東京駅
『東海道・山陽新幹線のりば』
その文字が目に入った瞬間、胸の中でいよいよ現実感が膨らんだ。
(最後に新幹線に乗ったのって、いつだろう……)
ふと考えながら、過去の記憶をたどる。それは、俺が東京に引っ越してきた時だったはずだ。あれからもう五年も経ったのかと思うと、なんだか不思議な気持ちになる。
五年。雄也と離れていた時間。その長さを改めて実感し、少し胸が締めつけられるようだった。離れたばかりの頃は本当に寂しくて、部屋に閉じこもって泣いていたこともあったっけ。
「会いたい……雄也に会いたい……」
当時の自分が、声を押し殺しながらそう呟いていたのを思い出す。その感情は、時間が経つにつれて少しずつ薄れていったかのように思っていたけれど、こうして一緒に新幹線に乗る現実を前にすると、また鮮明に蘇ってくる。
五年――長かったけれど、今こうして雄也とまた旅に出られる。それが嬉しくて仕方なかった。ホームに立ちながら、これから始まる時間が待ち遠しくてたまらなかった。
「陸人、こっちきて」
雄也の声に呼ばれて、ふと我に返った。
見ると、雄也が東京ばな奈の販売店の前に立っている。何かをじっと見つめていて、その目は子どものようにワクワクと輝いている。彼の視線の先には、国民的アニメの猫型ロボットとコラボした東京ばな奈が並んでいた。キャラクターが描かれた可愛らしいパッケージが特徴的で、店頭でも目立っている。
「それ欲しいの?」
何気なくそう訊ねると、雄也は振り返ってニコッと笑いながら答えた。
「えー、これ可愛くない?」
彼の無邪気な表情が眩しいほどで、つい心の中で呟く。
(いや、雄也の方が可愛いけど……)
その気持ちをぐっと飲み込みながら、軽い冗談のつもりで続けた。
「買ってあげようか?」
「え、いいよ。自分で買う」
雄也は笑いながらそう言い、ポケットから財布を取り出そうとする。その仕草も、また妙に可愛くて、俺は思わず続けてしまう。
「本当?」
「うん。なんで陸人に買ってもらわないといけないの?」
少しおどけたように笑いながら雄也が返す。その屈託のない笑顔に、胸がドキリとする。
(だって雄也が欲しいって言うんだもん)
そんなことを心の中で呟きながら、俺は彼の横顔をちらりと盗み見た。目を輝かせながらキャラクターの描かれたパッケージを手に取る彼の姿は、まるで小さな子どもみたいだ。
結局、雄也は自分で東京ばな奈を買うことにした。レジに向かう彼の背中を見送りながら、俺は自分でも気づかないうちに微笑んでいた。
「どうする? これ新幹線で食べる?」
雄也が袋を手に戻ってくると、そんなことを嬉しそうに言った。その無邪気な笑顔にまた心が和らぎながら、俺は「そうだな」と頷いた。
彼といるこの瞬間が、なんだかすごく特別なものに思えた。
雄也が例の東京ばな奈を買った後、次は駅弁を買いに行った。俺は迷った末に、いくらがたっぷり入った駅弁を選ぶ。
ぷちぷちとした食感が好きなんだよな。
一方、雄也は仙台の牛タン弁当を手に取った。
「やっぱり食べたいもの買うのが一番だよな」
そんなことを考えながら、レジに向かう雄也の後ろ姿を追う。その後ろ姿が妙に楽しそうで、なんだか俺まで心が満たされる気がした。雄也が嬉しそうにしていると、それだけでこっちも嬉しくなるから不思議だ。
駅弁を買い終えた後、最後に雄也の家族へのお土産を選ぶことになった。雄也の家族には、初めて会うわけではないけど、せっかくなら喜んでもらえるものを選びたい。
「ね、雄也の家族って何が好きなの?」
「うーん。大阪人だし、なんでもいいんじゃない?」
「どういうこと?」
「適当でいいってこと。安いやつにして、残りは自分に使いなよ」
「それはだめだろ」
そう言う俺を見て、雄也はケラケラと笑う。
彼はお土産選びに特にこだわりがないようで、すぐに手元にあったひよこの饅頭を手に取った。
「これにしな?」
「え、これでいいの?」
俺が思わず頓狂な声を上げると、雄也はまた笑う。
その笑顔はどこまでも無邪気で、つい引き込まれてしまう。
「いいのいいの。それ、家族好きだから」
確かに、ひよこの饅頭はシンプルで可愛らしい。雄也の家族なら、こういうものを楽しんでくれそうな気もする。
「じゃあ、これにするか」
俺も納得してレジに向かう。雄也が選んだお土産を手に、次の新幹線に乗る準備が整った。雄也と一緒なら、何を選んでもいい時間になる気がする。そんなことを思いながら、駅の喧騒の中を歩いていた。
そして、いよいよホームに上がる。案内板には「十八番線」と書かれていて、そこに乗車予定のひかり号が表示されていた。




