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青を翔ける  作者: 倉津野陸斗
第4章 思いの丈
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大阪で

読者様のおかげで、10万文字超えることができました!

お読みいただきありがとうございます!

どうぞこれからもよろしくお願いします!

 京都駅に着く頃まで、雄也は深い眠りに落ちていた。俺は彼を窓側に座らせ、自分は通路側に座って、彼を守るようにその姿を見守る。


 雄也が、窓際に座ることを勧めてきたのは、俺を気遣ってのことだったんだろう。「富士山を見せてあげたいから」と笑顔で言いながら、俺に窓側の席を譲ってくれた。その時は素直に座ったけど、今になって少し後悔している。


「通路側でもいいよ」って、ちゃんとその場で言えたらよかったのに。こんなことが起きるとは思っていなかったものの、通路側は人の往来があるから、多少の危険はある。


 窓際の席で見た富士山は確かに美しかったし、記憶にも残っている。でも、あの景色を雄也と一緒に眺めていたら、もっと素敵だったかもしれない。そんな思いが胸をよぎる。


 隣で静かに眠る雄也の横顔を見ながら、俺は次は彼に無理をさせないようにしようと、そっと心の中で決意した。列車はそのまま京都駅へと滑り込み、車内アナウンスが静かに響いていた。


 新大阪駅まで残り十分くらいだ。

 最後のオルゴール調のアナウンスが鳴ったところで、雄也を起こす。

 さっきまでの恐怖心はどこへ行ったのか、ワクワクした様子で、話している。


「あれー、もう着いたん?」


「寝てたからな」


「だって眠かったもん」


 目をこすりながら、雄也はトイレに向かった。一人で大丈夫かなとも思ったけど、トイレまで着いていくのはさすがに過保護すぎるのでやめた。

 戻ってくると、ちょうど新大阪駅のホームに入線するところだった。

 ついに着いた!

 長い道のりで、いろいろあったけど、とりあえず無事に到着できてよかった。


「お疲れ様。もう大丈夫?」


「ん? 何が?」


 もう、さっきのことは気にしていないというふうに手を挙げる。


「ならいいよ」


 笑って先に行く雄也。もう俺は、雄也が困っているところなんて見たくないから、ちゃんと俺が守るから。

 そう言って、新幹線を後にする。

 ひかり号は、回送となって車庫に入っていく。

 俺たちがエスカレーターで、下に降りるのと同時に、のぞみ号が入線していった。新たな旅路に向かうのだ。そして俺たちも。

 これから、雄也の実家に行く。もう何年も行っていないから、雄也の家族は俺のことを忘れてしまっているかもしれない。

 けど、雄也が言うには、雄也のお母さんもお父さんも俺に会いたがっているって言っていた。本当かどうかはわからないけど、そうだと嬉しいな。


「ねー、もう、すぐに向かうよね?」


「うん」


「おっけー。じゃあ行こー」


 この辺りから、言葉はほとんどが関西弁に変わっていて、標準語なんて聞こえてこなかった。同じ日本なのにと思い、苦笑いする。


 大阪メトロ御堂筋線に乗り換え、心斎橋駅に向かう。大阪の大動脈とだけあって、人混みはかなり多いし、その半分くらいが外国人だった。


「めっちゃ人多いね」


「だろー? いつも大変なんだよなー」


 雄也は、笑いながら答えて、乗り換えに便利な号車の前に立った。ここからなら、降りた時に目の前にエスカレーターがあるらしい。

 さすがだ。


 乗り込むと、多くの人が降り、多くの人が乗り込んだ。

 大阪の大動脈は、新大阪、梅田、本町、心斎橋、なんば、天王寺を通っていく。東京で言うと、東京、四ツ谷、新宿、中野的な感じだろうか。

 人の多さは半端がなかった。小さな雄也が、「ちょっとだけ」と言って、俺の腰を腕を回してきた。これじゃもう、まるでカップルだ。


 心斎橋駅でも、同じように人の往来は激しかった。俺はもう人混みに疲れかけていたが、雄也は久しぶりに大阪に帰れて嬉しそうにしている。俺も久しぶりに帰れて嬉しかったけど、ここまでの人混みは東京でも珍しい。

