅多に帰ってこない。
「ママ…会いたいよ…」
『辛いか…』
「えっ!?」
咄嗟に振り返る。誰もいない。
今の声は?頭を傾げながら前を向く。
『上手なんだな。料理。』
目の前に和服の女の人が居た。
「えっ!?だ、だ、誰ですか!?」
『僕はヤゴコロオモイノカネノミコト…の名前を受けた天の怪異だ。』
私の前に天の怪異が現れた。
『僕が君を愛しすぎたせいで君を危機に晒してしまったみたいだね。ごめんよ』
本当に申し訳なさそうにして天の怪異が頭を下げた。
「いや、大丈夫です。私の友達が…助けてくれたから…」
『そのせいで友達は人の世から逸脱したんだろう?それでは本末転倒ではないか。』
「じゃあ、今すぐに二人の怪人化をといて、人の世に戻してくださいよ…神様なんでしょう?」
声が震える。目の周りが熱い…
『残念ながら怪人契約は片道切符。どうすることもできない…』
沈黙が続く。
私はごはんをそのままにして立ち上がり、キッチンを出た。
『ご飯は食べないのかい?』
「はい。なので、好きに食べちゃって下さい。」
『そうかい…』
ーー
布団に潜ると考えが巡って自分の愚かさが目に見えてくる。
なんでこんなに私は弱いんだろう…
二人の前ではいつものおちゃらけた私だったけど、罪悪感で死んでしまいそうだ。
私が大人しく連れてかれれば…なんて思ったけど、きっとそれでも二人は契約する。二人共じゃなくても結局どっちかは契約するだろう。そう言う人間だから。
じゃあどうすればいいのか?
私が居なきゃよかったわけで…はぁ、
「こんな気持ちになったことないよ…」
私はどうやって生きればいいの?
『僕のせいだからさ、気に病むことはない。圧倒的に僕が悪いんだからさ。』
……むぅ
「勝手に私の部屋に入って来ないで下さい。」
布団から起き上がると、私の真横で正座している天の怪異が居た。
「…なにしてるんですか」
『言っているだろう。僕が悪いんだ。故に、こうやって目に見えるように謝意を示しているんだ。』
はぁ…この人はこんなに綺麗な顔、整ったスタイルをしているのに…勿体無いほどに
「バカなんですか?」
『まさか、天津の人にそれを言われるとは…』
「他の人には言われてたんだ」
『そうだね。主に……水越家の人はよく僕に悪態をついていたよ』
水越……
「さっき水越争太って名乗る人に会いましたよ」
すると天の怪異は驚いた顔で目を瞑る。
『そっか…まだ紡がれていたんだね。やっぱり水の怪人?』
「いや、えっと…戦争って…」
『……戦争…そうか、戦争…つまり、平和と水が手を貸しても戦争は倒しきれなかったのか…』
「え?」
『いーや、なんでもないよ。』
ふわぁ…あくびが…
『眠いよね?ごめんよ、起こしてしまって…僕は消えるさ、おやす
「そこで、一緒に寝て下さい…」
え?私何言ってんの!?脈絡ないよ!?
『えっ!?』
「あっ!いや、すみません…ちょっと…一人だと、あの、」
『なるほどね!いいよ!寝よう!僕も寝たい!』
布団に入り込んでくるな!
「まぁ、いっか…」
久しぶりに人(?)の温もりを感じながら眠りにつけた。
ーー
朝、目が覚めると、人外の美女が異様なほどの寝相の悪さを発揮していた。
「……私の布団を取らなかったことだけは許す」
天の怪異は悪い怪異ではなさそう…
「ご飯作るか」
正直に言うと嬉しかった。人の温もりを心のどこかで欲していた身としてはとても心地よい眠りだった。
「でも、天の怪異はなんで急に現れたんだろう…」
『可哀想だったから?』
うわっ、びっくりした。
「そうなんですね」
『そっけないね。一緒に寝た仲だろう?』
何この人…人じゃないな
「ご飯作ります。好みあります?」
『魚!』
「はい。」
ちょうど鮭があったな。
そそくさと朝食を作り、食卓に並べる。
「ちょっと豪華になっちゃった?」
『そのくらいがいいんだよ』
二人でパクパクと朝食を食べ、学校の準備をして、学校に向かう。
『僕もついていこうかな』
慎也と裕也のいない学校は物凄く退屈だった。
ーー
帰り道をとぼとぼと歩きながら今日のことを思い出す。
「学校…楽しくなかった」
『友達いないの?』
この人はずっと付いてくるし、デリカシーのないことを言うし…
「そうですけど?なにか?」
『……ねぇ、雪ちゃん…あのさ…もし、君がよかったらなんだがね』
「はい?」
天の怪異が何か言いかけたその時、
「おや、天の巫女ですね?」
背後から急に喋りかけられ、驚き、振り向く。
色素が抜けたような見た目の男の人が立っていた。
「こんにちは。まさか、ここで貴女と出会えるとは。うーん、なんとも運命的ですね」
天の怪異が私を庇うように前に出る。
『この子は僕の子だよ。君みたいな人との運命なんて無い。大人しく諦めなナンパ男くん』
