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IF 空想譚•罪業


 これは、もしもの物語。

 もしも、あの時、彼が遅れ、彼が来ていたら……


 ーーーーー


 少年は愛する者達を救うために、その身を捧げ、炎をその身に宿した。


 ーー


 「二人とも逃げろ!今すぐに!」


 俺はそう言って二人を逃した。

 あぁ、ダメだな。覚悟を決めたって思っていたのに、どこかで二人なら俺のこと忘れていないと勝手に思っていた。

 あの顔、完全に忘れてる。

 でも、それでいいんだ。

 俺がこうやって力を手に入れたおかげでこうして目の前のコイツから二人を守れている。


 「コイツ何者?人の怪異よりも遥かに強い。」

 『月の怪異、その分体だろう。』

 「月ィ?」


 『如何にもっ!妾は慈悲深き月の使徒である!』


 月が手に持った鎌を振り下ろしてきた。

 大きく後ろに飛びその鎌を避ける。


 「なんでアイツらを狙う」


 『ヒトに魅入られた者故に…』

 「なら心配いらねぇよ。俺が守る。そう決めてこの力を得たんだ。」

 胸に手を当てる。


 すると【月】は沈黙し、鎌を下ろした。

 『そうか…人の子よ、その先に安住はないぞ。怪異と契約を交わした者の行く末は決まって絶望である。もし、救いを求めるのなら…』


 【月】が言葉を出し終わる前に【月】は空を見上げる。

 俺もそれに釣られて空を見ると月明かりに照らされて誰かが降りてくるのが見えた。


 天使のような翼を広げ、天使のように降り立った。


 「怪人になってしまったんだね?大丈夫……助けに来たよ」


 『人よ、歓喜せよ。奴は忌々しき"災い"なれど、汝の"救い"となる者である……』


 【月】はどこか不服そうにそう言うと夜闇に溶けて消えた。


 「救い…?」

 救いと言われたその人は外国人みたいで、とても綺麗な姿をしていた。


 「初めまして……私はエルネス•バード。君と同じ怪人だ。」


 そう言ってエルネスは俺に手を差し伸べた。


 「君がどうして怪異と契約することになったのか、私に教えて欲しい。そして、私に何か手伝えることがあれば言って欲しい。私たちは…君の味方だ。」

 信用できない相手から手を差し伸べられた。

 でも、孤独が待っていると思っていたこの心にエルネスのこの言葉がとてもよく響いた。

 俺を助けてくれる人がこんなにいる。

 やっぱり俺は、アイツらを守る運命にあるんだ。と思いながら、疑いの気持ちを捨ててエルネスの手を取った。

 「はじめまして。俺は東雲優希です。そして、『【炎の怪異】だ。お前に何ができるのか、見定めさせてもらうぞーーー。』」


 え、今なんて?


 「……さぁ、行こうか。私の拠点……"松代大本営"へ」


 差し出された手を取ると、視界が光に包まれた。


 その時、エルネスは何か呟いたようだった。


 ーーーーー遅かったな…


 ー•ー•ー•ー


 松代大本営の中は洞窟みたいで、とても冷えていた。

 観光用の道から外れ、何もない壁にエルネスが触れると道が現れ、その奥に踏み入っていく。

 

 暗い道を進んだ先、急に光が差し込み、気がつくとそこは、どこか日本とは思えない気候で気持ちのいい草原の上にポツンと一つの家が建っている場所だった。


 「え、なんで…?『冥界か?』」


 「そう、冥界だ。私……いや、俺だけの冥界だ」


 エルネスはそう言い、羽を広げた。


 「君を助ける代わりに、君には俺の味方になってほしい」

 

 「どう言うことだ?『もっと明確にしろ』」


 エルネスは笑いながら草原に座り、話し出した。


 「俺は"怪人協会"という協会の会長をしている。」


 「聞いたことある?『ある……けど』」


 ん?まぁいいや。


 「大々的にやってないからな。そのせいで、俺達は直接、手を差し伸べなければならない。

 そうすると、俺一人では手が足らなくなる。

 次から次に助けを求める者が出てきてな。

 信頼できる部下にも協会に誘う役割を与えたんだ。」


 「へー……『裏切られたのか』」


 「流石、【炎の怪異】だな。

 そう。裏切られたんだよ。でもな、馬鹿みたいに人が増えたせいで、誰が裏切り者か分からないまま何年も過ぎた。」


 「『取り返しがつかなくなったか?』」


 「ああ。だから、俺の味方として、協会を見てほしい。まぁつまり、嘘に乗ってくれって話だよ。」

 

 「『嘘?』どういうこと…」


 「今、俺たちは、殺人集団として通っている」


 「『は?』」


 「裏切り者の思想に乗っかたんだよ。

 それで、調子に乗る奴が裏切り者。

 本当に信頼できるもう一人の仲間にも調査を頼んでいるから、目星はついているんだけどなぁ、尻尾を出さないんだよ。」


 エルネスは普通に会話を続けるが、俺にはもっと大切なことがある。


 「そんなのどうでもいいんだよ。」


 場の空気が変わり、エルネスの顔が少し強張る。


 「俺はあの場にいた二人を助けるために怪人になったんだ。だから、」


 「【人】に魅入られた少女のことか。あの魂は確かに、特殊だったからなぁ……」


 「彩花がなんなんだよ」


 「あの少女の魂には【花】の欠片が入っている。

 気づかなかったか?」


 「『あの一瞬で、わざわざ魂を見ようとは考えなかった……でも確かに、俺はあの街に【花】の気配を感じて、あそこに辿り着いている……』


 そんな事どうでもいいんだよ。


 彩花が、忍が魅入られてんだろ?危険なんだろ?

 助けないとなんだよ!!」


 「んなこたぁ分かってるわ。だから、お前らの友達は守ってやる……てか、元からそのつもりだったんだけどな?」


 「『そうなのか』信用していいのか?」


 「まぁ、信用するか、しないかはお前次第だよ。」


 そう言うエルネスの顔を見て俺は、信用できる男かも知れない。と感じた。

 そこに根拠はない。

 けれど、直感で信用できると感じたんだ。


 俺は人から外れたからこそ、そういう直感を大切にしたいと思う。

 だからこう言うんだ。

 「信用する」


 するとエルネスは驚きつつも笑い、不気味な表情を浮かべて俺の肩を掴みこう言った。


 「なら、従ってもらうよ?」


 ーーーーー


 エルネスに従い、俺は怪人協会の新入りとして本拠点に入ることになった。

 

 本拠点は日光の山奥にある不思議な冥界の中にあるらしい。


 「不思議な冥界ってなんだよ。」

 『知らない。エルネスがそう言っていたんだろ?まぁ、その場で聞いていて口を挟まなかった俺にも非があるか。』


 あぁ、そうだ。


 「お前の名前はなんて言えば良いんだ?

