幾度目の葛藤
帰り道、道路は思った以上に混んでいて、車はゆっくりとしか進まなかった。渋滞に巻き込まれた雄也のお父さんは少し呆れたようにため息をついていたけれど、俺はむしろこの時間が長く続くことが嬉しかった。
助手席に座りながら、後部座席で膝を抱えて眠る雄也に視線を落とす。車の振動に合わせて小さく揺れる彼の肩や、少し乱れた髪が妙に愛おしく感じられて、気づけば俺は何度も彼の頬にそっと触れていた。
柔らかくて、暖かい――。
その感触を確かめるたびに、この瞬間が永遠に続けばいいのにと心の中で願ってしまう。けれど、同時にふと疑問が浮かんだ。
俺たちの距離はこれ以上縮まるのか?
今はただの親友として、こうして何の疑問もなく一緒にいられる。でも、もし俺がこのまま想いを隠し続けるなら、これ以上の関係は望めないのかもしれない。
それとも、俺が雄也に想いを伝えれば――。
そう考えると、胸が苦しくなった。告白すれば、何かが変わる可能性はある。でも、それは必ずしも望む方向への変化とは限らない。
もし、雄也が俺の気持ちを受け入れられなかったら?
そう考えた瞬間、喉の奥が詰まるような感覚に襲われた。
彼に嫌われる未来を想像するだけで、心が押しつぶされそうになる。友達としても隣にいることができなくなるかもしれない。そんな最悪の結末が頭をよぎって、俺はますます身動きが取れなくなった。
このまま、想いを隠し続ければいいのかもしれない。友情を壊さずに。
今の距離を守り続けるためには、そのほうが安全だ。でも、それではいつまで経ってもこの苦しさは消えない。
最後席に座ったまま、何度も答えの出ない問いを繰り返す。雄也に触れたい、もっと近づきたいと思う気持ちと、壊れることへの恐れが、交互に胸を締めつけてくる。
車は渋滞の列を抜けて、少しずつ速度を上げ始めた。けれど、俺の心は一向に前へ進めなかった。
眠る雄也の顔をちらりと見て、俺はため息をついた。
俺は、このまま彼の隣にいられるだけで幸せだと思うべきなのかな。
けれど、その幸せが苦しさと背中合わせであることも、俺はもうとっくに気づいている。
「んん……」
雄也が寝返りを打って、俺のお腹に顔を埋めてきた。その突然の動きに、下半身はすぐさま反応してしまい、硬くなった俺のが雄也の頬に当たっている。
だめだ……。このままじゃ……。
でも、どうしようもない。起こせば、それがバレてしまう。そのままにしておけば、バレないけど罪悪感が俺を蝕んでくる。
その時、車がふわっと揺れた。どうやら、今さっき渡った橋のジョイント部分を踏んだらしい。
ふわっと揺れて、雄也が体を起こした。目を覚ましたようだ。俺は硬くなったあれを隠すように服を伸ばす。
「あ、いつの間にか寝てた」
「ね、寝てたね」
「どした?」
「いや、何にもないよ。もうお腹大丈夫?」
「うん。陸人のおかげ」
「え、俺は何もしてないよ」
何もしてないと言うより、雄也の知らないところで勝手に興奮しただけだ。
そんなの許される?
それから数分して、家に着いた。
家に入るとすぐに、翔くんと心悠ちゃんはお母さんと一緒にお風呂に入った。お父さんは、一人でテレビを観ながら晩酌をしている。
俺たちはといえば、雄也の部屋でスマホをいじっている。
「ねー、何観てんの?」
「ん? 陸人が食べるところ」
「そんなのいつ撮ってたの?」
「気づかなかった?」
「うん」
雄也が観ているのは、俺が焼肉を食べている動画。本当にいつ撮ったんだよ。
でも、雄也のスマホに俺が残っていくのが嬉しい。
「ね、陸人。良かったら……」
「ん?」
「いや、なんでもない。俺先お風呂行っていい?」
「うん」
なんだったんだろう。
一人になった部屋で、カーペットに横になりながら雄也が帰ってくるのを待つ。
この時間、俺の心にぽっかりと穴が空いたように寂しかった。