そう言われて男は悲しそうな目をする。
「貴女は私達にとって最も尊ぶべき存在なのです…どうか、どうか、私と共にいらして下さい」
天の怪異が何か言おうとしたがそれを遮って声に出す。
「まず名前!」
男はハッとした顔をして「すみませんでした」と平謝りをした。
「私の名前はエルネス•バード。私達を忘れ去る人の世の者たちに断罪を下す【怪人協会】の会長です。」
なるほど、だから、忘れない私を尊ぶべき存在と
「貴女のお友達が怪人となったこと心から祝福いたします」
『やっぱり君みたいな人に僕の子はあげられないかな』
いつの間にか天の怪異の周囲に四本の刀が浮かんでいた。
「天の怪異と戦える日が来るとは夢にも思っていませんでしたよ。」
エルネスは純白の羽を広げ、高らかに笑う。
私の前で怪異と怪人が激しい戦闘を始めた。
「……座ってようかな」
路肩にあったベンチに座り、戦闘を眺める。
なにがなんだか分からない戦いではあるが、天の怪異が優勢であることはなんとなくわかる。
「はぁ…」
「退屈ですよね」
っ!?いつの間にか隣に女の子が座っていた。
「あぁ、警戒しないで下さい。私に敵意はありません」
「…信用できないんですけど」
女の子の目は明らかに人のものでは無い。
「……ミケ、と申します。」
「…雪です。」
沈黙が続く。
「えっと、ミケ……ちゃん?は、怪人なの?」
「はい。鎖の怪人です。」
「鎖?」
こくん、と頷いた。
「ミケちゃんも怪人協会…なの?」
「はい…」
ここは、協会について聞いてみようかな
「協会って…なにをしているの?」
ミケちゃんは考え込むように頭を傾げる。
「…怪人の人を助けること…かな」
「怪人になったら人から忘れられるんだよね」
「…うん。だから、その人達を助けるんだ。」
「でも、断罪って……」
「うん。たまに人を殺すんだ。」
「なんで?」
「……お願いされて…とか、いろいろ…かな」
「へぇ」
なんでか分からないけど、ミケちゃんは何かを隠していると思う。ワンテンポ遅れる時になにか隠しているように感じる。
ただ感じるだけ…なんだけど
「……よく無いのが来ます。」
ミケちゃんが立ち上がり、鎖でエルネスと天の怪異を掴む。
「一旦待って下さい。強大な何かが…」
そう言うと二人はわかってるよ…みたいな顔をする。
「……わかっているなら止めて下さい。」
「すみませんね。」
ゆっくりと二人を下ろしてミケちゃんは私の目を見る。
「貴女みたいな子、好きよ。」
クスッと微笑んで、エルネスと共に消えた。
『…悪が近づいてる。一旦帰ろうか、僕の手を取って』
私は天の怪異の手を取る。すると、フワッと浮かんで空を歩き出す。
「わっ!すごい!」
空を歩く。という感覚は普通に生きていたら絶対に感じることができない。私は一歩一歩を噛み締めるように歩く。
ふと、天の怪異の横顔を見ると風に吹かれてふわっと広がるその髪が妖艶な雰囲気を醸して出していて、もんのすごく眼福ぅ…
『来るよ…僕の手を離さないでね。』
私は天の怪異の手をギュッと両手で握る。
『行くよ…』
その時、視界の端に黒い何かが見えて、私は咄嗟に目を瞑った。
急に強風が吹き荒れて、頬を刺す。数秒間、その感覚があり、急に止まる。
『あれ?怖かったかな?もう大丈夫だよ』
そう言われてゆっくり目を開ける。
眼前には何処までも、何処までも続く青い空が広がっていて、私は雲の上に立っているのに気づいた。
『あのね、さっき言えなかったことなんだけど、君が良かったら僕と契約しませんか?』
私の目の前で絶世の美女が跪き、手を差し伸べる。
『君は生まれつき人の世から逸脱している。故に、契約の代償は生じない。だから…』
私はその手を取り、天の怪異を引く。
腰に手を当て、顎に手を添える。
「そんなふうに言われたら、了承しちゃうじゃん。だから、私と一緒に運命を歩みましょう。」
太陽の光に照らされて、天の怪異は静かに光となり、私の中に入っていく。
雲が裂けて黒く染まった化け物が現れる。
『キサマ…天の巫女…ダナ』
「いいや、違う。」
「『天の怪人だ!』」
空に手をかざす。
「名前を聞いておこうかな」
『我ハ…王…ソノ分体ナリ』
「そうか、王…か。ならばこれは僕達からの宣戦布告だ!!」
空にかざした手を振り下ろす。
「『万雷!!』」
幾万もの雷が王の分体を貫き、穿つ。
天の怪人は空に立ち、己の誕生を言祝いだ。
悪の目覚めはすぐそこに。
鬼や影よ天よ、其の刻に備えよ
ご精読ありがとうございました。
誤字脱字などありましたら報告おねがいします。
王の分体が来た理由は、王が天の巫女ってなんだろう?と気になったからです。
あわよくば自分のものにしてやろうって言う魂胆も…?




