異変
1日の訓練を終え私達は騎士団の食堂に来ていた。周りには訓練終わりや業務を終えた騎士達が食事を取っている。
滝壺「どうだい皆、訓練の方は順調かい?」
蓮斗「はい、基礎的な体作りを中心に魔法の訓練も並行してます。出力を見直すのも案外悪くないですね。」
滝壺「確かに、蓮斗君の魔法は一発の威力が大きいからね。そこら辺を微調整できるようになれば、戦術の幅も広がるからね、頑張って。」
蓮斗「はい。」
天羽「俺は根源魔法の持続時間向上と魔力操作を中心にしてますね。通常の根源魔法みたく魔法を乱発するのはあの形態に合ってない気がするので。」
蓮斗「出力を50%抑えた状態なら最大4時間半の活動はできますが、フル出力の場合もって10分なんですよ。滝壺さん、アドバイスとかがあれば欲しいんですけど...」
滝壺「ふーむ...そうだな、じゃあ出力をタイミングや部分に応じて変えてみるのはどうかな?」
天羽「タイミングや部分に応じて変えてみる?それにどう言う意味が...」
滝壺「常に100%を発揮すると君は倒れてしまう。だったら脚力だけ出力をあげたり、瞬間的に最大出力を発揮するのもアリだと思うんだ。」
蓮斗「なるほど、それなら体や脳にかかる負荷も抑制できるし、持続時間も伸びる...!」
天羽「なるほど...!明日試してみます!」
滝壺「役に立てたなら良かったよ。美月和さん達は何か助言が欲しいとかある?」
香織「いや、私は今の所は無いですね。相談したい事ができたら相談しますね。」
神崎「私も香織ちゃんと同じです。」
滝壺「そう、いつでも相談乗るよ。」
私達はその滝壺さんの言葉を気に訓練の話を終え談笑しながら夕食を食べ始める。料理の半分を食べ終わった頃周囲の騎士達の話が耳に入る。
騎士A「聞いたか?最近街の外で魔物が異常に少ないらしいぞ。ゴブリンですら最近1回も目撃されてないらしい。」
騎士B「魔物の被害は出ないに越した事はないが、1匹も目撃されないのは不自然だな。」
騎士C「ゴブリンですらって事はオークやヴェノムバイパー、スカルスパイダーもか?」
騎士A「あぁ、森の奥に調査が入ったらしいけど、森を闊歩する上位種もいなかったらしい。」
騎士B「何かの前触れかねぇ...あぁ、嫌だ嫌だ。」
そう、近頃のアルベシア周辺では魔物の出現が極端に低下しているのだ。城内でもこの異常現象に対して何かしらの対策を取るべきという声が上がっている。
蓮斗「...滝壺さんは、今の話どう思います?」
滝壺「そうだね...まぁ確実に何かしらの原因があるのはほぼ確だ。でも、何が原因なのかは今の現状じゃ俺にも掴めない。ただ1つだけ断言出来る事はある。」
天羽「断言出来る事?」
滝壺「警戒を怠るな、俺から今言えるのはこれだけだね。」
そう滝壺さんの言葉と共に私達は解散した。解散後私は訓練場に向かう。
蓮斗「誰も、いないな...」
私は訓練場に誰も居ない事を確認すると根源魔法を発動させる。試したい事があったのだ。
蓮斗「火系統根源魔法・炎神神化」
1度目の使用から2週間が経ち、今では以前と比べ格段に上手く扱えていると思う。
蓮斗「出力安定、身体負荷軽度...よし、試してみるか。」
蓮斗「火系統根源魔法・炎神神化〝炎熱加速〟」
私が試すのは炎神神化に統合された能力〝炎熱加速〟だ。自身の出す熱をエネルギーに変換しそれをスピードに転化する。魔力が多ければ多いほど、この加速は強まっていく。
蓮斗「今の私の魔力量ならどれだけ加速するのか、楽しみだな。」
炎熱加速を使用した状態で1歩踏み出す。瞬間、私の体にとてつもない衝撃が走る。
蓮斗「あれ、加減間違えた...?」
私は訓練場の壁にめり込んでいた。私の認識は間違っていたのか、保有魔力で加算されていくと思っていた炎熱加速だが、どうやら加算ではなく一定の魔力量を超えると速度の上がり幅が極端に大きくなるらしい。
蓮斗「特殊異能が無かったら、私の体、ぐちゃぐちゃじゃすまなかったな...」
???「早いな、君。」
蓮斗「!?」
認識の違いを改めている最中、突然前方から声をかけられた。私はその突然の呼びかけに体が無意識の内に戦闘態勢に入っていた。
???「まった、私に君と戦う意思はないよ。」
そう言いながら暗闇から姿を表したのは女王陛下のイルアさんだった。
蓮斗「女王陛下...!?無礼な振る舞い、ここに謝罪します。」
イルア「気にしなくていい。私はただ、君の様子を見にきただけだからね。」
その言葉には嘘はなかった。しかし、以前対面した時と比べ、物腰が柔らかくなっている気がする。私がそんな事を考えていると表情に出ていたのかイルアさんはクスリと笑った。
