神話
ーーき!
ーーーーて!
ゆーー!
彩花…?
「優希おきて!」
「はっ!?」
腰が痛い…
「あれ、地面?」
辺りを見渡すと隣に八上さんが眠っているのが見えた。
「八上さん!?」
忍が俺の腰に手を当てて状況を説明する。
「優希と一緒に落ちてきて、八上さんが優希を庇って、ずどーーん。」
「えぇ!?八上さん無事なの!?」
急いで八上さんに駆け寄ると、八上さんはゆっくりと目を開けた。
「…死んでないから。」
そのまま立ち上がり、背を伸ばした。
「うーーん…まぁ、大事無いかな?」
そうして空を見上げた。
「まだ、届かないのか…」
「え?」
「あ、ごめんね?無事かな?」
八上さんが俺の体を弄る。
「まぁ、大丈夫そうだね…ほんとにごめんね?」
「なんで謝っているんですか?」
「え?俺が月の怪異を挑発して、本気出させて、攻撃受け止められなくて、落ちて、ずどーん。」
え、バーサーカー?
「じゃあ、」
「うーん、あれを受け止められるのは、水越さんか伊刻さん位かなぁ?」
と、話していると上空の月の本体から無数に分体が溢れ出し、向かってきた。
『鬼よ、妾の一撃を受けて、良く生きていられたな?』
「頑丈なだけだ。」
「八上さん!ここからは俺たちに任せてください。」
「いや、君達は……あー、うん。そうだな」
「え?」
「一緒に、だ。」
三人で顔を合わせる。
「よし、じゃあ、やるか!」「うん!」「うん!」
「じゃあ、見てて!私達の力を!」
そう言って彩花は手を空にかざす。
「花よ…」
迫り来る分体、その全ての体から蔓が伸びだす。
「咲け!」
瞬間、花が咲き、分体が萎れるようにして消えていく、残った花は花弁となって降ってきた。
『……コイツ…本物か…?』
なんの話だ?
『後で詳しく話す。』
「わかった。」
『ところで、お前はもう良いのか?彩花のこと』
……うーん、
きっと、忍が話してくれた筈…
俺らはアイツを独りにした。
『なんで分かんだ?』
泣いた後みたいな目元になってた
『ふーん、まぁいいか。』
「優希!!行くぞ!」
八上さんがそう言ってさらに飛び上がった。
「はい!」
俺もそれに続いて飛んだ。
「《東雲優希の力が2倍になる》」
忍の言葉の強化を受け、速度を上げる。
月の怪異の本体に近づく。
なんかさ、スッゲェ綺麗な女の人いるんだけど
『あれが月だ。』
『カ…いや、炎よ。』
「なんだ」
『アレをどう見る?』
彩花を指差す。
エンは頭を掻きながら片目を瞑る。
「さぁな。アレがアレっていう確証がない以上、どうしようもない。」
すると月は大きなため息をつく。
『危機管理がなっておらん。その姿を奴らが見たら呆れるぞ。』
エンはアハハッと笑い、涙を拭く。
「アイツらはなんとも思わないさ。俺は俺だ。とアイツらは諦めてるから」
『ソレが良くないことだと何度もいっておる。』
「わかってる」
エンが微笑みながら下を向く。
その仕草を見て月はもう一度、大きなため息をつく
『分かった。ならば、ここで試させてもらう。』
『ここで妾を倒してみせよ。出来たのなら妾はあの魅入られし者を汝らに任せるとする。出来なのなら汝らごとあの者を殺す』
八上さんがエン、もとい俺の肩に手を回して顔を見てきた。
「いいのか?正直に言うとここで倒せる相手では…」
俺が表に出て、八上さんの目を見て言う。
「やるしかないんです。このままでは彩花は月に殺されてしまう。」
ふーん。と目を閉じながら八上さんが俺から手を離して大剣を取り出した。
「じゃあ、やるか。」
二人で刀と大剣を月に向ける。
「「行くぞ。」」
【月の怪異】VS【炎の怪人】【鬼の怪人】
先手を切ったのは月だった。
月の龍が唸り、その口腔から光線を吐き出した。
