人攫いとパンデモニウムと国防軍
学園に復帰してはや3週間がすぎていた。あれ以降あの鬼の記憶を見るという不思議な体験はしていない。結局あれが何だったのかそこはさっぱり分からなかった。ただ一つわかる事が有るとすればそれはあの鬼は数百年前に実在した本物の鬼だという事くらい。
蓮斗「(あの一件以降特に体に異常は無い。でもなんか引っかかるナニかがあるんだよな、、、)」
そんな事を考えていると待ち合わせをしていた天羽と香織がやって来た。待ち合わせの理由は最近開いたというスイーツ店に香織がどうしても行きたいと言うので暇だった私と天羽が同行することになったのだ。
蓮斗「(翔さん、課題を忘れて補習に行くって言ってたけど大丈夫か...?)」
天羽「なぁ蓮斗」
蓮斗「ん?あぁごめんどうしたんです?綾人君」
天羽「いや、なんか考え込んでた風に見えたから声を掛けただけだ。何も無いなら気にするな。」
蓮斗「えぇ。余計な心配をかけてしまい申し訳ない。」
天羽とは前回の一件以降仲良くなった。あれからよく模擬戦をしたり昼食を共にする仲になった。あれから時間が経ったからか香織も天羽に対してかなり打ち解けた中になったらしい。
香織「そういえば2人共、最近この街で人攫いが出るって噂聞いた?もう5人は行方不明になってるらしいよ。怖いよね。」
天羽「それ俺も聞いた。しかも行方不明になってるのって獣人とか亜人とかって話だし。」
蓮斗「亜人や獣人ばかり狙って誘拐してるんですかね?理由はどうであれ物騒ですね。」
蓮斗「(人攫いか、正直言って関わり合いにはなりたくないな。絶対面倒事になる。)」
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香織の言っていたスイーツ店でお目当てのスイーツを食べ終わった後近くの河川敷にある公園で私たちは談笑をしていた。時間は6時を回り日が落ち暗くなり始めていた。
蓮斗「そういえば綾人君、前耳にしたんですが以前パンデモニウムを1人で捕まえたって話って本当なんですか?」
天羽「うんそうだよ。最近よくその質問聞くんだよねぇ。流石に強かったよ。」
香織「その人達ってどれくらい強かったの?」
天羽「そうだな、前戦った時の蓮斗の2割下くらいかな?結構強かったよ。まぁ末端だったんだろうけどね。幹部が相手だったら多分死んでた。」
香織「手を抜いてる状態の蓮斗の2割下かー。一般人が相手だったらだいぶ強い事にならないそれ?」
天羽「うんそうだよ。」
蓮斗「ハハハ。私はそんなに強くありませんよ。」
香織「でたー蓮斗がいつも言う嘘〜」
蓮斗「嘘なんて言ってませんよ。正直私が本気で戦ったとしても国防軍の副隊長補佐とか位ですし。」
天羽「それを世間一般では強いって言うんだよ。冗談はさておきなんでそんなに強いん?誰かに体術を教えて貰ってるのか?」
蓮斗「まぁ父さんに少し教えて貰ってはいるけどそれ以外は独学だよ。それに魔法は小さい頃から興味があってずっと読んでるし。」
この世界に来てから色々な体験をしているのは確かだし前の世界には無かった魔法はとても面白いものだった。だからよく魔法の本を読んで知識を蓄えていった。父さんが何であんなに強いのかはまだ知らないけど。
蓮斗「それにしても結構暗くなって来ましたね。そろそろお開きにして帰りましょうか。」
香織「そうだね。話はまた明日にしよっか!」
そういい解散しようとした時
女の声「きゃーーーーー!!!」
突如として女の子の叫び声が聞こえた。天羽と私、香織は目を合わせた。声がした方向に目を向ける。次の瞬間何かが女の子を追いかけていた。黒くて大きな手の様なモノが女の子を掴みにかかった。
蓮斗「綾人君。もしかしたらこちらに来る可能性があるので香織さんを頼みます。」
天羽「OK。そっちも気をつけろよ。」
そう言葉を交わした瞬間私は飛び出した。女の子と手の間に入り魔法を放つ。
蓮斗「風系統中位魔法・疾風乱牙」
手のようなものは風の刃で斬る事ができ、すぐさま空中に霧散した。
蓮斗「あなた大丈夫ですか?」
私は襲われていた女の子に目を向けた。が、その姿を見て私は言葉が詰まった。そこに立っていたのは亜人種である鬼人族の女の子だった。
蓮斗「(鬼人族!?おい待て、亜人種の鬼人族が襲われてるって事はまさか....!?)」
次の瞬間前方から複数の人影が現れた。人数は8人。明らかにこちらに対して敵意を向ける者たちに私は質問を問いかけた。
蓮斗「貴方達は最近噂の人攫いですか?誰かは知りませんがそれだけ教えてください。」
そう質問を問いかけた。するとリーダーのような男が答えた。
男「あぁそうだ。俺たちは訳あって今亜人種を攫っている。そして俺たちはパンデモニウムだ。」
パンデモニウム。正直言って今1番聞きたくなかった名前だ。国内外で大規模なテロを引き起こす詳細不明な組織。なぜそんなヤツらが人攫いを?
