第六十五話 修行
【夜】の一撃を直接受けて、落ちていく。
空で佇む【夜】の顔は恍惚に満ちていて、
「気持ち悪い……」
サクラはそのまま地面に激突し、身体が弾け飛んだ。
「……はぁ、最悪だ」
散らばった体を集め、立ち上がった。
彩花とレンは忍が抱えていた。
「こっぴどくやられたね」
忍が微笑みながらそう言う。
それに対してサクラはため息をつきながら今の一撃を分析する。
「今のやつ、見た目はヤバかったけど、体に受けたダメージはさっきの光の雨を更に重く熱くしただけだった。」
それでも、彩花とレンは意識が吹き飛ぶほどの威力なわけだ。
ちなみに俺は龍の甲冑を纏っていたから意識を保てている。
「つまり?」
憎たらしい顔で聞きやがる。
「あれでも十分、手加減されていた。」
「あはっ!そうだねぇ」
忍が殴りたい顔で笑った。
「で、俺らはこれからどうすればいいの?」
「僕と、ミークと特訓だね。自分達が弱いって自覚はある?」
「弱い?【龍】と【氷】と【死】を倒して来たんだよ?」
「"見てたから"ねぇ……君たちの勝利は、ヴァルフォールのメンバーありきってのと、場の噛み合いが100%だった。」
見てたってところは引っかかるが、ぐうの音も出ない回答が返って来た。
【龍】の時は、八上さんと影神さんのサポートと、人々の願いがうまく噛み合ったことで【人】の力が最大限使えた事と、アベルの抵抗があったから上手くいった。
【氷】の時は、優希のカグツチの炎による援護と、【氷】の片割れが味方として付いていたことが大きかった。
【死】の時は、時間の力が無かったらどうにもならなかった。
よくよく考えてみると、全部俺たちの実力とは言えなかった。
「思い出したみたいだね。ここまでの戦いを。そして、もう一つ思い出してほしい」
「もう一つ?」
「サクラって、水越さんの孫でしょ?話は聞いている筈だよ。」
じいちゃんの話?
………あ。
それは、東京を出る前の話だ。
ーーーーー
『で、最後がニューヨーク…』
「そこが一番の鬼門だ。なんてったって、【花】に次ぐ怪異である【罪】の居るニューヨークにヴァルフォールが一人も居ないんだよ。」
「え?」
『…だよね…うすうす気付いてました…』
ーーーーー
「ニューヨークには、誰も居ない。」
「そう。【花神】に次ぐ存在が居る場所に、君たちを助ける存在はいない。
そして、ここからは新情報。
ニューヨークの住民は全員、【罪】によって断罪されて死んでいる。
だから【龍】の時みたいな奇跡は起こらない。
まぁ、一つだけピースは隠し持っているみたいだけど、そのたった一つで神を倒せるかな?」
「どこまでも、お見通しなんですねぇ……」
そう言うと、忍は笑って近づいて来た。
「さぁ、どうする?」
「修行……させてください。」
「よろしい!」
ーーーーー
俺たちはアルトライに帰還して、彩花とレンをベッドに寝かせ、管制室で今後の相談を始めた。
「修行させてください。と、言ったは良いものの、どんな修行になるの?」
忍はコーヒーを飲んでから一息置いて、話を始めた。
「怪異の戦いはいかに自分の名を使うかが勝敗を分ける。
【言葉】の力で現実を書き換える。それが、僕の力。僕はこれをどれだけ磨いても、相手を殺すことはできなかった。
死ねと言っても、相手は死なず、現実を書き換える範囲は高が知れている。」
「それでも、人を移動させて、人にバフを与えて、あまりにも優秀だよ。」
「……そっか、彩花の記憶を見ているんだっけ?まぁ、とにかく、君達は自分探しを行なってもらう。」
「自分探し?」
「まぁ、後々ね、最初の数日は単純な鍛錬を行うから。覚悟しておいて」
「鍛錬か。俺は、水越争太に鍛えられた男だぜ」
「まぁ、がんばれ」
ーーーーー
忍は話を切り上げて、アルトライの甲板に出た。
「サクラはまだ分かってないんだよ。これから相手にする存在の大きさを」
そう呟くと、夜空が落ちて来て、忍の隣に立った。
「ミーク……」
『そうだ。だから、教えなくてはならない。これは、"神へと至る戦い"であるのだと。』
「ミークは何を知っているの?」
『……全部だよ。これから起きること、これまで起きたこと、全部知っている。』
「なんで?」
『夜空は世界の鏡だ。世界が経験したことは、俺の中に流れ込む。』
「じゃあ、教えてよ。これまでのこと」
『……どれを聞きたい?』
「うーん、一番新しい話から」
『新しい……じゃあ、あれか。"魔法使いの世界"とか、どうだ?』
「おもしろそうじゃん!!」
【夜】と【言葉】の談義はいつまでも続いた。
ご精読ありがとうございました。
終盤に向けて、世界観の提示を行っていきたい感がありますねぇ。
何年後か、分かりませんが、頭の中にある全ての世界を展開し、全ての先にある世界を書き記したいです。
それまでに、私の文章力は上がっていくと良いですなぁ。