イルア「謁見の間と比べて受け答えが軽いって思った?」
蓮斗「...失礼ですが、はい。前回会った時はとても厳格な印象を抱いたので、ちょっと意外です。」
イルア「ふふ、私だって女の子なんだよ。女王の私と普通の女の子の私。この2つがあって私があるの。意外と思われても仕方ないと思うけどね。」
話をしてみるとイルアさんはとても接しやすい、普通の女の子だった。こう言ってはあれだが、以前対面した時と比べるとまるで別人の様に感じる。
蓮斗「前お会いした時から思ってましたが、とてもお若いですよね。女王の任についてどれくらいなんですか?」
イルア「...3年かな。先代の王が病で急死して、幼かった私が次の王に選ばれたの。女王になったのは13の頃。」
蓮斗「13...じゃあ今私と同い年なんですね。」
イルア「君も16歳なの?」
蓮斗「えぇ、ついこの間16になりました。」
イルア「16歳で、なんでそんなに強いの?」
蓮斗「簡単な話、私は魔法が好きなんです。それに、大切な人達を守る力も欲しい。だから、小さい頃からずっと鍛えてたんです。」
イルア「立派な願いだね。」
そんな話をしているとイルアさんが魔法の話を振ってきた。
イルア「君は根源魔法、いくつ使える?」
心臓が跳ねた。もしかして闇魔法の事をしているのかと思った。しかし、
イルア「私は2つ使えるんだ。」
蓮斗「2つも使えるんですか?凄いですね、私は一つだけです。」
イルアさんが口にしたのが年相応の自慢だった。
イルア「私は昔から氷と風の適性が高くて、いつの間にか根源魔法を使えるようになってたの。」
蓮斗「天才なんですね。」
イルア「私が天才なら、君の方が天才だよ蓮斗くん。君は私の数倍強い。それこそ、根源魔法の二重詠唱を使っても勝てるビジョンが見えない。」
蓮斗「私は秀才ですよ。本当の天才は、天羽君と香織さんです。」
イルア「どうしてそう思うの?」
蓮斗「だって、私が血反吐を吐いて会得した魔法を天羽君は平然とした顔で会得するんですよ?正直、ちょっと凹みます。香織さんに関しては開花こそまだですが、才能が開花した時は私なんかより強くなります。」
イルア「君は、その2人を信頼してるんだね。」
蓮斗「えぇ、2人共私の大切な仲間です。」
そう話している時ふと空を見上げると、そこには綺麗な星が輝いていた。
蓮斗「星、綺麗ですね...」
イルア「そうでしょ?あっ、そうだ!蓮斗くん着いてきて!」
蓮斗「えっ?あ、はい!」
私はイルアさんの後を追う。向かっているのは城の屋上だろうか、イルアが白の頂上の屋根に飛び乗り、立ち止まった。私も後を追いそこへ飛び乗る。
蓮斗「...........」
イルア「綺麗でしょ?」
彼女がそう言い見せたのは夜空と夜の街並みだった。今目にした光景は今まで見たどの景色より美しく、綺麗だった。
蓮斗「凄いですね、とても綺麗です。」
イルア「そう言ってくれてよかった。私も雑務で疲れた時はよくここに来るんだ。」
そう言いながらイルアさんは屋根へと腰掛ける。街を眺めるその目はキラキラと街の光を映していた。
イルア「君はこの国、どう思う...?」
イルアさんの突然の質問。私はその意図が掴めず一瞬の間がその場を支配した。
蓮斗「...いい国だと思います。街の人たちは笑っていて、とてもいい雰囲気です。」
イルア「そっか、そう言ってくれると嬉しいよ。」
そうイルアさんが返した後、少しの間2人共何も言わずに夜の街並みを眺める。私はふと思った事をイルアさんへ質問する。
蓮斗「気を悪くしたら、すみません。1つ質問してもいいですか?」
イルア「良いよ。」
蓮斗「イルアさんは、黒王戦鬼の事、どう思っていますか?」
イルア「.........」
私のその質問にイルアさんは驚いた様子だった。すぐに先程の表情に戻り考えている様だった。数十秒経ってからイルアさんは口を開く。
イルア「過去にこの国を襲った大天災...大切な者を奪われた悲しき鬼、憎悪と憤怒の大災害、と言った所かな?それにしても、どうしていきなりその質問を?」
蓮斗「この国に来る前、滝壺さんに聞いたんです。この国では黒王戦鬼は禁忌だって。」
イルア「そうだね、国民の殆どが自分達の祖先の過ちを知っている。だから、黒王戦鬼の名を出さないのは、彼を鎮めるため...故にこの国では禁忌とされてるんだよ。」
蓮斗「なるほど...お答え頂き、感謝します。」
イルア「いいさ。さて、そろそろ戻ろうか。」
蓮斗「えぇ、そうですね。」