 【炎の怪異】って言い辛いよな?」

 『好きに呼べばいい……が、そうだな……昔はカグツチって呼ばれてはいたな。』


 「カグツチねぇ……炎の神ってことなのか?」


 『違う。神の名前を当て嵌められた怪異ってだけで神そのものじゃない。』


 「むっず。もういいや、お前はカグツチな」

 『ああ。それでいい。』


 気がつくと俺……あぁ、いや俺達は不思議な冥界の入り口である洞窟の前に辿り着いた。


 「ここまで来て嫌になってきた。

 エルネスが居ないのなんでなんだよ。」

 『お前のためだって言っていただろう?なんか、良くないのが近づいているから俺に任せろって。』


 「……そんなの承知の上で嫌がってるんだよ。」


 『あぁ、まぁ、その気持ちは分からん事もないけどさ』

 

 洞窟に入れずモジモジしていてもなぁ……


 「やっぱり、入ろっ…!?」

 咄嗟に振り返った。

 『どうした?』


 なにか、禍々しい気配が背後で……


 「なにもない……か」


 「あれ?新入りさんですか?」


 いつの間にか隣に見知らぬ女が立っていた。


 そして、問題が生じた。

 あぁ、問題なのは見知らぬ女が隣に立っていたって事じゃなくて、


 カグツチがそれに気が付かなかったってことだ。

 『自分を棚に上げるわけじゃないが、俺が気づかないなんておかしい。』


 うん。

 そして多分、この人がミケなんだよ。


 エルネスと解散する前に遡るーー

 

 エルネスの拠点から出て松代大本営の複雑な道を進んでいる時、急にエルネスが止まり、振り向いた。


 「そう言えば、その目星を付けているヤツの名前を教えておく。」


 そういえば聞いてなかったな


 「ミケだ。」


 「猫?」


 「……ノータイムで返されると、どうとも言えないが、まぁ、あれは十中八九、偽名だろう。」


 「『重要なのはそこじゃない。』そう。その、ミケってのがなんの怪人なのかってとこ。」


 「……【鎖】だ。」


 【鎖の怪人】かぁ……弱そう?

 『バカか?どうせそれも虚偽申告だ。』

 あ、そっか。


 「もし、【鎖】が虚偽申告だった場合、考えられるのは、何?」


 「………分からない。」


 「んだよ、『使えねぇな』」


 「ちっ、なんかムカつくなぁ。

 まぁ、いいか。

 ミケにはお前の情報は一つも渡していないから、気をつけて。」


 「で、その女の特徴は?」


 「メガネ、長い前髪、ポニーテール。」


 「あらー、わかりやすい……」


 ーーーーー


 そこに居た女はエルネスから聞いた特徴に完璧に一致していた。

 

 「はい!えっと、ここに怪人協会の本拠点があるって聞いて居たんですけど……」


 冷静に話を聞こう。


 「えっと、誰から紹介されました?」


 来た。これも、エルネスから言われている。

 ーーヴォルフから紹介されたって言えよ


 「ヴォルフさんからです」


 「あー、ヴォルフさんですか。

 分かりました!じゃあ、行きましょうか」


 ミケが俺を先導するように洞窟の中に入っていく。

 俺もそれについていく。


 「これからよろしくお願いしますね?

 優希くん。」


 あれ?


 俺、名前言ったか?


 ーーーーー


 怪人協会の本拠点は思っていたよりも大きくて、まるで、洞窟の中に町があるようだった。


 「すご……」


 「そうですよね。私、好きなんですよ。ここが」

 

 沢山の人が町の中に居て、その全てが怪人であると聞かされた。


 「みんなさん、虫とか、獣とか、魚とか、とても弱い怪異と契約してしまった人達なんです。」


 「弱くて戦えないのに、独りぼっち、しんどいですね。」


 「だから、こうやってみんなで過ごしているんです。会長も、ヴォルフも、強いので」


 「そうですよね、とても強かったです」

 知らんけど。


 「君もでしょ?」


 「いや、僕は……」


 「ふふ、間違っちゃいましたか?」


 やっぱりコイツ、俺を知っている。

 『戦うなんて考えるなよ?』

 なんで?

 『お前はまだ俺の力を扱いきれない。』

 まぁ、そうだよな。分かってる。


 「今日から、優希くんは、この奥、私達協会の幹部が住むエリアに住んでもらいます。

 そして、私と特訓しましょう。

 その神が如き力を扱えるようにね」

 

 振り返り笑いかけてきた。


 「わか……りました…えっと…」


 「あー、まだ名乗ってませんでしたね。忘れていました。

 だって、優希くん、私の名前知っていますよね?」


 「……ミケ…さんですよね?」


 「ええ、誰から聞いたんですか?」


 静かに圧をかけてくる。

 まぁ、普通に…

 「ヴォルフさんですよ?」


 「へぇ……」


 ふと、ガチャって言うか、チャリンってな感じの不思議な音が聞こえた気がした。

 「鎖?」

 ウォレットチェーンは、付けてないよね。

 『……鎖の怪人…』

 

 あ。


 「嘘つきは嫌いですよ?」


 視界の端から鎖が登って来ているのが見える。

 

 「ミケ…さん?」

 

 ミケは不気味な表情を浮かべて、手を頬に伸ばしてきた。

 「私につくのなら、殺さないであげますよ?」


 「そ、れは、どう言う意味で……すか?」


 鎖が腕と首元に軽く巻き付く。


 「しらばっくれるのは、やめましょうか?」


 カグツチッ!どうすれば、いいんだよ……

 『……俺が…戦えばワンチャン…』

 任せるぞ。

 

 カグツチと意識を入れ替える。

 

 勝つぞ。

 「負けn」


 「何をしているんですか?ミケ」


 落ち着いた声がその場を変える。

 体に巻き付いていた鎖が瞬時に消え、ミケがその声の主に寄っていく。

 

 「……なにもしていませんよ…」


 「そうですか。あぁ、優希くん、来てくれたんですね。ミケ、ここからは私に任せてください。」


 「………はい。ヴォルフ…さん」


 ミケは俺の方を向いて、人差し指を口に当てて去って行った。

 

 黙ってろよ。ってことだろうな。

 

 カグツチとその意識を入れ替えて、ヴォルフについていく。


 「危ないところって感じでしたね」


 「まぁ、『遅いって感じだな』」


 「おや、神は中々手厳しい。

 ミケはどうでしたか?」


 まぁ、ここで包み隠す必要はないか。


 「100%、黒ですよ。」


 「まぁ、ですよねぇ。

 ただ、物的証拠が足りないんですよ。」


 「別にそこまで畏まらなくてもいいんじゃないんですか?『悪名高い怪人協会さんよ』」


 悪名高い?


