一線
ホームルームが終わり授業が始まるまでの時間、私は多くのクラスメイトに質問攻めにされていた。
「なんであの場所にいたの?」
「新島さんと知り合いなのか?」
「戦闘中に使ってた魔法は何なの?」
そういった質問が多く、私は疲弊していた。
蓮斗「天羽君、香織さん、助けてください...」
天羽「残念だったな祇梨。」
香織「今日は私達もこっち側だよ。」
そう言い二人は質問する側に立っていた。私は軽く絶望し、押し寄せる質問へ回答し続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓮斗「や、やっと終わった.....。」
香織「蓮斗おつかれ〜。」
天羽「どれくらい質問された?」
蓮斗「多すぎてもう数えてません...」
質問を聞いてる最中に分かった事だが、どうやら戦闘音で私の詠唱は届いていなかったらしい。それだけが、救い所だった。
蓮斗「(退院する時に荒山総司令官に言われた、黒王戦鬼は機密事項だから秘匿しろって言うのは、混乱を避けるためだよな.....)」
そう考えながらぼーっと天井を見上げていると香織が上から覗き込んできた。
香織「ねぇ蓮斗。」
蓮斗「はい、なんでしょうか。」
香織「質問していい?」
蓮斗「別に良いですけど、顔、近いです。」
香織「分かっててやってる。」
蓮斗「貴女ね.....」
私が呆れたようにため息をつくと香織は私の髪を弄りながら質問し始めた。
香織「蓮斗が配信で使ってたあの魔法、何.....?」
蓮斗「それはさっきも言いましたけど、火系統の黒炎を纏ってただけですよ。」
香織「そう?私にはもっと別な魔法に見えたけど...今蓮斗が言ってる事、本当に事実?」
蓮斗「...事実ですよ。」
私はこの3週間ですっかり忘れていた。香織はふとした時の勘の鋭さが以上だった事を。私は内心冷や汗が止まらないが、表情だけは必死に取り繕った。
香織「でもあの姿、黒い鬼みたいだったよね。」
蓮斗「そう、ですね。」
香織「蓮斗、君、何か私たちに隠してる事あるでしょ?」
蓮斗「...隠し事なんてしてませんよ。」
私は正直、香織や天羽に嘘をつくのが少々辛かった。そして何故か、私がつく嘘を香織は全て見抜いている様な、そんな印象を受けた。香織が再び口を開こうとした時教室の扉を開き先生が入ってくるのが見えた。それと同時にチャイムも鳴り授業の時間が始まった。
香織「...また後で話そう?」
蓮斗「分かりました。」
そう言い、香織は自身の席へ戻って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
授業中、窓から外の景色を眺める。空は嫌なほど晴れており、雲一つない。ふと視線を下に傾けると学生がグラウンドに出ていた。
蓮斗「(屋外でスポーツでもするのか?)」
私がそんな事を考えながらぼーっとしていると、先生に冊子で頭を叩かれた。
先生「復学して早速よそ見か?」
蓮斗「いえ、そういう訳では....」
先生「じゃあ授業に集中しろ。罰として98ページの7行目から音読しろ。」
蓮斗「分かりました。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
授業が終わりに差し掛かり全員が軽い会話をしていると外から大きな声が聞こえた。
???「祇梨蓮斗ーーーーー!!!」
蓮斗「!?」
