告白
雄也がお風呂に入っている間、俺は何をするでもなく、ただベッドの上でボーッとしていた。時計の秒針が静かに刻む音だけが響く部屋で、俺の頭の中は雄也のことばかりだった。
早く戻ってこないかな。
そんなことばかり考えている自分が少し情けなくも思える。けれど、この距離感が心地よくもあり、苦しくもあった。
ふと、スマホが短く震える。無機質な通知音が静寂を破り、俺は驚いたように画面を確認する。
『お兄ちゃん、上手くやってる?』
妹からだった。なんだ、急に。
「なにが?」
『雄也くんと』
「別に。普通だけど」
『あっそう』
それだけの短いやり取り。スクリーンの文字はすぐに消えて、また元の静けさが部屋を支配した。
側から見れば、こんなやり取りはよくあることだ。兄と妹の何気ない会話だと割り切れば、何てことはないはずだった。でも、俺にはその言葉が妙に重く響いた。
上手くやってる? 妹は何を知っていて、そんな言葉を送ってきたんだろうか。
俺の気持ちに気づいている? そんなはずはない。けれど、もし気づかれていたとしたら――そう考えると心臓がひどく波打つ。
窓の外を見ても、真っ暗な景色が広がっているだけで、どこにも落ち着ける場所はない。
雄也、早く戻ってこないかな。
待っている時間がこんなに長く感じるなんて思わなかった。雄也が隣にいるときは、何も考えずに笑ったりふざけたりできるのに、一人になると途端に心が揺れる。
俺はこの気持ちをどうしたらいいんだろう。好きだと伝える勇気もないくせに、雄也が離れることを考えると怖くてたまらなくなる。
ふいに遠くのシャワーの音が止まった気がした。俺はドキッとして、ベッドから身体を起こす。
もうすぐ戻ってくる。
その事実だけで少し気持ちが楽になる自分が、やっぱりどうしようもなく雄也を好きなんだと再認識させられた。
それから、少しくらいして雄也は帰ってきた。
「おかえり。長かったね」
大体、四十分くらいだっただろうか。雄也にしては、かなり長かった。お湯を張って、入ったのだろうか。夏なのに?
「え、うん」
「どした?」
あれ? どこか様子がいつもと違う気がする。
「ん? いや。なにもないよ」
「本当?」
雄也は小さく頷いて、俺の隣に座った。そして、俺に抱きついて……
「陸人……。俺……、陸人のことが……す、好き……かも……」
「え……?」
耳を疑った。信じられなかった。
「俺、陸人のことが好きなの……」
雄也の震える声が、部屋の静けさに溶けていく。
心臓が跳ね上がった。
まさか。いや、そんなはずはない。
俺がずっと隠してきた想いと同じものを、雄也も抱いているなんて、そんな奇跡みたいなこと……。
「そ、それって……」
言葉が詰まる。心臓の鼓動が耳まで響いて、自分が今どんな表情をしているのかすら分からない。
「俺、陸人のことが好きなの……!」
もう一度――まるで俺の疑念を吹き飛ばすように、雄也がはっきりと告げた。
「だ、だから……」
潤んだ瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。弱さも強さも、全部さらけ出してくれるようなその目に、俺は逃げることができなかった。
「だから、俺と付き合って欲しい……。付き合ってください……」
一瞬、世界が止まったようだった。
呼吸をすることすら忘れそうなほどに、俺は雄也の言葉に飲み込まれていた。そんなわけない。
いや、そんなはずないと、何度も心の中で否定しようとしたのに、雄也の必死な声が俺の胸に深く突き刺さった。
「雄也……」
名前を呼ぶだけで精一杯だった。その名前が震えそうになるのを必死に抑える。
「陸人も、俺のこと好きなんでしょ……?」
その言葉は、まるで俺の隠していた想いをすべて見透かしているようで、胸の奥を鋭く刺した。
「え……?」
顔が熱くなる。俺の秘密はバレていた? どれだけ必死に隠してきたつもりでも、雄也にはすべて見透かされていた?
「う、うん……。雄也、俺も……」
震える声で、ようやく言葉を紡ぐ。
「俺も雄也のことが好きだった……」
言った瞬間、雄也の目に涙が溢れた。
「やっぱり……」
不安と喜びが入り混じった表情で、雄也が俺を見つめる。その顔が愛おしくてたまらなくなった。
「なんだよ」
そう言って、俺はゆっくりと雄也を抱きしめた。雄也は驚いたように肩を震わせたけれど、すぐに俺の背中に手を回してくれた。
「嬉しいよ……」
そう小さく呟く雄也の声に、俺はたまらなくなってさらに強く抱きしめる。
この瞬間、俺たちは友達とか親友という関係を超えて、新しい一歩を踏み出した。
俺は、我慢し続けてきた、雄也の唇を奪った。
狂おしいほどの口づけを交わす。雄也はされるがままに俺に全てを委ねてきた。俺はそれに応える。
雄也の小さな口に俺の舌を入れる。雄也が官能的な声で反応してくる。
それがたまらなく可愛くて、俺はもっと雄也を奪いたくなる。雄也をベッドに寝転がらせて、上から覆い被さる。雄也はもう俺にされるがままだ。
「ん……。あぁ……」
目を閉じて、小さな口から気持ちよさそうに声を出す。雄也の柔らかい唇と耳たぶ、喉仏、首筋を順に喰う。
もう雄也は俺のもの。誰にも渡さない。
これは俺だけの特権なんだから。