鬼がその光線を大剣で受け止め、空に跳ね返した。その光に隠れて、炎は月の背後を取った。
「っ!」
静かに刀を首目掛けて振り落とした。
しかし、その刃は月の人差し指に防がれ、跳ね返される。炎は驚きを隠せずに目を見開く。月はその隙を見逃さずに不敵な笑みを浮かべながら掌を炎の下腹部に押し当てる。一拍遅れて、閃光と共に炎が吹き飛ぶ。
『まだまだ弱い。』
炎は龍の尾にしがみつき、龍の背を駆ける。
「負けねぇよ!!!」
月が炎を待ち受けるように両手を広げる。
炎は全速力で走る。目の前の月の威風堂々とした態度に一瞬怖気づくも、月の向こう側から飛び上がってきた鬼の姿を見て笑みが溢れた。
鬼は隙だらけな月の背中を目掛けて、大剣を力一杯に振り下ろす。
「オラァ!!」
月は見透かした様にそれを避け、鬼の頭部を掴む。
『単調すぎるのだ。』
鬼の頭を叩き付ける。その後すぐに鬼から手を離して眼前に迫った炎の刀を掌で受け止めて、その長い脚で炎の側頭部に蹴りを入れ、炎は転がっていった。
『この程度か…』
鬼が立ち上がり、月に斬りかかる。
「まだまだァァァァァァ!!」
『そう来なくては、面白くない!』
ーー
炎は龍の背から落ち、己の弱さの分析をしていた。
「……俺はお前のことを知らない」
『そう…だな。』
「心を合わせようも無くない?」
『そうだな』
「お前の全てを教えろ。お前と戦う為に、俺はお前を知らなくちゃならない。そうだろ?」
『その通りだ。てか、良くここまで…』
「ヴァルフォールもお前も、怪異という存在も、何もかもが俺に取ってわけわかんない存在なんだよ。何も知らない。知らされてない。それでも俺はこの環境に身を置いている。なんでだろう?」
『彩花、忍のため。』
「そうだよな。そうなんだよ。俺は二人を守りたい。だから、強くなりたい。だから、お前のことを教えろ。」
『分かった。話そう。』
ーー
俺は人類誕生とほぼ同時期に発生した最古参の怪異だ。同期に【水の怪異】【風の怪異】【大地の怪異】【月の怪異】【日の怪異】が居る。
俺達は人と共にあり続けた。
人が紡いだ言葉を、物語を共に後世に贈り続けてきた。その過程で神話が生まれ、神が語られ、特定の怪異がその神の枠に収められ、名を得た。
【水の怪異】はワダツミ
【風の怪異】はシナツヒコ
【大地の怪異】はイザナミ
【月の怪異】はツクヨミ
【日の怪異】はアマテラス
そして、【炎の怪異】は カグツチ という名を得た。
そして…そうだな……今から400年くらい前の事だ。
ワダツミがとある男と契約を交わした。水の怪人となったワダツミと俺は数年間、日本を渡り歩いて怪異の被害から人を助ける。ということをしていた。
ある日、富士山の麓で一体の弱った怪異を見つけた。
名を【コノハナサクヤヒメ】。神の名を得た【花の怪異】だった。
神の名を得た怪異がこれ程までに衰弱するとは。と俺達は驚愕しながらもコノハナサクヤヒメ…ハナを介抱した。
どうしてこんな状態になっているのか、と問うと、世の養分が足らず、うまく花が咲かないと言うのだ。あの時代、飢饉というものが何度も起きていたのだが、それは一部の地域など限定された場所で個々に起きていた事で、全世界で見れば養分など溢れかえっていた。であるのにも関わらずハナは養分が足りないと言っていたのだ。不思議に思いながらも苦しんでいるハナを見捨てられず、旅の仲間として迎えた。
ハナが旅の仲間となってから数ヶ月が経ち、ハナの養分不足の原因が分かった。
ハナは怪異ではなかった。
いや、怪異ではあったのだ。しかし、その体内構造は怪異というのは烏滸がましい程、異質なものだった。
ハナの養分は概念だった。
人が人としてある概念。
怪異が怪異としてある概念。
