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月下美人

 闇の怪異が動いた。

 「優希、忍。俺たちは今から闇の怪異を倒す為にシンガポールに向かう。」

 「今、あの街は死の怪異の残した気配によって怪異が近寄らなくなっているから、俺たちがいない間に強大な怪異が彩花の下に来るってことはそうそうないと思う。だけど、万が一の為に、八上(やかみ)は置いていくから。」

 そう言って水越さんと伊刻さん、影神さんはシンガポールに向かった。


 ーー2020年•2月21日


 「八上さんってどんな人なんだろう」

 「鬼の怪異ってのは分かるんだけどねぇ」

 シップが作ってくれたサンドイッチを頬張りながら雑談していると、扉が開いて長身の人が入ってきた。

 「おはよう!慎也(かげかみ)と水越さんから聞いてたよ!僕の名前は八上裕也(やかみゆうや)。よろしくね」

 八上さんだ。

 「はじめまして!東雲優希です」

 「はじめまして、琴乃葉忍です。よろしくお願いします」

 そう言うと八上さんは「元気だなぁ」と言いながら隣の席に座ってきた。

 「これ、シップのサンドイッチ?美味いよねぇ」

 あ、俺の…

 まぁいっか。

 「んでさ?あのー、君たちの街の話ね。」

 そう言って八上さんが日本地図を取り出した。

 「まず、ここが君たちの街、実那上(みなかみ)でしょ?んで、ここ」

 実那上を指差した後その指先をスライドさせて大体新潟ら辺を指差した。

 「ここらへんに今、【月の怪異】の本体が来ている。」

 「えっ!?近いっすね」

 「そう。近いんだよ。先月まで北海道の端っこら辺に居たのに。」

 てことは、

 「近づいてきてるって事ですか?」

 「うん。」

 おいおい、死の怪異の気配でって話はどうなってんだ。

 「これに関しては水越さんは心配ないって言ってたんだけど…」

 「何でですか?」

 「忍くんと優希くんは月の怪異の分体と出会った事あるよね?」

 「はい。殺されかけました。」

 「でしょ?でも、優希くんから見た月の怪異の印象はどうだった?」

 えっと、確かに、忍達のことを殺そうとしてたけど、それも全部【人の怪異】から助けようとしての行動だったらしいし…

 「一概にヤベェ奴とは言えない感じでしたね。俺のことを多少なりとも案じてる感じもありました。」

 八上さんが「でしょ?」と言いながら地図を片付けて立ち上がる。

 「だから水越さん的には月の怪異は彩花ちゃん?のことを見守る為に来たって言うんだよ。」

 そんなこと、あるのか?

 「そんなことあるんだよねぇ。」

 えっ、心読まれてる!?

 「だからと言って放っておくワケには…」

 忍が立ち上がって八上さんに言う。

 すると八上さんは優しく微笑んで「わかってる」と言って忍を座らせた。

 「だからね、今から月の怪異に会いに行こう。」

 「え?」

 「水越さんの伝言があって、月の怪異は冥界の構成力が強くすぐに冥界が形成される。そんで、冥界の中に入った人は怪人になって忘れ去られた人のことを一時的に思い出してしまう。そこで、月の怪異が近づいて、その冥界の中に彩花ちゃんが入ったらどうなると思う?」

 八上さんが忍の顔を見る。

 「彩花なら、優希を探して走り回って、そこらへんの怪異と契約を結ぶ……と思います。」

 なんでだろうね、俺もそう思う。

 『愛されてんな。』

 照れること言うな。

 「水越さん的に、彩花ちゃんが怪異と契約することは避けるべき事項らしい。」

 「えっ、なんで?」

 「詳しくは知らない。けど、よくないことになる……かも?だって。」

 根拠がわかんないけど、可能性があるなら避けるに越したことはない…か。

 「じゃあ、一旦ここまでにして、新潟に行くよ。5分後に出発するから準備してね!」

 そう言って八上さんが部屋を出て行った。

 「……なんか、嫌な予感がするんだ。」

 「忍くん、俺も予感してるから大丈夫。」

 月の怪異と戦う予感……的中しないといいけど…

 

 ーー


 「よし!行くか!」

 八上さんに捕まれ、気がついたら新潟の街に居た。

 

 ーー

 

 「ここは…新潟……市?」

 「そうだね。」

 八上さんが空を見る。

 「見て、あれが月の怪異だよ。」

 指差した先。

 雲に包まれ、蠢く竜のようなナニカが優雅に浮かんでいて、その周りに大量の小さな人のようなものが並走しているように見える。

 「あれは分体だね。」

 「どうするんですか?」

 「何もしなくても気づかれる。」

 すると、分体が一体降りてきた。

 あの日に見た姿と瓜二つなそれは大きな鎌を構えて近寄ってきた。

 『鬼よ…炎と言葉を連ねて妾に何か用か?』

 「何をしに行くんだ?それを聞きにきた。」

 『魅入られし者……かの者の運命を妾は見た。無慈悲で残酷な運命であった。故に、妾が自らその首に刃を突き立てようと思うてな。』

 俺が拳を握り、分体を殴ろうとした時、八上さんがその手を止め、人差し指で静かに。とジェスチャーをした。

 「その運命はどうしようもないモノなのか?」

 『如何にも。もし、その運命に足を踏み入れたならもう止まることは出来ぬ。世界は破滅へ向かうのだ。妾は月であり、人の世を見守る調停者である。故に世の破滅は阻止せねばならぬ事項だ。』

 「なら、その運命ってのはなんなんだ。」

 『悪しき怪異の魔の手が迫り、かの者は契約を結ぶ。その果てに世界の崩壊が待っておる。』

 「戦争、槍、夢を持ってしても防げないのか?」

 『如何にも。』

 「考えられないな。」

 『妾も信じられなかった故、何度も見た。しかし、その運命は揺るがなかった。まるで、"神"がそれを望んでいるかと錯覚するほどに。』

 「……そうか。わかった。すまなかったな。」

 『良い。鬼よ。』

 「あっ、最後に一つだけ聞きたいことがある。」

 『なんだ?』

 「"悪"を見たか?」

 『長らく見ておらぬ。』

 「そうか。」

 『では、妾は行く。』

 そう言って分体は消えた。

 「八上さん!」

 「彩花ちゃんの下に向かいましょう。鬼が今すぐに行け。と叫んでいるんです。」

 

 ーー


 私は……なにかを忘れている…

 

 『ワタシがそれを思い出させてあげようか?』


 目の前に喋る"花"が現れて、私に話しかけてきた。

 

ご精読ありがとうございました。

誤字脱字、文がおかしいところがあったら報告お願いします。


月の怪異は人間に友好的なバーサーカーであると思っていただけると嬉しいです。

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