第六十三話 彩花
夜の龍が羽ばたいた。
星々が煌々と輝き、美しい宙のような翼を大きく広げ、羽ばたいた。
それは世界の円環を司る"星"の力を内包した翼だ。
この、【夜】という存在は世界のイレギュラーであり、一種の"神"と同等の力を持っている。
ユーラシア大陸にて座する【花の神】やニューヨークを支配する【原罪の神】とは違うベクトルの"神"。
この世界では誰も知らないだろうが、"星"の力という物は"原初の破壊者"が使っていた力であり、それを内包する【夜】は紛れもなく"神"の力を持つ最高位の怪異なのだ。
そんな怪異を相手にして、サクラ、彩花、レンはどう戦うのか、楽しみだよ。
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『一撃目だ。さぁ、その力を見せてみよ。』
【夜の龍】は大きく広げた翼の中の星々を光らせる。
「範囲攻撃が来るぞ!!気合いで避けろ!!」
俺はそう叫ぶと龍の翼を展開させ、上を向き、星々の位置をよく見て、避け方を考える。
あまりにも星々が煌めきすぎていて、どこから光が落ちてくるのか予想できないっていうか、避け切れる気がしない……
ふと、レンと彩花が気になって視線を向ける。
「な、なんで龍の翼が出てこないのぉ!?」
彩花があたふたしながら落ちていくのが見える。
そうか、龍の力がここにあるって事は、彩花が飛べないのか!?
「僕が守るよ!!」
レンが龍の形をした氷像に乗り、空を飛んで彩花をそこに乗っけた。
「サクラ!!僕たちはどうすればいいの!?」
「無理!頑張れ!」
「「はぁ!?」」
星々の光が更に強くなり、閃光のようにほと走る。
次の瞬間には息を呑むほどの"光"が視界を埋め尽くし降り注ぐ。
「はっはは!マジか……」
【龍】と【人】の力だけでこの窮地を脱せるか?
「花弁よ、私達を覆え。」
彩花が俺とレンを纏めて覆い尽くす花弁の壁を作った。
降り注ぐ光が花弁にぶつかり、花弁が焼ける匂いがする。
流石に【花の怪異】の花弁であっても、あの高密度の光に長時間耐えられるとは思えない。
「彩花!!俺が龍の甲冑を着て、【夜】を叩きに行ってみる。俺の体には龍の力しかない!!自分で飛べるようになっとけ!!」
「えっ、マジ!?てか、扱い雑くね?」
彩花など、この程度でいいのだ。
龍の鱗を操り、甲冑を作り纏う。
「いくよ、アベル。」
カイロでの決戦の時、アベルの声が聞こえた。しかし、それからアベルの声は一度も聞こえない。
それでいい。
俺の中にアベルが居る。それが虚構であっても、俺にとって、大きな希望になる。
まだ、喪っていないかもしれないんだ。
ルーシーは死んだ。でも、アベルだけは生きているかもしれない。
この可能性だけで俺は強くなるモチベーションを得られる。
急降下し、花弁の膜から出る。
雨のように降り注ぐ光を横目に、急降下する。傘のように花弁がその光を遮っているからな。
「気合い入れろ!!」
そう叫び、花弁の庇護下から抜け出す。
落ちてくる光が質量と熱を持って襲ってくる。
光に負けないように大きく翼を広げ、空中を駆け上っていく。
ぶつかる光は熱を持っているが、龍の鱗に包まれた今の状態ではその熱は感じないが、中々な質量を持つ光の重さに押しつぶされそうになる。
「龍の翼じゃなかったらこんな風に飛べないぞ」
ぐんぐんと速度を上げ、夜空を内包する龍に迫る。
『星の光に押しつぶされる事もなく、飛び上がってくるか……まだまだ…だな。』
「まだまだってなんだよ!!!」
手のひらに熱を集める。
「焼き消えろ!!"龍炎"!!」
幻想の炎を放ち、空で翼を広げる【夜の龍】にぶつける。
が、爆発するでもなく、熱で溶けるでもなく、夜空に吸い込まれ、消えた。
「マジかよ」
『言っただろう?まだまだ、だな。』
降り注ぐ光の密度が更に上がり、重みに負け、落ちていく。
「くっそが……」
視界の端で花弁の膜が破け、崩壊するのが写った。
「彩花っ!」
が、心配はすぐに消え、笑みが溢れた。
花弁の膜から鎌を握った彩花が飛び立ったからだ。
ーーーーー
サクラが龍の力を使って花弁の膜から飛び出した。
花で吸収した力は、【龍】と【死】だけ。つまり、私の中には、【死】と【花】の力があるわけだ。
試運転だけど、やってみよう。
ドス黒い【死】の力を思い浮かべる。
「あーあ、掴んじゃったよ」
【死】の感覚。
いつか、ハナを"殺す"という祈りを【死】の力として解放する。
身体中に【死】の曖昧な力が巡り、手にはいつの間にか大きな鎌が握られている。
面白い。
さぁ、やろうか。
レンが作った氷の足場から踏み出す。
落ちる事はなく、私は空中に立つ。
空から落ちてくる光の威力が増し、花弁の膜が耐えきれずに崩壊する。
「レン、私についてきて」
「わかった!」
高揚感が隠せない。
やっと、私も戦えるんだ。
「行くぜ!!【夜】!!」
ご精読ありがとう!!
いやー、続きが楽しみだね!