 「悪名高い!?!?

 俺、聞いてない!!」

 『まぁいっかで片付けた奴が何言ってんだ』

 ………あ。


 「怪異にまで響いてますか。それ」


 「え!?え!?え!?」


 「……裏切り者に乗っかってるだけですよ。その結果、殺人集団になってるだけで。あ、殺ってませんよ?」


 「……詳しく聞かせろ。」


 「会長は何も言ってなかったのですね……」

 

 ーーーーー


 懇切丁寧に説明を受けて、俺は一言。


 「あー、面倒くさいやつだ。」


 「はい。面倒臭いやつです。

 まぁそれでも許してください。

 今、会長は優希くんのお友達を助けに向かっています。」


 「は?二人が、危ないのか?」


 「絶対に有り得ません。

 水越争太と共に向かったと聞きました。

 あの二人が共闘するのなら……」


 ……水越?


 「水越争太って誰?って顔ですね。

 世界最強の【戦争の怪人】です。

 会長、エルネスもほぼ同じ力の持ち主ですよ。」


 世界最強……

 「『そうか。70年前の戦争を終わらせたのはその水越争太だったんだな?』

 戦争を終わらせたぁ!?んなわけないでしょ」


 「そうですね」


 「んなわけあったよ……

 まぁ、そんな最強な人がついてるなら……

 なんて言えるわけねぇよ。

 そんな奴が出張って来るような事態にあの二人が巻き込まれてるんだろ!?」


 「……それは」


 ヴォルフが目を逸らす。


 「何が出たんだよ、何が。『俺も気になる。』」


 「【死】……ですよ。」


 それは、怪異についてよく知らない俺でも分かる。

 「ヤバい……でしょ?『ヤバいどころじゃない。化け物すぎる。』」


 「だから、お二人というか、優希くんには強くなって欲しいんです。きみのお友達は"五大怪異"級の怪異に狙われているのですから。」


 「『五大怪異ってのは、世界で強い怪異TOP5だと考えておけ。』わかった。

 まぁ、だからさ、俺はそんな奴らから二人を助けられるようにしなければならないわけでしょ?」


 「どうします?」


 「やってやるよ。いくらでも強くなってやる。」


 「信じてましたよ」


 こうして俺たちは修行を始めた。


 そして、その集大成としてヴォルフに連れられて中国の方に向かい、山奥で【龍の怪異】と戦うことになった。


 ーーーーー


 「【龍の怪異】って、強いの?」


 『昔は強かっただろうが、今は普通だろう。あー、でも、お前の記憶を見た感じ、結構いい具合にドラゴンとかへのヘイトは高いみたいだな。今の世界の人間は。』


 「ヘイト?そんなわけないと思うけどね。普通に好きだよ?ドラゴン。」


 『……お前さ、この、モンスターなんとかみたいなゲームで、黒い龍にボッコボコにされてるじゃん。その時、台パンかましてる記憶があるんだけど』


 「んなもん読み解くなよ。まぁ、確かにゲームに出ているっていうことは多かれ少なかれ、ヘイトは溜まってるか。」


 『それが【龍の怪異】へのヘイトを担っているヘイトも怪異の力に……あ、言い忘れてたな。

 【怪異】の力は人が抱いた様々な感情や行動が力になる。

 炎を崇め奉れば、【炎の怪異】は神の力を得る。みたいな?

 だから、【怪異】は日本に留まりたがる。八百万の神の国だからな。』


 「へぇ……まぁ、よくある設定だな。」


 『まぁな。ただし、それはあくまでも力の話だ。

 その【怪異】が人に友好的か否かは別の話で、人に恐れられてたり、嫌われていたりしても人に友好的な奴も居る。

 本当に、酔狂な奴だよな。』


 「なんか、可哀想だね。

 たった1人にでも愛されていて欲しいよ」


 「『……だってよ、【力の怪人】さん』さん」

 

 目の前を歩くヴォルフに語りかける。

 ヴォルフはこれまでの修行で自分が【力の怪人】であると告げていたのだ。


 ヴォルフは歩みを止め、こっちを振り返って話し始めた。

 

 「……人は力を恐れるものです。

 ですが、私は力を愛した。

 そして、エルネス・バードも力を愛してくれた。私はその恩を忘れない。」


 「なにがあったのか、聞いてもいいか?」


 「いいですよ。

 まぁ大体、60年くらい前の話でしょうかね…」


 60年前……!?

 まぁいいや。話を聞こう。


 ーーーーー


 あれは1960年くらいの話でしょうか、私はニューヨークで神父をしていました。

 

 ある日、不思議な少年が2人、訪ねてきたんです。

 名前は確か……そう、メルトと、アベル。


 「神父様ですか?」


 本当に不思議な少年達だったのです。

 見たこともない虹色の眼、闇を感じる朗らかな笑みを浮かべるメルト君。

 

 「えっと……」


 「はじめまして。ヴォルフ・ビーツ神父。

 俺の名前は、アベル……ドラゴニアです。

 で、隣にいるのは、メルト・マザーグース。

 今日は、相談があって参りました。」


 不思議なローブのフードを深く被り、口元しか見えないのに優しい人柄が滲み出ているアベル君。


 この二人の相談は当たり障りのない、ただの人生相談だったのですが、その後二人が立ち去る瞬間、メルト君が振り向いて言い放ったんです。


 「貴方は信心深く、愛情に満ちた人だ。

 だから、誰にも愛されていないモノを愛してあげて欲しいんです。」

 

 それがとても心に残っている言葉なんです。

 

 それがあったから私は、夜の街に出てみたんです。

 誰にも愛されていないモノってなんだろうか?と思って。


 それで、出会ってしまったんですよ。


 怪異に。


 ボロボロな人型の怪異。

 人型って言っても人型なだけの化け物……化け物は言いすぎましたね。


 『人間……我が…見えるのか?』


 「ええ。見えますよ」


 『ここは……危ない…早く、逃げろ。』


 ボロボロな姿なのに、その怪異は私を守ろうと必死だった。

 ただ、私は周りが見えていなかった。


 「何を言っているんですか?私の目には貴方の方がここにいるのは危ないように見えます。」

 

 その怪異に近付き、肩を貸したんです。


 『……なにを…』

 「貴方は怪我をしている。

 それを私は見捨てられない。」

 『……ありがとう…だけど、逃げろ。』


 私はその怪異に吹き飛ばされました。


 その怪異が向いている方を見ました。

 

 そこには、無数の百足を使役する謎の男が迫ってきていた。


 「あれ、あるぇ?

