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青を翔ける  作者: 倉津野陸斗
第2章 天織り
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結い紡ぎ

 翌日、空は一片の雲もなく澄み渡り、朝からまぶしいほどの光に満ちていた。春の柔らかさを感じさせないほど気温が高く、少し歩いただけで額に汗がにじむ。

 季節が一足早く夏に変わったかのような、そんな空気が漂っている。

 通り沿いの並木も新緑が生き生きとし、木々の間を抜ける風に葉が揺れる度、きらめきがこぼれるように感じられる。頭上では小鳥たちが高らかに囀り、空の青さにその声が透き通るように響いている。

 今日は十時出勤。開店は十一時と聞いているので、店に着いたら準備に加わるのだろう。少し緊張しながらも、どこか新しいことへの期待に胸が高鳴る。

 出勤前に店の前に立ち、これから始まる一日を思い描きながら、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。


「お、ありがとうね。今日からよろしく」


 店に着くと、早速店長が出迎えてくれ、温かく挨拶を交わした後、他の従業員たちを紹介してくれた。

 出勤していたのはほとんどが大学生で、一人だけ年配の女性がいた。学生たちに混じって親しげに話している。世代の壁を感じさせない、その和やかな雰囲気に自然と緊張がほどけていくようだった。

 順番に自己紹介をしながら、皆の名前と顔をなんとか覚えようと努める。先ほどの女性は名前は、川谷さんと言うそうだ。

 穏やかで明るい雰囲気が漂うこの職場は、まさに「良い職場」の理想をそのまま形にしたような場所に思えた。


「ありがとね、来てくれて」


 未来が隣で小さく呟いた。小さく頷き返す。


「じゃあ、雄也くんには、未来が一から教えてあげて」


 店長が早速、今日の采配を決める。それぞれの配置が決められ、みんなが準備を始めた。


「じゃあ、まず窓拭きと机拭きからね」


「うん」


 俄然やる気が湧き上がり、どんな小さな仕事でも気持ちよく始められそうだ。こんな素敵な職場で働けるなんて思ってもみなかったからだ。

 まずは机を一つずつ丁寧に拭いていく。真新しい布巾をしっかりと握り、店内の隅々まできれいに磨き上げることに集中した。

 ふと窓に手を伸ばすと、どこからかふわりとコーヒーの香りが漂ってきた。店長が豆から挽いているらしいが、その香ばしい匂いにふと興味が湧く。

 俺はまだコーヒーの苦さが苦手で、大量の砂糖とミルクを入れなければとても飲めない。歳を重ねれば、この苦味も美味しく感じられる日が来るのだろうか、と少し大人への憧れのような気持ちも抱きながら、窓ガラスを一枚一枚丁寧に磨き上げていった。

 気づけば、布巾はほとんど汚れていない。毎日こうして清掃をしているからだろうか、どこもかしこも美しく保たれていて、少しの埃も見当たらないのが印象的だった。

 ひと通り掃除が終わると、ホッとした気持ちでカウンターに戻った。開店までまだ少し時間がある。店長に促されて休憩室へ向かい、ひと息つくことにした。


「いやー、雄也くんがきてくれて助かったよ。今はどこも人手不足だから」


「そうなんですね。お役に立てるように頑張ります」


「ハッハッハッ! まだ関西弁がちょっと覗いてるよ」


 指摘されて、ふと気がついた。まだまだ「標準語」とやらを身につけるのは難しい。意識して話しているつもりでも、ふとした拍子に関西弁が顔をのぞかせてしまうのだ。

 どうにも自然と出てしまう言葉の癖に、自分でも少し苦笑してしまう。そのまま五時間のシフトを終え、店を後にする。夜風が心地よく、湿り気を含んだ空気が肌に優しく触れる。昼間の暑さとは打って変わって、穏やかで穏やかな風が体を包んでくれるようだ。

 疲れがふわりと抜けていくようで、ほっとした気分に浸りながら歩みを進めた。

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