 大阪は外国人にとっても楽しくて、どこか懐かしいものを感じる場所なのだろう。


 心斎橋駅から再び乗り換えて、長堀鶴見緑地線に乗った。この路線も人は多くかったが、御堂筋線に比べたら大分楽だった。

 雄也の家の最寄駅は、森ノ宮駅というところ。俺の家もその近くにあった。

 懐かしいな。地上に出ると、外国人がたくさんいた。おそらく、大阪城でも目指しているのだろう。

 十分程度歩いて、そこについた。


「うわー、変わってない。懐かしいなぁ」


「だろー? 陸人に会えたら、連れてきたいって思ってたから、俺の部屋は何も変わってないよ」


「本当?」


「うん。見たらわかる。あの部屋は俺と陸人の思い出の場所の一つだから」


 雄也も同じことを思ってくれているのが嬉しくてたまらなかった。俺の部屋はもうないけれど、俺の部屋も俺と雄也の思い出の場所の一つだ。

 雄也の家は一軒家で、しっかりした庭もある。犬小屋がある。昔は飼っていなかったから、俺が引っ越してから飼ったのだろうか。

 雄也がインターホンを鳴らすと、雄也のお母さんがスリッパをパタパタ鳴らしながら出てきた。

 雄也のお母さんは、みんなが想像するような大阪のオカンというよりは、関西弁を話す普通の優しい主婦だ。


「え? もう帰ってきたん? あ! 陸人くん⁉︎」


「はい。お久しぶりです!」


「うわあ、見てへん間に男前になって。すごいイケメンやんか」


「いや、そんなことない……」


 俺が否定しようとしたら、雄也が俺の肩に腕を回してきた。


「だろー? 俺の自慢なんだよー」


「はいはい。とりあえず入ったら? 雄也あんた陸人くんと寝るんやろ?」


「そやで」


「片付けやー」


「えー、やってくれてないん?」


「ちょっとはやったけどな」


「へへへ、ありがと。陸人いこ!」


「うん」


 雄也の家に入ると、懐かしい匂いがして、泣きそうになった。昔、自分の家のように入っては遊んで眠った場所だ。

 俺が一つ一つ懐かしむように家の中を見ていると、雄也が手招きしてきた。雄也が立つ場所は、雄也の部屋だ。


 いよいよ、雄也の部屋に入る。そこは、昔とほとんど変わっていなかった。変わっていたものといえば、俺の視線だろうか。高い場所から見下ろす雄也の部屋は、以前とは違って見えたけど、よく見ると何も変わっていない。本当に。


「わざわざ残してくれたの?」


「うん。弟がおるから使わせていいかって親に言われたけど、絶対あかんって断り続けて五年。褒めてよ」


「雄也……ありがとう。懐かしくて泣きそう」


「泣いていいよ」


 雄也がまた、俺の大好きな意地悪そうな目で見つめてくる。


「泣かないよ」


 フフッと笑い合って、俺は我慢をやめた。雄也に抱きつく。


「ちょっ、どしたん急に」


「雄也……。この部屋で抱き合うの久しぶり」


「確かに」


 その時、足音が近づいてくるのがわかった。それからすぐに扉が開き、雄也のお母さんが現れた。


「お父さん帰ってきたら、みんなでご飯食べに行こか」


「え! いくいく! 利樹たちは?」


「心悠と翔はまだ学校。利樹は塾や」


 雄也には、三人の弟妹がいて、雄也は長男だ。俺は、利樹くんとは何回か遊んだことがあるが、翔くんと心悠ちゃんはまだ小さかったので、俺のことを覚えてくれているかはわからない。もっとも利樹くんも覚えてくれているからは定かではないが。


「そうなんや。何時に帰ってくるん?」


「二人はもうすぐ帰ってくるわ。利樹は十八時かな」


「おそ」


「陸人くん、何食べたい?」


「あ、えーと、お寿司がいい……です」


「ですとかつけなくてええよ。昔みたいにタメ口できて」


「うん」


 俺たちは、どっちの親にもタメ口で会話していた。けど今は、それが憚られる。

 しかし、雄也のお母さんはそんなことは気にしていないようだ。俺も昔のように自然に会話したいから、タメ口で話すことにした。

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