表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青を翔ける  作者: 倉津野陸斗
第4章 思いの丈
49/53

夜に泣く

 陸人が家に来てから、もう一日が経った。昨日の出来事を思い返すたびに、心の奥がじんわりと温かくなったり、少し苦しくなったりする。


 思えば、今日も陸人には助けられっぱなしだった。


 新幹線の中で、俺が怖くなって泣きそうになった時。

 陸人が「こいつは俺のなんで」って、まるで俺を守るように言い切った瞬間が忘れられない。あの時の陸人は、いつもよりずっと大人びて見えて、胸がはち切れそうになるくらいに嬉しかった。でも同時に、その言葉が俺の気持ちを抉った。


(俺のなんで。って、どういう意味だったんだろう)


 あの言葉を反芻するたびに、期待と不安が入り混じって、気持ちが落ち着かなくなる。俺は陸人にとってただの友達なのか、それともそれ以上の何かなのか。考えたくないのに、何度も頭をよぎってしまう。


 昔もそうだった。俺が怪我をした時や、落ち込んでいた時は、陸人が必ずそばにいてくれた。


 あの夏の日、近所の公園で遊んでいた時に転んで膝を擦りむいたことがあった。涙をこらえられずにしゃがみ込んでいる俺を見て、陸人はすぐに走ってきて、「大丈夫だよ」と言っておぶってくれた。家までの道のり、陸人の背中は大きくて、心強くて、その安心感に涙はいつの間にか止まっていた。


「陸人の背中、大きいね」


 そう言った俺に、陸人は「お前が軽いだけだよ」と笑っていたけれど、その背中にどれだけ助けられたことか。


 そして今日も――お腹が痛くて動けなくなった俺を、陸人は迷わず背負ってくれた。


 背中越しに伝わる体温と安定感は、昔と変わらない。でも、大きくて逞しくなったその背中は、どこか頼りがいのある男の背中に変わっていて、俺はまた胸が苦しくなった。


 背負われている間、陸人の首元からふわりと香るシャンプーの匂いとか、息遣いの近さとか、少し汗ばんだ肌の温かさとか、すべてが俺を落ち着かせるどころか、余計に意識させる原因になっていた。


 昔はただの親友だった。頼れる存在で、安心できる場所だった。でも今は違う。陸人が隣にいるだけで、手を伸ばせば触れられる距離にいるだけで、胸が高鳴るし、息苦しくなる。


(どうしよう。これってもう、恋じゃん)


 そう認めるのは怖かった。でも、昨日の陸人の言葉や仕草が、どうしても俺をそう思わせてしまう。


「俺のなんで――」


 あの言葉の続きを知りたくて、怖くて、どうしたらいいのかわからないまま、俺はもう一度昨日の背中の感触を思い出していた。


 変わらないものと、変わってしまったもの。それが絡み合って、俺の心を締めつけるようだった。


 そして、俺はさっき言いかけた言葉を思い返して、ひどく後悔した。


「俺と一緒にお風呂に入ろ」なんて。


 冗談にしても言えるはずがない。でも、その言葉を無意識に口にしそうになった自分が怖かった。


 ただの友達同士で、一緒に風呂に入るなんて普通じゃない。そうわかっているのに、俺の頭のどこかは、陸人ともっと近づきたいと願ってしまう。あいつが好きで好きで、どうしようもなくて、だからこそ抑えきれずに言いかけてしまったんだと思う。


 俺は、何気ない顔をして陸人に話しかけるたびに、心の中では自分に問いかける。

 こんな気持ちを持つのはおかしい? 好きな相手が男だから、こんなに苦しくなる?

 いや、それだけじゃない。ただ、俺自身が弱いからだ。


 陸人は無邪気で、俺に優しくて、だからこそ恋なんて絶対に望めないと思う。あいつに嫌われたくないし、関係が壊れるなんて耐えられない。でも、このまま友達のままを続けるのも辛い。


 湯気が立ち込めるシャワールームで、俺はふと涙がこぼれていることに気づいた。温かいお湯が流れ落ちる音に混ざって、静かに泣いた。


 好きだけど届かない――。そう思うたびに、胸が締め付けられる。でも、この気持ちをどうにもできなくて、泣くことでしか楽になれなかった。


 陸人のことを思い浮かべると、ますます涙が止まらなくなる。あいつの笑顔や優しさが思い出されて、苦しくてたまらない。


 俺は、いつまで続けるんだろう。この気持ちを隠し続けるのを。


 次々と流れて行くお湯と涙が、少しでも心を浄化してくれるのを待ちながら、俺は自分の震える肩をそっと抱いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