ハナは己の根を人に怪異に張り巡らせ、存在を概念ごと吸い取り花を咲かす化け物だった。
タチが悪いのは吸い取った概念の力をそっくりそのまま自分の力にすることが出来る点だった。
ハナがその自分の能力に気付き、俺たちに隠れて無害な虫や獣、魂などの小さな怪異の力を吸い取り、その力をゆっくりと蓄積させていったのだ。
俺達が気付いた頃にはハナの力はアマテラスやイザナミに迫る物となっていた。
ハナは俺達に言った。
「ワタシがこの世界を創り変える。」
と。
そしてハナは続けた。
「この世界には唯一神が居る。怪異という概念を創り出したのもその神だ。そして、その神を超える力を得て、神の資格を得た者には世界を思い通りに創り変える力が与えられる。だからワタシは皆んなを飲み込んで、ワタシだけの理想郷を創造する!!」と
何が何だか分からなかった。ハナが何処でその知識を得たのか、何故世界を創り変える必要があるのか、今となっては分からない。
でも分かったことはただ一つ。
ハナは本気で世界を創り変えようとしていた。
俺達は全力で止めた。しかし、ハナは俺達を振り解いてアマテラスの下に向かった。
去るときにハナは俺達に言った。
「アナタ達は大好きよ。だから、アナタ達はワタシの世界に招待してあげる。だから、そこでじっとしていて。」
その目は酷く冷酷で、感じたことが無いほどの悪寒を感じ、俺達はハナを追いかけた。
追いついた頃にはアマテラスはハナに吸収されていた。
瓦礫の上でハナは高笑いをしていた。
その時、ハナから炎が溢れ出し、空に高く舞い上がった。その炎に呼ばれる様に空からツクヨミが現れた。
どうやら未来が見えるツクヨミとアマテラスは事前に話していたらしく、アマテラスが吸収されて中から合図を送り、ツクヨミがアマテラスに抑えつけられたハナを斬る算段をとっていたようだ。
しかし、ツクヨミの攻撃は防がれた。
アマテラスを吸収したハナは未来を見る権能を引き継いでいたんだ。
しかし、それで引き下がるツクヨミでは無く、ツクヨミは俺達に加勢を命じて俺達はそれに応じ、さらに、異変を察したシナツヒコ、イザナミが加勢した。
四体の怪異と一人の怪人VS神に近づいた怪異の戦いの火蓋が切って落とされた。
結果は散々。
シナツヒコ、イザナミはその力の半分を吸収され、ワダツミは大傷を負った。
それでも俺とツクヨミは気合いだけでハナを抑えつけ、富士の火口の底にハナを封じた。
封じることしか出来なかった。
その時に俺は身体に花の種を植えつけられ、力を使うとその種に力を吸われ、ハナの封印が揺らぐようにされた。
だから俺は怪異の力を抑え、冥界という怪異の力垂れ流しゾーンを作らない為に転々としていた。
そうして月日が流れて、俺は花の怪異の気配を感じてあの街に向かった。
封印が解かれたのか?と焦りながら街を走り回っている時、人の怪異に魅入られた女子を見た。
そして気付いた。
「花の怪異の魂が混入している。」と
月日が流れて揺らいだ封印から魂のかけらが溢れたのだろう。その魂が混入した女子…彩花が人の怪異に襲われていた。人の怪異はきっとアマテラスやシナツヒコ、イザナミの力を欲して彩花を襲ったんだろう。もし、人の怪異に彩花が取り込まれたら花の怪異に似た性質を持つ人の怪異が神に近づく。それをどうにかして防ぎたい。しかし、力を使うとハナが出て来る。八方塞がりだった。
でも、お前がいた。お前が人の怪異に立ち向かっていた。そして思い出した。
怪人契約を行えばこの身体についた種を残してお前の中に入れることを。怪異としての実体を捨てて人の中に入る怪人契約ならそれが可能だった。
だからお前に話しかけた。
「助けようか?」
そこから先の話は分かるだろ?