 神父様が何故こんな所に居るんですかぁ〜?」

 

 「何者…ですか?」


 「神父様は僕みたいな下賤な民を救ってくださるのですか?あぁ、なんて信心深いのでしょうかぁ……」


 『奴の話に耳を傾けちゃダメだ。

 もう、奴の射程圏内だ。』


 「だから、奴は何者なんです!!」


 『【怪人】……我々、【怪異】と人間が契約した存在です。

 奴は、人を愛する者である百足の【蟲の怪異】と契約して、支配し、その力を快楽殺人に使っている。』


 「許せません。教えをとかせてください!!」


 『バカなのか?』


 「バカなんだろぅ?だって、神父様なんだからぁぁぁ!!!!」


 百足が射出され、私の体に突き刺さりました。


 『バカが!!』

 「うっ……」


 毒が回るのを感じました。

 血が流れ、死を感じました。


 「それでも、私は、人に愛されぬ者を愛せと言われたのです。

 彼が何者か分かりませんが、私は人に頼まれた事を放棄することはしたくないのです!!」


 「神の為に無駄死にかぁ?バカなんだな。

 さすが神父様だよ。」


 「主の為?違いますよ。

 私の為です。私は、自己中なんですよ。」


 隣で私を支える者に顔を向けました。


 「怪我している方を見捨てると、私の先生に死後叱られそうなんですよ。

 私は、人に優しくありたいだけなんですよ。そうすれば先生は褒めてくれますからね。

 そう。全部は先生に怒られない為、褒められる為なんです。

 まぁ、あとは……」


 「無我夢中に人を助けるってしてみたかったんですよね……

 見知らぬ人を見知らぬ者から守って死ぬ。

 カッコいい死に方じゃないですか?」


 『あんたはバカだよ。』

 彼が私を支える手が震えました。


 「本当のバカなんだなぁ……」

 男は涙を流しました。


 そして、私は願いました。

 「でも、ここで私が死んだから、貴方が生き残る術が無くなります。

 だから、貴方と私で契約をしましょう。

 その、【怪人契約】を。」


 『ダメだ。それだけはダメなんだ』


 「おやおやおやぁ?人に迫害されし【力】様はなんて心優しいのでしょうか!!

 神父様ぁ……怪人契約というのは、相応の代償を伴うのですよ?」


 「代償?」


 男は腹に手を当てて笑いながら告げました。


 「世界から忘れられるんですよ!!

 分かりますか?皆が貴方を忘れるのですぅ!!」


 「……」


 「貴方が生きて築いてきた道のりが、痕跡が全て消え去るのです!!

 昨日まで言葉を交わしていた友人が貴方を認識しなくなる。

 昨日まで愛してくれた母親が貴方を拒絶する。

 世界が貴方を元からこの世界に無かったモノとして扱うのです!!」


 男は涙を流していました。

 

 そこで怪人の代償を初めて知りました。

 

 そして、気付きました。

 彼も被害者なのだと。

 

 「なればこそ、私は……怪人にならなくてはならない。

 ……【力の怪異】さん?どうか、私と契約をして下さりませんか?

 私は貴方を拒絶しません。だから、貴方も私を拒絶しないでください。」


 『ひどいな……聞いていなかったのか?

 その代償を』


 「聞いていましたよ?

 だからこそ、私は怪人にならなくてはならないと思ったのです。」


 『馬鹿なんだな…』


 【力の怪異】はそう言って微笑みました。

 『契約だ。名も知らぬ神父よ』

 「あ、ヴォルフ・ビーツです。」


 『……ヴォルフ・ビーツよ。

 旅立ちの時だ。』


 手を差し出されました。

 『行くぞ?』


 「ええ。行きましょう。」


 【力の怪異】は光の粒子になって私の中に入りました。

 体の不調はみるみるうちに治り、体が新しいモノに作り変わるのを感じました。


 「ハッピーバースデーッ!!

 お友達だ。神父様ァ!!」


 男は手を叩いて私を祝福しました。

 

 「ええ。お友達です。

 だから、その矛を収めてください。」


 「無理だなぁ…

 友人とは、殺し合うモノだろう!???」


 「残念ですよ」


 頭に流れてきた【力】の能力の使い方。

 それを行使しました。


 「神父さまぁ……助けてぇ……」


 悶え苦しむ男の前で私は祈りました。

 救いを……


 その時です。

 天から、純白の羽根を持った男が降りてきたのです。

 御使かと思いましたよ。


 実際は悪夢の化身でしたが……


 「快楽殺人鬼……【蟲の怪人】リーザ・ザルバード……ここで、終わりだ。」


 その男から抜けた羽根がリーザの頭に落ちると、みるみるうちに体が萎み、まるで水が抜けたように死んでいきました。


 「さて、君が彼を追い込んだのかな?

 ありがとう。」


 「私は彼を許そうと思っていたのですが?」


 「……神父様か。

 まぁ、なんとも酔狂な神父様だな。怪人になるなんて……」


 思うことは沢山ありました。

 でも、目の前の存在に私の中の【力】は怯えていました……

 すみません。武者震いでしたね


 だから、私は聞きました。その名を

 

 「……貴方は?」


 「俺は、エルネス・バード。

 お前と同じ怪人で、ふ……いや、【羽の怪人】だ。」


 まぁ嘘でしょうね。嘘なんですけど。

 だけど、そこは良いんです。

 

 そこで私は帰らなくてはならないと告げてその場を離れました。


 代償を失念していたわけではないのですが、どこかで思っていたのです。

 私を脅かす狂言であるのだと。


 ですが、現実は残酷ですね。

 私は誰にも覚えられてませんでした。

 

 「寂しいよな」


 横にはエルネスがいつの間にか立ってました。

 「寂しいですよ。」


 「……俺と一緒に日本に来ないか?

