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第六十二話 夜の龍


 「裏切っていないってどういうことだよ!!」


 声を荒げ、忍に詰め寄る。

 それに対して忍は頭をポリポリと掻きながら頭を傾げる。

 まるで、どう言おうか迷っているようだ。


 「なんだよ、言い訳を考えているのか?」


 そう言うと忍は空を見上げて呟いた。


 「別に、言い訳とか無いんだけどさ……僕は、ここで君達を強くしたいだけなんだよ」

 

 強くしたい?

 じゃあなんだよ、俺を強くしたいが為にあんな殺戮光線を放ってきたのか?

 「信じられねぇな」


 「ミークは生死のギリギリを攻めてくるからね……やり過ぎる性格なんだ。許してあげて」


 忍がその長い髪を靡かせながら笑いかけてきた。

 男だと知らなければビビッと来るぐらいの屈託のない笑みだった。


 「彩花とレンには同じことやってないだろうな?」

 「やってないよ、まだ……多分……」


 なんだ、その歯切れの悪い返答は……

 まぁ、これで良く分かった。本当に忍は裏切ってなくて、じいちゃんが最初に言っていた通りに【夜の怪異】は……


 「【夜】は味方って事でいいのか?」

 「そう言う事だね」


 俺達は落ち着いて、アルトライの方へと向かった。

 

 その道中で人とすれ違うことは無かった。


 「ーーーー妙だな……」


 「住民のことかな?」


 忍が立ち止まり、そう言った。

 見透かしたように、俺の目を見て、そう言った。


 「ミークが教えてくれるよ。僕の口からよりも、ミークの言葉の方が分かりやすいと思うしね」


 アルトライに到着するとレンと彩花が飛び出てきた。


 「サクラ!!」

 「サクラぁ〜!!」


 二人が抱きついてきた。まるで、何かから逃げるように。

 視線を上げ、アルトライの中に視線をやる。

 

 ソイツは裸足で、妙に黒光りしているローブを纏った褐色の男だった。


 『よっ!さっきぶりだな……サクラ』


 その声は天の上から聞こえた声。


 「【夜の怪異】か……」


 妙に爽やかな顔をしたソイツは俺のその問いかけに朗らかな……いや、これは、憎たらしい笑みだな……それを浮かべて親指を立てた。

 絶妙にイライラする顔だな……


 「で、なんだよ、さっきの歓迎は」

 

 『え、その二つをくっ付けたまんま話を始めるの?』

 【夜】が俺に抱きついている二人を指差す。


 「外してからにします……」

 レンと彩花の顔を掴んで引き剥がす。


 「ぎぇ」「ぎゃ」


 あれ、て言うか……なんで、彩花は俺に引き寄せられないの?

 もうとっくに分離限界が訪れて……


 「なんか、したのか?」


 【夜】と忍を睨む。


 「え、僕は何もしてないけど?てか、なんのこと?」

 

 「彩花と俺が分離しっぱなしなのはおかしいんだよ」


 「成長じゃない?よーく見てみたけど、すっごく綺麗に魂が二分化にされている。死に近い環境で過ごしたから魂の輪郭を把握できるようにでもなったんじゃない?知らんけど」


 多分そうだけどそうじゃない……というか、それだけじゃないだろう……きっと、未来の身体を自分のものにしたからだ。

 一時的であっても、あの魂は未来のものだった。それを脳が覚えているんだ。だから、未来で得るはずだった完全な分離を無自覚のまま出来ているのではないか?


 仮説に過ぎないけど……


 「これで、戦力2倍ってこと?」

 彩花が俺の顔を覗き込んで聞いてくる。


 それに対して俺が何かを言う前に【夜】が声を上げる。


 『今のままだと、戦力は1が0.5と0.5に割れただけ。

 つまり、単純に足手まといが増えただけだな。』


 空気が凍る。


 『だから育てる。鍛え上げる。

 その先で、もし俺を超えられたなら——』


 夜は笑う。


 『喜んで吸収されてやろう。』


 その言葉を聞いて一番驚いたのは忍だった。


 「え!?まって、それじゃあ冥界はどうなるの!」


 『忍に任せるよ』


 「まじっ……かぁ…」


 忍は頭を抱えながら座り込んだ。


 そんな忍は置いておいて、俺は一番気になっていた事を聞くことにした。


 「住民はどうした」


 『コールドスリープ中だよ?』


 「は?」


 【夜の怪異】はキョトンとした顔をしながら続ける。

 

 『人の身で怪異の冥界で生き続ける事は人から離れる要因になるから……眠らせてって……あれ?なに、その反応……』


 嘘だろ……じゃあどうして……

 

 「東京……【月】の冥界は100年間ずっと人が生活を営んでいたぞ」


 他の冥界はしょうがない。殺しにくるやつがいる中で眠れるわけがない。

 でも、【月】は人間に友好的な怪異のはずだ。


 だとしたら、【月】か【夜】が人類の……


 そう考えていると、【夜】がブツブツ喋り出した。

 「どうしたんだ?」


 『……【月】は人間を一つ上のステージに伸し上げたいのか?』

 

 「は?」


 すると、【夜】は唐突に笑い出し、腹を抱える。


 『アッハハハハ!!!そうか、そう言うことか、お前も"新世界"を目指すのか!!』


 新世界……世界の創世か?


 ーーーーー


 地平線の彼方、星の裏側である東京の地にて


 月夜の下、かぐや姫は微笑む。


 『"夜"が微笑んでおる……妾もそろそろ動く時のようだ……のう?【戦争】よ』


 「ふっ、そうか。サクラ達はもうリオに到着したか……じゃあ、"俺が居ない間"、東京を、"日本"を頼めるか?」


 『この、ツクヨミに任せておくと良い』


 【月】は怪しく微笑んだ。


 ーーーーー


 『まぁ、【月】がなにを考えているか分からないが、お前たちの次の壁は【罪】だ。』


 空気が変わった。

 レンも彩花も、俺も、さっきの【罪】からの襲撃を受けて【罪】の強大さを知り、己の至らなさを痛感したからだ。


 『いい顔してるけど、まだ軽い。お前たちは軽いんだよなぁ……だから、これからはもっとキツくする。』


 軽い?俺達が?


 『なんだ、その顔、ムカついてるのか?だったら、俺にそれを撤回させてみせろよ。お前如きに負ける程、【夜】は……弱くない。』


 【夜】は腕を広げ、黒く染まり、影に溶ける。


 そして、忍は立ち上がり、微笑む。


 「がんばってね」


 その声が落ちる。


 《三人は、夜の龍の前に在る》


 世界が書き換わる。


 空が裏返る。


 「は?」「え、僕も!?」


 困惑する俺とレン。対して彩花は絶叫しながらも身体を広げて叫ぶ。


 「この感じ、久しぶりだぁぁ!!!」

 

 ふと、夜空を見るとそこに月は無かった。


 「ん?」


 夜空が羽ばたいたような……


 『さぁ!!1戦目だ!!夜の龍を相手に、どう立ち向かう!!サクラァァァ!!』


 夜空から漆黒のドラゴンが現れる。


 「はっ!!ドラゴンバトルか!それはもう、経験済みだよ!!」

ご精読ありがとうござました!!


ついに、怪異譚が通算100話に辿り着きました!!

さらに、この前、怪異譚が始まって1年が経過しました!!


これから先も、俺の世界を楽しんでいってください!!

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