そして、現状のヤバさを。
「分かった。つまり、ハナの魂を持った彩花が花の怪異と契約した……封印解けてるじゃん。」
いや、解けてない。あれは別個体の花だ。
「別個体?」
そうだ。俺達の様な古参怪異等と違って花や獣、虫などの怪異は何体も存在する。あれはその一つだ。
「だとしてもヤバイよね」
そう。ハナの魂を得た花の怪異にハナの意識が芽生えて覚醒されたら終わる。
封印は外側からの衝撃に弱いから。
「なるほどね。そういうことか、よーく分かった。」
ーー
炎が空中に立ち、もう一度月の龍に迫った。
龍の背では鬼が月と紙一重の戦いを行なっていた。
『…む?炎か。』
月が鬼を突き飛ばし、戻ってきた炎に向けて語りかける
「ああ。」
『目が変わったな』
「戦う理由が明確になったんだよ。これまで曖昧だった戦う理由が決まったんだ。」
『聞こう。その理由を』
「花の怪異…コノハナサクヤヒメをぶっ殺して、彩花の中にあるコノハナサクヤヒメの魂を握りつぶす。そして三人で仲睦まじく暮らす。これが俺の戦う理由だ。」
その言葉を聞いて月は微笑んだと共に後ろめたい表情を見せた。
『知ったのか。アレは妾の失態、故に……』
「違うだろ。アレは俺達の失態だ。だからお前だけでなんとかしようとすんな。てか、お前がしゃしゃり出て来ないでくれ…お前は加減を知らないだろ」
そうエンが言うと月は腹を抱えて笑った。
『そうだ。そうなのだ、妾は加減を知らぬ。しかし、妾は未来を知っておる。未来は悲惨じゃ。故に言う。妾に見せてみよ、汝らに未来を変えられる程の力があるか。』
炎が刀を構える。
鬼が笑いながら大剣を構える。
「今の俺はエンと心を通わせて力が倍増してるし、忍の言葉でさらに2倍だ!行くぞツクヨミ!!」
先手を切ったのは炎だった。灼熱の斬撃が飛び、月の身体に傷を負わせた。
月は呆気にとられ、その瞬間が隙となり、傷に向かって鬼が大剣を突き立てた。
月の口から血が溢れる。
『……月夜は』
鬼の頭を握る。
『それを』
月の頭を握る逆の手の先が光る。
『赦さない』
光が鬼の身体を貫通する。
「その…程度でえええええ!!!」
鬼が月の首を両手で握る。
月が苦しそうにその手を握りしめて離させる。
『この、程度、で!!妾を!』
「お取り込み中失礼!」
頭上から炎が現れ、月の腹部を蹴り、吹き飛ばす。
何度も龍の背に月が打ち付けられる。
「大丈夫ですか!?」
「ごめん、ありがとう」
鬼の無事を確認した炎は彼方の果てから極光が此方を目掛けて迫るのを確認し、二人で上空に逃げた。
下を見ると月がこちらに向けて手を向けているのが見えた。
『月光』
音が消え、光が迫る。
「『光焔万丈!!』」
光に対して灼熱の斬撃を放つ。
互いに拮抗して双方が消滅する。
消滅した瞬間に閃光が走り、月が目を一瞬目を閉じた。
目を開くと眼前に鬼と炎が迫っていた。
「確殺の金棒!!」
「『劫火の一太刀!!!』」
眼前に迫った攻撃、月はそれに全力で応じる。
『月はいつでも君達を』
『見つめてる』
三者がぶつかる。
閃光が走り、月の龍が落ちる。
月に雲がかかり、月が陰る。
『見事…』
ご精読ありがとうございます
めちゃくちゃ長くなった。
唯一神、世界を創り変える。これはこれからの物語でとても大事なキーワードです。
怪異が人の感情や想いなどの概念から生まれる理由は遠くの未来で分かるはずです。
over the moon は、すっごく幸せだ。って意味




