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青を翔ける  作者: 倉津野陸斗
第4章 思いの丈
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いちゃいちゃドキドキ

 雄也の弟たちが帰ってくるまで、二人で部屋に篭った。昔のことを話したり、昔やっていたおもちゃで遊んだりした。

 何をやっても飽きないし、楽しい。多分、相手が雄也だからだろう。

 これからの二週間、雄也の家で過ごすわけだけども、もういっそ、雄也の家族になりたいくらいに雄也が好きになっている。

 兄弟なら分け隔てなく遊んだり、いちゃいちゃもできるのに。

 ボードゲームで遊んでいると、昔の事を思い出し、そしてまたそんなことを考えてしまう。


「おーい。陸人の番だよ」


「え、ああ。ごめんごめん」


 サイコロを振って、出た目を進む。普通の人生ゲームだ。けど、昔のまま変わっていないから、今のよりも盛り上がりに欠けるようなイベントしかない。

 出た目は、四。

 駒を四つ進める。


『人生で最も愛する人に出会う。もう一度サイコロを振る』


 今の俺と同じ状況だ。もとより、出会うではなく、再会だけど。


「え、ずる。もう一回やん」


「いいだろー?」


「別に。てか陸人の最も愛する人って誰になるんだろ。そんなイケメンに好かれる人が羨ましいなー」


 お前しかいないだろって、出かけたけど、なんとか堪えて笑って誤魔化す。


「さあー」


「俺は陸人だなー」


 今、雄也が小さく呟いたのが聞こえた。俺の名前を言った?

 二回目のサイコロを振ったと同時に聞こえてきて、出る目に集中していたからしっかりとは聞き取れなかったけど、なにか俺の名前を言った気がした。でもなんて言ったんだろう。

 聞き返そうとも思ったけど、雄也がサイコロを降り出したからやめた。


「うわ、一や。最悪」


『運命の分かれ道。好きな人に告白。サイコロを一回振って、表が出たら恋は成就、五万円ゲット。裏が出たら破局、三回休み』


 テーブルの上に広げられたボードゲームのルールを読み上げた雄也が、眉をひそめてサイコロを手に取る。


「なんだよこれー。絶対表しか出したくない」


 雄也はそう言いながらも、手元のサイコロを慎重に見つめる。その真剣な表情が妙におかしいのと、こういう時は裏が出るって決まってるから、俺は口元を抑えながらじっと見守った。


 やはり、そういう時に限って、運命は意地悪なものだ。

 テーブルの上にコロコロと転がったサイコロは、あっさりと裏を向いて止まった。


「えぇー?」


 雄也の落胆した顔に耐えきれず、俺は思わず声を上げて笑ってしまう。


「ちょ、何笑ってんだよ!」


 雄也は恥ずかしそうに俺を睨むけれど、その様子がさらに可愛くて、俺は笑いが止まらない。サイコロ一つでここまで一喜一憂する彼の姿がたまらなく愛しくて、なんだかこの瞬間がずっと続いてほしいとすら思った。


 雄也も思わず笑って、俺の肩に手を置くと、ギュッと握ってきた。反撃のつもりなんだろうけど、その力はまったく痛くない。


「うわー! 全然痛くないよー!」


 俺がそう言うと、雄也はムキになってもう一度力を込めてきた。


「うるさい! おら!」


 しかし、次の瞬間、雄也は俺の背後から抱きついてきた。その不意打ちに俺は完全に固まってしまう。


 これには参った。痛いとかじゃなくて、ただ単に俺が興奮してしまう。雄也の小さな体の熱がじんわりと伝わってきて、俺の体だけじゃなく、心の奥まで温めてくる。


 その距離の近さに耐えられず、鼓動がどんどん速くなる。側から見れば、まるでカップルにしか見えないだろう。だけど俺にとっては、これがただの悪ふざけでは済まされない。


 自分の気持ちを抑え込むのが精一杯で、雄也の無邪気さにどうしようもなく苦しくなった。冗談半分の行動が、俺にはどれほど影響を与えるかなんて、雄也は気づいていないんだろう。


 限界が近づき、俺は耐えきれなくなって、雄也の腕を振り解いた。


「ちょっと、やめろって……」


 その声が震えていなかったかどうかは、自分でも自信がなかった。俺はただ、これ以上雄也に触れられたら自分を保てなくなるのを必死に誤魔化すしかなかった。


「あ、ごめん……。痛かった?」


 雄也が申し訳なさそうに見つめてくる。

 雄也は悪くないよ。俺が弱いから。


「いや、ちょっとトイレ行く」


「お、覚えてる?」


「うん。借りるね」


「うん」


 なんとか、あの状況から逃れられた。俺はまだ、告白もしていないし、しても振られるだけだからする勇気もない。けど、この気持ちは伝えたい。伝えて、吹っ切れる方がまだいい。