 もともと俺は、アメリカに帰る為に戦ってたんだけどな?

 このまま日本を放置すると故郷であるアメリカごと世界が壊れちまうんだよ。だから…」

 

 「いいですよ。貴方に着いて行ってみますよ」


 別にこの時は有難いなんて思っていませんでした。

 急に現れた船に乗っただけでしたからね。


 ですが、私は日本へ至る旅路の中で、日本で怪異と戦う日々の中で、エルネスへの忠誠を高めていきました。


 ーーーーー


 「たったそれだけの話ですよ」


 「はぁ……長い。」

 ヴォルフの話は端折られてる箇所は多いが、結局長かった。


 「良いじゃないですか」

 そう言ってヴォルフは上を向く。


 「ちょうど、【龍】が来ましたよ。」

 

 ーーーーー


 焼け野原となり、岩肌が露出した地面に膝をつく。


 「俺の炎か、お前の炎か分からねぇな!!」


 目の前には体全体を使って深い呼吸をする【龍】が四つ足で地面に立ち睨んでくる。


 「ふぅ……勝ちに行くぞ。『分かった。』」


 ゆっくりと立ち上がり、空に手を掲げ、炎をだす。


 「『……神剣…鍛刀』」


 カァン、カァンと無が音を立てて炎が刀を打っていく。

 炎の中に手を入れて柄を握り、引き抜く。

 

 烈火を孕んだその刀は周囲の空気を歪ませる。


 「『さぁ、覚悟しろ』」


 更に太刀の中に炎を流し込む。

 

 火力勝負を察したのか【龍】がその胸に空気を送り込み、赤熱化させていく。


 爆音が響き、耳鳴りがする。

 視界が光に包まれて身体が焼けそうになる。


 『ーーーーー龍炎』

 

 地面が抉れ、溶け、眼前まで果てしない火力の炎が迫る。

 

 だが、恐れずに、力一杯刀を振るう。


 「『焼き切れろ。』」


 無制限で無形の炎の刀身が鞭のようにしなる。

 刃は【龍の炎】を切り裂き、地面を切り裂き、空を切り裂き……


 【龍】を切り裂いた。


 「眠れ。お前の出る幕は終わった」


 ヴォルフが見守る中、俺とカグツチは【龍】を打倒した。


 ーーーーー


 【龍】を倒した俺達はヴォルフと別れ、エルネスと合流して、とある人の所にご飯を食べに行くことになった。


 「で、なんで京都の山奥?」


 その問いに対してエルネスはこちらを振り向かないで話し始めた。


 「水分山みくまりやまだよ。

 ここには、俺の友達の家があって、一年に何度かそこで密会?をしているんだよ。」


 「なんで密会?」


 「一つ目、俺の目的とアイツの目的は一致しているのに、下についているやつの思想が相入れないから。

 二つ目、俺とアイツが"似たモノ"同士だから、二人で愚痴を言い合いたい。

 三つ目、こっそりと探しているものがあったから。

 これが、10年前までの話。」


 「ふむ」


 「そして、ここ数年で追加した項目で、

 四つ目がある。それは、口裏合わせ。」


 「裏切り者関連?」


 「そう。まぁ、他にも理由はあるんだが、これは……いいや。」


 エルネスが何かを口籠ると、急にこっちを向いた。


 「着いたよ。ここが、俺の友達の家……水越邸だ。」


 途轍もない大きさの屋敷を指差してエルネスは笑った。

 

 ていうか、水越……?

 それって、二人をエルネスと一緒に助けてくれたっていう人じゃ……


 ん?なんか、飛行機の音、近くない……?


 「おっ、来たか。エルネス」


 空から美青年?が現れた。

 文脈的に、彼が……


 「水越……えっと、『争太。』そう、それ」


 「ハッ!それってないだろー。

 初対面なのに」


 「はっ!すみません。

 はじめまして!!東雲優希です!!

 『はじめまして!!カグツチです!!』」


 なに?バカにしてる?

 『してる。』はい、キレました。


 「おー、エルネス……コイツ、元気でいいね」

 「……そういうキャラなのか?」


 「中に入ろう?」


 「あー、優希だけ行って。俺らは一旦、山の中に用事があるから。」


 「あ、そう?じゃあ、『遠慮なく!!』」


 そうして俺は水越邸に入り、至れり尽くせりの待遇を受けた。

 「この炊き込みご飯、美味しい……『天ぷらうめぇぇ!!』」

 大きなお風呂に入って、

 「泳げる!!『泳ぐな!!』」

 広い畳の上を駆け回った。

 「たのしい!!『風呂入った後に汗をかく行為をするな!!』」

 汗をかいたのでもう一度、お風呂に入った。

 「見ろ!!これが、クロールだ!!『知らねぇよ』」

 お風呂から出たら、アイスをもらった。

 「おいしーーー!!『口の上でトロける…』」

 最後に、炭酸をグビっと

 「どう?サイダー、うまいでしょ?『うみゃい!!』」

 みゃい……?


 一息吐いて、ご飯を用意してくれて、アイスをくれて、サイダーをくれたお婆さんの隣に座った。


 「こんなおもてなし、ありがとうございました……おいしかったです!!『です!!』」


 お婆さんは微笑んでくれた。

 

 「そう言っていただけて嬉しいです。

 どうですか?お兄様は。」


 ……お兄様?