蓮斗「「私が奴らに攻撃を開始したらそこの公園に逃げ込んで下さい。私の友人が守ってくれます」」
私は女の子に小声で話しかけた。ちゃんと聞こえたのか女の子が首を振った。
蓮斗「正直関わり合いにはなりたく無いですけど目の前で人攫いなんてあったら目覚めが悪いんで止めさせてもらいます。」
男「バハハハハハ。いいだろう、まずお前から殺してやる。」
蓮斗「(止めると言っても多勢に無勢、おそらく天羽が通報してくれてるとはいえ厳しい状況。でも流石にこんな女の子を見捨てる訳にもいかないし.....多少無理してでも頑張らないとな。)」
男達がタイミングを合わせたように走り出す。
蓮斗「(一人の口がかすかに動いてる.....詠唱か!!狙いは、女の子か!)」
男「火系統中位魔法・炎槍掃射」
蓮斗「二重詠唱・水石障壁!」
男「二重詠唱!?なんでお前みたいなガキが!」
蓮斗「敵を前にして他に目移り。戦場じゃ命取りですよ!」
蓮斗「強化系統魔法・脚力増強」
魔法を防がれたことに加え二重詠唱を目にしリーダーの男は狼狽えた。その隙を見逃すほど私は愚かでは無い。脚力を倍増させ動揺した人間の動体視力ではまず見えないスピードですぐさま奴の後ろを取りそのまま渾身の蹴りを入れる。
男「ガバァッ!?」
男は勢いよく吹っ飛ぶ。だが流石にこの程度では意識は刈り取れない。リーダー男が体勢を立て直そうとした瞬間一連の動作が見えていない他7名と吹っ飛んだリーダー男が1射線になった。
蓮斗「短期決戦が最善手!本当はまだこれ、完全に制御出来ないから使いたくなかったけど悪く思わないでくださいよ!!」
蓮斗「雷系統上位魔法・紫電雷砲!」
上位魔法の発動。辺りが紫の光で覆われ、目を覆う程の光と落雷のような轟音をその場に齎した。光が落ち着き周りが見えるようになった。男達の方を見ると全員防御が出来なかったのか全員痙攣して動意識を失っている。正直最初は多対一の状況に焦ったが相手が弱かったのと虚を衝く事ができ、何とか勝つことが出来た
蓮斗「二重詠唱に身体強化、その上で上位魔法を叩き込んでようやく勝利。魔力結構使っちゃたな。あ、こんなことしてる場合じゃないな。」
私は直ぐに男達を拘束した。まだ意識は戻ってなかったので簡単に拘束することが出来た。すると後ろから天羽と香織の他に大勢の大人達が走ってきていた。
香織「大丈夫!?怪我してない!?」
香織が私に飛びつき体を念入りにチェックし始めた。それがそうと天羽が話しかけてきた。
天羽「全員拘束済みか、流石にあの光と音聞くと焦ったぞ。」
蓮斗「あはは、申し訳ない。ところで綾人君、あの女の子は無事ですか?」
そう私が天羽に質問すると横から話を遮るように大人の1人が話し始めた。
???「初めまして。私は国防軍第一団隊の副隊長、小鳥遊優里。君、さっきのは上位魔法だね?」
一同「「「えっ」」」
団員A「待ってください副団長!相手は高校生の子供ですよ!?流石にこんな少年が上位魔法を扱えるとは思いません!」※以降篠田
団員B「そうですよ!確かにこの少年は大の大人8人を制圧していますが、上位魔法は仕様に制限が掛かる程絶大なものです!見たところそんな無茶な行動を取るほど愚かではないはずです。」※以降西田
耳が痛い。この副団長さんが言うように私は上位魔法を発動させた。制限が掛かっていると知った上で発動した為冷や汗が止まらなくなってしまった。
天羽「蓮斗お前、まさか...!?」
香織「え、」
ここで否定すれば更に自体が悪化するのは目に見えている。であれば
蓮斗「はい、私は上位魔法を使いました....!!!」
私はすぐさまその場に土下座していた。街中での戦闘行為は非常事態の際は問題ないが制限の掛けられた上位魔法は国でも使用を認められた組織に所属、許可される事で使用が可能となるもの。それをどの組織にも所属していない一高校生が使用したとなると大問題。お咎め無しとはならないかもしれない。そんな事を考えていると、先程襲われていた鬼人族の女の子が話しかけてきた。
女の子「あの、さっきは助けてくれてありがとうございます。お陰で助かりました。」
そう言い女の子は深々と頭を下げた。
蓮斗「お礼には及びません。人を助けるのは当たり前のことですから、気にしなくて大丈夫ですよ。それで貴女の名前はなんて言うんですか?」
凛「望月凛っていいます。」
蓮斗「いい名前ですね。」
そんな風に話している時ふと副団長さんの方を見ると他団員と話し込んでいた。ふと奴らが口にした事を思い出す。
蓮斗「あの副団長さん、先程この者達と戦闘に入る前に聞き出した情報ですがこの者達は自分たちの事をパンデモニウムと名乗っていました。」
小鳥遊「何!?それは本当か!?」
そう言い副団長さんは私に急接近し肩を掴んできた。
蓮斗「はい、そして理由までは言っていませんでしたが訳あって亜人種を攫っているとも言っていました。」
団員A「亜人種を!?」
団員B「副団長、これは我々が思っているより遥かに難しい物のようですが、どうしますか?」
小鳥遊「あぁ、これはちゃんと調べた方がいいかもな。篠田は至急応援を要請、西田は周辺区域の警戒を頼む。」
篠田・西田「「了!!」」
小鳥遊「すまないがこれから君たち4人には国防軍本部に来てもらう。親御さんにも連絡を入れなければならないから、連絡先を篠田の方に伝えてくれ。」
4人「「はい」」
小鳥遊「それと君、名前は?」
そう言い副団長さんは私に指を指し名前を聞いてきた。
蓮斗「祇梨蓮斗です。」
小鳥遊「祇梨...?」
蓮斗「あの、俺の名前になにか?」
小鳥遊「いや、何でもない。それでは応援が来るまでここで待機する。いいな?」
4人「分かりました。」
何やら最近良くない事が立て続けに起こっている気がするが気の所為なのだろうかと私はそう思った。