私は不意に大きな声で名を呼ばれて驚いた。驚いた拍子に教科書を床に落としてしまった。教科書を拾い上げ、外を見ると誰かが、このクラスに向かって叫んでいた。
蓮斗「誰だあの人。」
私は自然とそう口にしていた。理由は簡単だ。私の名を呼んでいたのは一切の面識がない生徒だったからだ。
天羽「んー、あのジャージの色からして3年生だな。祇梨、なんかしたのか?」
そう言いながら天羽が不思議そうな顔をしてこちらを向いた。当然私には一切の心当たりがない。
香織「でも、蓮斗の名前叫んでるよ?」
蓮斗「それは確かに.....」
そう会話をしていると不意に
???「俺と勝負しろーーーーー!!!」
蓮斗「ん?勝負?」
私はその言葉を投げかけられ一瞬動揺してしまった。だが、先に動いていたのは先生だった。
先生「長野ーーー!!お前授業中に何やってんだ!!他学年に絡むなーーー!!」
先生がそう言いながら長野と呼ばれた生徒を叱りつけていた。
蓮斗「?????」
私は正直何が何だか分からずその場で固まっていた。いきなり勝負を挑まれるような言われは無い。だからこそ、困惑してその場で固まったのだ。
先生「あれは、3年の長野だな。確か来年から国防軍に入るのが決まってる、実技優秀生だ。」
私が固まっていると外を見た先生がそう言った。
天羽「実技優秀生って事は....あ、あの人去年、単独戦で優勝してた長野圭だ。」
蓮斗「単独戦優勝者...何でそんな人が私に...」
先生「あれだろ、この前の生配信。あいつも見たんじゃないか?」
蓮斗「あーー.....なるほど。」
私が納得していると外が騒がしくなってきた。私たちはそれが不思議で全員が窓の外を見た。そこには今にも魔法を発動させようとしている長野が居た。
先生「まずいな、完全に興奮してる。」
先生のその言葉に私たちは息を呑む。全員に緊張が走り、沈黙がその場を支配する。そして次の瞬間。
長野「火系統中位魔法・焦熱火球」
彼は先生の制止を振り切り魔法を放った。それは明らかな攻撃意思によるものだった。瞬間私達は窓から飛び退いて全員が各々防御魔法を発動させた。
天羽「空間系統上位魔法・多層重複結界」
全員が防御魔法を発動してる時天羽だけは冷静に魔法を発動させていた。
蓮斗「(天羽って、上位魔法使えてたか...?それにこの結界、校舎全体を.....)」
私がそんな事を考えていると結界と魔法が衝突し、大きな爆発を起こした。それは明らかに中位魔法の威力ではなかった。
蓮斗「威力おかしくありません!?」
先生「当たり前だ!あいつの特殊異能は豪炎。火魔法を超強化する異能だ!そんな事より、全員無事か!?」
香織「大丈夫みたいです!」
私はすぐに後ろを振り向く。そこには腰を抜かし座り込む多くのクラスメイトがいた。その中には恐怖のあまり泣き出す生徒もいた。
蓮斗「.......」
香織「蓮斗、どうしたの?」
蓮斗「いえ、なんでもありませんよ。それより天羽君が結界を張ってくれたおかげで怪我人が出ずに済みました。あとからその魔法、誰に習ったのか教えてくださいね。」
天羽「お、おう、それはいいけど、どうして窓の方へ向かってるんだ?」
蓮斗「いえ、いきなりこんな事されて、笑って許してあげるほど、私は優しくないので...お礼をしようかなと。」
私はそういい窓を解放し上半身を乗り出す。
先生「ちょ、待て祇梨!」
先生が私を止めようと声をかけてきた。しかし、私はそれと同時に窓から外に飛び降りた。
ーーーー ーーーーーーーー
ズゥゥゥゥゥンンンン..........