 「え?お兄様?」『お兄様?』


 「争太お兄様です。

 私はお兄様が怪人になってから産まれたので、水越家で唯一、お兄様を忘れたことはなかったのです。」

 

 ああ、そういうことか。

 それは、怪人にとって、とても幸せなことなんだろうな。

 みんなが自分を忘れた中、肉親で唯一、ゼロから自分を知ってもらえる妹なんて……


 「でも、お兄様はたまにしか家に顔を出してくれませんでした。

 どこかに家があったのでしょうか。」


 んなこと、分からねぇよ。

 ていうか、今更だけど、怪人って歳を取らないんだな。

 まぁそうだよな、終戦に導いた英雄が水越争太なんだから。


 「水越さんのことは、よくわかりません。だけど、怪人として、自分を知っている人がいるというのはとても幸せなことだと思います。

 だから、忘れないであげてください。」


 「ええ。忘れませんよ、絶対に。」


 その後、他愛もない雑談をして俺は縁側に一人座った。


 もう、誰も俺を覚えていない。


 実はこの前、実家に行った。

 やはりと言うかなんと言うか……誰も、俺を覚えていなかった。


 家族の目の前で何もないように、「人違いでした」と告げて走り去った後、俺は……


 『泣いてる?』

 「泣いてねぇよ……」

 

 『後悔してる?』

 「してねぇよ。」


 『本当にか?』

 「本当だよ」


 ………寝転がり、天井を見る。

 ああ、家を思い出した。


 あの日を、あの日を、あの日々を……


 あぁクソ……


 「泣いてる?」


 エルネスが顔を覗き込んできた。


 「泣いてねぇよ」


 「話をしようか。結構キツめの。耐えれる?」


 「余裕。」


 ーーーーー


 最初に口を開いたのは水越だった。

 「本題から入ろう。世界が終わる。」


 次に口を開いたのはエルネス

 「その原因となりうる存在は"新木彩花"だ。」


 俺が何か言おうとした瞬間、被せるように水越が更に口を開く。


 「俺はこれから、うちのメンバーを連れて【闇の怪異】を倒しに行く。

 そこで、お前にはエルネスと一緒に【月の怪異】の所に向かって、話をしてきてほしい。本音を言えば、【夜】が良かったんだけど、どこにいるのか分からねぇからな。」


 隙が出来た。


 「まてまてまてまて!!!

 どう言うことだ?彩花が、世界の終わりの原因?」


 水越に詰め寄った。


 「そうだ。そして、お前もそれを知っているだろ?カグツチ……だっけ?」


 「『あぁ……知っているよ』

 どうしてそれを言わなかった!!!」


 「そうなるからだろ。」

 エルネスが冷静にそう言った。


 冷静になれ。冷静になれ。冷静に……なれ…

 「冷静になれよ……整理させろ。これまでの言動から……整理させてくれ。」


 誰もそれを止めなかった。


 だから、整理する。


 【人】に魅入られた少女……彩花の事だ。

 彩花の魂がって……いや、そこに何かが入っているって……たしか…


 「【花】か?彩花の魂に混じっている存在。

 それが【人】に魅入られた事と、世界の終わりに関係があるんだよな?」

 

 エルネスと水越は少し微笑んで頷いた。


 「【花】が敵なんだな?

 そして、エルネスと水越さんがその話をわざわざするってことは、その【花】は規格外の化け物なんだろ?」


 それに対してエルネスが俺の頭を叩いた。

 「全部正解だ。間違いは無い。」


 「俺にやれることはなんでもやってやる。だから、俺に命令を下せ。」

 

 エルネスと水越にそう言う。


 「わかった。じゃあ、改めて、自己紹介をしようか。まずは俺。

 エルネス・バード。【紛争の怪人】だ。」


 「次は俺だな。

 俺は、水越争太、【戦争の怪人】だ。」


 「え、じゃあ、『俺達の番だな。』

 俺は東雲優希、【炎の怪人】だ。『で、俺はカグツチ』」


 「じゃあ、ほい。」

 エルネスが拳を突き出す。

 それに合わせて水越も拳を突き出す。


 「そういうノリか。」

 俺も拳を合わせる。


 「勝つぞ」

 エルネスが叫ぶ。


 水越と目を合わせて、タイミングを合わせて、

 「おう!」「勝つぞ!」『よっしゃ!』


 バッラバラだった。


 ーーーーー


 数日後、俺とエルネスはスーツに着替え、【月の怪異】との対話に出向くことになった。

 

 「スーツ……初めて着るなぁ……」

 

 高校生だからな。


 「俺に感謝しろよー?結構良いスーツなんだぞ、それ。」


 俺とエルネスは【月】が確認された新潟に向かうことになった。


 新潟は、実那上みなかみ……に近い街だ。

 

 「急ぐぞエルネス。」

 「わかってる。」


 エルネスと手を繋ぎ、空を飛び、新潟に向かった。

 

 「ねぇ、なんで【紛争】が羽なの?」


 「元々、契約していた【天使の怪異】を【紛争】が横入りして食い荒らしたから、その名残りかな。」


 「へぇ…」

 

 ーーーーー


 「アレは、ドラゴン?」


 「【月の分体】だ。

 お前が怪人になった日に来た【月】も分体だ。

 分体はその名の通り、怪異から切り離された分け身だ。」


 「俺にも出来る?『いつかな。』」


 「怪人は基本分体は作れないのに、すごいな」


 「『お前と水越争太は別だろ?

 その身に【紛争】と【戦争】を宿している……いや、封じている。そうだろ?』」


 「そうだよ。

 まぁその話より先に、対話のお時間だ。

 かぐや姫が欠伸しておられる。」


 エルネスが指差す

 

 ドラゴンの上に立つ漆黒の十二単を着た黒いかぐや姫が居る。


 それが、【月の怪異】の本体。


 『疾く、降りて来い。

 妾に話があるのだろう?』


 「ああ!!今降りる!!

 ほら優希、行くぞ?」


 エルネスに引っ張られてドラゴンの上に飛び降りた。


 「よう!!端的に言うな?【花】を倒す手助けを頼みたい。」


 『ほう?妾はあの少女を殺す事が簡単で良いと思っているのだがな?』


 「あー、それは【炎の怪人】君が嫌なんだって。俺も嫌だ。」


 『ほほう?それでは、この世は混沌に沈むぞ?』


 「終わらないだけマシだ」


 『……【夜】が言っていた。この世界はもうすでにダメな方に進んでいると。』


 「……じゃあ、尚更、【炎】の言うことは聞いたほうがいい。」


 『ふっ……劫火で全てを焼かれると?』

 【月】が笑う。


 ーー


 え?焼かないけど……

 『彩花を殺されたら?』


 焼くけど。


 『ほら。』


 ーー


 「はい!彩花を殺したら、悉くを焼き尽くし、この世を生命体が闊歩する事ができない地獄に作りかえることを誓います。」


 「嫌な選手宣誓だな……

 まぁ、【月】よ、そういうことらしいから、気をつけろよ?」


 『脅しか?』

 