 けど、勇気が出ない。


 トイレに座って、ぼんやり考える。

 もし仮に、このままの状態でいて、雄也に恋人ができたら? 多分、俺は正気を失って、生きる意味すらわからなくなるだろう。

 逆に、告白して振られたら? それはそれで、諦めがつくだろう。けど、悲しさは計り知れない。

 最後に、告白して成功したら? もちろん、一番いい。けど、こうなる確率は一番低いだろう。


(あー、もうどうしよう……)


 頭を抱えて座っていると、外から声が聞こえてきた。

 雄也だ。


「り、陸人……? 怒ってる? 痛かった?」


 まずい、俺のことを心配して来てくれている。そんなことないって早く言ってあげないと。

 もちろん、トイレなんかせず、ただトイレに駆け込んで一人で考えただけだから、そのまま出ればいいけど、トイレの後、手を洗ってないと思われたら嫌だから、まだだけど流す。


「あ、大丈夫大丈夫。ちょっと急にトイレに行きたくなっただけだから」


「本当? ならいいけど」


 しょんぼりして、見つめてくる。何から何まで可愛すぎて、理性が爆発しそう。

 もし、付き合うことができたら、そして、一緒に住むことになったりしたら、毎日が天国のようだ。

 落ち込んでいる雄也を見るに堪えなくなったから、思いっきり雄也の弱点である、首と脇をくすぐった。


「大丈夫だよー!」


「あぁぁあ! やめてぇー!」


 雄也の柔らかくて温かい肌が伝わってくる。半袖だから、生地も薄いし、より効果的だ。


 すぐに倒れ込んで、必死に俺の手を掻い潜ろうとする。けど、俺の手が長いから、そんな抵抗は無駄だ。


 二人で闘っていると、リビングの扉が開いた。


「もうー、こんなところで、二人で何やってんの。うるさいやろ」


 雄也のお母さんが笑いながら、見つめている。


「だって、陸人がぁ」


「俺じゃないよ」


「陸人だよ!」


「もういいから、うるさい! 部屋で静かにしとけ」


 雄也のお母さん怒られて、俺たちは部屋に戻る。雄也は一人でクスクス笑っている。


「何笑ってんの?」


「怒られちゃった」


「だね。静かにしよ」


「うん」


 部屋に戻ると、さっきまで遊んでいたボードゲームがそのまま放置されている。

 雄也は、それには目もくれずベッドに倒れ込んだ。


「あーあ。なんか疲れたー」


「もう疲れたの?」


「んー、だって朝から新幹線乗ったし」


「そっか。ちょっと寝たら?」


「うーん」


 雄也がベッドの掛け布団を整えると、俺を見つめてきた。どうしたんだろう?


「どした?」


「あ、あのさ……。一緒に寝ない?」


「え?」


「一緒に寝たい」


「え、でも……」


「だめ?」


 だめじゃないよ。俺だって寝たい。けど……


「雄也は嫌じゃないの?」


「え? なんで? 嫌なわけないじゃん。お、俺……。陸人と寝たい……」


「……」


「あかん?」


 何度かは関西弁が出てくる雄也だけど、今のは反則級に可愛い。

 寂しそうに見つめてくるので、俺はさっきの仕返しも込めて、雄也の隣に飛び込んだ。


「うわ! いってぇ。ジャンプすんな!」


「ごめんごめん。一緒に寝よ!」


「いいの? 陸人とまた寝たかったんだよ。この部屋で」


 昔、何度もここで一緒に寝たけど、あの時はまだ純粋だった。けど、今はもう雄也は俺の恋愛対象に入ってしまっている。申し訳なさが混じっているけど、嬉しかった。


「陸人、かっこいいね」


「うるさい。もう寝よ」


「でも一時間だけね。ご飯食べに行くから」


「うん。じゃあ、おやすみ」


「うん。おやすみ」


 寝る前の挨拶を告げ、俺は雄也の方を背中にして眠ろうとした。その時、雄也が後ろから俺を抱きしめてきた。雄也が俺を後ろから抱いている。

 特別な時間。

 雄也は何気なくやってるんだろうけど、俺にとっては辛い瞬間だった。

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