私は3階から飛び降り地面へ着地した。その音で気がついたのか長野が声を上げる。
長野「あ?なんだお前。」
蓮斗「いえ、貴方が呼んでいるので来ただけですよ。それで、なんの御用でしょうか?」
長野「あぁ、じゃあお前が祇梨蓮斗か!俺と勝負しろ!!!」
蓮斗「いきなりそう言われても、ねぇ....」
長野「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!ここに来たってことは戦うってことだろ!?じゃあやろうぜ!」
蓮斗「私がここに来たのはあくまでお礼のためです。戦うつもりは毛頭ございません。」
長野「あぁ?お礼だぁ?」
蓮斗「はい、皆さんをこわがらせたお礼です。」
蓮斗「風系統上位魔法・疾風裂斬」
長野「は......」
次の瞬間長野は後方に吹き飛んだ。まともに防御していなかった為か、皮膚が裂け夥しい量の出血をしていた。
長野「あ、あ゛あ゛あ゛!!!痛てぇ、痛てぇ!」
蓮斗「まだ、お礼は終わっていませんよ...?」
長野「は、うわぁぁ!!」
私は長野が痛みの方へ意識がもっていかれている一瞬のうちに長野の目の前まで接近していた。予想外だったのか長野は絶叫した。そして苦し紛れの魔法を放とうとする。
長野「炎槍掃s.....グェ....!」
詠唱しようとした瞬間私は長野の首を持ち持ち上げた。そして徐々に腕に力を込める。
長野「ガ、ガァ、ガガ...!!」
苦しいのだろうか、長野はじたばたと暴れる。しかし、その程度の抵抗は無意味。私はさらに腕に力を込める。
蓮斗「私は戦うこと自体は好きだ。だが、私と戦うために、他人を巻き込もうとしたお前は嫌いだ。お前のような奴はここで死ね。」
私の意思は黒い何かで染められつつあった。私は右手を振りかぶり拳を長野へ叩き込もうとした。しかし、拳が長野に当たる事は無かった。
蓮斗「....!」
天羽「ストップ祇梨。本当に殺すつもりか?」
蓮斗「天羽君....」
私の拳を止めたのは天羽だった。明らかに間に合う距離ではなかった。しかし現に天羽によって私の拳は止められ、私がこの男を殺すのを止められた。
天羽「痛った...本気出しすぎだ馬鹿。少し落ち着け。な?」
蓮斗「.....分かりました。すみません、頭に血が上ってしまった。皆さんは無事ですか?」
天羽「あぁ。先生達がすぐに来て見てくれてる。それにしてもお前、この3週間で強くなりすぎじゃね?」
蓮斗「そんなですよ。それに、それを言うんだったら天羽君の方が強くなり過ぎです。誰か新しい師匠でもできました?」
天羽「ふふん、それは対抗戦まで内緒だ。」
蓮斗「そうですか。対抗戦が益々楽しみになってきました。」
天羽「あぁ、そうだな。」
私達がそう話していると数名の教師が走ってこちらへ向かってきた。
先生「お前達、無事か!?」
蓮斗「私は無傷です。」
天羽「俺も。怪我してるのはこの人だけですよ。」
天羽はそう言いその場で失禁している長野を指さす。
先生「血が、いくらなんでもやりすぎだ祇梨!」
蓮斗「すみません...反省します。」
先生「とりあえず拘束するぞ。こいつはこのまま国防軍に引き渡す。」
長野「そんな!なんで俺だけ!こいつだって俺をこんなに傷付けただろ!?」
先生「その怪我に関しては祇梨の正当防衛だ。お前は今、関係ない多くの学生の命を危険に晒したんだ。その程度で済んだのは逆に奇跡だ。」
長野「そんな、俺はただ、出来心で....」
先生「出来心でも、人には越えてはならない一線があるんだ。お前はその一線を踏み越えた。ただそれだけの話だ。」
その言葉がトドメだったのか、長野はそれっきり黙り込んだ。10分ほど経った頃国防軍が到着し、私達は長野の身柄を国防軍へと預けた。
先生「お前もだぞ祇梨。いくら攻撃されたからとは言え、殺してはダメだ。お前はそんな事で潰れていい人間じゃない。わかったか?」
蓮斗「はい、分かりました。」
その日はそれ以降の授業は無くなり、全員が下校することになった。私はすぐに帰宅し、自身のベットに倒れ込む。
蓮斗「(攻撃されたとは言え、皆が怖がったり泣いたりしている所を見たら、怒りが溢れてきた...そしてあの男の前に立った時、意識が黒く塗り潰されて行った...あれは、黒王戦鬼の影響だったのか.....)」
そう考えながらぼーっとしている内に私の意識はは深く沈み、そのまま眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
長野「くそ、くそ!なんなんだアイツ!それに他の奴らも!ただ少し揶揄っただけだろうが!出せ!ここから俺を出せぇぇ!!!」
???「おやおや、可哀想に。私が出して差し上げましょうか?」
長野「あ゛ぁ!?誰だお前!」
フェレドール「私はフェレドール。ただの、フェレドールです。貴方いま、誰かに復習したいですか?」
長野「あぁ!あのガキを、祇梨蓮斗や他の教師たちも殺したい!」
フェレ「良いでしょう。でしたら私が貴方に力をあげましょう。とびっきりのをね...。フフフフフ。」