 「脅しだ」

 「脅しじゃねぇ、予告だ。『脅しだよ』」


 『なら、妾と勝負をしよう。

 妾を力で屈服させる事ができたら、妾は味方となる。』


 「へぇ……【紛争】の化身にその勝負を挑むのか?」


 かっけぇ。真似しよう。

 「へぇ……【炎】の神にその勝負を挑むのか?『挑むんだろうな。』」


 エルネスに小突かれたが、まぁ良しとしよう。


 『【紛争】が相手なら本気で行こう。』


 その瞬間、周囲を囲むように何百、何千体もの鎌を持った白装束の分体達が飛び出してきた。


 「焼き払えるか?」


 エルネスが軽く聞いてきた。

 この数、この範囲、やった事ないけど、まぁやるだけやってみようかな。


 「まかせろ。」


 両手に炎を出し、手を合わせる。

 

 劫火……仏教において世界を焼くと言われる炎。

 変なところの知識が多いから、さっきの話を聴かなければ普通に技名として叫んでいたと思う。


 彩花に手を出したら世界を焼く予定だし、予行練習だ。

 

 「行くよ……?『おう。』」


 ギリギリまで迫ってきた分体を見て、笑いながら回る。

 回転して全範囲を焼き尽くすんだ。


 「『業火!!』」


 その威力は世界を焼くほどのものじゃなかった。

 でも、殆どの分体を焼き払った。


 「残っているけど、及第点。」


 純白の羽が広がり、羽根が舞う。それに触れた分体が次から次へと萎み、灰となって消えていく。


 「……"衰亡の羽根"

 紛争の行末は決まって衰亡なんだよ。」


 『"月輪の下で"』


 周囲が歪む。

 

 重力が、変わった?


 『さぁ、来い。』


 ーーーーー


 本気の【月】を打倒し、俺達は【月】との対話を勝ち取った。


 「あの、いつまでのこの謎竜の上に立ってんの?一旦降りよ?俺、ここら辺でお気に入りの和風カフェがあるんだよ……あ、今、夜か。」


 「そもそも、【月】がいる時点でカフェなんて行けねぇよ。」


 「ちっ…」


 『よい。妾の冥界に来るといい。』


 謎月ドラゴンの上に乗っていたので何処か分からないが、俺は平安時代のお屋敷みたいな所に連れてこられた。


 「え、お団子……あるの?」


 『抹茶もあるぞ?』


 「あぎゃぎゃぎゃ……『ツクヨミ……』」


 縁台に毛氈、上には野点傘……雰囲気が天元突破している場所に座って、三色団子と抹茶を抱えて食べている。

 空に浮かぶ満月が俺の醜い姿を照らしている……


 「美味いからいっか!『所作!!』」


 『ふっ……カグツチ、楽しそうだな?』


 「『楽しいぜ?』」

 

 『良かったな』


 【月】が微笑んでエルネスの方に向かう。


 「話の時間か?」


 『【紛争】は食べぬのか?』


 「エルネスだ。」


 『ふふっ……エルネスか。』


 「俺は良い。

 とにかく、現状についてだ。

 今、新木彩花は【鬼の怪人】が見張っている。

 【戦争】、【槍】、【影】は【闇の怪異】の討伐に赴いている。」


 『【夢】と【力】は何をしている?』


 「ヴォルフ……【力】は不安要素である【鎖】を見張っていて、【夢】は富士山に向かった。」


 『富士山……か。

 ん?待て、【鎖】?待て待て待て待て』


 「ミケが【鎖】じゃないって話か?

 そんなこと分かっているよ。」


 『違う……!!

 カグツチ!!団子を止めろ!!

 エルネス……、落ち着いて聞け。』


 「なんだよ」


 『【力】が殺された。』


 「は?」「ヴォルフ……?『嘘だろ』」


 『アレは【鎖】じゃない。【罪】だ。』


 「【罪】……?なんで、【罪】……あ、ああ…そういうことか。そういうことかよ……」

 エルネスは静かに涙を流し、拳を握った。


 『加えて、【病】も動き出した。

 なんだ、なぜ、立て続けに……

 待て、【鬼】も死んだ天使…【花】が動いた……

 【夢】も……どうして?どうしてなんだ…』


 【月】が頭を抱える。


 「【月の怪異】……冷静に聞くから、現状を言え、空に浮かぶ、月の目で世界を見通せ。」

 エルネスがそう告げる。


 【月】は深呼吸のような仕草をして、話し始める。


 『時系列を追って話す。

 まず、新木彩花の家を見張っていた【鬼の怪人】が、【花の怪異】に殺され、吸収された。


 次に、富士山火口に封印された【花の怪異】が動き、避難誘導にあたった【夢の怪人】が殺され、吸収された。


 そしてそれを察知したかのように、【罪の怪人】を監視していた【力の怪人】が殺され、"押収"された。

 

 これが、この数分で起きた出来事だ。』


 「どこに向かうのが最適解だ?」

 エルネスが冷静を装いながら聞く。

 

 『ここに留まることだ。』


 「なぜ?」


 『【病の怪異】が大陸から渡ってくる。

 そこに、【罪】も【花】も、寄ってくる。』


 「待ち受けろと?」


 『妾が味方につく。

 ……ところで、カグツチはどこに行った?』


 ーーーーー


 彩花!彩花、彩花!!


 「劫火の準備はできているか!?

 『【月】のと戦いでコンディションは完璧だ。』」


 全速力で走る。さっきまで、現在地はわからなかったが、【怪人】になって強化された身体能力がものを言って、すぐに人里に出て、ここがまだ新潟県であることを知り、今は全力で実那上まで向かっている。


 「彩花!!」


 ーーーーー


 『さぁ、幼馴染に会いに行こう?

 あーやーか……?』


 「私に力を貸して……」


 ーーーーー


 「もーえろよ、もえろーよ

 炎よもえろ……

 火の粉を巻き上げ、天まで……焦がせ…」


 火が放たれ、炎に包まれ半壊した怪人協会のアジトの中を歩きながらミケは目の前の光景に驚愕する。


 「はぁ……はぁ…ミケ…!!」


 ボロボロになりながらもそこに立つヴォルフ。


 「生きていたんだー……」


 「本気で……ぶつかるだけ!!」


 ヴォルフの力が底上げされる。

 【力の怪人】として、最期の全力だ。


 「壊れろ!!」


 ミケはその気迫に一瞬だけ冷や汗をかくが、すぐに微笑む。


 「断罪の鎖」

 

 いくつもの鎖が鞭のようにしなり、迫り来るヴォルフに襲いかかる。


 「忘れましたか!?

 【壊滅】も【破滅】も【破壊】も、全てが【力】に統合されているということを!!」


 襲いかかる鎖を次から次へと拳で弾き返していき、物凄い速度でミケに迫る。


 「忘れてないよ、だから……」


 ヴォルフがミケの懐に入り込み、拳を叩きつける。


 「壊れろ!!!」


 爆音が響き、常人なら肉片も残らない一撃がミケに襲いかかる。


 「ダメ……ですか…」


 「だから、もう、その力は"押収"しているよ」

 

 ミケは無傷で立っていて、ヴォルフの胸を三本の鎖が貫いていた。


 「ずっと近くで見てきたんだ。

 だから昔からその力の解析していて、君から攻撃を受けたら完全に解析、"押収"が済むようにしていた。

 私が【力の怪異】という存在を恐れていたからだ。」


 「……『やはり、あの日の…』あの…日?」


 ヴォルフの中の【力の怪異】


 「【力の怪異】の持つ能力にはずっと昔から目をつけていたからね。

 あの日、ヴォルフが【力】と出会った日、私が操った沢山の【怪人】を送り込んで、疲弊させていたの。

 死ぬ前にその力を"押収"出来れば良し。

 お人好しの人間と契約して【怪人】に成れば僥倖。」


 「よかった……ですね…で、殺さないのですか?」


 「聞きたいことがある。

 愛されない者を愛せ……それは、誰の事?」


 「……エルネス•バードですよ。」


 「ありがとう。じゃあ、死んで」


 ヴォルフの体が砕け散り、ミケはアジトを完全に壊す。


 「エルネス•バード……【羽の怪人】……何かあるよね絶対に……」


 ーーーーー


 「彩花!!!!」


 彩花の家に到着し、彩花の部屋のベランダに飛びんで部屋の中を確認する。

 

 「……居ない…」


 「こんばんは……優希!!」


 振り返ると、ベランダの柵に彩花が立っていた。


 「彩花……?『遅かった…』」


 「私、【花の怪人】に成ったよ!!」


 目が光り輝いていて、不気味だ……

 でも違う……なにか違う


 「お前……彩花じゃないな?」


 「だいせいかーい……」


 花の蔓がどこからともなく現れてその鋭利な先端を向けてくる。


 「『何をする気だ?』」


 「ひさぶり〜……死んで?」


 蔓が襲いかかる瞬間、


 「【花の怪異】!!」


 彩花の身体にいくつもの槍が突き刺さり、蔓が崩れる。


 「……【槍の怪人】」


 「真奈狐と、裕也を殺ったな?」


 「殺したよ。でもおかしいね?【影】と【戦争】は?」


 「合わせてやるよ」


 【花】が何かに引っ張られ、空に連れて行かれる。


 「彩花!!」


 「……君もか…」


 【槍の怪人】と呼ばれた人がそう呟いて飛び去った。


 ーーーーー


 「【花の怪異】っ!!ここでお前を殺す!!」


 【影の怪異】が影を操り、【花】を持ち上げた。


 「お前は奪いすぎたな。真奈狐も、裕也も……死ぬしかないな?」


 水越争太がいくつもの戦闘機を従えて空に立っている。


 「へぇ……私を殺す?無理でしょ。」


 【花】が指を指す先、そこには黒い球体の化け物が迫ってきていた。


 「あれは、【病】!?」


 水越が叫ぶ。全員がその方に意識が持ってかれる。


 その一瞬が命取り。


 「おやすみなさい」


 【夢の怪人】の力を吸収した【花】はその力を使い、【槍】【影】【戦争】を眠らせた。


 「じゃあ、いただきます」


 眠った三人の体に花の蔓が突き刺さり、その三人の力を概念ごと吸い上げていく。


 「あっはぁ〜幸せ……」


 【影】を吸い尽くし、【槍】を吸い尽くし、【戦争】を吸い尽くす直前、光線が放たれて蔓が焼き切れる。


 【戦争】は吸い尽くされる前に解放されて落ちていく。


 「くそっ!!湊…」

 『遅かった……』

 

 エルネス•バードと【月の怪異】が現れた。


 「エルネス!!」

 「優希!!全力だ!!こいつをここで殺す!!諦めろ!!コイツは、神に成る!!」


 「無理だ!!コイツは、彩花だ!!」


 「もう違う!!」


 その時、気配が一つ消え、強大な気配が現れた。


 【花】すらもその気配に怯えた。


 「なに?今の気配……うそでしょ?」


 『【病】が落ちた……【罪】だ!!来るぞ!!』


 【月】がそう叫ぶと高笑いと共に【花】が吹き飛んだ。


 「キャハハハハハハハ!!!!

 何百年も"押収"し続け、協会の雑多怪人共と、【力】、【病】を完全に"押収"した私なら、【花】とも戦える!!」


 「図に乗るなよ!!

 【罪】風情がああああああ!!!」


 ーーーーー


 数秒の戦い、その末は、


 「私の勝ちだ!!もう、アンタの攻撃は私には届かない。全てが"罪"。全てが"罪業"。私はそれを、断罪するぅ!!!」


 【花】の顔……彩花の顔を踏みつぶし、【罪】はこちらを向いた。


 もう【罪】は、神となった。


 「さぁ、罪業を断罪しよう。

 この世界を、創り変える時!!!」


 「止めるに決まってるだろ!!」


 エルネスが叫び走り出し、


 『妾がそれを許すとでも!!』


 【月】も叫び光を放つ。


 「よくも……彩花をぉぉ!!!!」


 俺も走り出した。


 ーーーーー


 「まぁ、もう勝てる要素なんて無いに決まってるよね?」


 全ての死体の上にミケが立ち、神へと至る道を登っていく。


 「私を止められないとは……罪深いね君達。」

ご精読ありがとうございました


計画性のない人は嫌われるよ?

うぅ……3月の後半から書いてたのにマイクラが楽しくて今日で半分書きました…


エイプリルフールも終わりです。


もう、あの意味わからん平和の怪異回から一年なんだ……怖えよ…


正直、想定ではニューヨーク後だったんですよ


マイクラが楽しくてリオすら終わっていない


そのため、ミケの能力開示ができないっ……


今後の楽しみにして( ; ; )

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